嫌な雨。いろいろ捗らずストレス引き摺り状態のまま稽古へ。自分ながらテキスト作りの停滞に焦る。とにかく今やれることをと思うが正確に状況判断ができていないかもしれないまま進むのも危険だ。ここは我慢、そして踏ん張るしかない。……しかし稽古場を出るのが夜十時、十一時過ぎに帰宅しても「今日は早い」という感覚は、いかがなものか。……さて、いよいよ日曜に千秋楽を迎える『荷』には、こんなところでこんな歌が、という歌が一曲流れる(写真の場面です)。これは現場で私が言い出したときから現場のみんなに違和感があったはずだ。音響サイドも「これは演出家の意向だから」と渋々の状態だったはず。しかし幕が開いて三日ほどでこの曲がみごとになじんできた。これはどういうことか。俳優初心者諸氏にわかりやすい事例だから説明すると、この曲を、その場にいる俳優たちが「聴けてきた」ということなのである。きちんと聴いている肉体が聴こえている状態でリアクションを続けていれば、その場面でその曲も含んだ状態は「成立」している。私の想定したニュアンスもきちんと出ている。演劇が「生き物」であるという所以だ。曲でさえそうである。俳優どうしのやり取りだってそうに決まっているではないか。聴く、感じる、受け取る。作為や嘘が入り込む余地を与えない。演劇とはとにかく、きちんとしたリアクションの集積なのである。そこに演劇という表現の魔法があり、可能性がある。……『荷』を小沼純一さんが評価してくださって嬉しい。小沼さんは日本に於けるジョン・ケージ研究の第一人者でもあるが、私が現在やっと稽古に復帰しているこの『ALL UNDER THE WORLD』は、まさにジョン・ケージ理論を演劇に導入しようとするリアン・イングルスルードの果敢な実験を実体化する場である。ミニマル・ミュージックの考え方を演劇で実践する試行にもなっている。小沼さんに観ていただきたいし、観ていただけると思うと、本当にどきどきする。
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