Blog of SAKATE

“燐光群”主宰・坂手洋二が150字ブログを始めました。

森達也 × 佐村河内守『FAKE』、ラスト12分間の「必然」

2016-04-13 | Weblog
『FAKE』は、2014年にゴーストライター騒動で日本中の関心を集めた佐村河内守を対象にした、森達也監督のドキュメンタリー。
聴覚障害を持ちながら多くの作品を手がけ、「現代のベートーベン」と称されていた作曲家であったという、「主人公」。
音楽家の新垣隆が、18年間にわたって佐村河内作品のゴーストライターを務めていたことや、佐村河内の耳が聞こえていることを暴露。佐村河内自身は作品が自身だけの作曲でないことを認め騒動について謝罪しつつ、新垣に対しては名誉毀損で訴える可能性があるとしていたが、その後は沈黙を守り続けてきた、というのが、皆が知る経緯だ。
ゴーストライター騒動で話題になった佐村河内守本人の自宅で、森達也らが数回にわたってカメラを回す。取材を申しこむメディア関係者のじつに「日本的」な空気、当然の疑問を口にする外国人ジャーナリストたち。こうするしかないのだろう、親。どこまで確信犯なのかなかなか掴ませない、妻。それぞれの居ずまいを見せる、家族たち。無理解と差別に直面している、聴覚障害に関わる人々。
そして森達也と佐村河内守の対峙そのものが、この撮影の中心になっていく。

佐村河内本人が「嘘」をついているのか、そうではないのかという興味で引っ張りながら、虚構化・矮小化されていく今まさに進行中の「現在」の姿を取り込もうとする映画だ。
もちろん、原一男監督の『ゆきゆきて、神軍』を思い出す向きもあるだろうが、あの映画の奥崎謙三は、いっさい「嘘」はついていなかった。
『ゆきゆきて、神軍』との違いが、「今」なのだと思う。

配給会社の「東風」さんは、『標的の村』の仕事で存在感を示したが、その後もどんどん注目の作品を集めて、元気だ。(私が次の日曜日に新宿でトークゲストに出る『バット・オンリー・ラヴ』も東風配給だ)
『FAKE』は、当たると思う。
「東風」さんに「ラスト12分間」については箝口令を敷かれているので、素直に協力する。
ただ、「衝撃のラスト」というのとは、微妙に違うと思う。高橋源一郎さんが言うように、「ある種の必然」であるのも確かだ。これからご覧になる方には、お楽しみに、と言うしかない。ただ、取材者が取材対象に踏み込んで関わると、こういうことは、起きるのだ。私にも体験がある。


監督 森達也
プロデューサー 橋本佳子
撮影 森達也 山崎裕
編集 鈴尾啓太
2016年 日本 109分

http://www.fakemovie.jp
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