『ブラインド・タッチ』2018年版、開幕しています。
様々な調整がなんとか間に合い、無事にスタート。
本番は俳優のものだ。
俳優がすべきことを掴んでしまえば、あとは彼らが日々を確実に生きるだけだ。
繊細なステージング、そして暗転が命のこの劇は、もちろんスタッフも毎日大車輪なのだ!
二日目の昨日は、昼間に劇作家協会〈せりふを読んでみよう〉中津留章仁講師のワークショップと、その最後のシンポジウムに参加。
地味なシンポジウムなのだが満席。そもそも応募が多く早々に受付を締め切ったのだ。
パネラーの斎藤とも子さんと初めてご一緒する。彼女は『痕跡』の演技が印象的だったが、とても理知的な方だということもわかった。井上ひさしさん、木村光一さん、大滝秀治さんといった懐かしい方々の話にもなる。
シンポジウムでは、この題材なら面白い話はいくらでも出来るのだが、なるべく聞き役に回った。
それでも終わり頃はいろいろ話し、『ブラインド・タッチ』の話題も。話を聞かれた方は、「女」役の「フフ。」を楽しみに見に来ることになるのだろう。
夜、『ブラインド・タッチ』二日め。
俗に言う「二日落ち」は皆無、気配さえない。むしろあまりノリがよくなりすぎないようにしなきゃとさえ思う。
主人公たちの世代に近い旧知の某公共劇場元館長氏は、終演後にガッツポーズを示して帰られたが、その後「いつ以来か忘れましたが熱くなりました。時間の流れと人物の変化が面白く、誰も書けない題材。シリーズで書いてほしいぐらいのストレートプレイでした。」と感想メールをいただく。
終演後、実際に政治犯として獄中十六年で出所直後にこの芝居の初演も御覧になっているKさん、獄中結婚ではないけれど出獄を待ち続けた奥さんを囲み、高橋和也さん、相変わらず存在感というか風格のあるドリアン助川さん、元日刊ゲンダイの山田さん、藤井ごう君、朝日新聞山根さん、高江の新作ドキュメンタリー編集中の古賀加奈子さんという、濃いメンバーで一献。Kさんからリアル獄中生活について詳しく聞く。Kさんはこの劇のモデルではないけれど、「半分くらい自分の話だと思った」とおっしゃる。
写真は場当たり中。
左より、都築香弥子、高橋和也。
撮影・姫田蘭。
当日パンフレットに掲載している私の文章を、初日ブログに引き続き紹介いたします。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯
『ブラインド・タッチ』は、2002年が舞台である。
2002年の夏に脱稿し、秋に上演された。
2002年の物語であることは重要なので、今回の上演にあたって、冒頭に「2002年」という字幕を出そうかとさえ思った。
2002年は、アメリカ同時多発テロの翌年。
世界が新たに不穏な領域に入っていく「前夜」である。
第二次世界大戦の記憶を持つ人たちがまだ社会の中心にいて、戦後の貧困から日本経済が発展していった過程の記憶を多くの人たちが共有していた最後の時代、インターネットの発達等によって「個人」のありようが変貌していく過渡期、と言ってもいい。
百年後の研究者にはその時代背景の推移にこだわっていただきたいものだが、もちろん、そうした背景を背負いながら、人間は、ただ、その人として、裸で、そこにいる。
演劇は、そのことを示すための仕組みを持っている。
2002年、岸田今日子さん・塩見三省さんのコンビに、書いた。
その後、韓国では、盟友キム・カンボの演出により上演。日本公演もあった。出演者は、ユン・ソジョンさんとイ・ナミさんだった。
岸田今日子さん、ユン・ソジョンさん、お二人とも亡くなられた。
いま、高橋和也さん・都築香弥子さんの出演であらためて上演できることは、感慨深い。
『ブラインド・タッチ』は、イギリスの劇作家デヴィッド・ヘア に触発されて書いた戯曲である。デヴィッドは、社会の出来事について批評的なドキュメンタリー演劇を発表すると同時に、ドラマティックなストレート・プレイも書く。共感するところの多い作家だ。
二十年以上前、ロンドンで彼の『スカイライト』初演を観て、私もしっかりとしたストレートプレイを書こうと思った。『エイミーズ・ビュー』を観てそれが決意に変わった。
私はデヴィッドの「バーベイタム・シアター(報告劇)」の新作三部作(『パーマネント・ウェイ』『スタッフ・ハプンズ』『ザ・パワー・オブ・イエス』)を日本で演出している。
8年前、東日本大震災直後のイギリスでの『ブラインド・タッチ』リーディグ初日に、そのデヴィッドから御祝いのFAXをいただいた。ここに一つの円環が成立した、と思った。
『ブラインド・タッチ』は、1971年の「渋谷事件」を背景としている。今も獄中にある星野文昭さんは、明らかに冤罪である。文昭さんと暁子さんの獄中結婚に設定をお借りしているこの劇に携わりながら、私の申し出を承諾してくださったお二人に心から感謝すると共に、文昭さんの一刻も早い解放を願っている。
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『ブラインド・タッチ』、公演情報は以下の通りです。
https://www.blind-touch.com
様々な調整がなんとか間に合い、無事にスタート。
本番は俳優のものだ。
俳優がすべきことを掴んでしまえば、あとは彼らが日々を確実に生きるだけだ。
繊細なステージング、そして暗転が命のこの劇は、もちろんスタッフも毎日大車輪なのだ!
二日目の昨日は、昼間に劇作家協会〈せりふを読んでみよう〉中津留章仁講師のワークショップと、その最後のシンポジウムに参加。
地味なシンポジウムなのだが満席。そもそも応募が多く早々に受付を締め切ったのだ。
パネラーの斎藤とも子さんと初めてご一緒する。彼女は『痕跡』の演技が印象的だったが、とても理知的な方だということもわかった。井上ひさしさん、木村光一さん、大滝秀治さんといった懐かしい方々の話にもなる。
シンポジウムでは、この題材なら面白い話はいくらでも出来るのだが、なるべく聞き役に回った。
それでも終わり頃はいろいろ話し、『ブラインド・タッチ』の話題も。話を聞かれた方は、「女」役の「フフ。」を楽しみに見に来ることになるのだろう。
夜、『ブラインド・タッチ』二日め。
俗に言う「二日落ち」は皆無、気配さえない。むしろあまりノリがよくなりすぎないようにしなきゃとさえ思う。
主人公たちの世代に近い旧知の某公共劇場元館長氏は、終演後にガッツポーズを示して帰られたが、その後「いつ以来か忘れましたが熱くなりました。時間の流れと人物の変化が面白く、誰も書けない題材。シリーズで書いてほしいぐらいのストレートプレイでした。」と感想メールをいただく。
終演後、実際に政治犯として獄中十六年で出所直後にこの芝居の初演も御覧になっているKさん、獄中結婚ではないけれど出獄を待ち続けた奥さんを囲み、高橋和也さん、相変わらず存在感というか風格のあるドリアン助川さん、元日刊ゲンダイの山田さん、藤井ごう君、朝日新聞山根さん、高江の新作ドキュメンタリー編集中の古賀加奈子さんという、濃いメンバーで一献。Kさんからリアル獄中生活について詳しく聞く。Kさんはこの劇のモデルではないけれど、「半分くらい自分の話だと思った」とおっしゃる。
写真は場当たり中。
左より、都築香弥子、高橋和也。
撮影・姫田蘭。
当日パンフレットに掲載している私の文章を、初日ブログに引き続き紹介いたします。
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『ブラインド・タッチ』は、2002年が舞台である。
2002年の夏に脱稿し、秋に上演された。
2002年の物語であることは重要なので、今回の上演にあたって、冒頭に「2002年」という字幕を出そうかとさえ思った。
2002年は、アメリカ同時多発テロの翌年。
世界が新たに不穏な領域に入っていく「前夜」である。
第二次世界大戦の記憶を持つ人たちがまだ社会の中心にいて、戦後の貧困から日本経済が発展していった過程の記憶を多くの人たちが共有していた最後の時代、インターネットの発達等によって「個人」のありようが変貌していく過渡期、と言ってもいい。
百年後の研究者にはその時代背景の推移にこだわっていただきたいものだが、もちろん、そうした背景を背負いながら、人間は、ただ、その人として、裸で、そこにいる。
演劇は、そのことを示すための仕組みを持っている。
2002年、岸田今日子さん・塩見三省さんのコンビに、書いた。
その後、韓国では、盟友キム・カンボの演出により上演。日本公演もあった。出演者は、ユン・ソジョンさんとイ・ナミさんだった。
岸田今日子さん、ユン・ソジョンさん、お二人とも亡くなられた。
いま、高橋和也さん・都築香弥子さんの出演であらためて上演できることは、感慨深い。
『ブラインド・タッチ』は、イギリスの劇作家デヴィッド・ヘア に触発されて書いた戯曲である。デヴィッドは、社会の出来事について批評的なドキュメンタリー演劇を発表すると同時に、ドラマティックなストレート・プレイも書く。共感するところの多い作家だ。
二十年以上前、ロンドンで彼の『スカイライト』初演を観て、私もしっかりとしたストレートプレイを書こうと思った。『エイミーズ・ビュー』を観てそれが決意に変わった。
私はデヴィッドの「バーベイタム・シアター(報告劇)」の新作三部作(『パーマネント・ウェイ』『スタッフ・ハプンズ』『ザ・パワー・オブ・イエス』)を日本で演出している。
8年前、東日本大震災直後のイギリスでの『ブラインド・タッチ』リーディグ初日に、そのデヴィッドから御祝いのFAXをいただいた。ここに一つの円環が成立した、と思った。
『ブラインド・タッチ』は、1971年の「渋谷事件」を背景としている。今も獄中にある星野文昭さんは、明らかに冤罪である。文昭さんと暁子さんの獄中結婚に設定をお借りしているこの劇に携わりながら、私の申し出を承諾してくださったお二人に心から感謝すると共に、文昭さんの一刻も早い解放を願っている。
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『ブラインド・タッチ』、公演情報は以下の通りです。
https://www.blind-touch.com