薦田 愛さんの新詩集「そは、ははそはの」(七月堂)。
いまからどのくらい前かはさておき、薦田愛さんに『現代能楽集』の一篇、『四時である』を、書いていただいた。それが『アクバルの姫君』に続いた。
戯曲を書いていただいただけでなく、こちらの劇団活動を、ずっと見守ってくださっている方である。
東京の出版社の仕事を離れ、今は関西にいらっしゃるが、この十年余りの生活の変化の中で、彼女の中でいろいろな意識の変遷も、あったのだと思う。
そして、新詩集「そは、ははそはの」。
タイトルにひそやかに示されているように、母親についての言葉たちが中心である。
母親と二人の旅行、思い出、暮らし。
ここにあるリアルの前では、詩なのか私小説なのか、その境界さえ、無意味である。
どちらかというと虚無感との対話を片側の底辺にするところもあったはずの作者が、肉親との出会い直しによって紡ぎ出した言葉は、もともと持っていたユーモアとやさしさに裏付けられ、意外なほどの多幸感に満ちていて、はっきりと、作者の成熟と解放を感じる。
詩集という、紙の本であることも大切である。
当たり前だが、韻文は、余白が大切だ。
インターネットの画面にあるのは余白ではない、「無情報」という意味に、過ぎない。
余白がいとおしくなるのは、良い本だ。