菅義偉首相は4日の記者会見で、時間内に質問できなかった報道機関が会見後に提出した質問書に対する首相の回答を書面で発表したという。
それまでちゃんとした会見がなかったことへの非難を受けてか、何かそういうケアをしないといけないということになったのか。
国会への誠実な答弁について問われると、「質問には丁寧に答えるようにしてきた」「答えられない理由をできる限り申し上げている」と開き直っている。
吉川元農相の現金受領疑惑を巡り、自民党総裁としての対応を問われたのに対しては「捜査機関の活動内容に関わる事柄で、答えは差し控える」と、いつもの逃げ口上。
問題は、昨年の参院選で選挙違反に問われたが、自民党本部から1億5000万円の資金提供を受けていた、河井案里被告らについてである。
その資金提供について、「支部の党勢拡大などの政党活動のため、党内で定めた基準と手続きに従って、党本部から適切に交付された」というのだ。
選挙違反に使われた疑いのある金を、当の政党自身が出したのに、「適切」というのだ。金の出所も、使い方も、ただ「適切」と言いつのって逃げるのでは、話にならないではないか。
逃げられるのは、「事実」のディティールが明らかにならないからである。
つまり、疑惑があっても「事実が明らかにならない」から、罰されないのである。
一方、「事実が明らかにならない」にも関わらず、社会的に抹殺されようとしている人がいる。
性被害を告発した群馬県草津町の女性町議の解職請求(リコール)の賛否が問われた住民投票が6日に行われ、解職に賛成は2542票で有効投票の9割以上を占め、町議は失職した。当日有権者数は5283人で、投票率は53・66%だったという。
「草津町の尊厳が守られた。町民が『ノー』を示した」と言う町長は、もともと「事実無根のでっち上げだ」と疑惑を否定し、町議や協力者を名誉毀損で告訴し、民事訴訟でも争うという。
一部の取材した人達から、議会周辺で、告発した町議に対する罵詈雑言の断片が報告されたが、こんなことを人が人に言っていいのかという、とんでもない物言いもあるようで、暗澹たる気持ちになる。
「事実は裁判で明らかにすべきだ」というのは正論だが、それ以前にこれだけの主観判断が行われている。
少なくとも、事実が明確になるまでは、言ってはいけない、決めてはいけないことがあるのではないか、と思う。
しかし、おそらく、この件は、そう簡単には「事実が明らかにならない」はずである。
にも関わらず、この町議は、孤立し、ひどい誹謗中傷の的になっている。
理不尽だと思う。
一方で、法律を違反させるために1億5000万円の金を提供した者たちが、涼しい顔をしているのである。
彼らが、「事実が明らかにならない」から、罰されないのなら、「事実が明らかにならない」状況で、誰かが社会的に抹殺されようとしていることを看過してはならないのではないか。