今の人にとっては遠い過去の作家だが松本清張と言う小説家がいた。
晩成の作家である。
中卒で大阪朝日新聞の広告部に嘱託の職を得た。
下積みで仕事をこなす一方、こつこつと小説を書き溜めた。
そして『西郷札』で直木賞を得た。
直木賞を得ても新聞社では下積みの生活が続いた。
「みかん事件」というのがある。
昔の朝日は社員と嘱託の隔たりが酷く忘年会も別々にやるありさまだった。
先に忘年会を終えた松本よりも若年で社歴も浅い社員が松本の机にみかんを「ほれ」と投げた。
松本は憤怒のあまりみかんを床に投げつけた。
黄色い果汁が床に散った。
こうした世間の苦汁を舐めた松本だが推理小説『点と線』で大ブレイクする。
それからは大流行作家の路をまい進するのである。
松本を流行作家と言っては失礼であろう。
彼は日本の「バルザック」と言われている。
歴史、推理、犯罪、美術・・・ありとあらゆる分野で超人的な仕事をする。
松本は口述筆記であろうと言われた時期もあった。
しかし松本の描く世界は昏い。
松本の心の闇を映し出しているかのようだ。
これも青年期に辛酸を味わったなにかが影響しているのであろう。
松本の作品は決して爽快な読後感を与えてくれない。
しかし昨今の浮薄な作家と比べると松本はなんと偉大だったことか。
松本はオカブにとって最も好きな作家の一人である。
ここにても細めの雨や小晦日 素閑
色褪せて旗の揺れるや小晦日 素閑
茫漠の原が続くや小晦日 素閑
目覚めけり今日はなんにち小晦日 素閑
凡百が知恵を寄せれど小晦日 素閑
小晦日居酒屋けふで閉めにけり 素閑
新宿の詩集売りなれこつごもり 素閑
こつごもり大荷物持ち電車駅 素閑
小晦日日本海側あれむとす 素閑
まだるき書小晦日にて読みにけり 素閑
こつごもり青空縁なき四畳半 素閑
小晦日書斎にわずか日の射すや 素閑
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