これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

傘寿のお祝い

2018年06月28日 22時01分48秒 | エッセイ
 父は50年にわたる喫煙習慣で、無残にも肺がボロボロになってしまった。今では鼻に酸素のチューブを入れ、呼吸機能を補いつつ、那須の自宅でひっそり暮らしている。
「お父さんの誕生日どうする? 80歳だから傘寿でしょ」」
 姉からのメールで父の年齢に気づいた。そうか、ならばお祝いをせねばなるまい。
「じゃあ、那須に集まろうよ」
 軽く答えたものの、食事や宿の問題がある。近くに飲み食いできる店はないから、必死に検索したら、配達してくれるレストランを見つけた。注文は1日1件しか受けないそうだが、運よくその日は空いていてラッキー! 食欲の落ちた父のために、やわらかくて食べやすいメニューを考えてくれるという。
「布団は自分たちで敷けばいいよね」
 父の世話で母は疲れているに違いない。余計な負担をかけぬよう、翌朝の朝食も私たちで用意することに決めた。
「こんばんは~」
 土曜の夕方に集まり、料理の到着を待つ。父も母も、娘や孫がやってくる日を楽しみにしていたらしい。
「ピンポーン」
 来た来た。定刻5分前に、レストランスタッフが料理を持って登場した。
「うわあ、何だかいっぱいあるね」
 食に関しては、母の方が喜んでいる。



 お品書きを片手に、「これが××かな」と確認しながら皿を並べた。
「春菊のベニエって書いてあるけど、この天ぷらみたいなヤツ?」
 義弟が首を傾げながらつぶやく。
「他に春菊はないから、それじゃない?」
 すかさず、「ベニエ」を検索したら「揚げパン」の回答がヒットした。揚げ物であることは間違いない。カリッとしていて爽やかだった。
「あら、この茄子美味しい」
 母は「茄子 シェリービネガー風味のトマトコンキャッセ マーガレット風」という料理が気に入ったらしい。私は断然、「熟成無菌豚 シュークルートと白ワインの煮込み」という料理がいいと思うのだが。



「美味しいよ、これ。食べてみなよ」
 父に勧めたが、そういう気分ではなかったらしい。
「いらねえ」
 首を横に振られ、ちょっとガッカリ。
 しかし、父がジイーッと見ていた料理もあった。「自家製のパンと自家製ハム サンドイッチ仕立て」だ。



「これ、食べたいの?」
「うん」
「切ってあげるよ」
「うん」
 ひと口サイズにすると、父はゆっくり手を伸ばし、鮮やかなハムを頬張っていた。
 ベジタブルチキンも多少は口にしていたらしい。



「ギャッ、キュウリがある!」



 娘のミキはキュウリが大嫌い。予期せぬメニューに身を固くしていた。しかし、キュウリの隣のラディッシュは食べるのだとか。せっかくの料理を残しては悪いと気をつかったようだ。
「ふー、結構食べたね。お腹いっぱい」
「もう食べられないよ」
 食後のデザートは、「小さなガトーショコラクラシック」だ。



「ほら、お父さん、傘寿おめでとうって書いてあるよ」
「ああ、そうだな。ありがとう」
 みんなでハッピーバースデーを歌うと、父もニコニコ笑っていた。那須まで来た甲斐があるというものだ。
 姉や義兄、妹たちは遅くまで飲み続けていたようだが、私と娘は眠くて眠くて、早々に布団で爆睡した。
 翌朝。
 妹がスープとピザトーストを作り、私がフレンチトーストを焼き、フルーツを切ることになっていたのだが、スムーズにいかなかった。
「しまった、オーブントースターを忘れちゃったわ」
 両親の家にはオーブントースターがない。電子レンジのトースター機能では時間がかかるから、車で来る妹たちが持ってくることになっていたのだが、すっかり忘れていたようだ。
「いいじゃない。魚焼きのグリルもあるよ」
「そうだね」
 これで解決かと思ったら、まだまだだった。妹がスープを作ったあと、私に予想外の質問をしてきたのだ。
「ところで姉さん、ピーマンとベーコンはどこ?」
「え? アタシが買ってくるんだっけ」
「ラインに書いてあったよ」
「ゲッ、全然記憶にない」
「ないの?」
「ないよ~」
 妹は、ボケの入った姉と押し問答をしても意味ないと判断したらしい。鬼嫁らしく「ダンナを叩き起こして買いに行く」方法を選択し、朝8時から開いている店に走った。
 スミマセヌ……。
 かくして、どうにかこうにか、食卓にはアツアツのピザトーストが並んだわけだ。
「あ、お父さんが食べてる」
 妹と義弟の力作と知ってか知らずか、珍しく父がピザトーストをペロリと平らげた。
 うんうん、いい傾向。
 罪滅ぼしに、洗い物は私がするしかない!


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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10 コメント

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俗に言うケータリングサービスってやつでしょうか? (鹿島田の純)
2018-06-29 15:20:35
凄く豪華ですね~!お父様に合わせて柔らかい料理とかチョイとシャレた料理ばかりで最高ですね。お父様も食べていただき大成功~!
これって後片付けもスタッフが全部やってくれるんでしょうか?
しかし、せっかく上手くいってたのに、トースターや食材が・・・・(笑)男性陣も災難ですね。(笑)とにもかくにも80歳お誕生日おめでとうございます。いつまでも長生きしてほしいもんですよね。私はまさか病院のベッドの上で迎えるとはショックですよ(笑)
返信する
誕生日 (砂希)
2018-06-29 22:35:32
>鹿島田の純さん

純さんは父と一日違いの誕生日でしたね。
おめでとうございます!
片づけは自分たちでやります。
食器は貸していただいたので、翌朝、取りに来てもらいました。
お料理はとっても美味しかったです。
残念ながら、黒ご飯は残ってしまいましたが。
あとはほぼ完食でしたよ。
また、機会があれば利用したいお店です。
返信する
傘寿 (ヤッギー)
2018-07-01 07:21:49
お父様の傘寿のお祝いおめでとうございます。

美味しそうなお料理がいっぱいですね。家族や親類が集まるっていいですね。
返信する
80歳 (Hikari)
2018-07-01 08:30:05
夕べ、珍しく秋田から電話が来たと思ったら
父が熱を出して寝込んでいるのだとか。
病院に行ったけど、大したことはないと言われたけど…と母は不安そう。
だから、次の週末は秋田へ行くことにしました。
きっと母は眠れない夜を過ごしています。
父の食欲も、もしかしたら我々の登場で少しは持ち直すかも。
非日常はとっても大切。
父も80です。
傘寿、おめでとうございます。
返信する
おめでとう♪ (片割れ月)
2018-07-01 16:13:31
80歳ですか、目出度い目出たい(*^^*)ポッ
これからは何かと那須に出向いていくことになるようですね。
笹木家は結束力が半端ないって、三姉妹だからでしょうね。
男兄弟が混ざっていれば、嫁がいて何かとまとまらないものですよ。
出前の食事は後片付けが要らないから助かりますね、
こちらでもホテルのレストランで出前を受け付けているところがあります。
タバコは私も自粛してますが、意志が弱いので完全にやめることができないでいます(_ _;)…パタリ
返信する
ありがとうございます (砂希)
2018-07-01 19:56:23
>ヤッギーさん

もし、ケータリングがなかったら、ハンバーグパーティーになるところでした(笑)
ハンバーグだったら父も食べられます。
しかし、家の食事の延長で、まったく新鮮味がありません。
やはりプロのお料理があってよかった☆
うちは女系家族なので、支度も片づけもスムーズなんでしょうね。
返信する
ありがとうございます (砂希)
2018-07-01 20:00:43
>Hikariさん

もう80歳か~というのが正直なところですね。
Hikariさんのお父様と同じ年齢だったとは。
体調不良は心配です。
ぜひ、お見舞いに行って差し上げてください。
絶対に喜びます。
何よりの特効薬になるはずです。
そして、すぐ治るといいですね。
写経の願文に「父母健康長寿」と書かれたらいかがでしょう。
その前に、お母様を元気づけることが先かもしれません。
お大事になさってください。
返信する
鬼嫁 (砂希)
2018-07-01 20:04:55
>片割れ月さん

ありがとうございます。
3姉妹の結束力は指摘されるまで気づきませんでした。
どの家もこんなもの? ではなさそうです。
仲良し姉妹だからかな?
妹は義弟の実家だと結束を乱す存在かもしれません。
結構、自由にやっています(笑)
私も夫の兄弟たちから見ると、勝手なことをする人と映るかも。
まあいいや~(笑)
タバコと手を切れずにいるんですね。
早く別れてくれないと~。
返信する
一大イベント (白玉)
2018-07-01 21:40:21
うちみたいに同居だと日々顔を合わせているので、
いざという時も大がかりなことはしません。
(私が無精だから?)
一族協力して、大イベントを成し遂げる。
毎度ながら、感服仕ります。
返信する
同居 (砂希)
2018-07-02 21:01:07
>白玉さん

毎日一緒だと、特別なことをする雰囲気になりませんね。
でも、だからこそ非日常が必要なのかも。
次は何のお祝いでしょうね。
ぜひ、豪勢にお願いします。
今日、配達してくれたレストランからお礼状が届きました。
アフターサービスも万全です。
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