これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

ホワイト結婚記念日

2020年03月29日 22時02分50秒 | エッセイ
 今日は28回目の結婚記念日。
「しかし、コロナのせいで外食できないから、家で美味しいものを作ろう」
 料理の本を開き、めぼしいメニューを探す。
「こ、これは! すごいわぁ」
 


 エビのテルミドール。
 だが、外出自粛のため閑散とした東京で、ロブスターか伊勢海老を手に入れることができるのか?
「うーん、やっぱりないか。でも、特大のエビがあれば何とか」



 お値段「1000円」となっているが、正月は1980円だったような……。あれは正月価格?
 これを背から開き、殻ごと焼くと、結構イケるのだ。
 失敗したときのために、お肉も買っておこう。



 そろそろ満開の桜にも、容赦なく雪が積もっている。



 東京は、3月下旬としては、32年ぶりの積雪を記録したそうだ。昼の気温は0.9度。雪にもコロナにも負けず、買い物から帰ってきた。
 買えなかったのはロブスターだけではない。クレソンも品切れだった。代わりに買ったのがコレ。



「ルッコラ……聞いたことがあるから、よさそうな気が」
 味見をするため、洗って口に放り込んだら、苦みと辛みが押し寄せてきた。ペッペッ。どうやら、火を通して食べるものらしい。
 さて、エビをさばこう。キッチンばさみで殻を切り、背ワタを取って開いておく。塩と酒をふり、しばらくおく。
「えーと、ソースを作ってみよう」



 マヨネーズにレモン汁、生クリームを混ぜて、塩コショウするだけのお手軽さがいい。これまた味見をしてみると……。
「ううっ、すっぱ~い!」
 レモン汁が多すぎたのだろうか。かなり不安だったのだが、出来上がったら酸味は目立たなくなっていた。



 エビが反ってしまい、見た目の悪さに気を悪くする。エビに切れ目を入れればよかった。やってみないとわからないことは、たくさんある。
 それでも、家族の反応は上々だった。
「すご~い、豪華!」
「メチャメチャ美味しい!」
 よしよし。
 デザートはモンブランにした。



 練馬は結構積もったので、道路の雪はまだ残っている。
 ホワイト結婚記念日というのもオツだけど、明日の通勤は滑らぬよう、お気をつけください。


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たまには「死」について考えてみた

2020年03月22日 21時46分22秒 | エッセイ
 20代の娘に『100日後に死ぬワニ』という4コマ漫画の内容を聞き、話題になっていることは知っていた。
「今日はね、100日目だからワニが死んじゃうの。どうやって描くんだろう」
 娘も興味津々で、最終回の3月20日を迎えた。
 連載開始は12月12日。ラストは最初から決まっていたというから、桜の開花を予想し、逆算してスタートしたのではないか。
 ワニ君はフリーターらしい。バイト先では「センパイ」と呼ぶ異性に恋をして、一人暮らしをしているアパートではゲームに没頭しカップ麺をすする毎日のようだ。バイトを辞めたり、約束の時間に遅れたりと、今どきの「自由人」に見える。もっとも、人間ではないけれど。
 この漫画は、毎回「死まであと○○日」との言葉で締めくくられ、読み手に結末を予告するところが面白い。キャラたちはワニの寿命を知る由もなく、毎日普通に呼吸をし、深く考えずに生きている。ワニはワニで、一年後に届く布団を注文したり、「死んだらあげるよ」などと発言したりして、自分の人生がカウントダウンに入ったことなど頭の片隅にもない。
 だからこそ、交通事故死らしき最期が衝撃的なのだ。伏線もあり、よく計算されていると感心した。
「なんかね、この漫画家の友達が事故死してるんだって。人生、何があるかわからないから、限りある時間を大切にしてほしいと思って描いたらしいよ」
 娘の解説に大きく頷く。残念ながら、最終回直後にアニメ化や書籍化の話が浮上し、炎上してしまったのは気の毒に思う。
ところで、無事に明日を迎えられる保証などどこにもないのに、私たちはなぜ「今日死ぬかもしれない」とは思わないのだろう。もちろん、死んだことがないから、死後どうなるかは誰もわからない。だけど、誰もがいつかは死ぬのだから、たまにはこれに向き合うことも必要だ。
 もう2年も前のことになるが、職場で隣の席だった男性が亡くなった。滅多に休まない人だったのに、頭痛がするといって3日ほど休暇をとり、家で休養していた。4日目の朝に、家族が様子を見に行ったら、すでに布団の中で冷たくなっていたそうだ。死因はくも膜下出血だった。
 亡くなってすぐに、彼のPCの電源が入ったままであることに気づいた。机の中からは、帰りが遅くなったときに備えてカロリーメイトなどの備蓄食料が残され、出勤できない事態を一瞬たりとも考えていなかった様子がうかがえる。私の場合、やりかけの仕事を残したまま旅立たぬよう、キリのいいところまで終わらせてから帰ろう。机の中には、クッキーやナッツ、カステラ、ビスケットなどが入っているけれど、「何だ、この食料は」と驚かれたら恥ずかしいから、必要最小限に減らそうと決めた。
 男性が亡くなったのは10月だったが、ワニ君は3月である。
 どうせ死ぬなら、桜の咲く時期にと願う話を、若いときに読んだ気がした。
 わが家の桜は、まだ5分咲きといったところか。



 桜に見送られて、生涯を終えるのも一興であることは間違いない。



 でも、私は雪に見送られたい。
 今年、東京に雪は積もらなかった。一面の銀世界と化した日に、あの世に旅立てば、天国に行かれそうな気がするのだが。
 殺しても死にそうにないって、誰か言いましたか?


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元号248個

2020年03月15日 22時19分42秒 | エッセイ
 新型コロナ感染防止のため、週末は家で過ごしている。
「美術館も休みだし、電車内で飛沫感染するのもごめんだし、家が一番安全だわ」
 本を読んだり、片づけものをしたりと、家事がはかどる。
「ややっ、こ、これは!」
 棚の上から古びた新聞記事が出てきた。日付は2019年5月1日。改元の日である。



「そうだ、元号の一覧が紙面に出るなんてことは滅多にないから、Excelに入力しようと思ってたんだっけ」
 PCには、入力途中のファイルが残っていた。時間はあるから、自粛ついでにファイルを完成させようではないか。
 まずは時系列で。



 大化から数えて令和は248番目。通し番号をつけて、入力漏れがないかを確認する。
「元号に使われる漢字は定番があるみたい。どの漢字が一番多いんだろう」
 関数を入力してチェックすると、「永」が最多の29回であった。



 これには納得。どの時代でも、永く続いてほしいと願ってのことだろう。
「248もあると、同じ元号があったりして。ソートしてみよう」
 ふりがなをベースに、五十音順に並び替えてみた。



 どうやら、まったく同じ元号はないらしい。たとえば昭和。読みが同じでも、別の漢字が使われている。



「じょうわ」という元号も、個人的には嫌いではない。
 ちなみに大正は、大化や大宝と近い場所に並んでいて、格式高い雰囲気がある。たったの15年で終わってしまったのが残念だ。
 もし、「どの元号が一番好き?」と聞かれたら、私は「大正」と答えるだろう。生まれていないけど。



 平成とその周りの元号は、比較的のんびりした印象を受ける。「ふ」や「へ」「ほ」から始まる語はやわらかいイメージを与えるのかもしれない。



 そして、いよいよ令和となるが、明治も近くにあったので一緒に載せることにする。



 明のつく元号を見たら、不思議とやる気がわいてきた。明治もきっとそんな時代だったのかな……。
 この記事をアップしようと予定したのは、10月22日の即位礼正殿の儀であった。でも、時間がなくてできず、新年になっても手つかずで、多少は気になっていた。
 タイミングはズレまくっているけれど、今回ようやくアップでき安心している。
 家にこもっていて、よかったと思うことも一つくらいはなくちゃね。


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ぎっくり背中になったら

2020年03月08日 21時25分33秒 | エッセイ
 珍しく、妹の奈津からラインがあった。
「昨日から、ぎっくり背中みたいな感じで、動くのもツラいのよ」
 ぎっくり背中?
 妹の造語かと思ったら、「突然、背中に激しい痛みが走る病状」なんだそうな。へーえ、
「まさかと思ってお母さんにメールしたら、一昨日、叔父さんが亡くなったんだって」
 きたきた。
 奈津は、鈍感な我が家系の中で、唯一の霊感体質である。身内が亡くなると、霊になった彼らが奈津のもとにやってくるのか、急な腰痛に見舞われたり、ぎっくり背中になったりするのだ。
「なんと! また奈津のところに」
「うえーん」
 この叔父は父の弟だ。幼いときに、よく遊んでもらったというから、叔父にとっては可愛い姪なのだろう。
「すごいわね。まだ痛いの?」
「痛いね。昨夜、ロキソニンの湿布を貼ったから、今はだいぶよくなったけど」



 しかし、可愛い姪を痛い目に遭わせていいはずがない。「私に気づいて」とのメッセージであれば、もっとお手柔らかにお願いできないだろうか。
 奈津にラインを送る。
「別の通信手段を考えてほしいわね」
「うんうん」
「急に金運がよくなるとか」
「いいねえ、それ!」
 パケット通信料を払ってもらいたい、なんてね。
 他にも、お肌がツルツルになるとか、ポッコリお腹が凹むとか、伝える方法はあると思うのでぜひご検討を。
 って、誰に言えばいいんだ?
 母に連絡をすると、新型コロナがじわじわと拡大しているこのご時世だから、来なくていいとのことだった。葬儀は今日。叔父には安らかに眠って欲しい。
 また、奈津にラインをした。
「昨日は何かあった?」
「ダイニングテーブルに置いてあったA4の紙が、エアコンの風に吹かれたように、いきなり飛んだんだよね」
「ほお」
「すごく不自然で気持ち悪かった」
「何かいたのね」
「でも、背中はだいぶよくなったわ」
「ならよかった」
 思いが通じたのか、妹は快方に向かっているようだ。近いうちに治るだろう。
 私にできるのは、写経と読経ぐらいだ。叔父の冥福を祈り、手を合わせよう。
「観自在菩薩 行深般若波羅蜜多事……」


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全国一斉休校

2020年03月01日 22時02分57秒 | エッセイ
 突然の「全国一斉休校要請」には参った。
 都では「学年末考査のあと自宅学習」の方針が決まっていただけに、大どんでん返しで考査ができなくなり大混乱だ。安倍首相の爆弾発言は2月27日夜。職員室でも騒ぎになった。
「笹木先生、今こんなニュースが流れてますよ」
「えっ」
 あの日、若手のカトウ君が自分のスマホを私に見せてきた。「休校」の2文字が視界に飛び込む。
「ありゃ~、こんなこと言ったのか」
「どうなるんですか」
「休校になるんじゃないの? 私たちに決定権はないからね」
「じゃあ、テスト、作らなくていいですか」
「いいんじゃない」
 カトウ君は試験問題を作るのがツラかったようだ。ニコリとして席に戻っていった。
「いや、私は作りますよ! 万一、休校にならなかったら大変だ」
 慎重派のベテラン、小柳先生の意志は強かった。次々と帰り支度をする教員を尻目に、何事もなかったかのように手を動かし続ける。心底「偉い」と感心した。
 予想通り「休校」になったわけだが、すでに試験問題の印刷まで終わらせていた先生は、有効活用できる方法を考える。英語の若手先生は授業でこう言ったそうだ。
「みんな、試験はできないけど、希望者にはテストをあげるから家でやっておいで。実力をためしてみよう」
「わあい、先生、ワタシ欲しいです」
「俺も」
「アタシも」
 一人がこれを始めると、生徒は全部の先生が同じことをしてくれると思い込む。
「カトウ先生のテストもください」
「私も欲しいです」
 だが、カトウ君のテストは……。
「い、いや、僕は……モゴモゴ」
 小柳先生の対応も独特だった。
「私はテストを配りません。来年用にとっておきます」
 あらためて、刺激に対する反応は人それぞれと感じた。
 一方、この騒ぎで私はセキュリティカードを学校に置いたまま、家に帰ってしまった。



「しまった! カードがないと、朝、学校に入れないじゃん。どうしよう」
 誰かが学校を開けてくれればよいのだが、次の日はたまたま土曜日だ。土曜は出勤する人が少ない。毎朝6時半に来る英語の教員も、事務方の男性も休みだ。7時に到着する体育の男性は休暇を出していたし、化学の男性も出勤日になっていない。
「まあいいや。7時半ぐらいに行けば、誰か来てるだろう」
 読みは当たった。のんびり自転車をこいで、職員玄関のドアに手をかけると、何の抵抗もなく開いた。
「ラッキー! やっぱり誰か来てる」
 職員室の警戒も解除されていた。中にいたのは、日本史のベテラン男性だった。勢いよく声をかけてくる。
「今日は私が一番でしたよ!」
 生徒は土曜日まで登校したが、明日から学校に来ない。
 しっかり勉強するんだよ。


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