これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

シャンパーニュと怪談で送る2024年

2024年12月29日 14時04分45秒 | エッセイ
 コロナから復活し、ようやく恒例の三姉妹忘年会にたどり着いた。
「じゃあ、14時メドに集まろうね」
 本来であれば2週間前に実施のはずだったが、前日の13日に私がコロナに罹患しているとわかり、延期してもらったのだ。遅ればせながら料理を作り、姉のマンションに駆け付けた。



 姉が用意してくれるアルコールはシャンパーニュばかり。乾杯はドンペリの白だった。



「ロゼは倍ぐらいの値段だったから、白でいいかなと思って」
「もちろん、いいわよ!」
 間違っても、ドンペリを自分で買おうなどとは思わない。気前のいい姉を持つと優雅な年末を迎えることができる。



「かんぱーい」
 グラスを合わせる「カシャッ」という微かな音とともに、忘年会がスタートした。話題の中心は体力が落ちてボケが進んだ両親のことで、夏に集まって以降の様子などを、それぞれが話し始めた。
「アタシが行ったときは、お父さんが昔の話も始めていたから、誰が来たかはわかっていたわよ」
「お母さんは、お父さんの食が細くなったと言ってるけど、手抜き料理ばかりで美味しくないからかもね」
「味噌汁の具が玉ねぎだけっていうのもどうかと思うわ」
「他の野菜も入れればいいのに」
「車の運転も、そろそろやめる時期だよね」
「でも車がなかったら生活できないでしょ」
「困ったもんだ」
 毎回毎回、似たような内容なのだが、那須の一角に二人だけで生活できているところはありがたい。年明けにも顔を出し、年始の挨拶をしに行きたい。
 ドンペリが空になり、ヴーヴクリコが登場した。姉がスズキのハーブ焼きを作り、温かいうちに食べ始める。妹と「焼き立てが一番ね」と絶賛していたら、姉が奇妙なことを言い始めた。
「ねえ、怪談を録画してあるの。一人だと怖くて見られないから、三人で見ようよ」
 これまで、姉は「浦沢直樹の漫勉」や青池保子の仕事風景など、趣味の映像を見せてくれることが多かったので、怪談は予想しておらず、まったくの不意打ちに近かった。
「え~、帰れなくなったらどうしよう」
 妹は戸惑う仕草を見せたが、もともとは心霊写真集を何冊もコレクションしていた強者である。結局見ることになり、スズキを平らげたあと、グラスを持ってテレビの前に移動した。
 映像は今年のものなのか昨年なのか不明だが、タクシードライバー、リフォーム業者、ユーチューバーの三種から体験者などが集められ、再現フィルムとともに恐怖体験を公開する形式になっていた。



 タクシーに乗せた客が幽霊だったという話は昔からある。しかし、この映像では、幽霊が配車アプリを使ってタクシーを呼ぶので、時代を反映しているところに笑ってしまった。今後はライドシェアにも拡大していくのだろうか。
 リフォーム業者の話はまあまあ怖かった。両親が亡くなったため、両親が営んでいたラーメン屋の店舗をリフォームしたいとの希望を持つ女性が、業者に「中に入るときは必ず家側から入るようにして、店舗側からは入らないでください」と注文をつける。訳ありだなとの予想がつく。しかし、別の施工業者から「窓を閉め忘れた」との連絡を受け、このリフォーム業者は夜中にラーメン屋に向かって車を飛ばすのだ。しかも、家側からではなく、店舗側のカギを開け、中に……。盛り上げ方がとても上手だった。
 もし私がリフォーム業者だったら、「窓が開いていたって大勢に影響なし」と決めつけ、絶対に近づかないんだけどな。真面目で偉い。
 ユーチューバーの怪談は、映像に謎の声が入っているとの内容だった。「これがそうです」と流していたが、上手く聴き取れず、怖さが伝わってこなかった。ちょっと残念。
「じゃあ、次はモエにしようか。ロゼがあるよ」
「いいねえ」
 テレビの前からテーブルに戻り、おしゃべりの続きに興じる。
 実は、私は毎年、テレビを見ている途中で寝てしまい、後半のおしゃべりには加われないことが続いていた。しかし、今年は全然眠くならず、最後まで参加できたことがウレシイ。
「最後にケーキを食べよう」
「いただきまーす」



 このあと、日付が変わる前に帰宅したのだが、じきに姉からお詫びLINEが送られてきた。
「ピザとエスカルゴも用意していたのに、出すのを忘れた。ゴメンね」
 たしかに、食べ物が少なく物足りないと感じてはいた。姉も妹も食べることへの執着がないので、量的には食卓に載っている料理で十分だったようだ。食い意地の張っている私は、コロナ明けであることから悪酔いを警戒して、シャンパーニュの2倍も3倍も水を飲み、お腹が水で膨れていたため空腹感がなかった。もしお腹が空いていたら、「もっとくれ」と料理を催促し、ピザとエスカルゴが忘れ去られることもなかっただろうに。
「そうか、満腹じゃなかったから眠くならなかったのかも」
 ようやく合点がいった。来年以降も水を大量に飲み、食べ足りない程度でやめておけば、最後まで忘年会を満喫できるに違いない。
 さて、来年は脱皮と再生を表すという巳年である。
 食べることは大好きだけど、飲食や消化に使うエネルギーを別のことに活用していけば、新たな挑戦につながるかもしれない。
 今年もお世話になり、ありがとうございました。
 来年もよろしくお願いいたします。

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2024 気の早い七味五悦三会

2024年12月22日 11時36分48秒 | エッセイ
 ブロ友のZUYAさんに倣って、今年は私も「七味五悦三会」なるものにチャレンジしてみたい。これは江戸時代の庶民が大晦日に除夜の鐘を聞きながら、その年にあった「七つの美味しかったもの」「五つの楽しかったこと」「三つのよい出会い」を家族と語り合い、七味、五悦、三会がすべて見つかれば「いい年だったねぇ」となるのだそうな。
「大晦日にはまだ早いけど、今日はネタがないから、これでいこう」
 なんとも雑な振り返りではあるが、時間のあるときにやっておくのがよさそうだ。ただし、強力なツールが必要となる。
 なにしろ、私の記憶力は頼りにならない。
 ここは記録力であろう。



 取り出したるは日記帳であった。ジャジャジャジャーン!
 これには一年間の出来事がくまなく書き留められているので、いつ、どこで、何が、どのように起きたのかがわかる。10年日記であるため、1日分はほんの150字前後という短い記録だけれども、結構重要な情報が詰まったいて読みごたえがある。
「ふむふむ、なるほど」
 この一年を振り返ると、コロナ後としては日帰りも含めて旅行が多かったとわかる。出かけると、現地で美味しいものを食べ、人との交流もできて、さらに満足度が高まっていくのだ。家に引きこもっていては、よい過ごし方ができないであろう。
「よーし、まず、七味からいこう」

○ジャンボプリン(自作)
○洋ナシのタルト(自作)
○アスパラガーリックライス(自作)
○日本橋玉ゐ あなご「箱めし」(外食)
○目黒・アルカションのランチ(外食)
○函館ラスク(みやげ)
○富士山めろんぱん(みやげ)





 食べ物は基本的にでき立てが美味しいので、料理の記事を見ながら自分で完成させたものが3品ランクインした。材料に何を使っているかがわかっていて、安上がりなのに激ウマなのだから、わざわざお金を払って人が作ったものを買う必要性を感じない。
 だから、外では自分が作れないものを食べたい。あなごはとろける食感でメチャウマだったな。
 みやげもクオリティが高かった。

「五悦はこれで決まり」

○塩原温泉ダイヤモンド婚式お泊まり会
○函館旅行
○松本城日帰り旅行
○武蔵野三十三観音巡り結願
○沖縄修学旅行引率







 なんといっても、親族と久しぶりに再会したお泊まり会が一番であったが、土方歳三の足取りを家族で追った函館旅行も感慨深かった。松本城にはずっと「行きたい」と思っていたので念願叶ったりで嬉しいお出かけとなった。

「モノやコトはお手軽だけど、ヒトとの出会いは重要だよね」
 書いていて、食べ物7個、楽しみ5個、出会い3個を合計すると、ちょうど釣り合う重さになっているのではと感じた。つまり、食べ物は一個あたりが軽いから7個必要であり、楽しみはその次に軽いから5個、出会いは生きていくうえで不可欠といえる重みがあるため3個、となっている気がしたのだ。それぐらい、今年出会えた方々に感謝している。

○淡路島のS高校の生徒・先生
○和泉元彌ファミリー
○実業家のSさん

 1月、仕事として淡路島のS高校を訪問したのだが、非常に温かく迎えていただき感激した。事業のヒントもいくつかもらって胸を張って帰京することができた。狂言師である和泉元彌さんとそのご一族の方は、芸術鑑賞教室で勤務先に来校された際、丁寧な姿勢で伝統芸能に向き合う仕事ぶりに感銘を受け、お会いできたことを光栄に思う。
 そして、最後にSさんという女性についてお話ししたい。彼女は起業家であり、社長として自分の会社を持っている。授業の講師として来校することになっていて、私が窓口となり約束をしていた。○月○日の14時から15時までと連絡をしたら、軽やかに微笑み、「高校生と話す機会がめったにないので楽しみです」とエレガントな受け答えをされた。迎えたその日はたまたま急用が入り、午前中、私は職場外に出かけ、12時半に戻ってきた。Sさんをお迎えするのは14時だから余裕で間に合うと思っていたのだが、学校でも突発的な予定が入り、急きょ短縮授業に変更されたと、戻ったときに知らされた。
「えっ、6時間目が50分も繰り上がるの? どうしよう!」
 時計を見ると、すでに13時になるところである。Sさんが間に合うはずもなく、目の前が真っ暗になった。とにかく電話をしなければ。つながるかどうかわからないが、やってみないことには始まらない。3回ほどのコール音のあとにSさんが出てくれた。
「すみません、今どちらにいらっしゃいますか」
 太鼓のように打ち鳴らされる心臓の音を聞きながら、私は受話器に向かって口を開いた。Sさんは打ち合わせのときと同様に柔らかい声で答えた。
「今、ちょうど正門に着いたところです」
「えっ、正門? うちのですか?」
「はい。ちょっと早く来ちゃいました」
 これには心底仰天した。
「すごいです! ビックリです! 助かりました!」
 玄関まで走ってSさんを迎えに行くと、彼女は本当にそこにいた。
「なんとなく、早く行った方がいいな~と思って社を出たんですよ。正解でしたね」
 狐につままれた気分であったが、彼女は何かを持っている方なのだろう。奇跡はさりげなさを装って起きるということもわかった。サロンを経営されているので、一度お伺いしたいと考えている。

 今年も残すところあと10日。
 間違いなく、よい一年だったようだ。

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2024 今年の漢字

2024年12月15日 09時25分45秒 | エッセイ
 12月12日、毎年恒例の今年の漢字が発表された。
「ちぇっ、また金か。他にも漢字はいっぱいあるのに」
 私は不満だ。たしかにオリンピック・パラリンピックでは選手の活躍に精いっぱいのエールを送ったし、世の中の動きもわかる。でも、都知事選や自民党総裁選、兵庫県知事選などの主要な選挙、生成AIの活用や悪用などもあったのだから、別の漢字にした方が盛り上がったのではと感じる。今さらどうにもならないけれど。
 さて、こちらも2024年を振り返り、私の「今年の漢字」を選んでみた。
「これはもう、『発』しかない」



 よいことも悪いことも、たくさんあった一年だった。
 年明けの1月こそ平穏に過ぎたものの、2月には仕事上の大きなミスが発覚し、年間を通じて対応に追われることになった。年内には解決する予定なので、あとちょっと頑張る。
 また、公募を探してエッセイを書き、いくつか応募してみたが、意中のものは不発に終わっている。もっとも出さないことには何も始まらないから、ボツの山を築いてもメゲずに、これからもチャレンジしていきたい。今、書いているのは8万字を超える大作で、こんなに長い作品を仕上げたためしがない。苦戦しながらも、完成・発表というプロセスを経て、自己の成長につなげたい。
 5月には、奮発して函館旅行をした。念願の五稜郭に行かれたことが嬉しい。これで堂々と土方歳三ファンを公言できる資格を得た気になった。



 8月末には台風10号が発生した。これが通り過ぎてから、両親のダイヤモンド婚式を祝うため那須の旅館に5年ぶりに親族11名が集まるつもりでいたが、異例のノロノロプラス迷走ぶりを発揮され困った。「どうする、どうする」と悩んだ挙句、強行して正解だった。台風はさらに遅くなり、微妙に進路を変えたため、旅行への影響がほとんどなかったのだ。



 9月から職場のインスタを始め、わが高校の活動を広く発信している。たくさんの生徒がフォロワーになってくれて幸せだ。廊下ですれ違ったとき、「インスタ面白いです。毎日楽しみにしています」と声をかけてきた男子生徒がいて、やりがいを実感することができた。
 10月には修学旅行の引率で9年ぶりに沖縄を訪れた。羽田空港発、那覇空港行きの飛行機に乗ったとき、単調な日常生活から解放されたようで気分が上がったことを思い出す。



 そして12月。職場の忘年会当日に喉の痛みや関節痛があり、内科を受診すると「コロナです」の無情な診断を受けた。現在、自宅療養中だが、発熱は最高でも37.3℃。咳や体の痛みなども発症したが、すでにピークを過ぎ辛くはない。もし忘年会に参加していたら大変な結果になったに違いない。噂通り、匂いにはだいぶ鈍感になっているけれど、食いしん坊として一番心配していた味覚障害はなさそうだ。どの料理も美味しくいただき、粛々と隔離期間の終わりを待っている。
 実はコロナと診断された初日に、「味がわかるうちに」と企みチョコレートをパクッといただいた。



 3日目の今日も「味覚に変化はないか」とチェックしようと、チョコの箱に手を伸ばしたら、残りわずかであることに気づいた。結局、私が一人で食べ尽くしそうだ。姉からは「寝てろ」と冷たいLINEをもらい苦笑いした。
 こうして2024年が暮れていく。
 生きている限り、不本意なことや我慢できないことに遭遇することもあるけれど、今年はよく頑張ったと思う。
 残すところ、あと16日。
 長い人生のプラスになることを見つけて過ごしたい。

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登ってスッキリ 子の権現から竹寺へ

2024年12月08日 18時12分44秒 | エッセイ
 武蔵野三十三観音巡りを開始したのは令和4年11月だった。
 暑い夏は巡礼をサボり、涼しい場所でのうのうと過ごしていたせいで、なかなか進まず、2年以上経った先日、ようやく最終日を迎えた。
 西武池袋線「東吾野」駅で下車し、三十番の福徳寺から4カ所の霊場を回る。だが、この寺はグーグルマップと相性が悪いのか、正しく地図に表示されなかった。「目的地に到着しました」となっているのに、目の前はどう見ても普通の民家。「こっちかもしれない」と動物的直感で丘を登り、どうにかこうにか目当ての寺にたどり着いた。
 しかし、御朱印はそこからさらに15分かかる別の寺でないといただけないと書いてあり、「キイ~ッ」と地団太を踏みつつ前に進む。どうにか御朱印ゲット。



 再度電車に乗り、「吾野」駅で降りると、駅前に三十一番法光寺がある。ここは楽に終わるが、三十二番子(ね)の権現天龍寺、三十三番八王寺(竹寺)は遠い。しかも山の上。気を引き締めて歩き始めた。
 天龍寺に行くには「子の権現」を示す順路に従えばよい。途中の「東郷公園」という場所で左折し、浅見茶屋を経由するハイキングコースを通るつもりだったのだが、ここだけ進行方向に順路が示されておらず、曲がり損ねて国道に出てしまった。あわてて引き返す。気づいたからよかったけれど。
 じわじわと続く登り坂を進むと、30分後に浅見茶屋が見える。しかし「本日休業」となっているではないか。休憩する予定はないから問題ないけれど。ここは高尾山と違い、めったに人とすれ違わないので、採算が取れないのかもしれない。
 ここを越えると、ザ・山道という雰囲気が待っている。



 気を引き締めて登り始めるたところで、向かい側から男性2人がやってきて、すれ違った。
「こんにちは~!」
「こんにちは」
 山の挨拶は爽やかだ。しかし、犬の散歩に比べたら、コミュニケーション度では負けるかもしれない。思ったことが伝わったわけではないだろうが、会話がなおも続けられた。
「お茶屋さん、混んでました?」
 ははあ、逆コースから来たのだなとわかった。子の権現方面から吾野駅に向かい、浅見茶屋で一杯やる人たちもいると、ネットに書かれていたからだ。
 しかし、しかし。さっきの看板を思い出す。
「あのう、本日休業って書いてありましたよ」
「ひいい~」
 リアクションが豊かな2人組だった。どこかで美味しいものが食べられるといいね。
 山道を登り、振り返ると高低差がわかる。



 子の山と書いてあったが標高は640mほどらしい。ちょっとがんばれば何とかなる。だが、あまりにも人がいなさすぎて、「熊が出るのでは」と心配になった。
 私は「熊鈴」を持っていないのだ。富士山5号でもらったお守り鈴ならあるからと、ポケットから出してリュックの紐につけてみた。



 熊鈴の「カランカラン」という景気のいい音に比べて、こちらは「チリチリ」という微かな音。つける意味あるかな? と疑問を感じつつさらに登る。途中でコンビニおにぎりを3個平らげ、糖質補給をしつつ進んだ。
「着いた!」
 山道を登ること40分、子の権現入り口が見えて感動する。熊に邪魔されることなく来られてよかった。



 写真で見た通り、色鮮やかな立像が迎えてくれた。



 ここは足腰の神仏だそうで、大きな草鞋に



 誰が履くんだ? とツッコミたくなる下駄が印象的だ。



 観音様もにっこりとほほ笑んでいる。



 納経をすませて御朱印をいただいたら、まだまだ、もっともっと歩けそうな気がした。



 さて、次は竹寺へ。向かいの山では紅葉が進んでいる。



 細い道にはアップダウンがあり、下ったり上ったりを何度か繰り返した。



 45分ほどで竹寺に着く。



 ここの茅の輪は有名らしく、ググって、いやくぐって心身の清浄を願うのだとか。



 敷地内は結構広く、見どころがいくつもあるらしい。飲食できる店もあり、精進料理のメニューが見えた。しかし、おにきりを4個食べてしまったので、後ろ髪を引かれつつ、小殿バス停に向かうことにした。ここでも御朱印をゲット。



 帰りのバスに揺られ、ウトウトと眠りに落ちた。飯能駅まで50分ほどかかる。ゆっくり体を休めてあとに、ようやく「結願(けちがん)」の実感がわいてきた。すべての霊場を回ると魂が浄化されるそうだが、実際、これまでの不平不満が小さなことに見えてきたのが不思議だ。
 たとえば、教員の世界でも、自分の非を認めず人のせいにする人ほど昇進していく。学校の中がぐちゃぐちゃでも、学校外でのパフォーマンスが上手い人は名を上げる。煽りを受けた者は踏みつけられ我慢の限界だ。腹立たしいことが続いていたのに、なぜか自身を客観視できるようになった。
「さて、また頑張るか」
 世の中、ままならぬことばかり。
 そんなときは、またこのルートを歩くといいかもしれない。

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詰まった困った

2024年12月01日 18時30分12秒 | エッセイ
 先日、夫からの不吉なLINEをキャッチした。
「台所の水道が詰まりました。今日は業者が来てくれないので1階で料理します。明日の朝に直してもらう予定です」
 ……ああ。
 ちょうど日曜日だったので運が悪かったと天を仰ぐ。
 わが家が二世帯だったのは不幸中の幸いだ。義母はとうに亡くなっているが、キッチンはそのまま残っているから、調理と洗い物ぐらいはできる。だが、食材や調理用具がある2階と1階を何往復もして、夫は気の毒なくらいクタクタになっていた。
 私は19時に仕事から帰り、流しの惨状を確認した。1cm程の深さの水がたまっていて、白身魚の小さなかけらやふやけた茶葉などが隠れようともせずに浮かんでいる。何でそんなに堂々としているのか。きっと雑菌もウヨウヨしているのだろうと気が重くなった。
 でも、翌日からの弁当の仕込みをしなければならない。1階に行くため階段を昇り降りするのは勘弁だ。2階の洗面台を使えばええんでないの? と小松菜を洗い始めた。
「まあ、できないことはないね」
この日ばかりはシンプルに肉を焼くだけ、小松菜を茹でるだけの簡単調理に徹して、何とか乗り切るしかない。調理に使ったフライパンと片手鍋も洗面台で洗うと、陶器の白さが曇ってしまい、くらーい気持ちになった。
 一体何が起きたのだろう。
 ひと月前に、2cm四方程度の小さなプラスチックがなくなったことがある。娘の箸箱は「カタカタ」言わない工夫があって、箸を固定する部品がついているのだ。



 ちなみに絵柄はトトロ。



 このカタカタ防止が洗い物のあとにどこかに消えてしまった。幸い、ネットでこれだけが売られていたので再購入することができた。洗い物係の夫は「知らない」と言い張っていたが、非常に怪しい。箸箱から外れたカタカタ防止がシンクの片隅に転がっているのに気づかないまま、流しの水切り網を掃除しようと取り出したときに、勢いよく水を流してしまったのではないだろうか。
 パイプはカーブを描いているので、部品が流れずに引っかかり、小さなカスがたまって詰まったと、迷探偵・砂希は思い込んでいる。
 そして翌日。やっと業者が来てくれる日がやってきた。
 連絡先はクラシアン。



 先方の期待通り、冷蔵庫のマグネットとして活用しているので、いざというとき役に立った。
 私も娘も仕事があり、専業主夫の夫が対応した。詳しいことはわからないが、作業時間は1時間程度だったそうだ。見積書には31,900円と書かれている。





 相場は知らないが、まあこんなもんかなという金額だ。不便が解消されるならありがたい。



 汚らしい水たまりがなくなり、シンクはピカピカと光っていた。
「で、結局、原因は何だったの?」
「パイプユニッシュ。流れが悪いから使ったら、垢が大量に取れたことで詰まったらしいよ」
「ふうん」
 夫が勝ち誇ったように胸を張る。ちぇっ。
 定年の年齢になっても、探偵業は向いていないみたいだから候補から外そう。
 クラシアンは無理そうだけど、困った人の役に立つ仕事に惹かれるなぁ。

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