4月は実に忙しかった。
授業の準備、転学生徒の書類送付、各種調査の回答に加えて、オリンピック・パラリンピック教育の予算申請、新任者の歓迎会の手配などで、7時前に帰れた日は少ない。
その日もすっかり遅くなってしまったが、ようやく仕事の目途がつき帰ることにした。
しかし、ポケットを探っても、ロッカーのカギが見つからない。
机の中だったかしらと引き出しを開けてみたが、それらしきものはない。レターケースにもデスクの上にも、ないないない。
「えーっ、どこにいったんだろう……」
ロッカーにはカバンが入っている。定期券に財布、家のカギ。大事なものは全部この中だ。これを出さずに帰れるはずもない。
「うーん、困った」
もう一度、白衣のポケットに手を突っ込む。思った通り、手ごたえはない。パンツのポケット、机、デスクトレーと、心当たりを片っ端から確認したが、ないものはない。
「となると……」
スペアキーはないので、カギがなければロッカーを破壊するしかない。カギの部分を金づちでパコーンと叩けば、部品が外れて扉が開くだろう。
だが、一度壊したものは元に戻らない。ただでさえ、お金がなくてピーピーしている学校の備品を破壊するとは何事か。無残な姿と化したロッカーを見て、物品管理の責任者は激怒するに違いない。行動範囲を広げて、もう少し探してみよう。
ロッカーのカギには、大天使ミカエルのキーホルダーがついている。机のカギも2種類ぶら下がっているから、落とせば音が出るはずだ。気づかぬまま、こつ然と姿を消した大天使。いったいどこに行ったのか。「戻ってきてよ!」と強く念じた。
ふと、夕方に講演会の準備をしたことを思い出した。機材を出すため、特別教室のカギを同じポケットに入れたのだっけ。
ひとまず、特別教室に行ってみよう。何かヒントがあるかもしれない。
キーボックスを開き、特別教室のカギを手に取ろうとしたとき、発信機の「ピッピッ」という音が聞こえたような気がした。
「ん? 怪しい。何かありそう」
根拠は何もない。いわゆる動物的直感というヤツだ。私はキーボックスのカギを端から順にチェックし、「ピッピッ」の音の出どころに近づこうとした。キーボックスは、整頓されておらずゴチャゴチャだ。ひとつのフックに2つも3つもカギがかかっていて、かかり切らないものがいくつか底に転がっている。かきわけ、かきわけ見ていくと、銀色に輝くミカエルが顔を出した。
何と、こんなところに私のカギが眠っていたとは。
「あったあった!」
これで備品を破壊せずに帰ることができる。猪を仕留めた猟師のように、私の心は達成感ではちきれそうになった。
なぜ、ポケットの中のカギが、キーボックスに移動したのか、真相を探ってみる。
講演会の準備が終わり、特別教室を施錠するときだった。「僕が閉めておきますよ」と申し出た男性教諭がいたので、ポケットの中のカギを渡した。このとき、ロッカーのカギもまぎれてしまったらしい。同じ場所にあったことが裏目に出たようだ。
この男性は、異動してきたばかりで、キーボックスの中を見たことがない。ミカエルのカギも特別教室の一部と思い込み、忠実に収納したのである。いわば、自分の不注意から招いた事態であった。
「よしっ、スッキリしたぁ~!」
すっかり遅くなってしまったが、カギ穴にカギを差し込み、勢いよくロッカーを開ける。カバンを取り出せたときは、涙ぐみそうなくらい嬉しかった。
キーホルダーはミカエルに限るねっ。
↑
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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
授業の準備、転学生徒の書類送付、各種調査の回答に加えて、オリンピック・パラリンピック教育の予算申請、新任者の歓迎会の手配などで、7時前に帰れた日は少ない。
その日もすっかり遅くなってしまったが、ようやく仕事の目途がつき帰ることにした。
しかし、ポケットを探っても、ロッカーのカギが見つからない。
机の中だったかしらと引き出しを開けてみたが、それらしきものはない。レターケースにもデスクの上にも、ないないない。
「えーっ、どこにいったんだろう……」
ロッカーにはカバンが入っている。定期券に財布、家のカギ。大事なものは全部この中だ。これを出さずに帰れるはずもない。
「うーん、困った」
もう一度、白衣のポケットに手を突っ込む。思った通り、手ごたえはない。パンツのポケット、机、デスクトレーと、心当たりを片っ端から確認したが、ないものはない。
「となると……」
スペアキーはないので、カギがなければロッカーを破壊するしかない。カギの部分を金づちでパコーンと叩けば、部品が外れて扉が開くだろう。
だが、一度壊したものは元に戻らない。ただでさえ、お金がなくてピーピーしている学校の備品を破壊するとは何事か。無残な姿と化したロッカーを見て、物品管理の責任者は激怒するに違いない。行動範囲を広げて、もう少し探してみよう。
ロッカーのカギには、大天使ミカエルのキーホルダーがついている。机のカギも2種類ぶら下がっているから、落とせば音が出るはずだ。気づかぬまま、こつ然と姿を消した大天使。いったいどこに行ったのか。「戻ってきてよ!」と強く念じた。
ふと、夕方に講演会の準備をしたことを思い出した。機材を出すため、特別教室のカギを同じポケットに入れたのだっけ。
ひとまず、特別教室に行ってみよう。何かヒントがあるかもしれない。
キーボックスを開き、特別教室のカギを手に取ろうとしたとき、発信機の「ピッピッ」という音が聞こえたような気がした。
「ん? 怪しい。何かありそう」
根拠は何もない。いわゆる動物的直感というヤツだ。私はキーボックスのカギを端から順にチェックし、「ピッピッ」の音の出どころに近づこうとした。キーボックスは、整頓されておらずゴチャゴチャだ。ひとつのフックに2つも3つもカギがかかっていて、かかり切らないものがいくつか底に転がっている。かきわけ、かきわけ見ていくと、銀色に輝くミカエルが顔を出した。
何と、こんなところに私のカギが眠っていたとは。
「あったあった!」
これで備品を破壊せずに帰ることができる。猪を仕留めた猟師のように、私の心は達成感ではちきれそうになった。
なぜ、ポケットの中のカギが、キーボックスに移動したのか、真相を探ってみる。
講演会の準備が終わり、特別教室を施錠するときだった。「僕が閉めておきますよ」と申し出た男性教諭がいたので、ポケットの中のカギを渡した。このとき、ロッカーのカギもまぎれてしまったらしい。同じ場所にあったことが裏目に出たようだ。
この男性は、異動してきたばかりで、キーボックスの中を見たことがない。ミカエルのカギも特別教室の一部と思い込み、忠実に収納したのである。いわば、自分の不注意から招いた事態であった。
「よしっ、スッキリしたぁ~!」
すっかり遅くなってしまったが、カギ穴にカギを差し込み、勢いよくロッカーを開ける。カバンを取り出せたときは、涙ぐみそうなくらい嬉しかった。
キーホルダーはミカエルに限るねっ。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)