前回の防災グッズから思い出した話である。
(関連記事「お袋のワザが光る焼きおにぎり」はこちらから)
どの学校でも防災訓練をするものだが、コロナ禍により、さまざまな制限をしている。たとえば、AEDの使い方や心臓マッサージを教わるときは、一回ごとに器具を消毒し、感染防止に努めなければならない。
非常食の炊き出しも同様だ。令和2年度以降のルールとして、作る練習はよいけれど、生徒は作ったご飯を食べられないことになっている。食事は感染リスクの高い行為なので、なるべく避ける必要がある。
「食べられなくてもいいから作ってみたい」
防災訓練の一環として、各クラスの当番が集まり、炊き出し班の活動をした。
「じゃあ、箱の中身を開けてください。カッターも入っていますね。必要なものが全部まとまっているんですよ」
担当教員がマイクを使って、作り方の指示をする。
学校で購入する非常食は、1箱50食分なので結構重い。
「じゃあ、段ボールを包むように、アルミシートとビニールを外側に折って」
当番4人で力を合わせ、せっせと作業が進んでいく。
「カッターでアルファ化米の袋を切って、箱の中に入れましょう。炊き込みご飯の具材も一緒にね。乾燥剤があったら出してくださーい」
「おしゃもじもありますね。お米と具材をよーく混ぜてください」
「混ぜたら、ポットのお湯を袋の線まで入れましょう」
ジャジャジャジャジャー。
お湯だと15分ほどででき上がる。これをパックに盛り付けるところまで、当番が体験していく。
「できた!」
パックは全部で300個となった。しかし、教職員は60名。はたして食べ切れるのか?
「やっぱり、食べ物を捨てるのはよくないですよ。事業ゴミは有料だし、一人3パックぐらいは食べてもらわないと」
経費を担当している事務室から、もっともな話をされた。これは頑張らないといけない。
「そういえば、2時に都庁から4人、お客さんが来ますよ」
「おみやげに持って帰ってもらおうか」
「そうしよう。紙袋、紙袋」
これで12パックは減る。
職員室にはズラリとパックを並べておいた。
「えっ、食べていいの? ちょうどお腹が空いたからありがたい」
若手男性は3パックどころか、5パックぐらい持っていってくれた。若手じゃなくても、女性でも、2~3パックは食べてくれる。順調に減ったところを見届けて、私もひじきご飯の味見をする。
まあまあ美味しいで~す!
しかし、ラストの6パックがなかなか減らない。時計を見ると、そろそろ17時になるところだ。勤務時間が終わる前に、なんとか押し売りしないといけない。
「○○さん、ご飯食べた?」
「見て下さいよ、あと4パックあります」
「失礼……」
すばやく左右に視線を流し、パックのない机を探した。
「××さん、まだ食べられる~?」
「あ、じゃあいただきます」
「やったぁ!」
すかさず2パック手渡した。あと4パックで完売なのに、職員室はもう飽和状態らしい。新たな引き受け手を求めて事務室に移動する。ここでは女性職員が2名、せっせと作業をしていたが、予想以上にガードが固かった。
「ご飯どうですか」
「大丈夫でーす」
きっぱりと断られ、取りつく島もない。事務室の奥には校長室があるが、校長先生は主張中で、17時半に戻ることになっている。しかし、部屋にカギはかかっていない。女性たちと目配せして、ご飯の行き先が決まった。
「2パック置いちゃえ、置いちゃえ」
「わははは」
何という部下なのか。いや、この際、上下関係を気にしてはいけない。とはいえ、校長先生が部屋に入ったら、さぞやビックリするだろうな……。
最後に残った2パックは、私が1つ、近くに席の職員が1つ持ち帰ることで解決した。300パックを無駄にすることなく消費し、実に満足のいく防災訓練となった。
その夜、体重計に載ったら……。
そりゃあ、増えるでしょうね。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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どの学校でも防災訓練をするものだが、コロナ禍により、さまざまな制限をしている。たとえば、AEDの使い方や心臓マッサージを教わるときは、一回ごとに器具を消毒し、感染防止に努めなければならない。
非常食の炊き出しも同様だ。令和2年度以降のルールとして、作る練習はよいけれど、生徒は作ったご飯を食べられないことになっている。食事は感染リスクの高い行為なので、なるべく避ける必要がある。
「食べられなくてもいいから作ってみたい」
防災訓練の一環として、各クラスの当番が集まり、炊き出し班の活動をした。
「じゃあ、箱の中身を開けてください。カッターも入っていますね。必要なものが全部まとまっているんですよ」
担当教員がマイクを使って、作り方の指示をする。
学校で購入する非常食は、1箱50食分なので結構重い。
「じゃあ、段ボールを包むように、アルミシートとビニールを外側に折って」
当番4人で力を合わせ、せっせと作業が進んでいく。
「カッターでアルファ化米の袋を切って、箱の中に入れましょう。炊き込みご飯の具材も一緒にね。乾燥剤があったら出してくださーい」
「おしゃもじもありますね。お米と具材をよーく混ぜてください」
「混ぜたら、ポットのお湯を袋の線まで入れましょう」
ジャジャジャジャジャー。
お湯だと15分ほどででき上がる。これをパックに盛り付けるところまで、当番が体験していく。
「できた!」
パックは全部で300個となった。しかし、教職員は60名。はたして食べ切れるのか?
「やっぱり、食べ物を捨てるのはよくないですよ。事業ゴミは有料だし、一人3パックぐらいは食べてもらわないと」
経費を担当している事務室から、もっともな話をされた。これは頑張らないといけない。
「そういえば、2時に都庁から4人、お客さんが来ますよ」
「おみやげに持って帰ってもらおうか」
「そうしよう。紙袋、紙袋」
これで12パックは減る。
職員室にはズラリとパックを並べておいた。
「えっ、食べていいの? ちょうどお腹が空いたからありがたい」
若手男性は3パックどころか、5パックぐらい持っていってくれた。若手じゃなくても、女性でも、2~3パックは食べてくれる。順調に減ったところを見届けて、私もひじきご飯の味見をする。
まあまあ美味しいで~す!
しかし、ラストの6パックがなかなか減らない。時計を見ると、そろそろ17時になるところだ。勤務時間が終わる前に、なんとか押し売りしないといけない。
「○○さん、ご飯食べた?」
「見て下さいよ、あと4パックあります」
「失礼……」
すばやく左右に視線を流し、パックのない机を探した。
「××さん、まだ食べられる~?」
「あ、じゃあいただきます」
「やったぁ!」
すかさず2パック手渡した。あと4パックで完売なのに、職員室はもう飽和状態らしい。新たな引き受け手を求めて事務室に移動する。ここでは女性職員が2名、せっせと作業をしていたが、予想以上にガードが固かった。
「ご飯どうですか」
「大丈夫でーす」
きっぱりと断られ、取りつく島もない。事務室の奥には校長室があるが、校長先生は主張中で、17時半に戻ることになっている。しかし、部屋にカギはかかっていない。女性たちと目配せして、ご飯の行き先が決まった。
「2パック置いちゃえ、置いちゃえ」
「わははは」
何という部下なのか。いや、この際、上下関係を気にしてはいけない。とはいえ、校長先生が部屋に入ったら、さぞやビックリするだろうな……。
最後に残った2パックは、私が1つ、近くに席の職員が1つ持ち帰ることで解決した。300パックを無駄にすることなく消費し、実に満足のいく防災訓練となった。
その夜、体重計に載ったら……。
そりゃあ、増えるでしょうね。
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