台風11号が接近している。
高校は通学エリアが広いので、生徒の安全確保のため、天気予報や台風情報のチェックが欠かせない。
私の勤務先では、居住区となる東京23区に警報が発令されたり、鉄道各線が不通になったとき、登校せずに自宅待機するというルールがある。大抵の場合は、前日にホームルームで担任から、「明日、午前7時の段階で警報が出ているかどうかを確認しなさい」と連絡するのだが、夏休みはこれができなくて困る。
7年前、夏休みに成績不良者を集めて補習をしたことがある。3日間で1学期の内容を復習し、成績アップを目指すはずだったのに、天気予報では初日に台風が来ると予測していた。
私は困惑した。登校日ではないので、警報が出るかどうかにかかわらず、補習は中止したほうがよい。だが、連絡する機会がない。機転の利く生徒であれば、「こんな天気でやるはずがない」と判断するのだが、「何とか成績を回復したい」と願う真面目な生徒は来てしまうだろう。保護者も心配して問い合わせをするに違いない。
仕方ない、一軒一軒の家庭に電話連絡をしなければ……。
対象生徒は30名。気の遠くなる作業だったが、覚悟を決めて電話をかけた。
平日の日中にもかかわらず、ほとんどの生徒は家にいた。アルバイトなどで連絡がつかないと予想していたから意外だった。本人がいなくても母親がいたり、留守番電話に録音したりと、連絡は順調に進んでいた。
しかし、数軒、誰も電話に出てくれない家庭があった。携帯電話の普及にともない、コール音だけが虚しく響くケースが増えた気がする。
さて、どうしよう?
その日はたまたま別の補習があったので、参加している生徒を頼ってみた。
「ねえ、青木の携帯番号知ってる?」
「うん、わかるよ」
「実は、明日の補習は中止ですっていう連絡をしたいんだけど、家の電話がつながらないの」
「じゃあ、しといてあげるよ」
「わーい、ありがとう!!」
という感じで、大体の生徒が協力してくれるのだが、中にはこんな対応もあった。
「先生、学校では携帯を使っちゃいけないんですよ。僕はお断りします」
以前、集会中に着信音が鳴ってしまい、私に携帯を取り上げられたことのある生徒だった。彼にしてみれば、「都合のいいときだけ何だ!」という心境だったのだろう。よく考えてみれば、その通りである……。
「いいよ、先生。アタシがかけとくね」
面倒見のよい女子が、見かねて代役を引き受けるという場面もあった。
生徒のネットワークは決してあなどれない。こちらも、いずれ携帯電話は持ち込み禁止となるのだが、いざというとき大丈夫だろうか。
半日がかりで、どうにかこうにか、生徒全員に連絡がついた。
皮肉なことに、準備万端に整えておくと台風はそれていくことが多い。今回もそうなると思っていたのに、珍しく風雨ともに強く、翌朝は大荒れの天気となった。
明け方、風のうなり声と強い雨音で目が覚めた。家屋が揺すられ、髪をつかんで引きずられる女性のように樹木が体を歪め、悲鳴を上げている。全開のシャワーの如く、強く激しい雨が窓ガラスに体当たりしてくる。
こんな悪天候では、たちまち傘が壊れ、頭のてっぺんからつま先までビショ濡れになるだろう。
夏休みだし、補習なくなったし、無理して出勤しなくてもいいよね……。
私は受話器を取り上げて、休暇の申請をした。
あっ、自分が行きたくなかったから、補習をなくしたなんてことはないですからね!
多分、いえ、絶対!!
![](http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/18/b2b19eb2db2595e3407c99e2498c999f.png)
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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
高校は通学エリアが広いので、生徒の安全確保のため、天気予報や台風情報のチェックが欠かせない。
私の勤務先では、居住区となる東京23区に警報が発令されたり、鉄道各線が不通になったとき、登校せずに自宅待機するというルールがある。大抵の場合は、前日にホームルームで担任から、「明日、午前7時の段階で警報が出ているかどうかを確認しなさい」と連絡するのだが、夏休みはこれができなくて困る。
7年前、夏休みに成績不良者を集めて補習をしたことがある。3日間で1学期の内容を復習し、成績アップを目指すはずだったのに、天気予報では初日に台風が来ると予測していた。
私は困惑した。登校日ではないので、警報が出るかどうかにかかわらず、補習は中止したほうがよい。だが、連絡する機会がない。機転の利く生徒であれば、「こんな天気でやるはずがない」と判断するのだが、「何とか成績を回復したい」と願う真面目な生徒は来てしまうだろう。保護者も心配して問い合わせをするに違いない。
仕方ない、一軒一軒の家庭に電話連絡をしなければ……。
対象生徒は30名。気の遠くなる作業だったが、覚悟を決めて電話をかけた。
平日の日中にもかかわらず、ほとんどの生徒は家にいた。アルバイトなどで連絡がつかないと予想していたから意外だった。本人がいなくても母親がいたり、留守番電話に録音したりと、連絡は順調に進んでいた。
しかし、数軒、誰も電話に出てくれない家庭があった。携帯電話の普及にともない、コール音だけが虚しく響くケースが増えた気がする。
さて、どうしよう?
その日はたまたま別の補習があったので、参加している生徒を頼ってみた。
「ねえ、青木の携帯番号知ってる?」
「うん、わかるよ」
「実は、明日の補習は中止ですっていう連絡をしたいんだけど、家の電話がつながらないの」
「じゃあ、しといてあげるよ」
「わーい、ありがとう!!」
という感じで、大体の生徒が協力してくれるのだが、中にはこんな対応もあった。
「先生、学校では携帯を使っちゃいけないんですよ。僕はお断りします」
以前、集会中に着信音が鳴ってしまい、私に携帯を取り上げられたことのある生徒だった。彼にしてみれば、「都合のいいときだけ何だ!」という心境だったのだろう。よく考えてみれば、その通りである……。
「いいよ、先生。アタシがかけとくね」
面倒見のよい女子が、見かねて代役を引き受けるという場面もあった。
生徒のネットワークは決してあなどれない。こちらも、いずれ携帯電話は持ち込み禁止となるのだが、いざというとき大丈夫だろうか。
半日がかりで、どうにかこうにか、生徒全員に連絡がついた。
皮肉なことに、準備万端に整えておくと台風はそれていくことが多い。今回もそうなると思っていたのに、珍しく風雨ともに強く、翌朝は大荒れの天気となった。
明け方、風のうなり声と強い雨音で目が覚めた。家屋が揺すられ、髪をつかんで引きずられる女性のように樹木が体を歪め、悲鳴を上げている。全開のシャワーの如く、強く激しい雨が窓ガラスに体当たりしてくる。
こんな悪天候では、たちまち傘が壊れ、頭のてっぺんからつま先までビショ濡れになるだろう。
夏休みだし、補習なくなったし、無理して出勤しなくてもいいよね……。
私は受話器を取り上げて、休暇の申請をした。
あっ、自分が行きたくなかったから、補習をなくしたなんてことはないですからね!
多分、いえ、絶対!!
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