娘のミキが、小学生最後のイベントとして、友達5人ととしまえんに行くことになった。
「明日はおにぎり作ってね」
普段は反抗してばかりいるくせに、こういうときだけは調子がいい。当然とばかりの言い草にムッとし、意地悪を言いたくなった。
「あら、コンビニのおにぎりっていう手もあるけど」
「やだよ。みんな、お母さんに作ってもらうって言ってたもん」
こう出られると、日頃母親業を怠けている私は、グッと言葉に詰まる。その様子を見て、ミキはさらに畳み掛けた。
「みんなが家で、ミキだけコンビニおにぎりだったよ、って言うんじゃないかな~」
ううっ、ここまで攻められては観念するしかない。
「……わかったよ。鮭とおかかでいい?」
「うん、いいよ! じゃあ、明日よろしく!」
ミキはちゃっかりしているが、決してしっかり者ではない。特に時間に関しては、きちんと確認しておく必要がある。
「何時に帰ってくるの?」
「うーんと、5時半にとしまえんを出るから、6時くらいかな……」
これを真に受けてはいけない。ミキは時間にルーズな面があり、自分で決めても守ったためしがない。
「ホント? こないだも間に合わなかったじゃない」
「だって、あのときは、みんなが遅かったからだよ。明日は大丈夫だと思うんだけど……」
たしかに、女の子の集団行動は小回りが利かないものだ。「遅くなると怒られるから先に帰る」とも言えず、笑顔で他の子に合わせなければならない。
母親である私にはわかるけれど、夫にはこれがまったく理解できないので、いつも頭ごなしに叱られる。ミキは用心深く尋ねた。
「お母さん、明日、お父さんが何時に帰ってくるか知ってる?」
「7時とか言ってたよ」
「7時? よかった」
「お父さんより早く帰ってきなさいよ」
釘を刺しておいたのに、翌日、6時近くになってこんな電話がかかってきた。
「お母さん、ミキだよ。今豊島園の駅なんだけど、電車が6時9分までないの。だから、家に着くのが6時半になっちゃう……」
やっぱり!
「またなの? ダメだなぁ。でも、慌てるとろくなことないから、友達と一緒に気をつけて帰ってきなさい」
「お父さんは?」
「まだよ」
ホッとしたような間があり、「じゃあ」と電話が切れた。
どうにか、ミキは夫より先に帰ることができた。
「時間を守りなさいよ」
私がたしなめると、ミキはバッグからひものついた小物を取り出した。
「みんながおみやげ買うって言うから、ミキもお母さんに買ってきたんだよ。だから遅くなっちゃったの」
手渡されたものは、しゃれたストラップだった。
「へえ、可愛いじゃない。ありがとう」
これを気づかいと取るか、袖の下と取るかは自由だが、私は素直に喜んだ。ミキは満足し、さらに2つのイニシャル違いのストラップを見せた。
「これがおばあちゃんので、これがお父さんの」
義母は笑顔で「うれしい」と言ってくれそうだけれども、果たして、夫の反応はいかなるものか?
「あ、お父さん、お帰りなさい。としまえんのおみやげ買ってきたよ、ほら」
夫は「R」と書かれた、ハート型のストラップを受け取り、無言で見つめていた。ピンクのガラス玉がキラキラと輝いている。
「携帯につけてね。じゃあ、ミキお風呂に入ってくる」
夫は手の平にストラップを載せたまま、ひと言も発しなかった。
そして今日、ミキは夫の携帯を見て、ブツブツ文句を言っていた。
「ひどいよ、ミキがあげたストラップ、ついてないじゃない!」
そりゃあ、ついてたら怖いよ~!
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※姉妹ブログ 「いとをかし」 へは、こちらからどうぞ^^(3/29更新)
「明日はおにぎり作ってね」
普段は反抗してばかりいるくせに、こういうときだけは調子がいい。当然とばかりの言い草にムッとし、意地悪を言いたくなった。
「あら、コンビニのおにぎりっていう手もあるけど」
「やだよ。みんな、お母さんに作ってもらうって言ってたもん」
こう出られると、日頃母親業を怠けている私は、グッと言葉に詰まる。その様子を見て、ミキはさらに畳み掛けた。
「みんなが家で、ミキだけコンビニおにぎりだったよ、って言うんじゃないかな~」
ううっ、ここまで攻められては観念するしかない。
「……わかったよ。鮭とおかかでいい?」
「うん、いいよ! じゃあ、明日よろしく!」
ミキはちゃっかりしているが、決してしっかり者ではない。特に時間に関しては、きちんと確認しておく必要がある。
「何時に帰ってくるの?」
「うーんと、5時半にとしまえんを出るから、6時くらいかな……」
これを真に受けてはいけない。ミキは時間にルーズな面があり、自分で決めても守ったためしがない。
「ホント? こないだも間に合わなかったじゃない」
「だって、あのときは、みんなが遅かったからだよ。明日は大丈夫だと思うんだけど……」
たしかに、女の子の集団行動は小回りが利かないものだ。「遅くなると怒られるから先に帰る」とも言えず、笑顔で他の子に合わせなければならない。
母親である私にはわかるけれど、夫にはこれがまったく理解できないので、いつも頭ごなしに叱られる。ミキは用心深く尋ねた。
「お母さん、明日、お父さんが何時に帰ってくるか知ってる?」
「7時とか言ってたよ」
「7時? よかった」
「お父さんより早く帰ってきなさいよ」
釘を刺しておいたのに、翌日、6時近くになってこんな電話がかかってきた。
「お母さん、ミキだよ。今豊島園の駅なんだけど、電車が6時9分までないの。だから、家に着くのが6時半になっちゃう……」
やっぱり!
「またなの? ダメだなぁ。でも、慌てるとろくなことないから、友達と一緒に気をつけて帰ってきなさい」
「お父さんは?」
「まだよ」
ホッとしたような間があり、「じゃあ」と電話が切れた。
どうにか、ミキは夫より先に帰ることができた。
「時間を守りなさいよ」
私がたしなめると、ミキはバッグからひものついた小物を取り出した。
「みんながおみやげ買うって言うから、ミキもお母さんに買ってきたんだよ。だから遅くなっちゃったの」
手渡されたものは、しゃれたストラップだった。
「へえ、可愛いじゃない。ありがとう」
これを気づかいと取るか、袖の下と取るかは自由だが、私は素直に喜んだ。ミキは満足し、さらに2つのイニシャル違いのストラップを見せた。
「これがおばあちゃんので、これがお父さんの」
義母は笑顔で「うれしい」と言ってくれそうだけれども、果たして、夫の反応はいかなるものか?
「あ、お父さん、お帰りなさい。としまえんのおみやげ買ってきたよ、ほら」
夫は「R」と書かれた、ハート型のストラップを受け取り、無言で見つめていた。ピンクのガラス玉がキラキラと輝いている。
「携帯につけてね。じゃあ、ミキお風呂に入ってくる」
夫は手の平にストラップを載せたまま、ひと言も発しなかった。
そして今日、ミキは夫の携帯を見て、ブツブツ文句を言っていた。
「ひどいよ、ミキがあげたストラップ、ついてないじゃない!」
そりゃあ、ついてたら怖いよ~!
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