これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

浅草パワー

2020年08月30日 21時51分29秒 | エッセイ
 せっかくの日曜日に、外の仕事が入ってしまった。先週のことだ。
「あー、ダルぅ。でも、浅草ならいっか~」
 このところ、まったく出かけていないので、浅草での仕事だったら歓迎する。さっそく買い物リストを作って、お出かけ、もとい仕事に備えた。
 集合は午前8時半。この日は雨模様だったせいか、スカイツリーも霞んでいた。



 仕事は予定より早く終わり、まずは浅草寺に向かった。雨もすっかり上がっている。



 阿弥陀如来様に両手を合わせて拝んでいたら、蚊に刺された……。蚊の野郎も私に、「ごちそうさまでした」と感謝したかもしれない。



 日曜日にしては人が少ない。私のこの列の最後尾につき、コロナ終息や家族の健康などを祈ろうと思った。



「えーと、最初の礼は2回だよね」
「拍手も2回だったよね」
 前にいた3人組のお兄さんたちが、お詣りの所作を打ち合わせているのだが、言葉を失う内容だった。「おいおい、それは神社だろ」とつっこむのも何だし、黙って見ていたら、見事に二礼二拍手一礼をしてしまった。まあ、祈りは通じたと思うけど……。



 驚くことがあった。おみくじを引いたら「大吉」だったのだ!



「うそ~! いつも凶か大凶なのに」
 浅草寺は「凶」率が高いと噂されているから、この大吉は一生に一度ぐらいの確率なのではないか。とたんに足取りが軽くなり、ウキウキしながら仲見世を歩く。まずは人形焼きかな。木村家のが美味しいのよね~、なんて感じで。
 今回は、七味唐辛子を買うことにした。1625年創業の「やげん堀」さんの七味が、浅草土産としてヒットしたからだ。徳川家にも納めていたと知り、何だかとっても欲しくなった。
「あー、買えた買えた。コーヒー飲んで帰ろうっと」
 閉店の18時に間に合い、「やっぱり大吉は違うわね」と満足して家に向かった。
 さて、この七味が素晴らしいのだ。
 どうです? この美シルエット。



 ひょうたんは、くびれが外れるようになっていて、ここから七味を移し替える。



 そうめんにパパッとかけた瞬間、食欲を刺激する香りが広がった。



「あー、これだよこれ」
 私は辛党ではないが、極端な暑さ寒さを乗り切るときは、辛味の力を借りることにしている。舌先に唐辛子がピリッときたあと、黒ゴマの香ばしさや、独特の山椒臭などが追いかけてきて、ただのそうめんではなくなるところがありがたい。
「美味しかった~!」
 毎日、校内の消毒やら、感染対策やらに追われて忙しいけれど、一気にエネルギーが高まってくる。
 浅草パワーは偉大だ。


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夏の「ひとつ鍋」

2020年08月23日 06時00分04秒 | エッセイ
 わが勤務校の夏休みは、今年に限って、8月8日(土)から8月23日(日)までの16日間であった。
 つまり、今日で短い夏休みが終わるというわけだ。この間、平日は勤務日なので、3日ほどは夏休みをいただいたが、猛暑で体の消耗が激しく、休んだという実感がない。
 条件はどの職員も同じとはいえ、さっそうと遊びに出かける人もいる。この元気はどこから出てくるのやら。
「○○に行ってきました。おみやげどうぞ」
「××のおみやげです。リフレッシュしてきました」
 いろいろといただきものをしたが、もっぱら家で新作料理に励んでいたので、お返しするものが何もない。
 こうなったら、頼みの綱はオンラインショップだ。
「六花亭にしようっと」
 雄大で涼しい北海道に思いを馳せると、心に爽やかな風が吹いてくる。お菓子だけでも、そこから取り寄せたい。
「でも、チョコはダメだよね」
 東京の残暑は厳しい。半袖で過ごす期間は、溶けてしまうからチョコレート菓子は危険だ。
 ストロベリーチョコ(ミルク)は私のイチオシだけど、冬になるまで待とう。



 要冷蔵のマルセイバターサンドや、25度以下で保管の霜だたみも避けたほうがよいだろう。
「となると、和菓子かな。ああ、最中があったっけ」
 最中の名を「ひとつ鍋」という。以前に、お試しで6個入りを買ったら、可愛くて美味しかった。



「えーと、職員が57人だから、24個入りの方がいいのかな」



 しかし、金額を個数で割り算して驚く。24個入りよりも6個入りの方が、単価が安いのだ。何で??
「よくわかんないけど、6個入りを10箱。当然でしょ」
 職場に届くようにしておけば、家から運ぶ手間もかからず便利だ。
 5日ほどで無事に到着し、机の上に配って回る。常温保存のできるものは扱いが楽でいい。もちろん、私の分もあるから、さっそく開けて食べた。



 グツグツと沸騰したキムチ鍋を思い出し、「どこが涼し気なんじゃい」と気づく。我ながら間抜けなヤツである……。
 ちなみに、鍋の中には餡と牛皮が入っていて、こんな感じになっている。



「わあ、おやつだ! いただきまーす」
 出勤していた職員が最中に気づき、無邪気に食べ始めた。肩の荷が下りた気がして、私もちょっとホッとする。オンラインショップは偉大だ。
「私は冷蔵庫で冷やしてからいただくわぁ」
 そうそう、その手があった。
 夏は冷たい「ひとつ鍋」♪ あ~、こりゃこりゃ。


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ヘンゼルとグレーテル(日本編)

2020年08月16日 21時44分51秒 | エッセイ
 スマホの写真を整理していたら、サンクトペテルブルクで撮った「お菓子の家」が出てきた。



 懐かしい。
 今の外気は35度を超えているが、12月のサンクトペテルブルクはマイナス2度だった。鼻水をふきふき散策したことを思い出す。
 お菓子の家はロマンだ。でも、『ヘンゼルとグレーテル』ってどんな話だったっけ? 思い出せない。
 ネットであらすじを確認し、「そうだったな」と記憶が蘇ってくる。同時に、いくつもの疑問を感じた。
「魔女のくせに、目が悪いってどういうこと? 魔法で治せよ」
「オーブンの使い方がわからないなんて、簡単にだまされたりして、本当に魔女なの?」
「オーブンで焼かれるなんて、弱ッ! 魔女の風上にもおけないね」
 だんだん腹が立ってきた。
 これは、魔女というより、山姥なのではないか。魔力はないけど、凶暴で残忍なおばあさん。
「となると、舞台は日本の方がいいんじゃないかなぁ」
 そんなこんなで、書いてみました。ヘンゼルとグレーテル、日本編。

 ある村に、貧しい木こりが2人の子どもと暮らしていました。男の子の名は辺是流(へんぜる)、女の子の名は紅麗輝(ぐれいてる)といい、キラキラネームです。
「日本人だったら柔道をやらなくちゃ。お家芸だからな」
「はい、お父さん。頑張ります」
 辺是流も、紅麗輝も、素直に父の教えを守り、毎日練習していました。
 そんな木こりに、村の人が縁談を持ってきます。お母さんは紅麗輝が生まれたときに亡くなったため、木こりは淋しかったのです。家族が増えて、しばらくは平穏に暮らしていましたが、農作物が不作となり食べるものに困るようになると、継母が本性を表しました。
「子どもたちを森に捨ててきましょう。私たちまで飢え死にするわ」
「い、いや、しかし、そんなこと」
「じゃないと、別れるわよ。いいの?」
「……わかったよ」
 父と継母の会話を、偶然にも辺是流は聞いてしまいます。そして、森からの帰り道がわかるように、お風呂の石鹸を小さく刻んで準備しました。
 翌日、父は辺是流と紅麗輝を連れて、森の奥深くまで出かけます。辺是流は、歩きながら石鹸のかけらを落としておいたので、父の姿を見失っても、紅麗輝と一緒に戻ってくることができました。
「あんた、何やってんのよ。2人とも帰ってきちゃったじゃない」
「じゃあ、今度はもっと遠くにするよ。安達ケ原とか」
「今度こそ、しくじるんじゃないわよ」
 また辺是流は聞き耳を立てていましたが、もう石鹸はありません。仕方なく、トイレットペーパーをちぎって、目印にしようと考えました。
 次の日、木こりはまた2人の子どもと一緒に出掛けます。辺是流は、トイレットペーパーを道々落としていきましたが、あいにくその日は雨でした。父の姿が見えなくなったとき、トイレットペーパーを頼りに帰ろうとして気がつきました。
「大変。溶けて残っていない」
 今度こそ、辺是流も紅麗輝も、取り残されてしまいました。さまよい歩くうちに、すっかり辺りが暗くなってきました。そのとき、一軒のあばら家が目に入ります。粗末な小屋でしたが、灯りがともっていて、人が住んでいるようでした。
「紅麗輝、あの家に行ってみよう」
「はい、お兄さん」
 辺是流が扉をノックすると、中から優しそうなおばあさんが出てきました。
「おや、どうしたんだい。こんな時間に子どもが」
「ぼくたち、道に迷ってしまって帰れないんです」
「まあまあ気の毒に。ここは、お貸しの家。旅人たちを泊める場所だから、お寄りなさい」
「ありがとうございます」
 おばあさんは美味しい料理で2人をもてなしました。辺是流も紅麗輝も、お腹いっぱいになり、おばあさんに勧められるがまま、暖かい布団でぐっすりと眠りました。
 夜更けに、紅麗輝は「シャーッ、シャーッ」という音で目をさまします。
「何の音かしら。ねえ、お兄さん、起きて起きて」
 辺是流を起こすと、ちょっと様子が変です。
「ダメだ、体が痺れて動かない……。どうしたんだろう」
 辺是流を置いて、紅麗輝は一人で音のする方向に向かいました。扉のすき間から中をのぞくと、優しいはずのおばあさんが、目を吊り上げ髪を振り乱し、鬼のような形相で包丁を研いでいたのでした。先ほどまでの柔らかな微笑はどこへやら、耳まで届きそうな大きな口をうっすらと開き、ニタニタと笑っているようです。
 半眼となった両目が、こちらを射るように動きました。
「のぞいているのは誰だい?」
「あっ」
 紅麗輝はおばあさんに見つかってしまいました。
「ふふふ、兄さんには痺れ薬を飲ませたのさ。お前さんも、ここで食料になるんだよ。覚悟しな!」
 おばあさんは、恐ろしい山姥だったのです。ギラギラと光る、切れ味の鋭い包丁をかざして襲い掛かってきました。でも、紅麗輝は体を柔道で鍛えています。動体視力もよく、老婆の獲物には向いていません。たちまち山姥の動きを見切り、持っていた包丁を叩き落とすと、勢いよく一本背負いを決めました。
「うぐぐぐぐ」
 骨粗しょう症の山姥は、どこかの骨が折れたようで動けません。すかさず、紅麗輝は山姥をかまどまで運び、中に押し込んで火をつけてしまいました。しばらくは山姥の悲鳴が聞こえていましたが、やがて静かになりました。
「お兄さん、もう大丈夫よ。動ける?」
「うん。ちょっとずつ」
 紅麗輝は、じりじりと家の中を進みました。まだ危険なものがいるかもしれません。でも、人の気配はないようです。奥の部屋に入ると、たくさんの金銀小判が見つかりました。これまでに襲った旅人たちから奪ったものに違いありません。
 辺是流が動けるようになるまで休んでいたら、木こりが2人を探しにやってきました。
「よかった、無事で。あの女とは別れたから、また3人で暮らそう」
 木こりと辺是流、紅麗輝は、山姥の財宝を持ち帰り、幸せに暮らしましたとさ。

 うーん。ロマンは1gもなくなってしまった。
 私が一番苦手なのは、童話を書くことなのではないか……。


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夏だ! カレーだ! 辛口だ!

2020年08月10日 17時34分16秒 | エッセイ
 私の母は、辛いものが苦手だ。
「根性の悪い友達がいてさぁ、その子の家に遊びに行って、お昼だからカレー食べなよって言われたけど、辛くて食べられないの。人に食べさせたくないから、わざと辛くしたんだよ、きっと」
 子どものときは、母のこんな愚痴を真に受けていたが、今となっては想像がつく。バーモントカレー甘口に慣れた母は、中辛のカレーでも火がボーボー。口の中が焼け付くように熱かったから、意地悪されたと思ったのだろう。
 かくいう私も、実家で両親と暮らしていたときは、甘口以外のカレーは無理だった。しかし、味覚は習慣に左右される。結婚して、辛党の夫と暮らすようになると、少しずつ味覚が変わってきた。
「ピリッとくるぐらいが美味しいね」
 こんな発言をするようになるとは、我ながら驚きだ。蕎麦に七味唐辛子をかけ、刺身にはわさびをたっぷりと。ピザにはタバスコというように、辛いものを食べて汗がにじみ出る感覚を好むようになった。ほとんど汗をかかない体質なので、一種のデトックスなのかもしれない。
 カレーも当然辛口だ。中辛では物足りない。しばらくは、ジャワカレーの辛口を買っていたが、今ひとつ満足できないのはなぜだろう。
 もっと辛いルーはないかと検索してみたら、これがヒットした。



 横浜舶来亭 BLACK辛口。
 煮込む前にはニンニクとショウガを加え、ルーと一緒にガラムマサラを入れると、さらに深く、スパイシーなカレーとなる。



 ご飯は、ターメリックライスがおススメだ。ターメリックは「秋ウコン」とも呼ばれ、消化を助けるうえ、アンチエイジング作用もあるのだとか。
「できた~!」


 
 いやあ、これですよ、これ。
 汗をかきかき、アツアツのカレーを頬張る幸せは、夏ならではだ。
「ママ、クーラーついてないじゃないか」
 ……ああ、それで暑かったのか。
 私は決して暑がりではないので、続き部屋の冷気が入ってくるだけで十分なのだけれど、家族にとっては迷惑らしい。くすん。
 まあ、しばらくは、この方法でカレーを作り、楽しみたいと思う。
 さらに辛さを求めるときは、カレー粉を加えてみるとよいのだとか。



 ガラムマサラを入れるタイミングで追加し、よーくまぜまぜ、まぜまぜすれば、オーダーメイドのカレーができ上がる。
 母には、絶対に勧められないのが残念だなぁ。
 さあ、猛暑はカレーで乗り切りましょう!


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投入堂が呼んでいる

2020年08月02日 21時48分38秒 | エッセイ
 夫の見ていたクイズ番組で、初めて投入堂(なげいれどう)の存在を知った。たしか、2018年ではなかったか。
「さあ、この写真の建物は何でしょう!」
 メインキャスターの問いかけに、若手俳優がすばやく反応しボタンを押す。
「はい、××さん」
「投入堂!」
 ピンポンピンポンピンポーン。
「正解で~す!」
 サブキャスターが解説を始めた。
「これは、鳥取県にある三徳山三佛寺の奥の院で、国宝なんですね」
「日本一危険な国宝といわれるように、信じられない場所に建っています」
「役行者が、山のふもとで作ったお堂を、エイヤッと法力で岩窟に投げ入れたという伝説があるんですよ~」
「普通、こんなところに建てられませんよね」


(鳥取県HPより)

 強烈な映像に、画面を見ていた私もたまげた。
「へー、すごいね」
 いつかは行ってみたいけれど、なかなかそんな機会はないだろう。おぼえていたらでいいやと軽く考えていたのだけれど、意外に接点があるのだ、このお堂は。
 テレビを見て2カ月後ぐらいに鳥取に行った。宿泊したのは三朝(みささ)温泉である。ホテルの観光案内をめくっていたら、見覚えのある写真が載っていた。
「あれえ、これって投入堂じゃん」
 あとから知ったことだが、ホテルの目と鼻の先に投入堂があった。行きたい気持ちはあったが、山登りが大嫌いな夫とひ弱な娘が一緒ではとてもとても。あっさり諦め、鳥取砂丘に向かったのだっけ。
 忘れた頃に、昔の職員が職場に挨拶に来た。臨時任用の方だったので、いったん3月で退職されたのだが、8月から別の学校で採用になったという嬉しい報告を聞かせてくれた。
「そうそう、僕、投入堂に行ったんですよ」
「へ? 投入堂?」
 秘仏マニアだという彼に、どうも私は投入堂の話をしたらしい。すごい場所にあるけど行ったことある? 御利益ありそうで登りがいがある場所ね、などなど。言った本人がおぼえていなくても、聞いた彼は気になっていたのか、緊急事態宣言が解除されてから友達と一緒に訪れたという。
「たしかに、険しいコースでしたが、年配の方もいらっしゃいました。よかったら、写真も見てください」
「おおお、すごいすごい」
「やはり、一度はここに行かないと。僕は強く強くおススメします」
「うむむむむ」
 ここまでプッシュされては邪険にできない。でも、コロナ禍だからねぇと渋っていたら、とどめを刺された。わが家に届いた夫あての郵便物に、なんと投入堂の切手が貼ってあったのだ。こんな偶然があっていいのか。
「うむむむむ」
 切手を凝視していたら、夫が切り抜いてくれた。では、大事に取っておこう。



 コロナが終息したら、行ってみましょうか。
 登山もお寺も好きな姉を誘って。


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