これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

消えたメアド

2010年12月30日 21時30分26秒 | エッセイ
 年の瀬の慌ただしい時期に、採用試験を行う会社がある。
「筆記試験は合格されましたので、明日の14時、一次面接にいらして下さい。一次面接を通過されますと、27日が二次面接、28日に結果をお知らせして、29日に役員面接となります」
 人事担当者から連絡を受け、私は戸惑った。年内に内定者を決めたいという気持ちはわかるが、かなりの強行軍だ。連絡漏れのないよう、生徒や担任と丁寧にやり取りし、試験に備えねばならない。
 ところが、頼みの担任・蓮沼先生は、ちょうどその時期に予定があり、出勤できるかわからないという。
 彼は30代半ばを過ぎているが、まだ独身だ。
 さては婚活か?
 担任がいなくても、生徒への連絡はできるから、心おきなく相手を見つけてほしい。私は「大丈夫ですよ」と軽く答えた。
 しかし、全然大丈夫ではなかった。
「結果を知りたいので、お手数ですが、私がいなかったらメールをいただけますか?」
 蓮沼先生の控え目な頼みを聞き、私は言葉に詰まった。

 あれっ、この人のメアド、残っていたっけ!?

 去年、この先生から、連絡網のメールを受け取ったことがある。でも、特に仲良しではないし、今年の連絡網担当でもないから必要ないと思い、アドレスは登録していない。しかも、先月、操作を誤り、受信メールを全削除してしまったため、もらったメールも手元にない。
 私は言葉を選びながら、慎重に答えた。
「ええっと、この前、ちょっとしくじりまして、先生のアドレスは残っていないかもしれません……」
 話の途中で、蓮沼先生が苦笑いを浮かべた。
 とたんに心苦しくなり、「もう一度見てみますね」などと適当なことを言って、逃げるように戻ってきた。
 そういえば、9月に彼のクラスの生徒が悪さをしたとき、お詫びのメールをもらったことがある。そのときの返信が、まだ受信BOXに残っているかもしれない。
 私は微かな期待を抱き、携帯を開いた。だが、そんな古いメールはとうの昔に消えている。やはり、どこを探しても見つからないのだ。
 本人に、「消えちゃったので、空メールを送っていただけますか」と頼むのが、早くて一番確実である。だが、あの苦笑を思い出すと気が引ける。ここはひとつ、他の教員に教えてもらうのが無難だ。
 私は、彼と仲のよい、30代の女性に目をつけた。
「すみません、蓮沼先生のアドレスを知っていたら教えてもらえますか?」
「あっ、私、知らないんですよ。実は」
「えー、意外! 知ってると思ったのに」
「そういえば、さっき蓮沼先生が『笹木さんにメアド消されちゃった』とか言ってましたけど、何かありました?」
「ううっ」
 もう伝わっているとは!
 消したのではなくて、消えたのだが、まあよい。

 次に、連絡網の同じグループにいる40代女性を頼ってみた。事情を話したら、彼女は二つ返事で教えてくれたので、大急ぎで電話帳に登録した。
 上機嫌で部屋に戻る途中、タイムリーなことに、反対側から蓮沼先生が、こちらに向かって歩いて来た。
 私は白々しく、笑顔で話しかけた。
「あっ、先生、アドレスありましたよ~! いつでも連絡できますからね」
「ああ、そうでしたか。……でも、年内は毎日来ることにしたので、必要ないかもしれません」
「……」
 けっこう頑張ったのに、もういらないとは……。
 追い討ちをかけるように、生徒も一次面接で不合格になった。
「徒労」とは、こういうことをいうのだろう。

 読者のみなさま、今年の更新はこれが最後です。
 一年間ありがとうございました!
 よいお年を~!




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おせっかい弁当

2010年12月26日 20時07分40秒 | エッセイ
 娘が所属する吹奏楽部では、月に何度か、外部指導員として、プロの演奏家がやってくる。
 半日練習のときはともかく、一日練習の日は、この先生のために、保護者が輪番でお弁当を作ることになっている。部員は80名いるから、一向に順番が回ってこなかったが、先週、ついに顧問の先生から電話がかかってきた。
「次の日曜日は、笹木さんの番になります。斉藤先生は、好き嫌いがないので、おかずは何でも結構です。特別なものはいりません。ただ、20代の男性ですから、量はお子さんより多めにしてください」
「はい、わかりました」
 快諾して電話を切ったものの、何でもいいと言われると、かえって何にしたらいいか迷うものだ。
 私は娘から情報収集を試みた。
「ねえねえ、斉藤先生って、どんな人?」
「超イケメン! 演奏も上手いし、カッコいいし、話も面白いよ」
「へー」
「すごくモテるみたいだけど、もう結婚してるんだよ。でも、子供はいない」
「ほー」
「楽団の演奏と、中学生の指導で忙しくて、まだいらないんだって」
「ふーん」

 察するに、仕事にのめり込み、家庭を犠牲にするタイプのようだ。家にいる時間はほとんどなく、奥さんに淋しい思いをさせているのかもしれない。
 私は勝手に、子供を欲しがる妻と、耳を貸さない夫の図式を思い描いた。

 よしっ、奥さんのために、私が一肌脱ごう!

 方向性が決まると、メニューも決まる。
 まずは、里芋の煮物である。里芋には亜鉛が多く含まれており、精子の数を増やすといわれているそうだ。精子が増えれば生殖能力も高まる。煮物は得意なので、これは上手くできた。
 同じく、亜鉛が豊富に含まれている山芋も、すりおろしてハンバーグに入れる。山芋は、性ホルモンの活性化を促すそうで、男性におススメの食品らしい。
 だが、山芋の存在感が予想以上に大きくて、ハンバーグというより、肉入りお好み焼きのようになってしまった。奇妙な味だけど、決して不味くはない。「まあいいや」と妥協し、お弁当箱に詰める。
 さらに、滋養強壮の代名詞、ウナギを玉子焼きの芯にして、ウナ巻き玉子を作る。ウナギは私の大好物だ。残ったものは、私のお昼ご飯となり、一石二鳥である。
 あとは、ワカメの酢の物、キャベツのおひたし、イチゴを詰めて出来上がりだ。



 名づけて、「おせっかい弁当」といったところだろうか。
 これに、大きめのおにぎり2個を加え、バンダナに包み、娘に持たせた。

 夕方、娘が持ち帰ったお弁当箱は、きちんと洗ってピカピカになっていた。
 これでは、完食したのかどうかわからない。
 怪しげなおかずの数々を、しっかり食べてもらえたのだろうか。

 捨てられていたりして……。




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冬の温泉

2010年12月23日 20時04分33秒 | エッセイ
 バーデと天然温泉が売りの「豊島園 庭の湯」に行った。
 このところ、公私ともに多忙で疲れている。同じく部活疲れの娘を誘い、引きこもりの夫をエサで釣り、家族で出かけることにした。

 館内は、大きく、水着着用のバーデゾーンと、水着のいらない露天・お風呂ゾーンに分かれている。
 私はバーデゾーンが好きだ。ドイツの伝統的バーデを基本にした、このバーデプールは、体温と同じくらいの温度なので、長く入っていてものぼせない。しかも、男女一緒に楽しめるので、カップルや家族がゆったり過ごしている。
 プールには、アクアマッサージの設備が充実しており、足、腰、背中、肩などに強い水流を当てて、体の疲れをほぐすことができる。「気持ちいいね~」と中学生の娘も喜んでいた。小学生以下は入場できないから、「大人の湯処」というフレーズ通り、落ち着いた雰囲気がある。

 屋外のジャグジーに行くため、扉を開けると、そこは思いっきり冬だった。夜だったこともあり、薄暗くて心細い。
「さ、さぶい!」
 一刻も早く寒さから逃れたくて、私たちは小走りにジャグジーまで進んだ。直径2mほどの円形のジャグジーには、温かそうな湯気が漂っている。
「お父さんが入ったら、お湯があふれちゃうね」
 デブの夫を見て、娘が小憎らしいセリフを口にした。しかし、夫は強気だ。
「いや、だいぶ痩せたんだ」
「えっ、ホント!?」
 そういえば、太鼓腹が小さくなった気がする。牛体型の夫は、今にも「モ~」と鳴き出しそうな雰囲気だったのに、最近では自分の足元が見えるそうだ。
「毎日サプリ飲んでいるから、脂肪が燃えたみたいだよ」
「ああ、あの、ニノってヤツ?」
「……ニノじゃなくて、ノニ」



 間違えた……。

 先日、最終回を迎えた話題のTVドラマ『フリーター、家を買う』の影響を、知らず知らずのうちに受けていたらしい。といっても、私は一度も見ていないのだが。

 屋外にはジャグジーが2つあり、そろそろ軟水ジャグジーに移動しようということになった。
 移動距離はほんの少しなのに、湯から出るとまた寒い。「ひー」と震えながら、軟水ジャグジーを目指すと、途中にビーチリクライニングチェアが数個並んでいた。
 私も娘も、同時に指を指し、「誰が使うんだよ!!」と大笑いした。
 師走の冷たい北風にさらされ、我慢大会でもするのだろうか。
「次はサウナに入ろう」と言われ、私は顔をゆがめる。何を隠そう、私はサウナが大の苦手なのだ。
 夫と娘は、「サウナ、サウナ」とスキップして、入口に吸い込まれていく。数秒遅れて、私もイヤイヤ扉を開け、タオルを敷いて階段状のベンチに腰掛けた。

 暑い……。

 入ったとたん、熱い空気が喉から肺に侵入し、息苦しくなる。ひるんだところに、重苦しい熱気が手足に絡みつき、背中からのしかかってくる。じわじわと、締め付けられるような圧迫感だ。冬だというのに、肌には汗が浮いてきた。
 何が悲しくて、こんなに暑い思いをしなければならないのか。サウナが好きという人は多いが、私にはまったく理解できない。
 結局、5分もたたないうちに、私は一人でサウナを出た。
 こんなところにいるくらいだったら、冷たいリクライニングチェアに寝そべり、やせ我慢をしていたほうがマシだ。

 プールのあとは、お風呂に入り、食事を楽しんだ。
 髪を乾かして帰ろうと、鏡をのぞいて仰天する。マスカラが落ちて、目の下に黒い汚れを作っているではないか。

 サウナに入ったせいかしら……。
 ますます、サウナが嫌いになりそうだ。




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服のあだ名

2010年12月19日 18時04分52秒 | エッセイ
 昨日は、エッセイ教室の忘年会だった。
 一緒に入会している姉が、たまたま正面に座ったので、自然と装いに目が行く。姉は、普段、お堅いスーツばかりなのに、オフのその日はラフなニットを着ていた。
 若草色のそのニットは、ファスナーつきで、前開きのスタイルだ。身頃や袖のゆとりといい、ファスナーを上げるとスタンドカラーになる形といい、カーディガンではないものを連想させる。
 私はつい、率直な意見を口にした。
「それ、ジャージみたいね」
「えっ、ジャージ!? 違うわよ!」
 姉は、少々気を悪くして否定する。しかし、見れば見るほど、ジャージのような気がしてきた。
 姉の隣に座った仲間は、黒い羽に似た飾りのついたカットソーをまとっている。ふわふわしていて、柔らかそうだ。
「それ、すごくオシャレですね。ちょっと触ってもいいですか?」
「いいわよ~! もらいものなんだけど、カラスみたいって言われるの」
「カラス!!」
 私も姉も噴出した。なかなかうまいことを言う。
「ああ、のどが渇いた。今日は整体に行く日だったから、余裕で間に合う時間にしたのに、人身事故で電車が止まっちゃって、散々な目にあったわ! 早くビールが飲みたい」
 メニューを見ながら、姉が何やらつぶやいている。
 ようやく私は納得した。
「ああ、整体に行ったのね。それでジャージなのか」
 間髪入れずに返事がある。
「だから、ジャージじゃないってば!」

 姉が学生の頃、気に入って買った服にもあだ名があった。
「どう? いいでしょ、これ」と自信たっぷりに見せられたコットンシャツは、白地に淡いブルー、イエローの、太めのストライプが入っていた。パステル調のやさしい色づかいだが、どこかで見たようなおぼえがある。



 いきなり、母が核心を突いた。
「なんか、パジャマみたいね~!」
「パジャマ!!」
 私も姉も大笑いだったが、姉だけは「パジャマじゃないわよ、失礼ね」と口を尖らせた。
 この場合、太めの縦縞が災いしたようだ。
 しかし、細ければよいというものでもない。
 同じ職場の30代男性が、紺と赤の細いストライプが入った、白いシャツを着てきたことがあった。



 ひと目見て、シャツのニックネームが浮かんできた。

 金銭出納帳……。



 彼のシャツは、市販の帳簿に印刷されている罫線に、そっくりだったのだ。
 そういえば、しばらくかのシャツを目にしていないが、同僚に漏らしたひと言がめぐりめぐって、本人の耳にまで届いてしまったのかもしれない。
 決して悪気はないのだが、ビッタリの例えがひらめくと、黙っていられない性分なので、大目に見てもらいたい。

 生徒も、私に負けず劣らず正直である。
 緑色のミニのワンピースを着ていけば「ピーターパン」、茶色の床まで届きそうなツーピースには「スカーレット・オハラ」などと名づけてくれる。中身が、かけ離れているところが申し訳ない。
 蛇足だが、今日、スーパーまで買い物に出かけたら、高級外車B○Wを3台見かけた。
 あの車には、いつもギョッとさせられる。

 豚みたい……。

 正面から見たデザインが、豚の鼻を思わせるのだ。
 ユーザーには申し訳ないが、買えない者のひがみだと、寛容に受け流していただきたい。




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名案の明暗

2010年12月16日 17時39分57秒 | エッセイ
 生徒が就職試験を申し込んだ会社から、電話がかかってきた。
「明日の午前9時から、筆記試験と面接を行います。これからFAXをお送りしますので、生徒さんにお渡しください」
「はい、かしこまりました」
 そう答えたものの、心の中では「明日とはまた急な~!」と焦っていた。受話器を置いて時計を見ると、もうすぐ3時半になるところだ。授業はとっくに終わっており、廊下では下校する生徒のおしゃべりが響いている。
 ひょっとしたら、その生徒も帰ったあとかもしれないが、ひとっ走りして教室を見に行く。各クラスのドアは、上半分がガラス張りになっていて、中の様子がわかるのだ。
 幸い、そのクラスは、帰りのホームルームの真っ最中で、生徒全員が残っていた。
「ああ、よかった~」と安堵したのもつかの間、担任の話が長くて、まだまだ終わりそうもない。

 さて、こういうとき、取るべき道は2つある。
 ひとつは、ノックをして教室に乱入し、担任の話を遮って、自分の言いたいことだけを伝える「押しかけ作戦」だ。ホームルームの妨げになることは間違いないが、待ち時間はないし、確実に伝達することができる。だが、非常時でもないのに、この程度の連絡で、教室まで乗り込むのは忍びない。
 もうひとつは、ホームルームが終わるまで、ひたすら廊下で待つという「待ち伏せ作戦」である。遠慮深い教員は、冷蔵庫のような廊下で凍えながら、10分も20分もじっと待っている。しかし、自分の都合で短気になる私には、決して向いていない。1~2分なら待てるが、それ以上は我慢できない。
 そのとき、名案が浮かんだ。
 紙に「○○先生、連絡があるので、△△を残してください」と大きく書き、外側から教壇に近いガラスに貼り付けておいてはどうか。そうすれば、教室から出るとき、いやでも目に入るだろう。これなら、闖入者にならずにすむし、寒さからも逃れられる。
 早速、メモを書き、ドアまで貼りに行った。教室では、相変わらず、担任の話に生徒が耳を傾けている。私は「あったまイイ~♪」と満足して、部屋に戻った。

「先生、連絡って何ですか?」
 10分後、その生徒がやってきたので、「上手くいった!」と私は自分に酔いしれた。
「ずいぶん長いホームルームだったね」と話しかけると、生徒は渋い顔で答えた。
「○○先生が、怒っちゃって、怖かったんですよ」
 どうやら、素行の悪い生徒がおイタをしたようだ。担任は、「そんなことでいいと思っているのか!?」とカンカンに怒って説教をしたという。
 すると、ガラスの外から、絶妙のタイミングでニューッと顔を出した先生がいた。教室をジロジロ見たあと、おもむろに大きな紙を取り出し、セロテープで貼り付けている。「なんだなんだ」と気になったが、担任の雷が落ちるのではと不安になり、生徒は皆、横目でチラ見する程度にとどめた。
 一応、目的は達成できたけれども、「そんな風に見られていたのか」と私は赤面した。
 気を取り直し、担任にも試験の連絡をしに行く。
 職員室に寄り、「先ほど、メモでもお知らせしましたが……」とおもむろに切り出した。しかし、その担任は、キョトンとしたままで反応が鈍い。
 それもそのはず、悲しい返事が返ってきた。
「あ、俺、頭に血が上っちゃって、よく見なかったんスよね。メモがあったんですか? 全然気がつきませんでした」
「…………」
 名案だと思ったんだけどな。
 単に、運がよかっただけのようだ。
 一瞬にして、酔いから目が覚めた。




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生姜コーヒー

2010年12月12日 20時58分16秒 | エッセイ
 最近、生姜にはまっている。
 生姜には、体を温めて炎症を抑えるはたらきや、消化促進、食欲増進、殺菌作用、消臭効果、美肌効果があるそうだ。
 先週、別ブログにて、生姜湯を飲んで冷え性を治すという記事を書いた。(こちらをご参照ください)しかし、家庭薬膳の本を読むと、そんな甘っちょろいことではダメらしく、もっと厳しいことが書かれていた。
「体質改善のためには、毎日75グラム程度の生姜を食べるようにします」
 はてさて、75グラムの生姜とは、どのくらいの量なのだろう。
 量ってみると、かなり大きいことがわかった。何しろ、Mサイズの鶏卵をやや上回るデカさだ。



「こんなに食えるかよッ」と、口汚くののしりたくなった。
 冷えが原因で起きる、婦人科系疾患の治療を目的とする場合、この倍量の150グラムが必要なのだそうだ。鶏卵Lサイズ2個分の生姜を、連日、どうやって食べろというのか。いささか疑問である。
 だが、基準量に達しなくても、食べないよりはマシなはずだ。ゼロはいくら積み重ねてもゼロだけど、1や2ならば、やがては10となり100となる。
 イクラ1粒分では効果がなさそうだが、うずら卵1個分でも、あまおう1個分でも、摂らないよりはいいだろう。

 料理に生姜を使うと、家族からブーイングが起きそうなので、飲み物に生姜の絞り汁を入れることにする。
 紅茶と生姜は大変相性がいい。ルイボス茶などもいいようだ。もちろん、シンプルに湯でも十分なのだが、生姜の辛さを緩和するために、蜂蜜や黒砂糖などを加えるのが普通である。
 しかし、生姜コーヒーという言葉は、ついぞ聞いたことがない。
 コーヒーは本来、体を冷やす働きをするから組み合わせないのだろうが、どんな味になるのか興味がわいてきた。予想としては、相当不味いのではないだろうか。
 中学生のとき、家庭科の調理実習に失敗した男子グループが、「犬も食わないこの不味さ」と表現したことがあった。大事に飼われている犬はもちろんのこと、お腹をすかせている野良犬でも、そっぽを向くほどひどい味だったらしい。
 生姜コーヒーも、それに近いものと思われる。
 好奇心には勝てず、私はコーヒーをカップにいれ、生姜汁を小さじ1杯ほど混ぜて、生姜コーヒーを作ってみた。



 コーヒーの香ばしさと生姜の匂いが衝突し、相殺されたようで、どちらの香りもしない。
 見た目はコーヒーそのものだが、何だか不思議な感じがする。
 カップに口をつけると、舌先にピリッという刺激があった。コーヒーの苦みと、生姜の辛さの相乗効果だろう。眠気が一気に覚めるような、ピリピリ感である。思ったほど不味くはないが、ドクターペッパーをホットにしたような、奇妙な味がする。

 そうだ、はちみつを入れてみよう。

 生姜ドリンクの定番である糖分を加えたら、美味しく変化するような予感がした。
 しかし。
 甘味をプラスすることで、生姜とコーヒーの微妙なバランスが崩れてしまったようだ。それまで、ピリピリしながらも飲める味だったコーヒーが、「ぶへぇっ」と噴き出しそうな味に変化した。
 まるで、未熟な平均台の選手が、フラフラしながらようやく均衡をとっているところに、突然バスケットボールが飛んできて、選手を台から叩き落としてしまった感じだ。

 入れなきゃよかった……。

 ちょっと失敗したが、なるべくたくさんの生姜汁を摂ることで、私の体質も改善されると期待できる。
 今度は、生姜煎茶、生姜味噌汁などを試してみようかしら。
「やめとけ」という声が聞こえるような……。




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寝相の悩み

2010年12月09日 20時09分44秒 | エッセイ
 以前から、私は寝相が悪いのだが、最近さらに悪化している。
 目覚めると、ヘソから上には布団がかかっていない。夜中に蹴っているのか、布団が下へ下へとズレてしまうのだ。あるいは、足が悪さをしていなくても、両手が布団の上にしゃしゃり出て、勝手に凍えていることもある。
 昼間の疲れもあるのだろう、私は多少の寒さでは起きない。おそらく、何時間も布団なしで寝ていると思われる。アラームで目を覚ましたとき、ようやく、痛いくらいに冷え切った上半身に気づくという有様だ。もっとデリケートならよかったのに。
 そんな朝は、すこぶる体調が悪い。何とか行儀よく布団の中で眠る方法はないかと、頭を働かせてみた。
 まず、思いついたのが寝袋だ。たしか、義母が持っていると聞いたおぼえがある。夫なら知っているかもしれない。
「ねえ、パパ。おばあちゃんちに寝袋あったっけ?」
 借りてみて効果があれば、自分用に買ってみたい。
「ああ、あったかもしれないな。オヤジがボケたとき、テレビを投げ飛ばして暴れたことがあったんだよ。そのとき、弟たちが、寝袋に押し込んで、紐でグルグル巻きにして寝かせたって言ってたからな」

 …………。
 
 元体育教師の義父は、認知症になって以来、人が変わったように乱暴になり、しばしば物を壊すことがあった。なまじ体力があるだけに、義母だけでは手に負えず、これまた体育教師の息子2人が駆けつけて取り押さえたという。たしかに、寝袋に入れられては、手も足も出まい。

 でも、そんな寝袋はイヤだなぁ。

 いっそのこと、スキーウェアを着て寝ようかと思ったが、ひとまず押入れを物色し、何か役に立ちそうなものはないかと探してみる。
 ゴソゴソゴソ……。
 すると、毛布やタオルケットに挟まれていた「おやすみポンチョ」を見つけた。これは、娘が幼い頃、布団から飛び出しても風邪をひかぬよう、着させたものだ。



「これは使える!!」と直感した。
 早速、袖を通してみる。子供用といえども、小柄な私には、足首が隠れる長さとなる。十分着られるではないか。
 だが、家族の視線は冷たい。
「お父さん、家の中に、おかしな人がいるよ」
「本当だ。オバさんのくせに、子供のポンチョなんか着ちゃって」
「へーんなの」
「へーんなの」
 夫と娘からは不審者扱いをされたが、そんなことでメゲる私ではない。雑音を無視し、その夜からパジャマの上にポンチョを羽織って寝ることにした。
 ポイントは、穴から腕を出さないことだ。両手は胴体とともに、ポンチョの中に入れておく。こうすれば、布団から手がはみ出して、冷える心配がない。また、足も動きを妨げられ、おとなしくなる。
 私は、久しぶりに暖かい布団の中で、ぬくぬくと熟睡した。

 朝が来た。
 ピピッ、ピピッという、耳障りな電子音で目が覚める。やかましいアラームを止めるため、手を伸ばそうとしたが、なぜか思い通りにならない。モタモタしていたら、電子音は調子に乗ったように、「ピピピピッ、ピピピピッ」とまくし立ててくる。私はようやく思い出した。

 ああっ、ポンチョを着ていたんだっけ~!!

 身動き取れませんがな……。




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カニ苦リームコロッケ

2010年12月05日 20時35分57秒 | エッセイ
 私は、ことのほか、カニクリームコロッケが好きだ。
 コーンやエビではなく、カニに強い愛情をおぼえる。
 ただし、自分で作ったことはない。料理は苦手だから、最初から「無理そう」と諦めていた。
 ところが、先日、20代女性のマイミクさんが、お手製のカニクリームコロッケをアップしていたので、大いに刺激を受けた。

 なんて美味しそうなの!? 私にも作れそう!!

 早速、ネットでレシピを検索すると、電子レンジでホワイトソースを作る方法がある。簡単で私向きだと判断し、サイトを印刷した。
 ボウルにバターと小麦粉を入れたらレンジでチン、牛乳を入れて混ぜたらチン、もう一度混ぜてチン、というあっぱれなお手軽さである。あとは、玉ねぎとカニ缶を炒め、ホワイトソースに加えてからバットに移し、冷蔵庫で冷やせばよい。
 しかし、バットの中のホワイトソースがゆるい。シチューよりもやや固めという程度の仕上がりが気になった。
 だが、おやつのプリンを早く食べたかったので、「冷めれば、きっと固まるんだろう」と楽観的に考えた。



 プリンのあとは、他のおかずを作ろう。そのあと冷蔵庫で固めたホワイトソースを成形し、衣をつけて揚げれば出来上がりだ。

 2時間後、バットを取り出してみたが、期待していた変化はない。


 
 相変わらずの液体が冷たくなっただけだ。液体では、衣をつけて揚げるという作業が出来ない。ようやく私は「こりゃヤバい」と焦りはじめた。
 窮地に陥ると、いいアイデアがひらめくこともある。

 そうだ、凍らせてみたらどうかしら。

 時間はすでに午後6時半を回っている。カチカチになるまで凍らせることはできないが、衣を付けて揚げられる程度まで、冷凍庫に入れておくことにした。
 30分も経てば、かなり固まってくる。ためしに、1個、取り出して、小麦粉をまぶした。
 小麦粉はどうにかつけられたが、常温の溶き卵で崩れてしまう。「ひえええ」とパン粉の山に突っ込み、サラダ油にぶち込んだ。
 結果は見事な失敗である。



 ソースが全部流れ出てしまい、コロッケどころか、かき揚げの出来上がりだ……。
 私は天を仰いだ。
 結局、散々家族を待たせた挙句、これが夕食のメインディッシュである。



 千切りキャベツとプチトマトだけではどうしようもない。
 買い置きの塩鮭を焼き、皿の空間にすべり込ませた。

 キーッ、悔しい!!

 翌日、残ったホワイトソースにマカロニとタラバガニを加え、カニグラタンに変身させた。マッシュルームがあれば、なおよかったかもしれない。



 グレードアップするため、オマール海老のスープも添える。



 カニクリームコロッケは大失敗だったが、カニグラタンは美味しくできたので、少しは気が晴れた。
 タラバガニが、まだ半分ほど余っている。
 今回の敗因は、加熱が足りなかったため、ソースが固まらなかったからだろう。じっくり熱して水気を飛ばせば、上手くできるような気がする。
 カニクリームコロッケへの愛情、というより、もはや執着だ。

 今度は絶対成功させまーす!!




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貧乏性

2010年12月02日 20時18分40秒 | エッセイ
 先月、那須の両親にお歳暮を注文した。
 配達は12月に入ってからとなる。

 私の母は、ものをもらっても、すぐに使ったためしがない。
 戦後の、物資の乏しい時代に育ったせいだろうか、いわゆる「貧乏性」だ。
 母がまだ40代だったとき、娘3人でおこづかいを出し合い、誕生日に真っ白なブラウスをプレゼントしたことがある。襟にレースがあしらわれていて、結構なお値段だった。Mサイズは着られないだろうから、Lサイズを選ぶことも心得ていた。
「お母さん、きっと喜ぶよね」
 センスのよい姉が、自信たっぷりに相づちを求めてくる。光沢のある生地でできたそのブラウスは、垢抜けた輝きを放ち、たいそう上品そうに見えた。
「絶対、喜ぶよ」
 私もそう断言した。

「あら~、こんなにきれいなブラウスもらっちゃって悪いね。高かっただろうに」
 予想通り、母は少女のようにはしゃぎ、期待以上のプレゼントに嬉しさを表した。娘3人も、母の反応に満足したのだが、それから先が問題だった。
 まもなく、父の会社の夕食会があったので、いよいよブラウスの出番かと胸が膨らんだ。だが、母は野暮ったい別の服を着ている。友達とのお出かけにも、授業参観にも、全然袖を通さない。ブラウスは真っ白なまま、札をぶら下げて、タンスの中で眠っているばかりだ。
 私は業を煮やし、母に問いただした。
「お母さん、私たちがあげたブラウス、どうして着てくれないの? 本当は、気に入らなかったの?」
 母は、私の剣幕に気圧されたようで、うつむきながら、つっかえつっかえ返事をした。
「ちがう……ちがうよ。もったいなくて、着られないんだよ……」
 あぜんとした。
 汚れたり破れたりすることを恐れ、母はお気に入りのものほど、大事に大事にしまっておく傾向がある。その後、勇気を出して何回かは着たようだが、おそらく、あのブラウスは今でもタンスの中にしまわれ、箱入り娘のような扱いを受けているのだろう。
 まったく、贈り甲斐のない人だ。
 デブになったら着られなくなるのに……。
 
 高級な食べ物の場合も、母は大事にしまっておき、カビを生やしたり腐らせたりする。
 何度も同じ失敗を繰り返す。
 お歳暮に、生鮮食品はやめようと決めた。
 無難にカセットコーヒーの詰め合わせにしたら、今日、「お歳暮が届いたよ、ありがとう」というメールが来た。私はすかさず釘を刺す。
「もったいないと言わずに、ちゃんと飲んでよ」
 黙っていれば、大事に取っておくばかりで、賞味期限が切れてしまうかもしれない。
 少ししてから、母が返信をよこした。
「早速お父さんと飲みました。とても美味しかったよ」
 やれやれ。
 しかし、安心するのはまだ早い。
 お年始に那須へ行ったら、減り具合を確認してみなくては。
 まったく、世話の焼けることだ。




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