これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

有田焼と嬉野温泉

2016年03月31日 22時02分13秒 | エッセイ
 呼子から有田まで、車で1時間半ほどかかる。
 有田といえば有田焼。目的地に近づくにつれ、陶磁器の販売店や絵付け体験などの店が増えてきた。
 目指すは柿右衛門。



 お高いことはもちろん知っている。でも、ひいきである以上、これを見ずして帰れるはずもない。
「トイレに行きたい」
 娘の要望通り、まずは建物右のトイレに入った。木目の美しい内装で、鏡には花が彫られており実に雅やか。一流ホテルでも、こんなに華のあるトイレはそうそうない。
 建物に入ると、皿、コーヒーカップ、花瓶、箸置きなどなど、柿右衛門の作品が並んでいた。どれもこれも白地に赤が映え、見ていて飽きない。都内でも柿右衛門は手に入るが、偽物も多いと聞く。ここなら間違いないだろう。
「うーん、やっぱり高いな」
 値札を見る前から、通りすがりに買えるレベルのものではないとわかってはいた。何百万もする壺などは鑑賞するだけで満足だが、数万円の一輪挿しなら買えないこともない。有田駅付近には陶磁器の販売店が並んでいるから、もっと安くて気に入るものがあるかもしれない。ひとまずここはスルーした。
 ところが、有田駅に着くと、目当ての陶磁器店が軒並み休業しているではないか。日曜なのに、観光客が少ないせいかもしれない。情報誌には水曜定休と書いてあっても、入口は閉ざされたまま。18時閉店なのに、15時でも店内は真っ暗。どうなっているのだろう。
 そんな中でも、香蘭社は元気に開店していた。素敵なテーブルウエアのセットがあったのだが、置くスペースがない。誰かへの贈り物にすれば、間違いなく喜んでもらえそうだ。
 何の収穫もなく、嬉野温泉の宿に向かう。今回は露天風呂付きの部屋が取れたから楽しみだ。



 チェックイン後、ロビーでコーヒーを飲んだ。
「あっ、香蘭社のカップだ」



 有田が近いせいか、ちょっと前に目にした磁器が登場した。
 飲み終わると、カップの中の柄も見える。素敵なカップで飲むと、コーヒーがますます美味しく感じられてよい。



 よく見ると、周りはオシャレな焼物ばかりだった。
 栓抜き。



 灰皿。使わないけど。



 急須と湯呑。



 カップ&ソーサー。



 部屋の外にもこんなものが。



 味もさることながら、夕食の食器も見ごたえ十分だった。



 佐賀牛~♪



 嬉野温泉は美肌の湯として名高い。
 大浴場、部屋の内湯、露天風呂にたっぷり浸かると、本当にツルツルのお肌になるのがありがたい。しかし、娘は翌日友達とカラオケでオール、肌荒れして帰ってきた。
「ひ~、ガサガサ……。一日しかもたなかった」
 私はまだツルツルだし~。
 たぶん、有田焼に囲まれた喜びで、相乗効果を発揮したのだろう。
 次回は吉野ケ里歴史公園をお届けしま~す!


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がばいぞ! 七ツ釜

2016年03月29日 23時36分19秒 | エッセイ
 吉野ケ里遺跡が見たくて、佐賀に行くことにした。
 でも、佐賀の見どころを調べていたら、一番の目当てが変わってきた。
「うっ、なんだこりゃ。見たい~!」
 国の天然記念物に指定されている「七ツ釜」のサイトで、目が釘付けになる。


(佐賀県観光情報ポータルサイトより)

 呼子(よぶこ)という場所から遊覧船に乗れば、この景色を堪能できると知り、空港から、いの一番で七ツ釜に向かう。
 遊覧船の名は「イカ丸」。……ちょっと、安易?
 出発時刻ギリギリに乗ったので、船内はかなり混みあっていたが、船尾の席が空いていた。窓がない分、水しぶきがかかるけれど、見晴らしはよい。
「出発しま~す」
 まずは呼子大橋。



 空が青いとよかったのだが。
 イカ丸は飛ばす飛ばす。船体を、左右にガタガタ揺らして、それらしい場所に近づいてきた。



「七ツ釜が見えてきました」
 アナウンスを聞き首を伸ばすが、大きいから全体が見えない。



 左端から視界に入ってきた。
 船は速度を落とし、ゆっくりと七ツ釜に近づいていく。



 穴はかなり大きい。中は暗くて、海の怪物セイレーンが潜んでいそうな妖しさがにじみ出る。



 船首は大胆にも、この穴に入り込む。見上げると、玄界灘に削り取られた岩の模様が間近に迫ってきた。



 まるで、蜂の巣のようではないか。大きな岩を砕く荒波の前では、人間は無力だ。自然の偉大さが伝わってきて、圧倒された。



「……すごい」
「へえ~」
 感嘆の声があちこちから聞こえてきた。このポイントは船尾でよかったかもしれない。屋根がない分、ダイレクトに岩が見られ、七ツ釜が巨大な生き物のように感じられた。
 バックして船首を戻し、イカ丸が移動を始めた。



 別の穴の前では、模様が微妙に異なり、削られ方が違うとわかる。



「それでは、乗り場に戻ります」
 船はターンしエンジン音を上げ、七ツ釜を背にして走り始めた。



「あああ、行っちゃう……」



 さよなら、七ツ釜。会えてよかったです。
 船を下りたら昼食だ。呼子の名物はイカの活造り。



 今まで食べたイカとは、まったく別の食べ物だと思ったほうがいいかもしれない。適度な歯ごたえがあり、ほんのり甘くて新鮮で、実に美味しかった。



 昼食後は有田を経由して、嬉野温泉にGO~!


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幸せは 忘れた頃に やってくる

2016年03月24日 21時57分23秒 | エッセイ
 10年ぶりに、六本木のフレンチ「トレフミヤモト」に行った。
 ここの名物メニューには、フォアグラとトリュフの一口コロッケと



 幸せを呼ぶてんとう虫のデザインに仕上げたトマトのサラダがある。



 聞くところによると、ヨーロッパでは、てんとう虫が幸福のシンボルとなっているようで、体にとまるとラッキーなのだそうだ。
 お腹の中に納まると、もっとハッピーになりそうな気がした。
 ところが、フタを開けてみたら、予想外の苦難が待ち受けていた。
 まず、ラストチャンスとなった大学入試を終えた男子に、テストの出来を聞いてみた。(関連記事「キツネさんに願いを」はこちらから)
「いやぁ、ヤバいっす。できませんでした……」
「そう……」
 結果は卒業式の翌日である。もし不合格だったら、浪人するかもしれないし、専門学校や就職に切り替えるかもしれない。いずれにしても、できる限りの支援をしなくては。
 ああ、気が重い……。
 卒業式の前日にも、大きな問題が起きた。
「笹木先生、大変です。今、近所のコンビニから電話があって、3年生の男子が万引きしたそうです」
「ええっ!?」
 今度は別の男子が、会計する前の商品をバッグに入れたところを、店員に見つかったらしい。本人は万引きしたことを認め、その場で御用となった。幸い、店側が「警察沙汰にはしないから、学校の方できちんと指導してください」と配慮してくれたので、前科にならずにすみそうだ。
 私も他の教員も、しばらく言葉を失っていたが、ポツリポツリと会話ができるようになってきた。
「この時期に、何てことを」
「当然、卒業延期ですね」
「呼名簿から外さないと」
「てことは、式次第も印刷し直しですか」
「そういうことです」
「ああああ……」
 本人はほんの出来心でやってしまったようだが、教員にとっては本当にショックだった。上質紙を持って印刷室に向かう先生はよろけていたし、私はその場に倒れ込んでふて寝したい気分になった。何と愚かなことをしたのだろう。
 他の生徒が巣立つ一方で、彼だけは何日間も登校して、課題や清掃活動、反省文などに取り組んでいた。身から出たさびとはいえ、一日も早く卒業できるよう指導しなくてはならない。
 やがて、大学入試の結果が出て、受験生の男子からメールが来た。
「3つの科のうち、2つは不合格でしたが、1つだけ補欠になりました。今連絡待ちです」
 補欠?
 つまり、すべり止めで受けた者は入学手続きをしないから、まだチャンスはあるということだ。
「よかったじゃない! また連絡が来たら教えてね」
 すぐさま返信をして、もどかしい思いでその日を待つ。当の本人は、私以上にじれったいはずだ。一週間後に、お待ちかねの連絡があった。
「さっき、大学から電話がかかってきて、繰り上げ合格で入学できますって言われました」
「やった~! おめでとう!!」
 あきらめムードが漂う中での大逆転。キツネさんに願掛けをしたおかげだろうか。
 自分が合格したわけではないのに、うれしくてじっとしていられない。そのへんにいる先生をつかまえては、「ちょっと聞いてください」と話して回った。
 つづいて万引き少年も、十分に反省したと認められて、卒業ができることになった。
「場所は小さい方の会議室で、一応、紅白幕を用意しようかと思っています」
「ええ、それで十分ですよ」
「卒業証書を当日の朝に用意してください」
 式典担当者も二度手間だ。たった一人のための卒業式でも、嫌な顔ひとつせず、黙々と会場づくりに励む。
 当日、青白い顔で、その男子は母親と登校してきた。
「じゃあ、こちらです」
 担任に案内されて扉を開けると、待ち構えていた十数人の教員が一斉に立ち上がり、大きな拍手と満面の笑みで迎えた。
 男子は「昨日までは、どの先生も怖い顔をしていたのに何で?」といわんばかりに驚き、戸惑いながらも照れ笑いを浮かべている。校歌斉唱では、大きな声で歌う教員に負けじとばかりに、その子も声を張り上げて歌った。
「卒業証書授与 〇〇〇〇」
「はいっ」
 校長が証書を読み上げ、向きを変えて本人に渡すと、赤みの差した顔を上げて受け取った。
 着席して校長の式辞を聞く。校長も、この子のために二度目の式辞をひねり出したようだ。どんな大人になってほしいかを、とうとうと伝えていた。
 途中で、涙もろい50代男性の先生がしゃくり上げる。一人だけ卒業できなかったことを気の毒がっていた教員だ。メガネの下にハンカチをしのばせ、真っ赤になった目に当てていた。
 短い式が終わると、男子生徒が教員側に体を向けて礼を言った。
「まさか、こんなに温かい式をしていただけるとは思っていませんでした。今日のことは、大人になっても忘れません。今回、自分がやったことは悪かったし、友達と一緒に卒業したかったけれど、得られたものもありました。本当にどうもありがとうございました」
 男子も目に両手を当てて、深々と頭を下げた。ひときわ大きな拍手が、うねりを上げて天井を抜けていく。
 ひさびさに、心がジワッと熱くなった。
 これって、てんとう虫のおかげかな?


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ビールとぼた餅

2016年03月20日 20時55分25秒 | エッセイ
 義母が二週間前から入院している。
「尻もちついた拍子に、恥骨を骨折したらしいよ」
 夫や義弟たちが、入院に関わる作業はすべてやってくれた。病院ではすこぶる元気で、よく食べ寝ているそうだ。ただし、退院後は車椅子となるらしく、自宅のバリアフリー化を進めている。
 ふと、娘が尋ねてきた。
「おじいちゃんの仏壇に、お供えあげていないんじゃない? もうじきお彼岸なのに大丈夫?」
「あっ、そうだね」
 言われるまで、すっかり忘れていた。義父が亡くなって今年で20年を迎える。その間、義母が一人で仏壇のお供えをしていたのだ。入院中くらい、私たちがやらなければ。
「おじいちゃんって、何が好きだったの?」
「たしか、甘いもの……」
 義父は明治生まれの実直な人で、定年後は畑仕事に精を出し、スーパーに並ぶレベルの大根やほうれん草などを作っていた。海が好きだったのだが、普段はもっぱらプール。見事な泳ぎを披露し、周りの老人から「魚のようだ」と持ち上げられていたらしい。質素な生活を好み、贅沢はしなかった。
「そっか。さっき、北海道のおみやげに買ってきた、じゃがポックルをお供えしてきたんだけど、いらないかな?」
「いいんじゃない」
 仏様は、お供えされたものしか口にできないと聞いたことがある。じゃがポックルなら、「初めて食うが、結構イケるな」などと言ってもらえそうだ。
「そうだ、ぼた餅を作ろう」
 最近、娘は料理にハマっている。昼食にスパニッシュオムレツや、玉子スープ、煮豚などを作ったとき、どれも美味くできたものだから、趣味の一つになったようだ。
「もち米買ってくる」
 ちょうど、今日は春分の日である。炊いたもち米をつぶして俵型に成形し、デパートで調達したこしあんで包めば、ぼた餅のでき上がりだ。



 餅を餡で包むには、サランラップを使うため、そのまま包装すればいい。
「おじいちゃんはね、毎晩135mlの小さなビールを飲んでいたよ」
「ふーん。でも、ぼた餅だったらお茶じゃない?」
「お茶には、カフェインが入っているから眠れなくなると言って、お湯にしてた」
「じゃあ、いらないか」
 そんなこんなで、義父セットができあがった。



 孫娘の力作だ。きっと義父も喜んでくれるだろう。
 まずは私が試食する。温かい餅と、甘味を抑えた餡がうまく絡み合い、上出来だった。
「くうぅ~、美味しい!!」
 おじいちゃん。
 まずはビールからがいいと思います。ぼた餅はあとにしてください。
「なんじゃ、この組み合わせは!」と驚いちゃうかしら。


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おいしい花束

2016年03月17日 21時00分32秒 | エッセイ
 先日、担任していた生徒たちが、めでたく卒業した。
「先生、子どもがお世話になりました。ありがとうございました」
 卒業式では、PTAのお母さんが花束をくれる。
 式が終わり、教室に戻ると、生徒たちも大きな花束を用意していた。
「せんせーい! 悪いこといっぱいしちゃったけど、うちらのこと好きでしょ?」
「これね、みんなで買ったの」
「今までありがとうございました!」
 毎日のようにバトルしていたことを考えると、これは非常に意外である。だから、どんな贈り物よりうれしかった。
「うわあ、ありがとう! みんな、大好きだよ!」
「イエ~イ!」
「写真撮ろう、写真」
 記念撮影したあとも、友人との別れを惜しんで、夕方まで残る生徒がいる。放っておくと、学校でオールしそうなので、ほどよい時間で下校させた。
 やれやれ。これで、私たちも帰ることができる。
 帰宅したら、まずは花束を花瓶に活けなくては。



 ところが、男性は花を持ち帰らないことが多い。おそらく、この作業が面倒なのだろう。結局、花がしおれて変色し、枯れるまで放置されていた。でも、贈り主の気持ちを考えると、邪険にできない。
 卒業式が終わった翌週は、イタリアンレストランで担任団の打ち上げをした。



 料理もワインも口あたりがよく、サービスも満点。いい店を選んだ。
「最後に結婚することを打ち明けたら、生徒がみんな『おめでとう』って言ってくれました」
「いいわねぇ。廊下を通ったら、教壇の上で泣きながら話しているところが見えたわよ」
「うちは、最後に一人ひと言でメッセージの時間を作ったんです。しんみりしてよかったなぁ」
「そうなんですか? うちなんて……」
 話は尽きない。
 担任団は6人いるが、そのうち4人が4月から職場を異動する。私も異動するはずだったのに、どの学校も「アイツはいらん」と拒否したようで、不本意ながら残留だった。
 お別れする4人に、最初は花を送ろうとした。
「まてよ……。冬は花の値段が高いのに、また邪険に扱われたらイヤだよね。別の物にしようかしら」
 浮かんできたのが、チョコレートの花である。



 しかし、催事場で買ったため、常設店舗がわからない。
 ネットで検索したら、もっと手ごろな「キャンディ・ブーケ」という商品がヒットした。造花と飴やチョコレートなどの菓子を組み合わせ、ブーケに仕立てているらしい。



 色もデザインも、うっとりするほど鮮やかで、ひと目で気に入った。



 打ち上げの前に、この店に寄ったら、1000円台の手ごろな花束が買えた。これは、チョコレートが12粒入っているそうだ。



 デザートが終わったところで、おもむろに花束を取り出す。
「はいっ、異動先でも頑張ってくださーい」
 思った通り、喜んでもらえた。スマホを取り出し、店員さんに頼んで記念写真も撮った。これなら、生花を置き去りにした男性陣も、大事にしてくれるだろう。
 そして翌日。
 元気に出勤すると、枯れた花束が撤去された棚の上に、なぜか私がプレゼントしたキャンディ・ブーケがあるではないか。
「なにぃ?」
 その男性は、いったん自宅に持ち帰った花束を、また職場に持ってきたようだ。よく見ると、チョコレートを取り出して食べた形跡がある。一応、おやつとして機能しているとわかり、ホッとした。
「花より団子」とは言うけれど、「花も団子も」のほうがありがたい。


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華麗な「オートクチュール」展

2016年03月13日 22時07分42秒 | エッセイ
 私は服が好きだ。
 中でも、ベルサイユのバラに出てくるような、キンキラ、フリフリのドレスには目がない。
 だから、三菱一号館美術館で開催中の「オートクチュール 世界に一つだけの服」は、見逃したくなかった。


 クリスチャン・ラクロワ「イヴニング・アンサンブル」
 
 オートクチュールとは、「顧客の注文に合わせてデザイナー主導で仕立てる高級服」のことである。プレタポルテ(高級既製服)全盛の時代を迎えても、シャネルやディオールはオートクチュールの伝統を守り続けているというから、見上げたものだ。
 素敵な服は数えきれないほどあったが、チラシに載っている作品で、気に入ったものを紹介したい。
 シルバーコーティングのチェーンで作られた、セクシーなミニドレス。



 ブリジット・バルドーが着用したと知り、鼻血が出そうになった。これは、マドンナに寄付して、ライブに使ってもらったほうが世のためになるような気がする。
 打って変わって、フェミニンで可愛らしいディオールのニュールック。



 これは「パルミール」というイヴニング・ドレスで、1940年代に戦争で疲弊した人々の心をつかんだそうだ。
 思わず笑ってしまったのが、「的」というタイトルのピエール・カルダンのドレス。



 アイデアとしては悪くないけれど、別にオートクチュールにしなくても……。
 この展示でも、第3章は撮影可能な作品が並んでいた。
 一番素敵だったのが、ジャン=ポール・ゴルチエのイヴニング・ドレス「青い鳥」である。



 これをまとったら、空に羽ばたいて、どこにでも行かれるような雰囲気の、夢のある衣装だ。
 ちなみに、後ろもエレガント。



 ロベール・ピゲのイヴニング・ドレス「女帝」も着てみたい逸品である。



 マリア・テレジアではなく、若かりし頃のエカテリーナ1世をイメージしたのではないだろうか。
 他にも、プレメのイヴニング・ドレスや



 ルシル・パレのイヴニング・アンサンブルなどに見とれてしまった。



 このドレスに、この手袋を合わせていたら恐ろしい……。



 黒が多かった中で目立っていたのは、スキャパレリのイヴニング・ケープである。



 太陽王と呼ばれた、ルイ14世を思い出した。
 出口に着いても、まだ夢心地で、しばらくは華麗な衣装に酔いしれていた。
 さて、服が好きだと言うと、どれだけのお金を使うの? と聞かれることが多い。
 実は、通販やらお下がりやらで服を調達するため、ほとんどお金を使わない。たとえば、今日は母から譲り受けたベストを着ていた。洗濯槽に塩素系のクリーナーを注いでいたら、「ボチャン」と服に跳ね返り、色が抜けて水玉模様ができてしまった。



 でも、慌てない慌てない。
 黒のマッキーで水玉を塗りつぶせば、あっという間に元通り。地味だなぁと、自分でも思う。
 ディオールやシャネルだって、普段はスウェットパンツで過ごしているかもと考えたら、ちょっとおかしくなった。


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トゥールダルジャンと女優たち

2016年03月10日 22時58分24秒 | エッセイ
 以前から気になっていた、ホテルニューオータニのトゥールダルジャンに行った。
「わあ、キレイ! たまにはいいよね、こういうお店」
 友人の幸枝は大喜びだ。店の入口から受付までは長い距離があり、青い回廊が続いている。客席の椅子はフカフカで座り心地がよく、天井からは大きなシャンデリアが藤の花のように垂れ下がっていた。
 トゥールダルジャンという店名は、銀の塔という意味らしい。シャンデリアを映す大きな鏡や、テーブル上の豪華なシルバーに、洗練された雰囲気を感じた。
 しかし、グラスの飲み物が少ない。シャンパンや赤ワイン、白ワインがどれも2種類しかないのはなぜだろう。料理に合うものに限定しているのだろうか。ボトルのメニューは見ていない。
「かんぱーい」
 幸枝とグラスを合わせて、シャンパンの気泡を味わう。スッキリしていて飲みやすい。
「エクルヴィスのジュレ仕立て オゼイユソース フヌイユ飾りでございます」



 女優のような美しさ。ふと、稲森いずみが浮かんできた。フォークですくって口に入れると、予想を遥かに超える味わいが広がった。特に、ベージュのペースト状のものが美味だ。こってりしている割にしつこくないし、まろやかで舌触りが抜群である。
「ううーん、これはすごい……」
 美味しいものは、ゆっくり食べることができない。「急ぐな、急ぐな」と自分に言い聞かせても、手が勝手にフォークを動かしてしまう。あっという間に平らげてしまった。
「サンドルと薫香のシャンピニオンソース フィレンツェ風アリュメット添えでございます」



 お料理の名前が長すぎて、まったくおぼえられないのが玉にきずだが、これは中性的な印象を受ける。いくつになってもカッコいい天海祐希を思い浮かべた。
「お魚が香ばしい~」
 幸枝も絶賛していた。皮はパリパリ、身はプリプリだし、つけ合わせもソースも完璧。この店のお料理はハイレベルである。
 ただ、残念ながらサービスは期待通りではなかった。グラスが空いても「次は何にしましょうか」と聞かないし、パンがなくなってもおかわりをもってきてくれない。黒服を着たウェイターは、呼ばれるまで壁で立ったままだ。お腹がすいていたので、手を上げて追加のパンをもらった。



「サツマイモみたい」
「くくくっ」
 見た目はイモでも、このバケットは皮の硬さも中の軟らかさも程よくて、バターの風味が生きている。日頃、糖質をとりすぎないよう注意をしている私でも2個、制限なしの幸枝は3個食べた。今まで食べたバケットの中でも、ピカイチである。
 そして、最後はメイン。
「幼鴨のロースト マルコポーロでございます」
 私は鴨が大好きだ。胡椒を追加でかけますかと尋ねられ、「はいっ」と勢いよく答えた。胸肉といっても軟らかく、味が濃い。
「あっ、写真を撮り忘れた!」
 いかんいかん、がっつき過ぎたか。隣を見ると、幸枝はこれから食べるところだった。チャンスとばかりに横から写真を撮る。



 青で縁どられた皿に、気品の漂う熟女が足を崩して座っているかのようだ。松坂慶子あたりが妥当ではないかと感じる。
 余分な脂身がなく、かといってパサパサしているわけでもなく、ほどよく締まった鴨である。黒胡椒のピリッと感に引き立てられ、これぞメインディッシュという存在感を漂わせる。これも、のんびり食べることができなかった。我ながら困った習性だ。
「クレメダンジュ フランボワーズのイチゴのマルムラードでございます」
 


 これまた「なんのこっちゃ」という名前のデザートであるが、丸く絞られたクリームが可愛らしく、色合いも素晴らしい。さしずめ、桐谷美鈴といったところか。
 甘味、酸味のコンビネーションや、軟らかさ、硬さのバランスがとれており、ラストを飾る逸品であった。
 コクのあるコーヒー。こちらは呼ばなくてもおかわりを注いでくれたから、結局3杯も飲んだ。



 甘さを控えた焼菓子も、コーヒーを引き立てている。



「いやあ、美味しかったわぁ」
「ね~!」
 今回は、お手軽なランチにしたのだが、もっと上のコースをいただきたくなった。
 また来なくてはと、宿題を与えられた気分になる。
 次は、どんな女優に会えるか楽しみ♪


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没後100年 宮川香山展

2016年03月06日 21時13分54秒 | エッセイ
 国立新美術館に行くため、六本木で下りることはある。
 だが、この日はサントリー美術館目当てで六本木に行った。何が何でも、「没後100年 宮川香山」展を見たかったからだ。



 初めて見た、この陶芸家の作品は「高取釉高浮彫蟹花瓶」であった。


           (ポストカードより)

「な、なに、この蟹は! 色も艶も質感も、本物そっくりじゃない」
 しかも、それが、花瓶とセットになっている。コップのフチ子さんは、これをヒントにしたのだろうか、などと軽口を叩くのも恐れ多いほど、緻密な技巧に舌を巻く。この蟹を茹でて、ポン酢をかけたら美味かろうに。
「すごい、すご過ぎる。他にはどんな作品があるのかしら……」
 そういうわけで、サントリー美術館に駆け付けたのだが、予想以上の収穫であった。背の高い作品が多いため、見おろされているような気分になる。細部まで美しい装飾を施された陶器の前では、「あ、どうも……」などとへりくだってしまい、「今まで見てきた花瓶は何だったんだ」という衝撃を受けた。
 展覧会の顔になっている「高浮彫牡丹ニ眠猫覚醒蓋付水指」については、「骨格、耳内の血管だけでなく歯や舌もあらわされ」と解説されていたが、見れば見るほど人間ばなれした出来映えにゾクッとする。こちらもポストカードも買った。



 うれしいことに、3階では写真撮影ができるので、カメラを忘れず入場することをお勧めする。
 高浮彫蛙武者合戦花瓶。



 高浮彫四窓遊蛙獅子鈕蓋付壺。





 高浮彫桜二群鳩三連壺。





 高浮彫桜二群鳩大花瓶。







 何と素晴らしいのだろう。
 夢中で写真を撮っていると、隣にいた年配のご夫婦の会話が聞こえてきた。
「あら、写真撮れるのね、ここは」
「うん。どんどん宣伝してくれってことだろ」
 はいっ!
 あっちでもこっちでも宣伝しま~す!!


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2016 ひな祭り

2016年03月03日 21時51分29秒 | エッセイ
 今日はひな祭り。
 日曜日にひと足早く、親族を招いて恒例のひな祭りパーティーをした。毎年「寿司」のマンネリメニューが続いているから、今年は人形町今半の「すき焼き」を頼んでみた。
 


「わあい、すき焼き、すき焼き~♪」
 固形燃料つきの食器は場所をとるが、アツアツの鍋を囲むと話も弾み、来客には大好評だった。
「アタシのは火力が弱いみたい。なかなか沸騰しないよ」
「へー。こっちは火をつけたのが最後なのに、ボコボコいってる」
「燃料の密度が違うのかな」
「それ、もう食べていいんじゃない? 肉の赤みが残っているくらいが食べ時って書いてあるよ」
「よしっ」
「こっちも大丈夫みたい」
「う、うめ~」
 といった具合だ。この鍋にはリブロースが80g入っており、食べごたえは十分。やわらかい肉が割り下の甘味と絡み合い、実に美味である。子どもたちも残さず平らげた。



 11人分の鍋が一斉に点火すると、部屋の温度が25度を超え、初夏のような気候となる。
「暑い~」
「窓開けて」
「あっ、半袖になってる人がいる」
 その後も、茶わん蒸しや揚げたてのコロッケ、鶏のクリーム煮などを出していたから、暖房いらずの宴会となった。この時期にしては珍しい。
 今回は、料理部門で夫も参加している。肉だけでなく、野菜も食べなくてはいけない。そこで、夫の得意なコールスローを作ってもらったのだ。
「これは、うちのが作ったのよ。美味しかったら褒めてやって」
「へー」
 夫が席を外したときを見計らい、こっそり親族に知らせておく。しばらくすると、夫が戻ってきた。
「コールスロー美味しいですぅ~」
「コンビーフが入っているのね。いい味!」
「トマトの味が濃くて、キャベツに合ってる」
 両親も姉も妹も、みんなノリがいいのだ。夫は得意満面の笑みを浮かべて、料理について語り始めた。
「ああ、それは大学時代に通ったカレー屋に教わったんですよ。コンビーフは……」
 しかし、肝心の写真を撮り忘れてしまった。
 すき焼きの右上に、たまたま、コールスローの一部が背後霊のような姿で写り込んでいたので、雰囲気だけは伝わるかもしれない。



 すっかり気をよくした夫を横目で眺め、5月の誕生会にも作ってもらおうとたくらんだ。
 今日は、わが家だけでひな祭りを祝う。
「今年もちらし寿司を作ろうか?」
「えっ、うれし~!」



 食べてビックリ、去年よりもパワーアップしている。寿司ネタは新鮮だし、かんぴょうやシイタケもしっかり味がしみ込んでおり、とても美味しかった。
 ここで一句。
 ひなまつり 夫をあやつり 腹ふくれ
 駄句だな……。


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (10)
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