同僚の幸枝と高尾山に行った。
「えっと、ケーブルカーの切符売り場はどこ~?」
彼女は当たり前のようにケーブルカーに乗る気でいたが、私は視界良好のリフトにしたかった。
「リフトにしない?」
「へ? リフト? 別にいいけど」
いやあ、これですよ、これ。

小さな子供や高齢者には勧めないが、普通に動ける人なら断然こっちでしょ。
寝ぼけた頭も、山の空気に触れてシャキッと目覚める。山上駅につくと、ハスカップソフトが待っていた。

少々酸味があって爽やかである。暑い時期に食べたら、もっとありがたく感じたかもしれない。
先に進むと、情報誌に載っていた「たこ杉」があった。何とユニークな形をしているのやら。

分岐を右に曲がり4号路へ。ハイキングコースはいくつもあるが、このルートにはつり橋があり、幸枝のリクエストだ。

しばらく登っていくと、山頂にたどりつく。

「わあ、キレイ~!」
「晴れてよかった」
雨女2人の割には天気がよく、幾重にも重なった稜線がくっきり見える。

遠くに浮かぶのは、大好きな富士山。しばし見とれてしまった。

「ねえ、ビール飲みたい」
「いいねぇ」
時計は10時半を回ったところだ。まだ食事には早い。売店でポテチと柿の種を買い、つまみにした。

「それじゃ、そろそろ行きますか」
一杯飲んだあとは下山する。帰りはおみやげを買うため、高尾山薬王院のある1号路を選んだ。

高校受験を控えた甥のため、合格祈願の「置くとパス」に向かう。木製のタコを持ち上げ、静かに置くと願いが叶うのだとか。めでたく志望校にパスしたら、何かご褒美をもらわなくては。

「お姉さんたち、さっき天狗が飛んでたけど、見たかい?」
何の前置きもなく、老紳士2人組が突拍子もない話を振ってくる。
それもそのはず、こんな標識が立っているのだから。

ところで、この薬王院には、恋愛運と金運アップのご利益があるそうだ。
幸枝は迷わず恋愛運を選んでいたが、私は金運しか眼中になかった。

八大龍王堂には浄財用のザルがあり、すかさず1万円札を洗う。これを大事にとっておくと、どんどん増えていくらしい。ああ、楽しみだ!
金運アップのお守りも購入し、お金がやってくるのを待つ。

薬王院を出て、さらに下っていくと、桑ジェラートなる看板が目に入った。希少価値のあるものには弱い。

しかし、売店のお兄さんから渡されたのは、おそろしく不格好なソフトクリーム。味は悪くなかったけれど、もっと練習してもらいたい。

「まだ入るから、次はごま団子ね」

これもなかなか。団子の割には軽くて食べやすかった。調子に乗って、天狗焼きにまで手を出す。

1個140円。焼き立てで、皮はパリパリ、餡はホカホカ。その日食べたうちでは、一番美味しかった。
帰りはリフトに乗らず、高尾山口駅を目指して歩く。10分もすると、すねやお尻に負荷がかかり、下りのほうがきつかった。
「あっ、蕎麦屋さんが何軒もある!」
高尾山の名物はとろろそばである。あれだけ食べても、何やら物足りなくて、天ぷらつきの蕎麦にした。

「うまーい」
この瞬間に「幸せだなぁ」としみじみ感じた。
山頂での素晴らしい景色、美味しい食べ物、荘厳なお寺、心地よい疲労感、かすかな酔い……。家と職場の往復だけでは得られない、非日常の世界は何と充実しているのだろう。
次の日からはまた仕事が待っているが、この幸福感さえあれば、しばらくは頑張れそうだ。来てよかった。
「じゃあ、また明日」
「気をつけて」
幸枝とは帰るルートが違う。早々に別れて帰路に就いた。
翌日。出勤してレターケースをのぞくと、手紙が入っていた。
「笹木砂希様。勤続25年の特典として、旅行券が支給されます」
えっ、もうご利益あったの?!

↑
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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
「えっと、ケーブルカーの切符売り場はどこ~?」
彼女は当たり前のようにケーブルカーに乗る気でいたが、私は視界良好のリフトにしたかった。
「リフトにしない?」
「へ? リフト? 別にいいけど」
いやあ、これですよ、これ。

小さな子供や高齢者には勧めないが、普通に動ける人なら断然こっちでしょ。
寝ぼけた頭も、山の空気に触れてシャキッと目覚める。山上駅につくと、ハスカップソフトが待っていた。

少々酸味があって爽やかである。暑い時期に食べたら、もっとありがたく感じたかもしれない。
先に進むと、情報誌に載っていた「たこ杉」があった。何とユニークな形をしているのやら。

分岐を右に曲がり4号路へ。ハイキングコースはいくつもあるが、このルートにはつり橋があり、幸枝のリクエストだ。

しばらく登っていくと、山頂にたどりつく。

「わあ、キレイ~!」
「晴れてよかった」
雨女2人の割には天気がよく、幾重にも重なった稜線がくっきり見える。

遠くに浮かぶのは、大好きな富士山。しばし見とれてしまった。

「ねえ、ビール飲みたい」
「いいねぇ」
時計は10時半を回ったところだ。まだ食事には早い。売店でポテチと柿の種を買い、つまみにした。

「それじゃ、そろそろ行きますか」
一杯飲んだあとは下山する。帰りはおみやげを買うため、高尾山薬王院のある1号路を選んだ。

高校受験を控えた甥のため、合格祈願の「置くとパス」に向かう。木製のタコを持ち上げ、静かに置くと願いが叶うのだとか。めでたく志望校にパスしたら、何かご褒美をもらわなくては。

「お姉さんたち、さっき天狗が飛んでたけど、見たかい?」
何の前置きもなく、老紳士2人組が突拍子もない話を振ってくる。
それもそのはず、こんな標識が立っているのだから。

ところで、この薬王院には、恋愛運と金運アップのご利益があるそうだ。
幸枝は迷わず恋愛運を選んでいたが、私は金運しか眼中になかった。

八大龍王堂には浄財用のザルがあり、すかさず1万円札を洗う。これを大事にとっておくと、どんどん増えていくらしい。ああ、楽しみだ!
金運アップのお守りも購入し、お金がやってくるのを待つ。

薬王院を出て、さらに下っていくと、桑ジェラートなる看板が目に入った。希少価値のあるものには弱い。

しかし、売店のお兄さんから渡されたのは、おそろしく不格好なソフトクリーム。味は悪くなかったけれど、もっと練習してもらいたい。

「まだ入るから、次はごま団子ね」

これもなかなか。団子の割には軽くて食べやすかった。調子に乗って、天狗焼きにまで手を出す。

1個140円。焼き立てで、皮はパリパリ、餡はホカホカ。その日食べたうちでは、一番美味しかった。
帰りはリフトに乗らず、高尾山口駅を目指して歩く。10分もすると、すねやお尻に負荷がかかり、下りのほうがきつかった。
「あっ、蕎麦屋さんが何軒もある!」
高尾山の名物はとろろそばである。あれだけ食べても、何やら物足りなくて、天ぷらつきの蕎麦にした。

「うまーい」
この瞬間に「幸せだなぁ」としみじみ感じた。
山頂での素晴らしい景色、美味しい食べ物、荘厳なお寺、心地よい疲労感、かすかな酔い……。家と職場の往復だけでは得られない、非日常の世界は何と充実しているのだろう。
次の日からはまた仕事が待っているが、この幸福感さえあれば、しばらくは頑張れそうだ。来てよかった。
「じゃあ、また明日」
「気をつけて」
幸枝とは帰るルートが違う。早々に別れて帰路に就いた。
翌日。出勤してレターケースをのぞくと、手紙が入っていた。
「笹木砂希様。勤続25年の特典として、旅行券が支給されます」
えっ、もうご利益あったの?!

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「うつろひ~笹木砂希~」(日記)