夏休み中は授業がないため、出勤時刻を30分遅らせている。
3日ほど前にホームで電車を待っていたら、右側から「ドンドン」という鈍い音が聞こえてきた。何と、40代ぐらいの男性がホームの屋根を支える柱を強い力で蹴っている音だった。こんな人がいるのかと顔をしかめていたら、翌日はいなかった。ストレス解消のためにやっているのだろうか。
職場に行けば、生徒間トラブルの仲裁案に納得しない保護者から苦情電話がかかってくるし、家に帰れば、夫が大量に買い置きしたティッシュやトイレットペーパーを見つけてしまいゲンナリするしで、日常生活のイライラを避けては通れない。
「何か美しいものを見に行こうかなぁ」
年に一度しかない、仕事にゆとりのある8月だ。コロナ前だったら即美術館に向かっていたが、事前予約が必要なところが増えた今は「本当に見たいもの」を展示している場所にしか行かない。正直いって、絵画だったら姉の絵以外は見たいと思わないし、文化・教養系の展覧会も厳選するようになった。
「やっぱり服飾系よね。ドレスとか」
すかさず文化学園服飾博物館をチェックしてみる。
「ビーズ展?」
私が仕事を休める日と開館日が一致していたこともあり、すぐにアクセスを調べた。都庁前や新宿から徒歩で行かれるらしい。これは狙い目だ。
「これもビーズ? 何をもってビーズと言うのかしら」
チラシの画像に疑問を感じ、ネットで検索してみたら、まずはロックユニットの「B’z」がトップに出てきて「あはは」と笑う。いい曲はいっぱいあるが、『ARIGATO』が私にとっての一番かな。
「大好きだけど、これじゃな~い!」
やっと目当てのサイトを見つけ、「主にアクセサリーに使用する、穴の開いた小さな玉状のもののこと」であるとわかった。もっとも、展示品には玉状ではなく、細長いビーズもあったので、糸が通せればみんなビーズなのであろう。
博物館は甲州街道沿いにあり、とてもわかりやすい。
2階に上がり、ビーズの歴史から学習した。アクセサリーだけでなく、富や権力の象徴、社会的地位、アイデンティティー、精神世界とのつながり、防具等としての役目も果たしていたとのくだりに「へえ~」と驚く。たしかにトルコ石や翡翠をふんだんに使った装飾品を見たら、裕福なことがよくわかる。
展示品は撮影禁止なので、チラシの裏面からご紹介したい。
鳥がたくさんついているナイジェリアの王冠はユニークだった。
すべて小さなビーズをつなぎ合わせてできており、従者に作らせた権力を感じる。
ポーランドの女性用衣装は華やかだ。
どれが刺繡でどれがビーズなのかの区別はさておき、ハレの日の一着として注目を集めたに違いない。おそらく、親が可愛い娘のために、金に糸目をつけず調達したのではないだろうか。
1階にも素敵なドレスがたくさんあった。「特別出品 田川啓二 オート・クチュールのビーズ刺繍」と書かれた一角に、目を奪われる。
すご~い、着てみたいっ! 身長足りないけど。
数々の力作を堪能し、入館料は大人500円なのだから破格の価格である。
11月4日まで開催しているようなので、ぜひ目の保養にどうぞ。
すぐに影響されるタチなので、ブログ開設から6000日を迎える記念として、何か作ってみたくなった。きっと、垢ぬけなくて野暮ったい作品になるけれど、あと29日あるから何か考えよう。ブレスレットなら簡単かも。分不相応なトルコ石などが使えるはずもなく、オールプラスチックであること間違いなしだ。
アクセサリーで思い出した。私はビーズの指輪を持っている。
これは3校目の勤務先で、生徒からもらったものだ。難病にかかっていた女の子だったが、自分で体調をコントロールしながら生徒会や部活動にも取り組む明るい生徒だった。日光に当たってはいけないため、体育の時間はいつも日陰で見学していた。担任だったわけではないけれど、ある日「趣味で作っているので、よかったら使ってください」と、作品のおすそ分けをいただいたというわけだ。
無事に卒業してから2年後、彼女は体調を崩し、そのまま亡くなってしまった。葬儀にはたくさんの卒業生が集まり、彼女がいかに多くの人から愛されていて、その死を悔やまれているかを知った。
この指輪は、色もデザインもキレイに整っている。美しく完成させようと、彼女がせっせと仕上げたであろう工程に思いを馳せた。生きたくても生きられなかった子の前で、元気な者が弱音を吐いている場合ではない。
「イヤなこともあるけど、楽しいことだってあるじゃん。前向いていこっ」
このビーズの指輪は、「励まし」の役目を果たしてくれたようだ。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
3日ほど前にホームで電車を待っていたら、右側から「ドンドン」という鈍い音が聞こえてきた。何と、40代ぐらいの男性がホームの屋根を支える柱を強い力で蹴っている音だった。こんな人がいるのかと顔をしかめていたら、翌日はいなかった。ストレス解消のためにやっているのだろうか。
職場に行けば、生徒間トラブルの仲裁案に納得しない保護者から苦情電話がかかってくるし、家に帰れば、夫が大量に買い置きしたティッシュやトイレットペーパーを見つけてしまいゲンナリするしで、日常生活のイライラを避けては通れない。
「何か美しいものを見に行こうかなぁ」
年に一度しかない、仕事にゆとりのある8月だ。コロナ前だったら即美術館に向かっていたが、事前予約が必要なところが増えた今は「本当に見たいもの」を展示している場所にしか行かない。正直いって、絵画だったら姉の絵以外は見たいと思わないし、文化・教養系の展覧会も厳選するようになった。
「やっぱり服飾系よね。ドレスとか」
すかさず文化学園服飾博物館をチェックしてみる。
「ビーズ展?」
私が仕事を休める日と開館日が一致していたこともあり、すぐにアクセスを調べた。都庁前や新宿から徒歩で行かれるらしい。これは狙い目だ。
「これもビーズ? 何をもってビーズと言うのかしら」
チラシの画像に疑問を感じ、ネットで検索してみたら、まずはロックユニットの「B’z」がトップに出てきて「あはは」と笑う。いい曲はいっぱいあるが、『ARIGATO』が私にとっての一番かな。
「大好きだけど、これじゃな~い!」
やっと目当てのサイトを見つけ、「主にアクセサリーに使用する、穴の開いた小さな玉状のもののこと」であるとわかった。もっとも、展示品には玉状ではなく、細長いビーズもあったので、糸が通せればみんなビーズなのであろう。
博物館は甲州街道沿いにあり、とてもわかりやすい。
2階に上がり、ビーズの歴史から学習した。アクセサリーだけでなく、富や権力の象徴、社会的地位、アイデンティティー、精神世界とのつながり、防具等としての役目も果たしていたとのくだりに「へえ~」と驚く。たしかにトルコ石や翡翠をふんだんに使った装飾品を見たら、裕福なことがよくわかる。
展示品は撮影禁止なので、チラシの裏面からご紹介したい。
鳥がたくさんついているナイジェリアの王冠はユニークだった。
すべて小さなビーズをつなぎ合わせてできており、従者に作らせた権力を感じる。
ポーランドの女性用衣装は華やかだ。
どれが刺繡でどれがビーズなのかの区別はさておき、ハレの日の一着として注目を集めたに違いない。おそらく、親が可愛い娘のために、金に糸目をつけず調達したのではないだろうか。
1階にも素敵なドレスがたくさんあった。「特別出品 田川啓二 オート・クチュールのビーズ刺繍」と書かれた一角に、目を奪われる。
すご~い、着てみたいっ! 身長足りないけど。
数々の力作を堪能し、入館料は大人500円なのだから破格の価格である。
11月4日まで開催しているようなので、ぜひ目の保養にどうぞ。
すぐに影響されるタチなので、ブログ開設から6000日を迎える記念として、何か作ってみたくなった。きっと、垢ぬけなくて野暮ったい作品になるけれど、あと29日あるから何か考えよう。ブレスレットなら簡単かも。分不相応なトルコ石などが使えるはずもなく、オールプラスチックであること間違いなしだ。
アクセサリーで思い出した。私はビーズの指輪を持っている。
これは3校目の勤務先で、生徒からもらったものだ。難病にかかっていた女の子だったが、自分で体調をコントロールしながら生徒会や部活動にも取り組む明るい生徒だった。日光に当たってはいけないため、体育の時間はいつも日陰で見学していた。担任だったわけではないけれど、ある日「趣味で作っているので、よかったら使ってください」と、作品のおすそ分けをいただいたというわけだ。
無事に卒業してから2年後、彼女は体調を崩し、そのまま亡くなってしまった。葬儀にはたくさんの卒業生が集まり、彼女がいかに多くの人から愛されていて、その死を悔やまれているかを知った。
この指輪は、色もデザインもキレイに整っている。美しく完成させようと、彼女がせっせと仕上げたであろう工程に思いを馳せた。生きたくても生きられなかった子の前で、元気な者が弱音を吐いている場合ではない。
「イヤなこともあるけど、楽しいことだってあるじゃん。前向いていこっ」
このビーズの指輪は、「励まし」の役目を果たしてくれたようだ。
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「うつろひ~笹木砂希~」(日記)