お気に入りのスカートがあった。
白のデニム地に、両サイドを細いリボンで編み上げたデザインだった。
白いボトムは、どんな服にも合わせやすく重宝したのだが、シミがついてしまったため、思い切って捨てることにした。
このスカートには、こんな思い出がある。
その日は、たまたま家を出る時間が早くて、いつもより一本早い電車に乗れそうだった。
そういうときは気分がいい。始業ギリギリにすべり込む毎日と違って、授業の前にアールグレイを飲む余裕がありそうだ。そんなことを考えていたら、電車がホームに入ってきた。
私が使っている駅は乗降客が多い。電車のドアが開いた瞬間、ゲートが開いて競馬が始まるように、ドドドドッと人が吐き出されてきた。これから乗ろうという人は、降りる人をよけながら、ホームの端でじっと待つ。
もう降りる人がいないようなので、電車に乗ろうと足を動かしたときだ。誰かが私を後ろから強く引っ張り、引き留めるではないか。
なになに??
驚いて振り返ると、そこには焦った顔の女子高生がいた。
何と、私のスカートのリボンに、女子高生のバッグのファスナーが引っかかってしまったのだ。
「すみません、すみません!!」
彼女は必死でバッグを引くが、リボンは金具にガッチリと挟まっているようで、まったく取れない。
「あまり引っ張らないほうがいいよ。どれどれ」
私は彼女の手からファスナーを引き取った。リボンとファスナーは、別れ別れになった恋人同士が再会したかのように、ひしと抱きあい、ちょっとやそっとでは離れない。
わずか一瞬、すれ違っただけなのに、こんなことがあるのだな……。
感心している場合ではなかった。そうこうしているうちに、乗客はあらかた車内に吸い込まれ、発車を知らせるチャイムが鳴った。
「1番線から、通勤準急池袋行きが発車します」
無情な放送が耳に入る。
やばい、電車が行っちゃうよ~!
私もあわてたが、身動きがとれないのだからどうしようもない。やがて、ドアが静かに閉まり、準急電車は振り向きもせずに去っていった。
私と女子高生だけが、ポツンとホームに取り残された。こうなれば、本格的にリボンとファスナーを引き離さなければならない。私は、ホームにバッグを置いて、両手でチャレンジし始めた。
「あっ、取れたっ!」
ようやく、ファスナーからリボンを奪い返すことができた。これでやっと電車に乗れる。私は安堵して、大きなため息をついた。
「本当にすみませんでした」
女子高生は、ずっと頭を下げてばかりで、気の毒なくらい萎縮していた。でも、別に彼女が悪いわけではない。
「気にしなくていいのよ。事故だから」
そう言うと、彼女はホッとしたように再度おじぎをし、小走りに改札へ向かった。
いい子だなぁ。
後姿を見送ったあとで私が乗ったのは、結局いつものギリギリ電車だ。
もちろん、アールグレイは飲めなかった……。
毎度ご愛読いただき、ありがとうございます!
今回で150回目の更新となりました。次回は200回を目標に頑張りたいと思います。
今後とも、応援のほど、よろしくお願いいたします!!
楽しんでいただけましたか? クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
白のデニム地に、両サイドを細いリボンで編み上げたデザインだった。
白いボトムは、どんな服にも合わせやすく重宝したのだが、シミがついてしまったため、思い切って捨てることにした。
このスカートには、こんな思い出がある。
その日は、たまたま家を出る時間が早くて、いつもより一本早い電車に乗れそうだった。
そういうときは気分がいい。始業ギリギリにすべり込む毎日と違って、授業の前にアールグレイを飲む余裕がありそうだ。そんなことを考えていたら、電車がホームに入ってきた。
私が使っている駅は乗降客が多い。電車のドアが開いた瞬間、ゲートが開いて競馬が始まるように、ドドドドッと人が吐き出されてきた。これから乗ろうという人は、降りる人をよけながら、ホームの端でじっと待つ。
もう降りる人がいないようなので、電車に乗ろうと足を動かしたときだ。誰かが私を後ろから強く引っ張り、引き留めるではないか。
なになに??
驚いて振り返ると、そこには焦った顔の女子高生がいた。
何と、私のスカートのリボンに、女子高生のバッグのファスナーが引っかかってしまったのだ。
「すみません、すみません!!」
彼女は必死でバッグを引くが、リボンは金具にガッチリと挟まっているようで、まったく取れない。
「あまり引っ張らないほうがいいよ。どれどれ」
私は彼女の手からファスナーを引き取った。リボンとファスナーは、別れ別れになった恋人同士が再会したかのように、ひしと抱きあい、ちょっとやそっとでは離れない。
わずか一瞬、すれ違っただけなのに、こんなことがあるのだな……。
感心している場合ではなかった。そうこうしているうちに、乗客はあらかた車内に吸い込まれ、発車を知らせるチャイムが鳴った。
「1番線から、通勤準急池袋行きが発車します」
無情な放送が耳に入る。
やばい、電車が行っちゃうよ~!
私もあわてたが、身動きがとれないのだからどうしようもない。やがて、ドアが静かに閉まり、準急電車は振り向きもせずに去っていった。
私と女子高生だけが、ポツンとホームに取り残された。こうなれば、本格的にリボンとファスナーを引き離さなければならない。私は、ホームにバッグを置いて、両手でチャレンジし始めた。
「あっ、取れたっ!」
ようやく、ファスナーからリボンを奪い返すことができた。これでやっと電車に乗れる。私は安堵して、大きなため息をついた。
「本当にすみませんでした」
女子高生は、ずっと頭を下げてばかりで、気の毒なくらい萎縮していた。でも、別に彼女が悪いわけではない。
「気にしなくていいのよ。事故だから」
そう言うと、彼女はホッとしたように再度おじぎをし、小走りに改札へ向かった。
いい子だなぁ。
後姿を見送ったあとで私が乗ったのは、結局いつものギリギリ電車だ。
もちろん、アールグレイは飲めなかった……。
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今後とも、応援のほど、よろしくお願いいたします!!
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