これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

末はユングかフロイトか

2009年06月28日 20時14分16秒 | エッセイ
「お母さん、昨夜、浩太の夢見ちゃった……」
 朝食をとっていると、中一の娘ミキが、ニヤニヤしながら話しかけてきた。

 浩太というのは、小学三年生になる妹の息子である。ミキにとっては従弟にあたるわけだが、個性的でなかなか面白い。
 浩太は怖がりである。
 誕生日や新年などのイベントがあると、私の姉がシャンパンやスパークリングワインを用意するのだが、栓を開ける瞬間が恐ろしいらしい。部屋の隅に逃げていき、両手で耳を押さえてブルブル震えている。浩太の2歳下の妹、明奈が平然と食卓についているというのに。
 父である義弟は、そんな浩太が歯がゆいのか、わざと作業中のボトルを持ってそばへ行き、大きな声で脅す。
「わーーーーっっ!!!」
「ひい~~~っ」
 浩太は金切り声を上げてパニックになり、泣きべそをかいてイジケてしまうのだった……。

 浩太は、意外に経済観念が発達している。
 ニンテンドーDSソフトの『ポケットモンスター パール』で遊んでいると、彼は「お金を貯める」行動に出る。バトルに勝つと賞金がもらえるので、せっせとポケモンと戦い、バトルしては稼ぎ、バトルしては稼ぎを繰り返すという。
 増えていく手持ち金を見て、ニンマリする場面を私も見たことがある。
 あるとき、浩太はトイレに行きたくなり、ゲームを中断しようとした。妹の明奈がそれを見て言った。
「DS貸して」
 操作中のゲームを貸し借りするのはよくあることだ。浩太は「いいよ」と返事をして部屋を出た。
 トイレから戻ってくると、明奈がゲームを返してきた。さあ続きを、と液晶を見て驚いた。
「ああっ、お金がなくなってるぅ~!!」
 ほんの何分かの間で、明奈が有り金全部を使って、モンスターボールの一種「スーパーボール」を80個ほど買い漁ったのだった。浩太は一文無しになったショックで打ちのめされ、怒る元気もなくなってしまった。
 ちなみに、この明奈は浪費家なのか、お金があると即使ってしまう。母である妹の『ポケットモンスター ファイアレッド』を借りたときは、勝手に「毒消し」を99個も買ったようだ。……将来は大丈夫だろうか。

 浩太は、食べ物の好き嫌いがハッキリしていて、嫌いなものは「お腹いっぱい」と言って食べない。「じゃあ、デザートも食べられないね」と意地悪を言うと、甘いもの欲しさに急いで平らげる、実にわかりやすい子供でもある。

 玉子サンドをパクつきながら、娘のミキは、昨夜見た夢の話を続けた。
「浩太がね、妊娠する夢を見たの」

 ……なんだそりゃ。

 聞いている私も呆れるような夢だった。
「へ? 小学生の男の子が妊娠?! 変すぎ~!」
「浩太のお腹がどんどん大きくなっていくんだよ。でも、産まれたのは犬だったの」
「犬?!」
「うん、ゴールデンレトリバー」
「盲導犬になれそうだった?」
「ううん、無理そうだった」
「なんだ、バカ犬か」
「あはは、そうそう!」
 
 フロイトの説によれば、夢には潜在意識が表れるという。
 一体、どんな潜在意識があると、こんな夢を見るのやら……。
 ミキには、自分が見た夢の研究をしてほしいものだ。



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今日か明日か

2009年06月25日 22時01分34秒 | エッセイ
 中学の英語で、こんな諺を教わった。
「Never put off till tomorrow what you can do today.」
 今日できることを明日に延ばすな、という意味のこの英文、聞いたときは感心したものだが、実践できたためしがない。
 なにしろ、私は無類の面倒くさがり屋である。明日やればすむことを、ご丁寧にも今日しようだなんて考えるはずがない。
 むしろ、私が好きなのは、「明日できることを今日するな」という、アラブの諺だ。「今日中にやらなきゃ」と思うよりも、「明日までにやればいいんだ」と考えたほうが性に合う。

 つい先日も、翌日の授業の準備をしようとしたら、他の仕事が長引き、時間がなくなってしまった。残って仕事を片付けるという選択肢もあったが、私が選んだものは「明日の朝、早めに来てやればいい」という選択肢だった。
 後回しにするのは仕事だけではない。
 翌日は早めに家を出たため、あおりで仕度の時間がなくなり、朝食後に飲むビタミン剤も「学校に着いてからでいいや」となり、さらには「口紅とコンタクトレンズも学校で」とエスカレートした。
 小走りで駅まで急ぐと、止まっている電車が見えた。だが、止まっている場所がおかしい。ホームに進入する途中で停止したのか、後ろの3両ほどが、ホームにたどり着いていなかった。
 駅からは、携帯電話片手に、渋い顔をして引き返してくるサラリーマンが何人も見受けられた。
 イヤ~な予感だ。
 自動改札付近には人が立ち止まり、電車の発車予定を知らせる電光掲示板が消えている。
「お客様にお知らせします。本日、6時40分頃、当駅におきまして人身事故が発生しました影響で、西武池袋線は、ただいま上下線とも運転を見合わせております……」
 何度も繰り返しているせいか、やけに滑らかな口調の放送だった。

 なんてこったい!!

 1時間目が始まる前に準備をしたかったのに、これでは授業に間に合うかどうかもわからない。そうと知っていれば、ビタミン剤を飲み、口紅を引いて、コンタクトも入れてから家を出たのだが、もはや手遅れだ。
 時計を見ると、すでに事故発生から40分経過している。運がよければ、そろそろ運転再開するかもしれないと思い、私は人であふれたホームに向かった。ドアの閉まった電車が停止位置より手前で止まったまま、ぐったりと待ちくたびれていた。
 10分ほど待つと、待望のアナウンスが聞こえた。
「大変お待たせいたしました。各駅停車新木場行き、まもなく運転を再開いたします。」
 運転再開はうれしかったが、行き先が問題だった。私は池袋に行きたいのだが、新木場行きだと有楽町線直通となるため、途中で乗り換えなければならない。一瞬戸惑ったけれども、列車のダイヤが乱れているときは「来た電車に乗る」が鉄則なので、ひとまず乗ることにした。

 これって、人をひいた電車じゃないか……。

 しかし、贅沢を言っている場合ではない。何でもいいから、私は一刻も早く職場に到着したい。
 結局、この判断は正しかったようだ。動き出した電車の中で、幸運なアナウンスがあった。
「ダイヤが乱れました関係で、地下鉄への直通電車はありません。この電車は、行き先を変更して、準急池袋行きとさせていただきます」
 私はもろ手を上げて、拍手をしたい気分になった。

 1時間目開始の12分前、私はようやく学校に到着した。もっと遅くなると覚悟していたから、不幸中の幸いである。手早く準備をして、どうにか間に合わせた。
 
 やっぱり、「今日できることを明日に延ばすな」は正しい。
 でも、この性格じゃ、できないだろうな……。

 ちなみに、「明日できることを今日するな」という諺は、怠け心を助長するものではなく、「明日のことを思い煩うことなく、今日できること、なすべきことに集中せよ」というのがその真意らしい。



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パン 対 ハードカバー

2009年06月21日 21時47分33秒 | エッセイ
 職場の近くに、美味しいパン屋さんがある。食パンと菓子パンのセットを販売しているので、同僚8人でそれぞれ注文し、毎週木曜日に届けてもらうことにしている。
 しかし、このパンを、職場から一時間かけてわが家に持ち帰ると、大抵どれかがつぶれてしまう。犯人はハードカバーの本だ。今読んでいる、小川糸さんの『喋々喃々(ちょうちょうなんなん)』は清らかで乙女チックな恋愛小説だが、パンへの攻撃は容赦ない。食パンがやけに細長くなったり、菓子パンがペタンコになったりする。また、電車の混雑もハードカバーに味方し、パンの変形を手助けする。

 なんとか、無傷でパンを持ち帰る方法はないものか……。

 それは私の密かな悩みだった。
 文庫本を読んでいるときは、パンがほとんどつぶれずにすむが、旬の本は攻撃力の大きなハードカバーしかない。木曜日だけ続きを読まないというわけにもいかないし、常にひしゃげたパンになってしまった。

 先だっての木曜日は、食パンの代わりに、バターロールとクロワッサンが入っていた。私はクロワッサンが大好きだ。ハムと玉子をはさんで食べるもよし、ジャムと生クリームをサンドするもよし。机の上に置いておき、帰り支度をするときにバッグにしまおうと思っていた。
 いざ帰ろうとしたら、内線電話がかかってきた。大した話ではなかったが、電話の内容に気を奪われ、大事なものを忘れて職場を出た。
 最寄り駅に着き電車を待っていると、忘れ物に気がついた。

 あ、パンがないっ!!

 ものすごくショックだった。生ものではないから、一日くらい放置しても食べられるとは思うが、誰もいなくなった職員室はゴキブリの天国らしい……。たかられたらどうしようと青ざめる。しかも、この湿気でカビが生えるかもしれない。
 どよ~んと暗くなったとき、頭の中で豆電球がパッと点灯した。

 そうだ、たしかまだ、ゆき子ちゃんが残っていたはず!

 私はダメ元で、同僚の年下女性、佐藤ゆき子ちゃんにメールを送ってみた。彼女は職場を出る前に、必ずメールチェックをする。運がよければ間に合うかもしれない。

「パン忘れちゃった~! もしご迷惑でなかったら、冷凍庫に入れておいてもらっていいですか~?」

 パンは冷蔵庫だと乾燥してしまうので、冷凍庫で保管するのがいいらしい。しばらくして、ゆき子ちゃんから返信がきた。

「ギリギリ間に合いました! ちゃんと冷凍庫に移しておきましたから、ご心配なく」

 その日は、結局ツイていたのか、ツイていなかったのかわからなかったが、おそらく後者だったようだ。
 翌日、カチンコチンに凍ったパンを、今度は忘れず持ち帰った。バッグに入れるとき、いつもと違って硬かった。これなら、ハードカバーに押しつぶされることもないだろう。

 そっか。これからも、いったん冷凍庫で凍らせてから持ち帰れば、変形することがなくなるんだ……。

 何てナイスなアイデア!!
 
 電車の中で読もうとハードカバーを出したら、パンの冷気でひんやりしていた。寒くて震えていたのかもしれない。
 
 本日の勝負、パンの勝ち~!



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映画デート

2009年06月18日 20時10分36秒 | エッセイ
※ このエッセイには、映画『スラムドッグ$ミリオネア』の内容の一部が含まれていますので、あらかじめご了承ください。

 はじめて男の子と観に行った映画は、『悪魔のいけにえ2』だった。
 その子は友達のサークル仲間だったのだが、飲みに行ったときに仲良くなり、「怖い映画を観に行こう」と誘われたのだ。しかし、チェーンソーを振り回すだけで、映画自体にストーリー性がなく、つまらなかった。そして、その子も、気の利いたジョークが言えるタイプではなく退屈だったから、長続きしなかった。

 次につき合った男の子からは、「『トップガン』を観に行こう」と言われた。渋谷の、2階席まである大きな映画館だった。トム・クルーズも、F-14トムキャットもカッコよくて、サントラ盤を買うほど気に入った。
 映画の好きな男性はいい。
 その元彼とは、実に数十本もの作品を一緒に観た。『アンタッチャブル』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』といった超メジャー級はもちろんのこと、『AKIRA』『源氏物語』といったアニメーションや、『プラトーン』『サルバドル』などの社会派に、豪華キャストの割には興行成績が伸び悩んだ『夜霧のマンハッタン』『ミッドナイト・ラン』、加えて『薔薇の名前』『最後の誘惑』などのマニアックな作品まで、気になる映画を次から次へと制覇した。
 とりわけ、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』が元彼のお気に入りで、私は発音をよく注意されたものだ。
「ワンサポン ア ターイミンナメリカ、だよ」
 あの、ゴミ収集車が通り過ぎる、衝撃のラストは忘れられない……。
 会えばケンカばかりしていた元彼と、3年以上もの間続いた理由は、映画という共通の趣味があったからだろう。
 自宅には、あの頃買い集めたプログラムが、まだドッサリ残っている。

 つい先日、土曜出勤の振替休業日で月曜日が休みだったので、夫を誘って久々に映画とランチに出掛けた。子供が学校に行っている間でないと、デートはできないから、またとないチャンスだったのだ。
 夫は映画オンチで、もう何十年も観ていないらしい。

 何にしようかな……。

 夫が好きそうなものを選ぶべきだったのかもしれないが、私には観たい映画があった。友人が日記で絶賛していた、アカデミー賞8部門受賞作品『スラムドッグ$ミリオネア』である。ろくに公式サイトも見ず、独断と偏見で決定した。
 平日の午前中だからか、映画館はガラガラだった。予告が終わり、ようやく本編がスタートした。が、スクリーンには何やら不穏な空気が漂っている……。
 いきなり、ビシッ、バシッ、という激しい音とともに、主人公の男性が警官に殴られた。「吐け!」と責め立てられ、水を張ったバケツに顔を突っ込まれ、苦しみもがいているではないか……。
 オヤオヤと思っていたら、天井から吊されてつま先に電流を流された。

 ちょっとちょっと、私たち、久しぶりのデートなんだから、拷問なんてやめてくれないかしら……。

 しかし、私の願いは届くどころか、ますますひどくなっていく。
 主人公の少年時代の回想シーンでは、蝿がブンブン飛び交い、不潔でゴミだらけのスラム街が舞台である。まだ5歳くらいの主人公が肥溜めにダイビングし、頭のてっぺんからつま先まで汚物まみれになって、スターにサインをもらう場面があった……。

 オエーーッ!!

 母親が撲殺されて川に浮かんでいたり、「盲目の歌手は倍稼げる」という理由で、歌の上手な子供が目をつぶされたりと、正視に堪えない場面の連続であった。
 
 あああ、デートなのにいいい~~!!!

 私はどっぷりと後悔にひたった。
 そんな環境でも決して自分を見失わず、信念に従って実直に生きる主人公が、最後には幸福をつかみハッピーエンドで終わる。わかりやすくて骨のある映画だったが、デートには向かないと感じた。

 もし、私たち夫婦が離婚したら、「また映画のチョイスを間違えたんだ」と思っていただきたい。



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バンドレン・テナー・3

2009年06月14日 21時43分38秒 | エッセイ
 テナーサックスは木管楽器に分類される。管自体は金属製だが、マウスピースにつけられた「リード」という木のへらのようなものを振動させて音を出すからだ。
 この「リード」は消耗品で、ちょくちょく新しいものと交換しなければならない。
 中一の娘が吹奏楽部に入り、テナーサックスを練習しているものだから、一緒に楽器屋さんまで買いに行ったことがある。

 昨日は土曜日だったが、授業公開のため出勤した。夫も出掛けてしまい、ひとり残った娘に朝食と昼食を用意し、ラップをかけて置いてきた。試験前のため部活はない。一日勉強するだろう。
 夕方、自宅から携帯に着信があった。
「あ、お母さん? ミキだけど、今までずっと勉強していて、気分転換にテナーサックス吹こうとしたら、リードが1個しかないの。悪いけど買ってきてくれる?」
「ええーっ、箱があればこれと同じのくださいって言えるけど、わかんないからヤダよ」
「大丈夫だよ。バンドレンのテナー用の3番って言えばいいの」
「バンドレン、テナー、3?」
「そう。バンドレン、テナー、3だからね! よろしく」
 バンドレンというフランスの会社が販売しているリードは、種類が多くて、素人の私にはよくわからない。でも、一度行ったことがあるから置いてある場所は知ってるし、外箱も何となくわかる。とりあえず、楽器屋さんに寄ってみた。

 バントレン、テナー、3……。

 土曜日だからか、やたらと客が多くて店員が見つからない。ひとまず、バンドレンのリードが陳列されている場所に行き、番号を確認した。2と1/2、3と1/2といった番号の間に、お目当ての『3』が並んでいた。手に取ってみると、たしかにこんな感じの箱だった気がする。1949円という値札の上部に『テナー』という文字が書かれていた。

 よし、これで間違いない!

 店員に聞かなくたって大丈夫だ、と私は自信を持った。
 リードは1箱5個入りなのだが、すぐになくなってしまう。なくなればまた買ってきてと頼まれそうだから、ありったけの在庫を買おうと思った。
 3番と書かれたものは4箱あった。しかし、よく見ると、一番後ろの箱は値段が違う。『バリトン』という文字が書かれているところを見ると、バリトンサックス用の3番なのだろう。危ない、危ない。
『テナー』という文字を確認し、3箱をレジに持っていった。

「ミキ、買ってきたよ」
「わあい、ありがとう!!」
 娘のミキは大喜びで袋を開け、中身を確認していた。しかし、だんだん静かになり、意を決したように大きく息を吸い込み、私に話しかけてきた。
「……お母さん、これさ、ZZってやつで、違う種類のリードだよ……」
 信じられなかった。
「え? だって、バンドレン、テナー、3て書いてあるじゃない。どこが違うのよ」
「箱見てよ。絵も色も違うでしょ」
 本当だ……。私が買ってきた箱は黒だが、使い掛けの箱は紺だ。
「じゃあ、返品しなきゃ」
「でもさ、もう開けちゃった……」
「1箱だけでしょ。2箱は返品すればいいよ」
「ううん、3箱全部開けちゃった……」
 私は言葉を失った。何で、全部の箱を開ける必要があるのか、まったく理解に苦しむ。
「じゃあ、それ使いなさいよ!! だからイヤだって言ったのに!!」
 無性に腹が立ち、その日は赤ワインを無茶飲みして寝てしまった。

 翌日、ミキはZZのリードを試そうとしていた。
「サイズは合うの?」
「うん。大きさは大丈夫。でも、ちょっと薄い」
 マウスピースに取り付け、口を当てて吹き始めると、いつもより音が滑らかだ。私の気のせいだろうか?
「ねえ、何か上手く聞こえるけど、どう?」
 ミキは満面の笑みで明るく答えた。
「このリード、いいよ! 高音が楽に出る!!」
 怪我の功名というやつか。しばらく、ミキは練習し続けていた。

「これからずっとZZにするの?」
 私が聞くと、ミキは言いにくそうに答えた。
「でもさ、これ、高音が出やすいかわりに、低音が出にくい……」

 どっちだよ!!



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白衣のペテン師

2009年06月11日 21時17分31秒 | エッセイ
 先日、職員室で、見知らぬ男子生徒から話しかけられた。
「朝、来るときに自転車で転んじゃって、足をすりむいちゃったんです」
 彼はスラックスの裾をまくり、血の滲んだ痛々しい傷跡を見せた。
「あら、かわいそうに。保健室には行ったの?」
 私の反応に、彼は難しい顔で答えた。
「え? 先生は保健室の先生じゃないんですか?」

 ああ、まただ。

 私は職場で白衣を着ているので、ときどき養護教諭に間違われる。廊下ですれ違いざまに、「先生、頭が痛いので薬をください」と言われたこともある。すがるような目で、ツラい症状を訴えられても、どうしようもない。
 ましてや怪我の手当なぞ、かなりの苦手分野に入るので、逃げるようにしてその場から離れた。
 生徒にとっては、「保健室の先生じゃないのに白衣なんか着てるから、だまされた~」となるのだろうが、白衣を着ている先生は結構多い。理科や家庭科はともかく、国語や数学、社会など、教科を問わず白衣は愛されている。服が汚れないですむし、毎日おしゃれしなくてもいいから楽なのだ。
 きっと、私と同じように、養護教諭に間違われた先生もいると思う。

 作業着屋さんに行くと、淡い水色やピンク色の白衣もあり、どれにしようか迷う。
「私の白衣はピンクだから、桃衣っていうべきかしらね」
 そんなことを言った、昔の同僚が浮かんできた。
 一度、お店で看護婦用の白衣を出されたことがあり、度肝を抜かれた。コスプレではないから、そんなものを着るわけにはいかないが、はたから見ると、私は医療系に見えるのかもしれない。

「養護の先生が休みだと、僕のところに来る生徒がいるんだよね」
 水色の白衣をまとったかつての同僚も、保健室がわりにされたことがあると笑った。「お腹が痛い」だの「指を切った」だのと、生徒が駆け込んでくるらしい。
 彼の教科と専門から、私は大いに納得して答えた。
「わかった、生き物なら何でもわかると思われているんですね!」
「そう、僕、生物教えてるから!!」

 白衣も衣替えの時期だ。長袖をしまって、半袖に替える。
 さて、今年も暑くなりそうだ……。



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趣味はダイエット

2009年06月07日 20時21分24秒 | エッセイ
 エッセイを書くこと、本を読むことと並んで、ダイエットも私の趣味のひとつである。
 先日、『世界一の美女になるダイエット』というタイトルにつられて、エリカ・アンギャルさんの本を買った。
 ミス・ユニバース・ジャパン公式栄養コンサルタントの肩書きを持つ彼女は、ファイナリストと呼ばれるミス候補たちに、栄養や生活法、メンタル・マネジメントの指導をしているそうだ。この本では、食べてはいけないもの、食べたほうがいいもの、心の持ち方やトレーニングについて言及し、とても刺激になった。
 所詮、私のダイエットはカロリー偏重の自己流なので、エリカ流の美しくなるものを食べる、由緒正しい折り紙つきのダイエットを試してみることにした。

 まず、青汁を買った。朝イチで飲むと吸収もよく、ビタミン補給が効果的だそうだ。
 しかし、飲み慣れていない者にとっては、なかなか苦痛な飲み物である。青臭さが気になる場合は、りんごジュースを少々混ぜるとよいと書いてあったので、冷蔵庫を開けて探してみた。

 あれ、グレープフルーツジュースしかない……。

 一瞬ためらったけれども、大して違わないだろうと考え、思い切って青汁とブレンドした。一口飲むと、「グレープフルーツにほうれん草のみじん切りをトッピングしたような味」が楽しめた。決して出会うはずのない両者がデュエットしているような、不思議な味わいだった……。明日からは牛乳を入れよう。

 次にアボカドである。今まで、一度も食べたことがなかったのだが、「食べる美容液」と書かれては、スルーするわけにいかない。真ん中に、ピンポン球ほどの種が入っていたのには仰天したが、わさび醤油で食べると結構イケる。朝食に半個いただくことにした。
 ナッツ類も外せない。アーモンドやくるみに含まれる良質の油が、血糖値を安定させ、カロリー燃焼にシフトさせるという。これは、おやつにすればよい。
 哀しいかな、スーパーに行ったら、さきいかやビーフジャーキーなどと一緒の、つまみコーナーに置かれていた……。食塩や油で調味されていないものを選ぶようにとのお達しだったが、それはちょっと無理だった。
 ローストくるみにアーモンド、片口いわしと組み合わせたアーモンドフィッシュを買い、夕食を作りながら、ポリポリと味見してみた。



 くるみもアーモンドも、思ったより柔らかい。私は子供のときから、何度も虫歯の治療を受けているため、歯がボロボロで硬いものが苦手だ。見た目が硬そうだからと敬遠していたが、さほどでもないし、なかなか美味しかった。それぞれ5粒くらい食べただろうか。

 もうじき夕食が出来上がるという頃、異変が起きた。やけに胃が重いのだ。時間が経つにつれ、ズキズキと痛むようになってきた。まるで、胃の中でボールがバウンドしているような、連続した痛みが襲ってきた。
 ついに我慢の限界に達し、私は夫に泣きを入れた。
「ゴメン、胃が痛くて堪えられないから、あと頼むよ……」
 夫は突然のご指名に戸惑っていたが、潔くテレビを消してやって来た。
「う、うん、わかった。じゃあ休んでなよ」

 1時間ほど眠ると、痛みはなくなった。
 多分、アーモンドとくるみのせいだろう。元々胃が弱いのに、空きっ腹に脂質の高いものをいきなり食べたものだから、刺激が強すぎたようだ。

 アーモンドとくるみが、バスケットボールを始めたみたいだったよ……。

 ようやく鎮まったみぞおちを撫で、遅い夕食をとった。
 入浴前に体重計に乗ってみると、何と、体重・体脂肪ともに減っていた。

 よっしゃ~!!

 こんなに痛い思いをしたダイエットは初めてだが、続けようと決心した瞬間だった。



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無免許教員?

2009年06月04日 20時11分55秒 | エッセイ
 教員免許状が見当たらない。
 教員免許更新制度が導入された今、手続き上「ない」では済まされないだろうから、何とかして見つようと決心した。
 運転免許と違って、免許状を携帯する義務はないが、紛失したら無免許ということになるのだろうか?

 まずは、妹の家に電話をする。両親が那須に隠居したことを機に、私が育った家には、現在、妹一家が住んでいる。私の荷物も多少残っていたかもしれないのだ。
「ねえ、2階の6畳間の押し入れに、私の教員免許状があると思うから、明日の夕方、見に行っていい?」
「まだ、姉さんのものあったかしら。あとで見てみるよ」
 私の家にはなかったので、妹の家にあるに違いないと思いこんでいたのだが、望み薄という気がしてきた。もう一度、屋根裏の収納庫をひっくり返して、大捜索をしないとダメだろうか。
 しばらくして、妹からメールが来た。
「やっぱりないよ。持って行ったんじゃないの?」

 よし、気合いを入れて探さなくては!

 卒業証書や賞状の山が怪しい。筒を開けて証書を確認したり、賞状をめくって片っ端からチェックしたが、免許状は見つからない。幼稚園の卒業証書まで出てきたのには笑った。ひらがなで書かれた氏名が微笑ましい。なぜか、高校の卒業証書だけはなかった。
 本やアルバム、記念写真などが入った封筒にたどり着いた。何と、この中には、大学の受験票や合格通知書、1年から4年までの成績表、教員採用試験の要項や辞令にいたるまで、すべてのものが揃っていた。どの文書も旧姓で書かれており、懐かしさで胸がいっぱいになった。

 私って、物持ちがいいのねぇ。

 探し物ではなく、別のものに気を奪われ、時間を無駄に費やしてしまった……。
 でも、こんなにいろいろなものを保管してあるのに、どうして免許状はないのだろう?

 捜索中に、夫の卒業証書や賞状が入っているケースを発見した。「もしや、成績表もあるのでは?」と興味を持ったが、免許状が紛れている可能性はゼロなので、スルーすることにした。
 ケースの近くに、どこかで見たようなビニールバッグが立てかけてある。引っ張り出してみると、高校生のときに買ったカレンダーだった。大好きな青池保子さんのカレンダーを予約し、1年間楽しんだあとも捨てられなくて、取っておいたのだった。



 中をのぞいて息をのんだ。

 これは、高校時代の卒業証書!?

 とたんに、古い記憶が一気に蘇ってきた。そういえば、高校の証書は筒ではなく、A3サイズのホルダーに入っていたのだっけ。カレンダーのバッグにすっぽりと収まったので、引っ越しのときに一緒に入れたような気がする……。
 期待が体中に押し寄せてきた。急いでバッグの中身を出すと、大学名の印刷された封筒が出てきた。封筒に中には、やはり、お目当ての教員免許状が入っていた!

 あったー!!

 私の大学は神奈川県にあったので、授与権者は神奈川県教育委員会となっている。本籍地、氏名、生年月日、免許の種類、教科、免許番号、授与日などの記載があった。やはり、氏名は旧姓のままだ。

 よかった、これで無免許じゃないや!

 免許状をしまおうとしたとき、封筒の表面に「注意」と書かれた文字が目に入った。

「本籍地、氏名等戸籍上の異動を生じた場合は、すみやかに授与権者に書き替えを願い出ること」

 ……てことは、現姓の免許状が必要ってこと?
 せっかく見つけたけれど、旧姓の免許状は通用しない?
 
 うーん、やっぱり無免許なのかも……。



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