これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

記念日バトル

2013年03月31日 15時33分32秒 | エッセイ
 教員は、3月下旬に結婚する割合が高い。
 春休みに結婚式を挙げて、入籍して、苗字が変わったら次の学校へGO、という流れが便利なのだ。
 わが家も、先日が結婚記念日だった。
「パパ、先に行ってるよ」
 せっかくの記念日だから、美術館で目の保養をしたあと、銀座でお食事というコースを考えていたのだが、夫はいつまでもテレビに夢中で支度をしない。歩くのが遅い私と娘は、先に出かけることにした。
 桜は満開だが、ヒートテックを着こむほどに寒い。太陽は、ときたま顔を出すものの、雲に隠れて昼寝をしているようだ。灰色の空が恨めしい。
 不意に、後ろからドスドスと重い足音が聞こえてきた。夫である。
「ふー、追いついた。お待たせ」
 駅では、階段に近くて、なるべく空いたドアに並ぶが、夫はこれが許せない。
「俺は、階段に一番近いドアがいい。あっちに並ぶ」
 夫だけが列を離れ、結局また2対1になってしまった。
 上野・国立西洋美術館に到着し、ラファエロのチケットを買おうとしたら、ながーい列ができていた。
「パパ、入場券は買っておくから、入口のベンチに座って待ってれば?」
 しかし、夫は不機嫌な顔をしたままだ。
「何で、あんなオバさんばかりのところで待たなきゃいけないんだ」
 これには私もカチンときた。
「なにい、親切で言ってるのに。感じ悪いなぁ」
「そうだそうだ。今日は何の日だと思ってるんだよ」
 娘も頭にきたようで、助っ人に加わる。夫は黙り、すごすごとベンチに向かった。
 (ラファエロ展の関連記事はこちらから)
 鑑賞後、お茶を飲んだら、三人とも和やかになる。単純なので、飲み食いすれば、いともたやすく和解するのだ。
 上野から有楽町に出て、銀座でランチを楽しむ。(ランチの関連記事はこちらから)
 ランチ中は食べ物も飲み物もあるので、ケンカが始まる怖れはない。
 食べ終わったら、とっとと家に帰るのが無難であろう。
「ふー、お腹いっぱい。夕飯はちょっとでいいや」
 娘はそう言うが、夕方になり、私はおやつが欲しくなる。甘いものではなく、インスタントラーメンがいい。



 フーフー、ズルズル。

 気配を察知して、満腹だったはずの娘が、キッチンにやってきた。
「ひと口くれい」
「いいよ」
 ズルズル。
 食べ終わる頃に、夫が1階から上がってきた。
「あっ、ラーメン食べてる! 俺はもらってないのに、ずるい!!」
 残念ながら、彼にあげられたのは匂いだけであった。欲しければ自分で作ればいいのに、そこまではしたくないようだ。
 知らん顔をしていたら、また1階にドスドスと戻っていき、静かになった。
 やれやれ。
 お腹を空かせているようだから、夕飯は早めに用意してやるか。
 と思ったはずなのだが、ネットに夢中になり、いつもより遅い時間になってしまった……。
 開き直って、「ご飯だよ」と夫を呼ぶ。夫は、フラフラと食卓についた。
「お腹空いた?」
「空いた。ラーメンもらってないもんでね」
 憎まれ口を叩きながら、彼は細長い包みを差し出した。



「これ、ママに」
「はあ?」
 予想外の展開だ。結婚記念日のプレゼントなど、何年か前にもらったきりである。20周年の去年も、その前も何もくれないから、こちらもすっかり忘れていた。
 包装紙をはがし、箱を開けてみる。
「おおっ!!」



 ネックレスだ。
 蛍光灯の灯りを反射し、3連のダイヤがキラーンと光っている。



 しかし、身に着ける間もなく、娘が割り込んできた。
「はいはい、ちょっと写真撮らせてね。よっこらしょっと」
「……」

 お返しは、インスタントラーメンでどうかしら!?


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新語、死すべし?

2013年03月28日 20時25分07秒 | エッセイ
 教員は、若い生徒と接しているおかげで、新語に触れる機会が多い。私も「自撮り」「ガラケー」などをおぼえた。
 一方で、おぼえた新語をいつまでも使う傾向がある。ちょっと前の話だが、歓送迎会の幹事を務めた年配の男性が、マイクを握って自信たっぷりに叫んだ。
「次は、離任した先生方のご挨拶です。やってちょんまげ、見てちょんまげ! それでは、お願いしまーす!」
 彼は今でも、この言葉を使っているのだろうか。新語で定着するものは「イケメン」などの少数に過ぎず、大多数ははかなく消えゆく運命だというのに。誰か、今はすっかり死語になっていると教えてあげてほしい。
 先日も、思わず椅子からズリ落ちそうなフレーズを耳にした。
「あの人から見たら、それはきっと、アウトオブ眼中でしょうね」
 彼女の話し相手が、たまたまハッキリものを言う人だったため、「古い古い」と注意を受けていた。言われた当人は傷ついた顔をしていたけれど、本人のためになるに違いない。
 夫はもっとひどかった。車で出かけたとき、信号待ちでトラックの後ろに停まったことがある。フロントガラスの向こうに、トラックの荷台に書かれた緑の文字が見えた。
「何だ、前のトラック。センコーって書いてあるぞ。ケンカ売ってんのか」

 ガクッ。

 今どき「先公」などと言われることはない。
 この一件から興味を持ち、センコー株式会社について調べてみたら、資本金205億円、東証一部、大証一部上場の大企業であった。設立時の「扇興」という名前は、決して死語にならず、会社の歴史に刻まれているようだ。



 だが、先生を侮辱する「先公」という言葉には、さらに長い伝統があった。なんと、明治時代の書物には、すでにこの言葉が登場するというのだ。
 先公、恐るべし!
 関連語として「エテ公」が挙げられていたことに、多少の不快感をおぼえないでもなかったが……。
 一時は定着していたこの言葉も、私の学生時代にはすでに消えつつあった。先生を侮辱するときは、苗字を呼び捨てにすればすむ。やはり、新語は消えゆく運命にあるのか。
「イケメン」には、しばらく頑張ってもらいたい。


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Danny

2013年03月24日 20時18分56秒 | エッセイ
 お風呂上りに鏡を見ると、頬が赤みを帯びていた。しかも、細かい発疹がいくつもできている。



 化粧かぶれ!?

 その日は、新しい日焼け止めをおろしたばかりだった。肌に合わなかったのだろうと判断し、使用を中止したのだが、一向によくならない。
「石鹸がいけないんじゃない? 水で洗ったら」
 娘のアドバイスを聞き入れても、なかなか治らない。ある程度まではきれいになるのだが、そこから先に進まないのだ。赤みも発疹も、決してゼロにはならない。
 痺れを切らし、皮膚科に駆け込んだ。
「お久しぶりですね。どうなさいました?」
 この先生は、娘のアトピーに私の主婦湿疹、友人のイボまでチャチャッと治してくれる名医である。きっと何とかしてくれるに違いない。
「実はですね、かくかくしかじか……」
 彼女は、私の訴えを受け止め、すぐに結論を出した。
「ちょっと気持ち悪いと思うけど、それは、ニキビダニだと思います」
「うえっ!」
「発疹が、全部膿みを持っているし、何をしても治らないものなんです」
 顔の皮脂を食べるダニがいることは知っている。
 しかし、自分の顔に住んでいるとは、まったく想像もしていなかった。
「検査をしてみましょう。痛いけれど、我慢してくださいね」
 彼女は、ピンセットで発疹の一部をつまみ、検体を採取した。
「結果が出るまで、こちらで少々お待ちください」
 5分ほど待ち、先生がやってきた。
「1匹見つかりました。やはり、ニキビダニです」



 気分は悪いが、原因がわからないほうが困る。「これで治る」という安心感のほうが強かった。さすがは名医、わずか数分で解決してしまうとは!
「クレンジングでお化粧を落としたあと、この石鹸で洗ってください。それから、化粧水はこれを使ってみましょう」



「抗生物質が効くので、飲み薬も出しておきます。また、二週間後に来てください」



 そういえば、天ぷらを食べに行った翌朝は、相当ほっぺが赤かった。皮脂が増えて、増殖していたのだろうか……。
 家で、「ニキビダニ」を検索してみると、画像が載っていた。
(Wikipediaさん、ありがとうございました。寄付をさせていただきます♪)



 オエー!!

 ダニを飼っていることで、こんな利点もある。
 たとえば、娘に対しては、新手の技が使えるようになった。
「言うこと聞かないと、頬ずりするよっ!」
「ギャー、やめてやめてやめて~!」
 図らずも、強力な生物兵器「ダニー」が手に入ったのである。
 などといったら、ダニー・グローヴァーに失礼か。
 早く治らないかな……。


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巨大モンシロチョウ

2013年03月21日 21時36分23秒 | エッセイ
 先月から化粧品を替えた。
 新しいものは、口座引き落としで支払いができない。コンビニでできるからと、私は郵便振替を指定した。
 ところが。
 うっかり支払いを忘れ、ひと月経った先日、ようやく払込用紙に気がついた。
 おそるおそる、記載事項を確認する。
「支払期限  3月4日」

 やばッ!!

 あわてて、問い合わせ先に電話をかけた。
「用紙はまだ使えますので、今から振り込んでいただければ結構です。」
 受話器の向こうのお姉さんが、慣れた口調で答えてくれた。支払期限を守らない客は、私を始めとして、かなりの数に上るのではないか。ひとまず、現金片手に、コンビニに急いだ。
 そこから一番近いのは、サークルKサンクスだった。私は払込用紙を取り出し、裏面の「利用可能なコンビニ」に入っているかを見ようとした。
 しかし。
 裏返した瞬間、正面からの突風に見舞われ、用紙を吹き飛ばされた。
「ああっ!」
 用紙は風に乗り、私の体にぶつかったあとで、真上にひらひらと浮かんだ。まるで、巨大なモンシロチョウだ。らせんを描くように、時計回りに回りながら空へと近づいていく。
 万事休す。
 ブロ友さんが、上野の、とある展示に並んでいたとき、強風にチケットの半券をもぎ取られたと書いていた。「そんなことがあるのか」と驚いたが、それは甘かった。何しろ、こちらは丸ごと奪われてしまったのだから。
 羽化したばかりの蝶が、初めて得た自由に酔い、どんどん遠くへ飛んでいく。これは困った。また電話をし、「風に飛ばされたので、新しい払込用紙を送ってください」などと言ったら、「ホントかよ」と呆れられそうだ。
 ポカンと口を開けて、風と戯れるモンシロチョウの行方を見届けていたら、急に動きが止まった。糸の切れた凧のように、プツリと失速し、今度は下に落ちてくる。真下ではなく、カーブを描いて、私の胸元に飛び込んできた。
「ありり」と思わずのけぞった。払込用紙は、手元から天高く舞い上がったあと、ブーメランのように戻ってきたのだ。風のいたずら、としか言いようがない。わけがわからなかったが、大変幸運だった。
 おかげで、予定通り払い込みを完了することができた。
 読者の方から、「そんな展開、信じられない。創作ですか?」と尋ねられることがある。私のエッセイは事実のみだ。多少の誇張はあっても、フィクションではない。
 これも、まぎれもない真実。
 執念が、念力を生んだのかもしれない。


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プチ横浜ツアー(2)

2013年03月17日 20時57分27秒 | エッセイ
 ちょっと休憩。元町でお茶をいただくことにした。
 ポートヒル横浜というホテルらしい。美味しそうなケーキがたくさんあり、迷った末に選んだのがミルクレープだ。



 もちろん、満足のいく味だった。さらにうれしかったのは、紅茶に添えられたミルクが温かかったことである。ちょっと得した気分になった。
 甘いものを食べながら、YUMIさんと教職のこと、家族のことなどを話し、ホッとする時間が持てた。職場では、中間管理職のような立場なので、同僚から警戒されるときもあり、こんなにゆっくり話をする機会はない。お天気も上場で、「今日はツイている!」という気がした。
 休憩後は、山手通りの散策である。
「イギリス館のほうにしますか? それとも、エリスマン邸やベーリックホールのほうにしますか?」
 分かれ道で、YUMIさんが尋ねる。私は直感で答えた。
「じゃあ、エリスマン邸のほうで」
 となると、まずは外人墓地からだ。





 亡くなった方が眠っているので、ここは静かに。



 カーブを曲がると、道の右側にエリスマン邸があるはずだったが……。



 改修中!?

 ガーン。
 ツイていると思ったのに~。

「残念ですね。この先にベーリックホールがありますよ」
 気を取り直して、そちらに向かう。



 中に入り、二階に上がった。
 ここは子ども部屋だ。



 バスルームがあることに驚いた。



 仕事部屋。



 客室。



 夫人の部屋。





 サンルーム。



 暖炉。



 手洗い場。



 食堂。



 広くて素敵な住まいである。
 退職後は、こういう大きな家で、姉や義兄、妹と義弟、姪、甥たちと集団で暮らしてみたい。毎日にぎやかで退屈しないから、ボケる暇がないだろう。
 あっという間に5時になった。そろそろ帰る時間だ。
 名残惜しいが、YUMIさんに別れの挨拶をして帰路に就く。
 あとからわかったことだが、結構日焼けしていた。潮風のせいか、紫外線が強いのか。
 横浜をなめていたかもしれない。次回は、たっぷりと日焼け止めを塗ってから、イギリス館のほうに行ってみよう。
 YUMIさん、どうもありがとうございました!


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プチ横浜ツアー(1)

2013年03月14日 21時19分13秒 | エッセイ
 ブロ友のYUMIさんにお会いし、横浜の街を案内してもらった。
 まずは、横浜市開港記念会館に行く。



「こんにちは。よろしければ、中をご案内しますよ」
 ボランティアとおぼしき白髪の紳士が、感じのよい笑顔を浮かべて話しかけてくる。渡りに船とばかりに、二つ返事でお願いした。
 ここは、ステンドグラスが有名だそうだ。



「これは、黒船来航のステンドグラスなのですが、戦後アメリカ軍に接収されたとき、彼らはこれを見て大変喜んだといいます。敵国の星条旗が描かれているのに、壊されていなかったからです。彼らも、この建物を非常に大事に使いました」
 どれどれと星条旗を探してみると、なんと、隣には富士山が並んでいるではないか。



 日本とアメリカの関係を象徴しているようで、不思議な気持ちになった。
 他にも、きれいなステンドグラスに感動する。
 箱根越え。



 鳳凰。



 呉越同舟。



 ステンドグラスだけでなく、私は天井の照明が気になった。



 丸いシャンデリアは珍しい。港町ヨコハマをイメージしたのだろうか。
 しかし、中にはこんなものも……。



 足りないんじゃね??

 丸いから、ボール代わりに使われ、蹴られていたりして。なんてはずはないか……。
 紳士の話は続く。
「横浜三塔を知っていますか? ひとつめは、この会館にあるジャックの塔です」
 


「ふたつめは、神奈川県庁の、キングの塔です。三つめは、横浜税関の、クイーンの塔です。トランプのジャック、クイーン、キングというわけですね。今日は県庁にも入れますので、ぜひキングの塔を見ていってください」
 ほう。
 それは面白そうだ。YUMIさんも入ったことがないというので、わくわくしながら県庁に移動した。



 下からだと、肝心の塔がちょっとしか見えない。
 エレベーターで6階に上がり、屋上に出ると、キングがデーンと構えていた。



 おおっ!

 海も見え、とてもいい眺めだ。



「すごーい! キレイ!!」
 私もYUMIさんも、夢中になってシャッターを押した。
「あ、クイーンの塔も見えますよ」
 YUMIさんが指さすほうを見ると、丸い屋根の、柔和な塔が目に入った。

 

 何かに似ている……。

 高校生のとき使っていた、シャープペンを逆さまにしたら、こんな感じだったかもしれない。
「じゃあ、外人墓地に行きましょうか」
「はい」
 YUMIさんに促され、エレベーターを降りた。
 頭の中では、こんなくだらないことを考えているのに、そうは見えないと言われる。
 真面目くさった顔をして、私はYUMIさんのあとをついていった。
                                    (つづく)


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花粉襲来

2013年03月10日 16時27分08秒 | エッセイ
 私は何ともないが、夫と娘は花粉症である。
「ただいま~」
「おかえり。うっ、わっくし!」
 夫は私の顔を見るなり、大きなくしゃみを轟かせた。しかも、なかなかおさまらない。
「わっくし、わっくし!!」
 はくしょん、などという可愛い音ではない。1階から2階に届く大音量だ。夫は、「中途半端にくしゃみを止めると耳が痛くなる」と主張し、鼻と口から思い切り外へ出すようにしているらしい。本人はよくても、一緒の部屋にいる者の鼓膜が破れそうな衝撃である。
「お母さん、おかえり。ズズズ、ズビー」
 娘は、鼻水をすすりながらのお出迎えだ。
「お母さん、花粉落としてないだろ。急にくしゃみが……。わっくし!」
「ズビー」
 どうやら、私の髪や服についた花粉で、二人とも苦しんでいるらしい。もっと気をつかわないといけないものか。
 夫と娘はよく似ている。顔にアレルギー体質、血液型も同じだ。よく衝突しているのも、似たもの同士のなせる業であろう。
「お父さんが、黄砂とかPM2.5が飛んでくるって言ってたから、お母さんは外に出ないようにして」
「なんで?」
「部屋に持ち込むでしょ」
「……」
「喘息がぶり返したら大変だよ、ズビー」
 ひと言も言い返せなかった。
 そんなわけでここ何日かは、仕事のある日は出かけるが、仕事のない日はチャチャッと買い物をすませ、家の中で息をひそめている。退屈だが、花粉症でない私は、目を赤くし鼻水を垂らす家族の恨みを買わぬよう、控えめに過ごさねばならないのだ。
 それにしても、今日の天気はすさまじかった。
 昼食をすませ、家族3人でくつろいでいたら、空が急に暗くなってきた。
「お母さん、外がセピア色になってる!」
 


 窓に近づくと、尋常ではない風景が広がっているではないか。
「黄砂~!?」
 風が強まり、ピューピューと吹き荒れている。こんな色の嵐は初めてだ。
 私が窓に接近しただけで、娘が慌てていた。
「ズビー、絶対に開けないでよ!!」
「…………」
 何で、私が窓を開けると決めつけるのか? 花粉症の症状に、被害妄想はなかったはずだが。
 あとから、「黄砂ではなく煙霧」と報道されていたものの、花粉も相当混ざっていたと察する。
「わっくし、わっくし!」
「ズズズ、ズビー」
 今日も、二人は花粉と戦っている。
 そして、症状の出ない私を、横目でにらんでいる。
 早く平和にならないかな。


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30年前のサイン帳

2013年03月07日 21時07分58秒 | エッセイ
 いよいよ、卒業式のシーズンである。
 私の勤務校では来週となっているが、3月早々に行われる高校も多い。ご近所の某私立女子高は、曜日に関係なく、毎年3月3日に実施しているらしい。
 今まで、何度も卒業してきたが、一番名残惜しく感じたのは、中学の卒業式だった。
「サイン帳お願いね」
 3月になると、クラス内でサイン帳が回ってくる。クラスメイトに一言書いてもらい、記念に残すのだ。住所、氏名、電話番号、誕生日、血液型、趣味、好きなタレント、好きな食べ物、メッセージなどが主な記載項目となっていた。女子はマメだから、2ページ書くのが普通だった。
 私も自分の分も回し、友達に書いてもらった。今でも、手元に残してある。



 当時はキティちゃんが大好きだったので、なぜこれを選んだのかわかる気がする。
 背表紙の黄ばみが、30年という長い月日の経過を物語る。



 中を開けると、女の子たちの顔が浮かんできた。八重歯の大きいトヨミ、おでこの広いシズカ、パンダみたいに可愛いナオミ、栗色の髪のチエ……。結構おぼえているものだ。
 少女らしい丸文字が主流だが、私は人に流されないケイコの、豪快ななぐり書きが好きだった。彼女は、つるんでトイレに行くこともなく、堂々と一人で行動できる文化を持っていて、しばしば尊敬していたのだ。今はどうしているのだろう。
 それから、音楽の実技テストでただ一人、「オー・ソレ・ミオ」をイタリア語で歌ったレイコも、個性豊かで楽しかった。もしかしたら、今は外国で暮らしているかもしれない。
 ヒロミのところで、ページをめくる手が止まる。この子は、意地が悪くて嫌いだった。でも、それを悟られるのもまずいと思い、書いてもらったのだ。みんな、そうだった。いつの時代でも、女の子は周りに気をつかう。
 なぜか、こんなメッセージが書かれている。



「これからも、レズろうね~ なーんちゃって」

 …………。

 他のページにも、「レズっこ砂希」だの、「レズごっこ楽しかったね」などと書いてある。
 ほとんど覚えていないのだが、そういう遊びが流行っていたらしい。
 もちろん、みんなノーマルだ。しかし、これだけを見たら、決してそうは思わないだろう。
 もし、私が死んだら、遺族からどんな扱いを受けるのか、心配になってきた。


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2013 ひな祭りパーティー

2013年03月03日 17時05分04秒 | エッセイ
 今年も親族を呼んで、ひな祭りパーティーをした。
 全部で11人集まるので、ワイン選びにも力が入る。店員さんに相談して、シャンパンは甘口のルイ・ロデレール カルトブランシュ・ドゥミ・セック。白はヴェネツィア・ジュリアのシャルドネ、ドイツの温めるグリューワインを用意した。赤は、姉がブルネッロ・ディ・モンタルチーノを持ってきてくれた。



 こんな蒲鉾もゲットした。



 寿司をとり、チキンを焼き、ほうれん草のおひたしを作って、と料理の準備をしたが、どうも時間に間に合わないようだ。
「こんばんは~」
 両親と妹一家がやってきた。来客は全員そろったが、私の料理ができていない。これから、カニクリームコロッケに衣をつけて、揚げるところだった。
 こんなこともあろうかと、時間稼ぎの策はある。
「食事の前に、これを作ってくれる?」
 私は、ガンプラ作りの得意な甥に「ミルクチョコレートの家」を渡し、組み立ててくれるよう頼んだ。



「いいよ!」
 4月から中学生になる甥は、快く引き受けてくれた。ついでに、甥の父である義弟、模型作りの好きな義兄も加わり、男3人で協力しながら作業したようだ。



「50度くらいのお湯もらえる?」
 コロッケが半分ほど揚がったところで、妹が使い走りにやってきた。チョコの家は、ペン型のチョコを接着剤代わりにして、屋根や壁などを組み立てる。温めないとチョコレートが溶けず、絞り出せないようだ。
 台紙のガイドに沿って、まずは壁をくっつける。



 男3人は顔を近づけ、「ペンが詰まった」などと言い始めた。
「つまようじ、ちょうだい」
 今度は、小4の姪がパシリに使われていた。絞り口に楊枝を差し、出がよくなったら先に進む。



 甘いもの大好きな甥は、早く食べたい一心で、写真がブレるほど早く手を動かしていたようだ……。
 壁ができ上がると、屋根の取り付けとなる。たっぷりチョコレートを塗りつけ、屋根の板チョコを載せる。





 2枚載せたら、煙突で最後となる。甥は、別の場所で組み立てていた。



 だが。体温でチョコが溶けてしまったらしい。



 冷蔵庫で冷やしておけばよかったのかもしれないが、ひとまず、チョコレートの家が完成した。





「お待たせ~」
 私の料理も完成し、宴会が始まる。チョコの家は、冷蔵庫にしまっておいた。



 姉が、娘と姪に桃の花を買ってきてくれた。つぼみはまだ小さいが、これからしばらく楽しめそうだ。



「来年は金婚式だからね。みんな、来てちょうだい」
 母が嬉しそうに報告する。姉は知っていたようだが、私も妹もビックリだ。
「へえ、すごい! おめでとう」
「ははは」
 父も笑顔で応えていた。最近は離婚が多いから、50年も続く夫婦は貴重かもしれない。
 食事のあとは、妹が買ってきてくれたケーキにろうそくを立てる。



 あらかじめ妹には、チョコレートケーキを避けるように頼んでおいた。抜かりはない。
「この、プリンみたいなケーキ、美味しいわねぇ」
 姉は、ろうそくを立てなかったほうのケーキが気に入ったようだ。
 いよいよ、チョコレートの家を解体するときがやってきた。せっかく作ったものを壊すのはどうかと思ったけれど、食べたい気持ちのほうが勝つらしい。甥は、まず自分の指紋がついた煙突をもぎ取った。
「金槌か何かある?」
 義弟に木槌を渡すと、屋根や壁などを、一口サイズに砕いてくれた。口に運ぶと、いつものチョコレートの味がする。
「うん、美味しい」
 しかし、みんなお腹がいっぱいだった。11人いたのに、壁2枚分が残ってしまった。
「持って帰りなよ」
「うん」
 大活躍の甥に、ご褒美をあげることにした。ラップに包み、冷蔵庫で保管する。
「ねえ、今年の夏は、みんなで鳥羽水族館に行かない?」
「いいね~!」
「切符は僕にまかせて」
 夏休みの計画がスタートする。私も、今年の夏はのんびりできそうだ。ぜひ参加せねば。
 そんなこんなで、おしゃべりを続けていたら、あっという間に23時を回っていた。
「もう帰らなくちゃ」
 車にエンジンをかけ、姉夫婦や妹一家が、あわただしく家を出る。
「じゃあ、気をつけてね」
「またね~!」
 来客を見送ったあとは、こちらも後片づけだ。残ったチーズをしまおうと冷蔵庫を開けたら、チョコの壁があった。
 
 忘れたんだ!

 哀れな甥は、一生懸命作ったのに、煙突しか食べられなかった。
「じゃあ、俺が食べてやるか。ふっふっ」
 振り返ると、夫が目を輝かせて、チョコの壁を眺めていた……。


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