教員は、3月下旬に結婚する割合が高い。
春休みに結婚式を挙げて、入籍して、苗字が変わったら次の学校へGO、という流れが便利なのだ。
わが家も、先日が結婚記念日だった。
「パパ、先に行ってるよ」
せっかくの記念日だから、美術館で目の保養をしたあと、銀座でお食事というコースを考えていたのだが、夫はいつまでもテレビに夢中で支度をしない。歩くのが遅い私と娘は、先に出かけることにした。
桜は満開だが、ヒートテックを着こむほどに寒い。太陽は、ときたま顔を出すものの、雲に隠れて昼寝をしているようだ。灰色の空が恨めしい。
不意に、後ろからドスドスと重い足音が聞こえてきた。夫である。
「ふー、追いついた。お待たせ」
駅では、階段に近くて、なるべく空いたドアに並ぶが、夫はこれが許せない。
「俺は、階段に一番近いドアがいい。あっちに並ぶ」
夫だけが列を離れ、結局また2対1になってしまった。
上野・国立西洋美術館に到着し、ラファエロのチケットを買おうとしたら、ながーい列ができていた。
「パパ、入場券は買っておくから、入口のベンチに座って待ってれば?」
しかし、夫は不機嫌な顔をしたままだ。
「何で、あんなオバさんばかりのところで待たなきゃいけないんだ」
これには私もカチンときた。
「なにい、親切で言ってるのに。感じ悪いなぁ」
「そうだそうだ。今日は何の日だと思ってるんだよ」
娘も頭にきたようで、助っ人に加わる。夫は黙り、すごすごとベンチに向かった。
(ラファエロ展の関連記事はこちらから)
鑑賞後、お茶を飲んだら、三人とも和やかになる。単純なので、飲み食いすれば、いともたやすく和解するのだ。
上野から有楽町に出て、銀座でランチを楽しむ。(ランチの関連記事はこちらから)
ランチ中は食べ物も飲み物もあるので、ケンカが始まる怖れはない。
食べ終わったら、とっとと家に帰るのが無難であろう。
「ふー、お腹いっぱい。夕飯はちょっとでいいや」
娘はそう言うが、夕方になり、私はおやつが欲しくなる。甘いものではなく、インスタントラーメンがいい。
フーフー、ズルズル。
気配を察知して、満腹だったはずの娘が、キッチンにやってきた。
「ひと口くれい」
「いいよ」
ズルズル。
食べ終わる頃に、夫が1階から上がってきた。
「あっ、ラーメン食べてる! 俺はもらってないのに、ずるい!!」
残念ながら、彼にあげられたのは匂いだけであった。欲しければ自分で作ればいいのに、そこまではしたくないようだ。
知らん顔をしていたら、また1階にドスドスと戻っていき、静かになった。
やれやれ。
お腹を空かせているようだから、夕飯は早めに用意してやるか。
と思ったはずなのだが、ネットに夢中になり、いつもより遅い時間になってしまった……。
開き直って、「ご飯だよ」と夫を呼ぶ。夫は、フラフラと食卓についた。
「お腹空いた?」
「空いた。ラーメンもらってないもんでね」
憎まれ口を叩きながら、彼は細長い包みを差し出した。
「これ、ママに」
「はあ?」
予想外の展開だ。結婚記念日のプレゼントなど、何年か前にもらったきりである。20周年の去年も、その前も何もくれないから、こちらもすっかり忘れていた。
包装紙をはがし、箱を開けてみる。
「おおっ!!」
ネックレスだ。
蛍光灯の灯りを反射し、3連のダイヤがキラーンと光っている。
しかし、身に着ける間もなく、娘が割り込んできた。
「はいはい、ちょっと写真撮らせてね。よっこらしょっと」
「……」
お返しは、インスタントラーメンでどうかしら!?
↑
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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
春休みに結婚式を挙げて、入籍して、苗字が変わったら次の学校へGO、という流れが便利なのだ。
わが家も、先日が結婚記念日だった。
「パパ、先に行ってるよ」
せっかくの記念日だから、美術館で目の保養をしたあと、銀座でお食事というコースを考えていたのだが、夫はいつまでもテレビに夢中で支度をしない。歩くのが遅い私と娘は、先に出かけることにした。
桜は満開だが、ヒートテックを着こむほどに寒い。太陽は、ときたま顔を出すものの、雲に隠れて昼寝をしているようだ。灰色の空が恨めしい。
不意に、後ろからドスドスと重い足音が聞こえてきた。夫である。
「ふー、追いついた。お待たせ」
駅では、階段に近くて、なるべく空いたドアに並ぶが、夫はこれが許せない。
「俺は、階段に一番近いドアがいい。あっちに並ぶ」
夫だけが列を離れ、結局また2対1になってしまった。
上野・国立西洋美術館に到着し、ラファエロのチケットを買おうとしたら、ながーい列ができていた。
「パパ、入場券は買っておくから、入口のベンチに座って待ってれば?」
しかし、夫は不機嫌な顔をしたままだ。
「何で、あんなオバさんばかりのところで待たなきゃいけないんだ」
これには私もカチンときた。
「なにい、親切で言ってるのに。感じ悪いなぁ」
「そうだそうだ。今日は何の日だと思ってるんだよ」
娘も頭にきたようで、助っ人に加わる。夫は黙り、すごすごとベンチに向かった。
(ラファエロ展の関連記事はこちらから)
鑑賞後、お茶を飲んだら、三人とも和やかになる。単純なので、飲み食いすれば、いともたやすく和解するのだ。
上野から有楽町に出て、銀座でランチを楽しむ。(ランチの関連記事はこちらから)
ランチ中は食べ物も飲み物もあるので、ケンカが始まる怖れはない。
食べ終わったら、とっとと家に帰るのが無難であろう。
「ふー、お腹いっぱい。夕飯はちょっとでいいや」
娘はそう言うが、夕方になり、私はおやつが欲しくなる。甘いものではなく、インスタントラーメンがいい。
フーフー、ズルズル。
気配を察知して、満腹だったはずの娘が、キッチンにやってきた。
「ひと口くれい」
「いいよ」
ズルズル。
食べ終わる頃に、夫が1階から上がってきた。
「あっ、ラーメン食べてる! 俺はもらってないのに、ずるい!!」
残念ながら、彼にあげられたのは匂いだけであった。欲しければ自分で作ればいいのに、そこまではしたくないようだ。
知らん顔をしていたら、また1階にドスドスと戻っていき、静かになった。
やれやれ。
お腹を空かせているようだから、夕飯は早めに用意してやるか。
と思ったはずなのだが、ネットに夢中になり、いつもより遅い時間になってしまった……。
開き直って、「ご飯だよ」と夫を呼ぶ。夫は、フラフラと食卓についた。
「お腹空いた?」
「空いた。ラーメンもらってないもんでね」
憎まれ口を叩きながら、彼は細長い包みを差し出した。
「これ、ママに」
「はあ?」
予想外の展開だ。結婚記念日のプレゼントなど、何年か前にもらったきりである。20周年の去年も、その前も何もくれないから、こちらもすっかり忘れていた。
包装紙をはがし、箱を開けてみる。
「おおっ!!」
ネックレスだ。
蛍光灯の灯りを反射し、3連のダイヤがキラーンと光っている。
しかし、身に着ける間もなく、娘が割り込んできた。
「はいはい、ちょっと写真撮らせてね。よっこらしょっと」
「……」
お返しは、インスタントラーメンでどうかしら!?
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