これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

お呼ばれマナー

2010年01月31日 20時46分04秒 | エッセイ
 今日は、教え子でマイミクのみぃ♪ちゃんが所属している楽団、『ハルモニア ウインド アンサンブル』の定期演奏会にお呼ばれしてきた。
 今回で、ちょうど20回目だというから、大したものだ。彼女は在学中、吹奏楽部に入っていたが、卒業後は社会人の楽団で得意のフルートを続けているらしい。
 こういった場にお呼ばれしたら、手ぶらで行ってはいけない。ちゃーんと花束を用意して出かけるのがマナーだと思う。

 かくいう私も、大学生のときには手品のサークルに所属しており、発表会のたびにお花をもらったものだ。
 手品というと、大抵の人が噴き出し、「何でそんなサークルに入ったの!?」と聞かれてしまう。動機は単純で、「タネが知りたかった」だけなのだが、変人の扱いを受けたこともある。
 ついでに、高校生のときは簿記部に所属していたと打ち明けると、「昔から、普通じゃないことが好きなんだねぇ」と呆れられる。それは正しい。平凡で無難で退屈なことは、私の好みではない。

 手品のサークルでは、11月から12月にかけて、世田谷区の公共ホールを借りて大々的なマジックショーを行っていた。連日、遅くまで練習し、当日は朝早くから準備をしたり、リハーサルをしたりと大忙しだ。無事、発表会が終わり、出口で友人から花束をもらう瞬間は、これまでの苦労へのご褒美のように感じられた。
 両手に抱えきれないほどの花をもらうと、持ち帰るのがひと苦労だけれども、これほど嬉しいことはない。
 しかし、当時の彼氏には、私の気持ちが伝わらなかったようだ。「花が欲しい」と頼んだのに、「花屋が見つからなかった」と言い訳されたときはガッカリした。もっとも、彼は毎回欠かさず見に来てくれたから、花がなかったくらいで何十年先まで、ブーブー言われるとは思っていなかっただろうが。
 一輪でもいいのだ。演者は、「これからも、楽しんでもらえるように頑張ろう」という気持ちにさせられる。花には、人を和ませ、前向きにさせる力が宿っている。

 さて、今日の演奏会では、「花束・贈り物受付」という場所が用意されていた。花束を持っていくと、受取人と差出人を書くメモ用紙に記入するよう指示された。
「To       パート        」
 メモのフォームを見て、Toのあとに名前を、パートのあとに楽器を書くのだと思った。
 しかし、名前を書く欄がやけに狭い。「もっと広くしてよ!」と文句を言いたくなったが、強引に詰め込んだ。
「……お母さん、先に楽器を書くんじゃないの? パートのあとに、様があるよ」
 一緒についてきた娘が、笑いながら言った。
「えっ、様?」
 メモの右端を見て驚いた。たしかに「To      パート         様」となっている。
 でも、私は先に名前を書いてしまったから、パートの後ろに楽器名を書く羽目になった。
「To みぃ♪  パート フルート    様」という、しょうもないメモの出来上がりだ。

 ひええ、ごめんなさーい!!
 これって、立派なマナー違反!?

 書き直そうかと思ったが、「大丈夫ですよ」という受付嬢の言葉に安心し、続けて2行目に記名する。
「From  笹木 砂希」

 ああ、恥ずかしい……。
 お花に罪はないから、許してね~~!





 2時間ちょっとの演奏会は、迫力があり、なかなかの盛り上がりを見せた。
 来年は、2011年2月11日に実施するそうだ。「20110211」か。数字の並びが面白い。

 今度は、ちゃんと「楽器」「受取人」の順に記入するぞっ!!




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演奏会関連リンク 「勇気がいります……」

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受験生の気持ち

2010年01月28日 21時50分01秒 | エッセイ
 先日、私の勤める高校で、推薦入試が行われた。
 内申書と面接だけで、早期に合格できるこの制度は、受験生から人気がある。当日、こわばった表情で、ドキドキしながら面接の順番を待つ中学生を見ていたら、自分が受験生だった頃を思い出した。

 私も、推薦入試で、姉と同じ高校を受験した。姉妹で同じ学校に通うことがイヤではなかったし、母からも「一緒のほうが楽」と歓迎された。
 たしか、1月下旬だったと思う。試験当日、余裕を持って家を出たにもかかわらず、バスと電車を乗り継いでいたら、思いのほか時間がかかった。
 時計を見て、友達がせわしなく言った。
「うわっ、遅くなっちゃった! 走ろう!」
「そうだね、急がないと」
 私もうなずき、大宮駅で私鉄の改札を目指してダッシュした。
 すると、後ろのほうから男性の声が追いかけてくる。
「おい、おネエちゃん、ちょっと!」
 ちらと背中越しに視線を送ると、中年のサラリーマンがこちらを見て何か言っていた。よく聞こえなかったし、急いでいたので相手にせず、そのまま電車に乗った。
 無事、目的地に到着し、試験会場まで歩こうとしたときだ。ポケットから手袋を出したら、何と左側しかない。
 私は狐につままれた思いで、記憶の糸をたぐっていった。

 うーん、たしかダッシュする前に外してポケットに入れたはず……。

 ようやく、あのサラリーマンに結びつく。
 私はポケットに手袋をしまったつもりだったが、おそらく右側だけだったのだ。入れ損ねた左側は路上に落ち、私はそれに気づかず走っていった。離れたところから見ていたサラリーマンが、「おネエちゃん!」と教えてくれたのだろう。

 慌てないで、ちゃんと話を聞けばよかったな……。

 人の好意を無にして、お気に入りの手袋をなくしたことを悔やむだけではすまなかった。
 受験生は、たいてい験担ぎをするものだ。

 落とした……落ちた……。わーっ、縁起悪~い!!

 大型台風直撃でも、木から落ちなかったリンゴが、受験生に高値で売られた時代である。
 手袋を落とすという失敗をしでかしたため、入試にも落ちそうな気がして、私は泣きそうになった。合格発表までの5日間、不安な気持ちまま、ドキドキして過ごさなければならない。
 テレビドラマや漫画では、合格発表の場面がよく出てくる。主人公が緊張した面持ちで、受験票片手にボードを見つめている。やがて、表情がパーッと明るくなるや否や、「あった、あった!」と叫ぶのだ。
 あんな風に喜べたらいいなと憧れたとたん、左側の手袋を思い出して落ち込んだ……。

 合格発表まであと2日というとき、私が受けた高校に母が出かけてきた。母は、姉の入学時からPTAの役員をしていて、月に一度は学校で会合をしていた。
「○○先生がね、お母さんの近くに来て、小さな声で話しかけてきたんだよ」
 母はニコニコしながら、学校での出来事を話し始めた。
「大丈夫ですよ、砂希さんは合格してますから、だってさ」
「……」
「内緒にしといてくださいよ、って念を押されたよ」
 しかし、私は半信半疑だった。見たことも会ったこともない先生が、入試の結果をこっそり教えてくれたからといって、素直に喜べない。「ホントかよ」と思う程度である。
 果たして合格しているのかと、モヤモヤした気持ちで合格発表の日を迎えた。友達の前では何も知らないふりをしなければならず、気疲れした。
 掲示板を見ると……。
 その先生が言った通り、私の番号が書かれていた。ウソではなかったことに安堵したものの、はち切れんばかりの喜びは味わえなかった。
「あったー!! よかったぁ!!」
 抱き合って跳ね回っている友達を横目で見る。
 たとえ、不合格かもしれないと不安になっても、中途半端な形で結果を知るのはよろしくない。

 あーあ、教えてくれないほうがよかったな……。




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今度は愛犬家

2010年01月24日 21時01分37秒 | エッセイ
 話題の映画『今度は愛妻家』を観に行った。
 世話焼き女房を薬師丸ひろ子さんが、自堕落なダメ夫を豊川悦司さんが好演し、なかなかの評判である。
 あらすじはさておき、残念ながら私には、この夫婦がまったく理解できなかった。

 何で妻は、あんな男の面倒をみるのかしら。

 たとえば、妻のさくらが夫の健康を気遣い、バランスのよい食事を用意するのに、ヤツはわがままを言って肝心の野菜を食べない場面がある。さくらは何とか食べさせようと頑張るのだが、結局残されてしまう。それなのに、彼女はそのあと夫に、「お茶飲む?」とやさしく尋ねるのだ。「はぁ?」と聞き返したくなるような、信じがたいセリフであった。
 そう感じるのは、私が専業主婦ではないからかもしれない。しかし、おそらく私には、成人の面倒をみるという機能がついていないのだ。もちろん、体が不自由になったお年寄りは別だが、一人前として扱われる社会人である以上、自分の面倒は自分でみるべきだと思う。男女を問わず、必要以上に頼られたり、よりかかられたりしたら迷惑だし、何よりもうっとうしい。
 もし、私がさくらだったら、次の食事から夫の野菜を用意しないだろう。夫を変える努力よりも、夫の行動に見合った対応をするほうが合理的だ。

 だが、世の中には、わざわざ好きこのんで夫の世話をする妻もいる。
 結婚式を挙げたとき、友人代表で祝辞を引き受けてくれた弓子は、おそらくそのタイプであろう。高校を卒業した翌年、一番に結婚した弓子は、マイクの前でこう言った。
「先輩ぶって言わせてもらえば、砂希さんは、ご主人となる龍一さんに、少しは自分の身の回りのことをしてもらったほうがいいと思います。好きな相手には、あれもこれもしてあげたいものですが、その気持ちを抑えて……」
 そんな発想はまったくなかったので、私はギョッとした。隣を見ると、夫も納得のいかない顔をしている。そういえば、彼も人に干渉されることを嫌うタイプだ。自分のことは、自分の好きなようにやりたいと思うから、私の出る幕はない。今から思うと、ちょうどいい組み合わせだったのかもしれない。

 でも、たまにだったら、人に何かをしてあげたり、してもらったりするのはいいと思う。
 私はビュッフェスタイルの食事が好きではない。お料理は、誰かに取り分けてもらったほうが美味しい。料金は高くてもいいから、お店の人に、すぐ食べられる状態になっているものを持ってきてほしい。
 鍋料理も中華の大皿料理も、自分でよそうのではなく、仲間がよそってくれると嬉しいものだ。いつもではないからこそ、ありがたみがわかる。
 だから私も、ときどきは人様の役に立ちたいと思う。その繰り返しだ。
 車間距離のように、他人と適正な距離を空けておかないと、私は気疲れしてしまう性質らしい。

 車間距離なしのベッタリした関係が必要な相手もいる。
 それは子供やペットである。損得計算や利害関係なしに、純粋な愛情を受けたり与えたりできる相手はそうそういない。
 私は子供の頃、犬を飼ってみたかった。心を許した相手に尻尾を振り、飛びついてきて、全身で喜びを表すところが可愛いと思った。しかし、死んだときがイヤだと母に反対され、それは叶わなかった。
 退職したら、自由な時間ができるから、犬を飼うチャンスがあるかもしれない。ひそかにそんな計画を練っている。

 隣の家のコーギーが、救急車のサイレンに反応して遠吠えを始めた。うるさいけれど、微笑ましい。
 すると、私の計画を知らないはずの夫も、真似をして同じように「バオ~~」と鳴き出した。そういえば、夫は戌年生まれである。
 でも、人間の犬はいらないな……。




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もし500億円あったら

2010年01月21日 20時20分52秒 | エッセイ
 エッセイ教室1月場所のお題は、「500億円あったら何につかうか」だった。
 ファーストクラスや豪華客船を利用した海外旅行をするなら、家族3人で1回1000万円としても、5000回行かねばならない。また、都心の一等地に、5億円の豪邸が100軒建てられる金額でもある。欲しいものを全部買うとしても、所詮、庶民の身に使い切れる額ではない。
 さて、あなただったら、何に使おうと思うだろうか。

 先日、私は10年ぶりにケンタッキーフライドチキンに入った。
「食べたことがないから行ってみたい」という娘にリクエストされたのだ。娘は「美味しい」と喜んでチキンやビスケットを平らげ、私はチキンフィレサンドを食べた。
 久しぶりのチキンフィレサンド。かつて、月に一度はいただき、大好物だったものである。ふわふわのパンに挟まれた、ジューシーでスパイシーなチキン。骨もなく、手も汚れず、レタスとの相性抜群の逸品である。ひと口食べて、私は昔の感動を思い出した。

 そうだ、500億円の使い道は、日本国民全員にチキンフィレサンドを支給することにしよう!

 いわば、形を変えた定額給付金である。
 統計局による平成21年7月現在のわが国の人口は、約1億2755万8千人だから、1個380円のチキンフィレサンドに支出する金額は484億7200万円だ。
「チキンフィレサンドよりも辛旨チキンサンドのほうがいい」とか「和風チキンカツサンドにしてほしい」などと言う要望は一切受け付けない。値段が同じでも、伝統と実績に裏付けられたこの味が一番である。
 チキンフィレサンド人気から政界に進出し、一躍、時の人になってしまうかもしれない。ゆくゆくは笹木内閣が誕生し、支持率の下がった鳩山内閣に取って替わる可能性もある。
 妄想そのものの、こんな話をエッセイにした。

 エッセイを読んだ姉が、厳しい質問をぶつけてきた
「でもさぁ、たかがチキンフィレサンドを1個もらっただけで、国民は生活の向上を実感できるものかしら」

 ううっ、痛いところを突かれた!!

 私はひと呼吸置いて口を開く。
「……できないと思う」
「そうよね。やっぱり、ポテトもつけなきゃ!」

 ガクッ。

 一応、15億2796万円が残る計算となるが、1人あたり約12円しかない。
「無理。ポテトのお金はない……」
「ダメじゃん。同じ380円なら、私は吉野家の牛丼(並)の引換券にするな~」
 ふむふむ、それも国民にウケそうだ。
 
 読者のみなさま、笹木内閣発足の暁には閣僚としてお迎えいたしますので、いましばらくお待ちください。
 場合によっては、一生お待ちいただくことをご了承願います……。

 毎度のアクセス、ありがとうございます!
 おかげさまで、本日の更新をもちまして、200作目のエッセイとなりました♪
 ブログ開始より640日目にあたりますが、この先も続けていかれますよう、ご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。




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この日が来ると思い出す

2010年01月17日 19時49分35秒 | エッセイ
 娘のミキが3歳のとき、七五三のお祝いで親族が集まったときのことだ。
「ほら、ミキのお寿司だよ」
 ラップのかかった一人前の寿司おけには、たまごのにぎり4貫と納豆巻きがちょこんと並んでいた。
「わーい、ミキのお寿司だぁ~!」
 娘は喜びのあまり手を動かし、寿司おけを上下させた。
「あああ……」
 大人が止める間もなかった。整列していたたまごも納豆巻きも、強い振動を受けて全部倒れ、寿司おけの中は無残な状態になった。
「こんなになっちゃって。まあ、自分のだからいいか」
 転倒した寿司に祖父母は失笑したが、当の娘は予期せぬ結末に、ただ呆然としていた。

 15年前の今日も、神戸では同じことが起きたのだろう。
 下から突き上げるような震度7の激震に、高速道路が倒壊し、家やビルがつぶれ、街はメチャクチャに破壊された。それまでの生活が一変し、多くの方が亡くなった。
 その日も東京にいた私は、出勤後、同僚と朝の地震について雑談した。
「分断された道路に、大型バスが宙吊りになっていた映像、見た?」
「ああ、見た見た。信じられないね!」
「倒れた灯篭の下敷きになった人が亡くなったんだってね」
 この段階では、まさか6434人もの方が犠牲になるとは予想もつかない。時間を追うごとに、続々と増えていく死者の数が、災害の恐ろしさを見せ付ける。

 同僚の一人に、神戸出身の佳美さんがいた。佳美さんのプロフィールは、過去の記事『困った味覚』をご覧いただきたい。
 たしか、彼女は一人暮らしをしていて、ご両親は神戸にいるのではなかったか。
「佳美さんちは大丈夫なんですか?」
「うん、実はね、ちょっと前に両親をこっちに呼んで、今一緒に暮らしているのよ」
「えー、それは運がよかったですね!」
「本当ね。引っ越す前に近所の人から『東京は地震が多いから気をつけて』って言われたの。まさか神戸とはね……」
 まったく、皮肉なものである。

 あの日の教訓で、タンスや食器棚には転倒防止グッズを取り付けたが、気休めという気がする。こんなもので、本当に大丈夫なのだろうか。
 特に手薄なのが台所だ。関東大震災の午前11時58分、新潟県中越地震の午後5時56分という具合に、食事の支度をしているときに地震が起きたら恐ろしい。
 一応、観音開きの食器棚には、「ヒラカーズ」という金具を取り付け、皿や茶碗が飛び出さないようにしてある。食器棚も固定してあるけれども、上には殺虫剤や水槽のカルキ抜き、虫除けスプレーなどが並んでいるから、グラッときたら、私の頭上にバラバラと落ちてくるだろう。
 右からは電気ポットの湯を浴び、左からは熱々のフライパンが飛んできそうだ。コンロの炎が服に燃え移り、火だるまになる恐れがある。また、背後の窓は割れ、ヒラカーズをつけていない高所の棚からは、鍋がいくつも降ってくるに違いない。さらに、固定していない冷蔵庫が襲ってくるかもしれない。

 あー、ダメ、生きていられないや……。

 まさに地震は招かれざる客だ。
 頼むから、炊事中だけは来ていただきたくないのだが。
 期日指定、時間指定は到底できないし、前もって連絡ももらえないところが辛い。

 犠牲になった方のご冥福をお祈りいたします。




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写経で迎える2010年

2010年01月14日 21時39分13秒 | エッセイ
 以前から、写経には興味があった。

 ギャーテー ギャーテー ハラギャーテー
 ハラソーギャーテー ボジソワカ

 般若心経は、なぜか心に響く。
 今年こそは、年はじめの落ち着いた時期に挑戦したくなった。ネットを見ると、写経用紙セットなるものが販売されているようだ。
 ちょうど、スーパーに行く用事があったので、チラリと文房具売り場をのぞいてみた。意外なことに、まさか置いてないだろうと思った写経用紙セットが、なかなか好位置のスペースに陳列されている。予想よりも需要があるらしい。
 私が買ったセットは、般若心経のお手本と罫線入りの下敷き、それに半紙が20枚入っものだ。下敷きの上にお手本を載せ、その上に半紙を置いて、筆でなぞるだけという手軽さである。
 このお手本が恐ろしく達筆だ。自信に満ち溢れた文字が、これでもかこれでもかとばかりに肩を並べている。
 もっとも、丸ゴシック体や


 ポップ体のお手本など、到底あり得ないだろうが……。


 スーパーでは写経用の筆も売られていたが、書道の小筆と大して変わらない。もっと細いほうが書きやすいと思い、私は自宅の面相筆を使うことにした。筆ペンは、書きにくいから論外だ。
 面相筆は正解だったけれども、開始早々につまずきを感じた。

 漢字が難しすぎる!!

 旧字体にこだわる必要はなさそうだ。しかし、お手本なしでは情けない字になってしまうので、ひたすら真似するしかない。
 これは声。


 触。


 槃。


 写経の効用には、自然の治癒力の向上、脳の活性化などと並んで、集中力や忍耐力が高まるというものがあるそうだ。実によくわかる。初めてということもあり、四苦八苦しながら進むには、わき目も振らず一心不乱に書き続けるしかない。

 是諸法空相 不生不滅不垢不浄不増不減……

 ああ、ここは聞いた覚えがある。
「世の中にあるものは実態がない。だから、生まれたり減ったりするものはない」という意味らしい。
 一切の苦しみから逃れる「悟り」に到達することは期待しないが、偉人の教えはためになる。
 延々と2時間写経を続けていたら、最後の最後で、冒頭の部分が登場した。

 羯諦(ギャテイ)羯諦 般羅(ハラ)羯諦 般羅僧羯諦 菩堤薩婆訶(ボジソワカ)

 本当に難しかった。でも、お手本のおかげで、なかなかの出来だと思うのだが……。



 万一、誤字脱字などがあっても、用紙をゴミ箱に捨ててはいけないという。写経とは、一字一字仏様を書くことなので、不要なものは焼却し、仏様が煙とともに天上に帰っていかれるようにしなければならない。
 私は、20枚全部を書いたら、お寺に納経したい。都内にも、納経を受け付けるお寺がたくさんあるようだ。たとえば池上本門寺。ここには行ったことがあるが、たいそう立派なお寺だった。芝公園の増上寺でも受け付けている。
 だが、私が選んだのは浅草寺である。
 納経のついでに「焼きたての人形焼を買って帰ろう」などという、不埒なアイデアが頭から離れない。
 写経を20枚完了したら、このような煩悩とおさらばできるだろうか……。



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振袖大活躍

2010年01月10日 21時55分45秒 | エッセイ
※ 写真は本文と関係ありません。

 明日は成人の日だ。
 きっと、振袖を着た若い女性で、街中が華やぐことだろう。



 昔は1月15日が成人の日だった。男子はほとんどスーツを選んだが、女子は振袖にするかスーツにするか、迷う者が多かった。これは、今も変わらないと思う。
 私には姉と妹がいたから、両親は迷わず振袖を買った。ピンクの地に花や扇が描かれており、なかなかきれいな柄だった。姉の成人式でデビューしたあとは、私の成人式、結婚式のお呼ばれ、妹の成人式と、大活躍することになる。
 しかし、着物を着るのは簡単ではない。母が着付けを習ってきたが、いつも上手に出来るとは限らず、失敗するときもあった。

 私の成人式では、残念ながらイマイチの仕上がりだったようだ。
「ちょっと、やり直しするから脱いでくれる?」と言われ、その通りにしたのだが、裾の長さとおはしょりが思うようにいかなかったらしい。そのうち母は、「いいや、これで」と妥協してしまった。
 私は、「おいおい」と焦ったけれども、待ち合わせ時間が迫っていたから我慢した。
 その代わり、帯は会心の出来だったようだ。

 市民体育館には、昔の同級生がたくさん集まっていた。「久しぶり」「本当ね」という会話とともに、さりげなくお互いの衣装をチェックする。これは女性ならではの習性だろう。茶色の地味な振袖には「勝った」と胸を張り、黒の艶っぽい振袖には「うっ」とたじろぐ。
 髪のチェックも怠らない。キレイにアップにすればいいものを、中途半端なショートで来ている子を見ると、「伸ばせばよかったのに」と言いたくなる。生花を編みこんだアップは素敵だった。どんなかんざしも、髪飾りも、カスミソウには負けるのだ。「おみそれしやした」と、もろ手を上げて全面降伏しそうになった。
 式のあとは、久々に再開した友達と、おしゃべりをしながらブラブラ歩いていた。私は「そろそろ帰ろう」と思い、道を横断しようとした。反対側に渡るには、縁石をまたがなくてはならない。しかし、着物なので歩幅が足りない。そこで、いったん縁石の上に乗ろうとしたときだ。長ーい袖が草履の下敷きになっていることに、私は全然気づかなかった。

 ビリビリビリッ……

 縁石に乗ったとたん、禍々しい音が轟いた。振袖の付け根、腋の下あたりの糸がほつれた音だった。袖を踏んだまま体を伸ばしたせいで、着物が悲鳴を上げたのだった。
「キャーッ!!」
 私は顔面蒼白になった。正確な値段は知らないが、高価なものであることは間違いない。大急ぎで家に帰り、母に見てもらった。
「何で、大事に着ないのよッ!」とこっぴどく叱られたが、幸いなことに、無事修繕できたようだ。

 その数年後には、妹も着付けができるようになる。着付けのできない私には、たいそう心強いことだった。
 友達の結婚式に招かれたとき、振袖の着付けを母と妹に頼んだことがある。1人より、2人のほうが早く着せてもらえるだろうと思ったからだ。
 しかし、微妙にやり方が違うようで、「そうじゃないでしょ」「何いってんのよ、これでいいのよ」と言い争いが始まった。私は何もわからないから、2人の口論を聞いているしかない。「何でもいいから、早くしてくれ~」と、心の中でひたすら祈っていた……。

 3人姉妹は、とうの昔に、振袖を着られない年齢になっている。
 しかし、十分すぎるほどに元が取れたことだろう。
 いや、タンスで隠居するにはまだ早い。
 この先も、活躍する場があるかもしれない。



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トーテン・ショコー

2010年01月07日 20時56分45秒 | エッセイ
 今日で冬休みも終わりだ。
 気になるのは、娘の宿題である。休み中、ほとんど勉強している様子がなかったので、心配になって聞いてみた。
「宿題終わったの?」
「うん、あと書き初めと社会だけだよ」
 つまり、終わっていないのだ。
 それなのに、今日は午後から部活がある。
「書き初めだけは、部活の前に絶対終わらせないとダメよ!」
「わかったよぅ」

 朝食後、娘はイヤイヤながら書き初めを始めたけれども、お手本通りに書けなくて苛立っていた。書き初め用の筆を使えばいいのに、太筆で書いているからだろう。
「ミキ、書き初め用の筆は?」
「先生が買ったほうがいいって言ったけど、すっかり忘れてた……」
 ちょうど、スーパーに行く用事があったので、そこで筆を調達する。
「わあ、すごく書きやすい。お母さん、ありがとう!」
 娘は喜んで書き初めを仕上げたが、片付ける時間がなくなってしまい、慌てて部活に飛び出していった。残されたすずりや筆を見ていたら、ふと昔を思い出し、書きたくなってきた。字は決して上手ではなかったが、書道は好きな科目だった。
 幸い、半紙はあと10枚ほど残っている。

 よし! 私もいっちょう、書き初めに挑戦してみるか!!

 お手本は「東天初光」。「東」はバランスが取りやすく簡単だ。「天」は画数が少ないのに、字が躍ってしまい難しいから、何度も二度書きして誤魔化した。「初」はもっと書きにくい。何度挑戦しても、ころもへんと刀のコンビネーションが悪い。「光」も思うように書けないが、それらしく見えるから何とかなった。
 書けたものを乾かすのに、うってつけの場所があった。洗濯物を干す、ピンチつきの角ハンガーだ。



「何だ、変なものがぶら下がっているな……」
 夫には奇妙な目で見られたが、これは場所を取ることもなく、コンパクトに乾かすことができる。欠点は、洗濯ばさみのあとが残るところだろうか。気になる場合は、あて紙をすればよい。
 実技系の科目は、1枚目よりは2枚目、2枚目よりは3枚目というように、練習すればするほど上達する。自分が中学生のときは、頭でわかっていてもそれができず、根気が足りなかった。
 教員になってからは、生徒が反復練習を繰り返し、熱心に努力する姿に逆に教えられた。決して理解力が高いわけではないけれども、「頑張ればできるようになる」と信じて辛抱強く学習を続けた結果、検定に合格したり大学に受かったりした生徒がたくさんいる。
 今回は、時間がないので5枚で終わりにした。あまり上手に書けなかったけれども、100枚練習すれば、きっとお手本と寸分たがわぬ出来になるだろう。

「ねえ、お母さんも書いてみたよ。どう?」
 部活から帰った娘に、書き初めの成果を披露した。



 娘は無言のまま、じっと半紙を見ていたが、いきなり右端の書き初めに手を伸ばした。
「これに、ミキの名前を書いて持っていく!」

 違う~!! アンタのために書いたんじゃない!!




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家庭内箱根駅伝

2010年01月03日 21時39分15秒 | エッセイ
 あけましておめでとうございます。

 我が家では、毎年1月2日・3日に行われる箱根駅伝を楽しみにしている。
 昨日の往路は、車で移動している時間と重なり、残念なことに結果しか見られなかった。
 気になるのは、まず自分の出身大学だ。
 インターネットの速報を見ていた夫に聞くと、すぐに教えてくれた。
「専修大学は17位だって」
 
 ガクッ!

 予選会を勝ち抜いて箱根に出場できたのだから、それだけでも大したものだが、いざ本番となると欲が出て、上位になることを期待するものである。私はおそるおそる、次の質問をした。
「で、日体は?」
 日本体育大学出身の夫は、勝ち誇ったように答えた。
「うん、3位だったよ」

 キーッ、悔しい!!

 戦うのは選手なのだが、夫の大学に負けていると思うと、何とも面白くない。胸の中が唐草模様になったような、モヤモヤした感情が生まれてきた。
 そのとき、中央大学出身の友人、コンドウからメールが来た。
「箱根駅伝は往路4位と、まずまず」
 コンドウに恨みはないが、「チッ」と舌打ちしたい気分となり、私の唐草模様はさらに広がった。
「日体大が3位で、夫がご機嫌だから気に入らないわぁ」と返信すると、「打倒日体大で、復路は中大応援して」と返ってきた。私はクスッと笑ったあとに、心の中で「してあげないよーだ」と毒づいた。

 そして今日は、勝負の決まる復路であった。
 朝食のあと、テレビをつけた夫が心配そうな声で、何やらつぶやいている。
「あれ? どこにいるんだろう……」
 トップの東洋大から、駒大、山梨学院大、中大と映っても、日体大は一向に画面に登場しない。「日本体育大学」と書かれたのぼりが、ハタハタと風に揺れているだけだ。
「何だよ、10位かよ!」
 復路3位でスタートした日体大は、いつの間にやら10位に陥落していたのだった。
 私とコンドウのやり取りは、勝負のゆくえにまったく関係ないはずなのに、打倒日体大が実現されていたことに驚いた。
「もう、今日は見ないでいい」
 夫は一気に不機嫌となり、チャンネルを他局に回してしまった。

 あのぅ、専大は??

 せめて最後くらいはと思ったのか、夫は1時過ぎから再び箱根駅伝を見始めた。
 ちょうど10区で、東洋大の高見選手ばかりがクローズアップされている。ようやく映った日体大は依然として10位、そして専大はさらに後ろだった。
 出身大学でなくても、ゴールの瞬間は絶対に見たい。東洋が華々しくゴールを決めた場面では、こちらも笑顔になった。4位中大ゴールシーンには、コンドウも拍手を送ったことだろう。
「あっ、来た来た!」
 見ると、10位日体大が、9位明治大を激しく追い上げていた。
「抜け! 抜け!」
 夫の応援が聞こえたように、日体大が明治大を抜いて9位に浮上した。いずれにせよ、来年のシード権は確実だ。
 夫はそこで見るのをやめてしまったが、私は専大がゴールするまでテレビにかじりついていた。15番目で爽やかにゴールしたが、総合順位はやはり17位だった。来年は、また予選会で頑張ってもらいたい。

 選手のみなさん、お疲れ様でした。
 見ごたえのあるドラマを、どうもありがとうございました。



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