「了巷説百物語」 京極夏彦 角川書店
下総国、佐倉藩の酒々井宿に、狐狩りを渡世にする稲荷藤兵衛(とうかとうべい)がいた。
藤兵衛にはもうひとつ〈洞観屋〉と呼ばれていた。
それは嘘を見破る事が出来るからだった。
天保10年の暮れ、藤兵衛は藩士の山崎由良治から依頼を受ける。
山崎は、百姓が生活の苦しさから子を間引いたり堕すことを政が悪いからだと考える。
そして、今水野忠邦が老中首座になり、この国を良い方へと改革してくれると信じていた。
しかし、その改革を邪魔しようとする動きがあると言う。
それは各地で死霊や妖怪が現れ世間を騒がせ、それが妨害工作になっている。
その妖物を操る化け物遣いが居るので、それを暴いて欲しいというのだ。
藤兵衛は化け物遣いに興味を持って、その依頼を受け江戸に出て来る。
山崎は助っ人を2人付ける。
1人は猫絵のお玉という若い女で江戸の生まれで、江戸の経路を良く知っていた。
もう1人は猿 (ましら)の源助という40近い男で、元は樵で腕力が強いと言う。
山崎が示した数少ない手掛かりは「山岡百介」という男を探れというものだった。
やがて3人は、いくつかの不思議な妖物に触れ、化け物遣いに迫って行く。
そして、その先にあったからくりにも係わって行く事になる。
「巷説百物語」シリーズはこれで本当にお終いなのだ。
今までの登場人物が揃って登場して活躍。又市は姿を現さないが、活躍はしている。
そして、その最期が書かれている人物もいる。寂しいけれど。
物語は今までと同じように、いくつかの章があるが、今回はすべて繋がっていてひとつで、集大成と言う感じがヒシヒシと。
シリーズの他にも「数えずの井戸」との繋がりもあったりして面白い。
物語は「遠巷説百物語」の「恙虫」「出世螺」からの続きと言う事になる。
幕府の政に対する批判や憤り、社会の在り方に対する不満も出て来るが、それは現在の社会と変わっていない。
権力者は金が全ての世の中になってしまっている。
それが根底にあって起こった事件ともいえる。
そして、大立ち回りもあるから、余計に沢山人が死んで暗い気持ちになるが。
最後の章で、ああ世の中はこんな風に続いて行くのだという気持ちになる。
長い旅が終わってほっとしたような気持ちとも言えるかかも。
しかし、たった1人の庶民と言える人物からこんなにも大騒動になるのは、その前からもっと力を持っていないと難しいのではないかと思うが、どうなのだろう。
そして、ひとつ分からなかったのが、仁蔵と冨久と登代のこと。
仁蔵と冨久との繋がりはその前からあったのだろうか、そして冨久の野望を知っていたのだろうか。
読み落としてしまったのだろうか。
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