しましましっぽ

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「凍える墓」  ハンナ・ケント 

2019年04月28日 | 読書
「凍える墓」  ハンナ・ケント   集英社文庫      
 Burial Rites       加藤洋子・訳

1829年アイスランド。
イルガスターデュルにある農場主で薬草商でもあったナタン・ケーティルソンとその知人ピエトル・ヨウンソンが殺される。
殺害犯としてワークメイドのアグネス・マグノスドウティルとシグリデュル(シッガ)・グドゥモンドウティル、キャタダーリュル農場主の息子フリドリク・シグルドソンが逮捕される。
裁判の結果、3人に斬首刑の判決が下る。
刑執行の日まで、それぞれ牧師や行政官に預けられる。
ストラ=ボーグ農場に預けられていたアグネスだったが、事情により、ヨウン・ヨウンソン行政官のコルンサウ農場に移されることになる。
その時、アグネスは教誨師の交代を求める。
指名されたのは、まだ見習いの立場のトルヴァデュル(トウティ)・ヨウンソン牧師補だった。
ストラ=ボーグ農場では、手枷をつけられ閉じ込められ、ボロボロの格好だったアグネス。
コルンサウ農場には妻マルグレットと2人の娘がいた。
アグネスを預かる事に不安と嫌悪を感じていたマルグレットだったが、アグネスの姿を見て、湯を使わせ清潔な衣服を与える。
農場では、働き手として仕事をするアグネス。
マルグレットは指示以外の話はしなかった。
トウティ牧師補も、アグネスと接し方に戸惑う。
しかし、何度も寄り添うように訪ねると、少しずつアグネスが話をするようになってくる。






実際にあった人物の物語。
色々な文献を元に、アグネス・マグノスドウティルと言う女性の生きざまが物語られる。
アグネスの話から、何があったか少しずつ分かって来る。
この当時のアイスランドの暮らしぶりや社会の様子も。
寒い国で、生活の厳しさ、貧しさをまず感じた。
気候によっても住んでいる人の気持ちや生活も随分変わるのだろう。
アグネスを受け入れた、ヨウンソン家の3人の女性のそれぞれの思いや様子も興味深い。
マルグレットは始めてアグネスを見た時、同じ人間・女性として、どんな相手にも最低限の尊厳を守る事を本能で感じたのだろう。
トウティ牧師補も自分の考えを押し付けることなく、接する。
自分のことを思ってくれる人がいると言う事がアグネスにも伝わり、変わっていく。
自分が話すことを聞いてくれる人がいると言うのも重要な事。
事実だからか変えられないけれど、読んでいてアグネスが助かったらよかったのに、と思えた。

不思議に思ったのは、“シッガの死刑回避の嘆願申請されている”とアグネスが知った時の反応。
アグネスの話が本当だとしたら、シッガこそ何もしていないのに死刑にされようとしていたのではないのか。
それなら、それを喜んであげるのがアグネスのような気がするが。

 
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