乗った後の景色

電車・気動車・バスに乗ることが好きな乗りマニアによる旅行雑ネタブログです。

慶州の月城原発

2011-08-09 | 韓国
 韓国慶尚北道の慶州市は世界遺産に指定された古都で韓国を代表する観光地の一つです。その慶州に行くなら名所古跡はもとより皇南パンに校洞法酒ああウマそう、という方面にもなだれこみたくなるところですが、先日はそうした誘惑に富んだ内陸の慶州中心部はガマンし海岸線だけをバスで抜けました。

 慶州での目的地は海岸線に位置する月城原子力発電所です。慶州は内陸の観光地の印象が強く原発があるというのは意外な気がしました。ここは古里原発に続き韓国で2番目に作られた原発で、現在運転中の原子炉が4基、さらにすぐ隣には新月城原発が建設中です。敷地は慶州市陽北面奉吉里と陽南面羅児里の境界線を跨いでいて、正門や原発をPRする広報館(弘報館)は南の羅児里側に面しています。
 羅児里に行くバスは2路線あり、1つは慶州バスターミナルからの陽南行き座席バス150番、もう1つは蔚山の市外バスターミナルからの(慶州市)甘浦行きの市外バスです。今回は釜山広域市と蔚山広域市の境界線上にある古里原発からハシゴしたので蔚山で後者のバスに乗りました。
 ここが羅児だよ、と運転士さんに言われて降ろされたところは東の海岸線を南北に走る国道31号線沿いのどうということもないような集落です。

 国道に沿って広がる町を歩いてみると夏の陽射しを受けた建物の白さが海辺の町らしさを引き立たせなんだか南イタリアをちょっと思い出しました。


 国道から海沿いに出るとどーんと原発を背景にした浜辺が登場します。なんでもここでは地引網をするそうです。こんなとこで地引き網して魚獲って食って楽しいかっていうとかなり微妙ですが。温排水に寄ってくる魚目当てで釣り人が来るのか釣具屋も見かけました。


 原発のまん前で魚かあとなどと思っていたくせに空腹になると身勝手なものです。耐えられずフラフラと海辺の刺身屋に入ってしまいました。

 フェトッパプすなわち刺身丼10000ウォンを頼んだらカレイか何かのウマい白身がたっぷり丼に盛られ、メシはご丁寧に2杯分出てきます。

 韓国で刺身を食べる時のお約束メウンタン(辛い魚の汁物)も出てきてこれまたウマく食べ過ぎてしばらく動けなくなりました。


 なかなか腹がこなれた気がしてこないのであきらめて満腹のまま刺身屋を出ます。また浜辺に出て原発に向かって歩いていくと暑い昼下がりに女の子たちが海に入って楽しそうに遊んでました。なんだか原発とたわむれている感じです。


 そのうち浜辺に鉄条網が立ちはだかり先に進めなくなります。その鉄条網ギリギリにテント張ってくつろぎながら釣りにいそしむ人がいました。なるべくギリギリまで温排水口に近づきたいというということでしょうか。


 という背景さえ気にしなければごくのんきな雰囲気の中、ふと鉄条網から陸地側を見たら物騒な方面が陣地を構えていてびっくりです。

 そういやここはまだ「休戦」中の分断国家なのでした。ついつい油断してしまいますけれども。原発は戦争になったら格好の標的でしょうからそんな国に建てていていいのかしらんと思ってしまいますが「北」からしても「自分の領土」なのでそこを汚染させてはマズいだろうという暗黙の了解みたいなものでもあるのでしょうか。

 浜辺が行き止まりになったのでバス通りの国道に戻りました。国道沿いに正門があり、入ると公園と原発をPRする広報館が広がっています。


 広報館に入ってみると人類は発展と共にエネルギー消費量が増え、温暖化の問題が浮上、ああ救世主原子力バンザイ、という流れはどこも一緒なので割愛しますが、大きな模型などは少なくパネルでの展示が多いのでややあっさりめな印象です。またここは韓国の原発の歴史展示が他の原発の広報館より多めでやや異彩を放っていました。年表とともに昔実際に使われていた資料や記念品なんかがここ月城原発のもののみならず保存展示されています。

 その中でまず月城原発に関する展示物を見るとカナダ国旗が多く目に付きます。なぜかというと韓国の原発のうちこの月城原発だけはカナダの技術を導入したもので、運転中の4基全てが重水炉(CANDU炉)であることが特徴なのだそうです。重水炉は核兵器生産に好都合という利点(?)もあるというので冷戦時代の軍事政権の思惑が何か絡んでいたのかちょっと気になったりもします。最初に運転を開始した原子炉は1983年に運転開始とそろそろ30年の設計寿命を迎えるのでそれを延長していいのかどうか物議を醸しているそうです。

 古里原発や蔚珍原発、また原子力に限らず韓国電力公社自体の資料も並んでいます。

 歴史的展示物の点数はあまり多くなくそう一貫性があるようにも見えなかったのですが実物があるとぐんと興味が増すものです。


 順路の最後の方になると事故の解説がいくつかありました。「スリーマイル事故とチェルノブイリ事故の比較」は「スリーマイルの事故はチェルノブイリと違って死人も出てなくて大したことなかった。韓国の主流である(加圧水型)軽水炉はスリーマイルと同じだから安心。」みたいな持っていきかたです。それだとやや苦しい気もしますが。また地震で派手に壊れた日本の新潟県にある柏崎刈羽原発についての解説もありました。柏崎刈羽原発は日本海側で韓国に近いからでしょうか。この解説では韓国は日本みたいに地震がないという文脈で安心させようとしているようでした。


 最近作ったっぽいのがこの「PWR(加圧水型軽水炉)・BWR(沸騰水型軽水炉)設計特性と安全性の比較」という掲示です。「韓国の原発はPWR、日本はBWR、日本のBWRの方が危ない。」という内容です。

 もっとも日本にもPWRの原発はたくさんあるので日本の原発=BWRという前提なのはおかしな話なのですが。多分BWRである「フクシマ」と韓国の原発は違うと思わせる必要が先にあって作られた掲示なんだと思います。「フクシマ」の事故はあまりに大きくしかも現在進行形なのでそれを思い出させてしまう「フクシマ」の文字は出したくない、でも韓国とは違うと思わせたい、という辺りからこのような比較になってしまったんではないかと推測してみました。いずれにしても福島第一原発の事故でとばっちり食ってるのは間違いなさそうです。「ダメ日本のせいでチクショー」と恨んでる原発関係者(特に広報方面)が韓国はもとより原発を持つ全ての国にいるんだろうなあとしみじみ思ってしまいました。

 展示を見終わったら隣接する公園に降りてみます。

「青い空」「澄んだ空気」「キレイな自然」「原子力の約束」といった押し付けがましいパネルと共に何やら重そうな碑が立っていました。羅山初等学校(小学校)跡とあり、見ると1997年原子炉3・4号基ができるにあたりそこから914m以内が居住制限地域とされ全ての住宅や建物が撤去されることになった→原子炉から500mの位置にあった羅山初等学校は移転することになり跡地に記念碑を立てた、という話です。何ごともなくてもそれくらいの範囲は居住制限地域になるんですね。チェルノブイリや福島を考えると気休めにもならないような距離ではありますが。(914mは1000ヤードですからアメリカで考えられた基準でしょうか。)


 という具合に月城原発見物を終えたあとは、その北、直線距離でわずか3.5kmのところにある新羅の文武大王陵(大王岩)という海中墓を見に行きました。海岸から遠目だと文武大王陵はただの岩くらいにしか見えませんが、付近は海水浴場になっていてとてもにぎわっています。ここへ来てようやく古都慶州らしさ(?)を感じ、慶州に原発があるんだなあと改めて思いました。
コメント (5)
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