囲碁とはSFである

2013年04月23日 | コラム

 碁をはじめてみた。

 私は将棋ファンであるが、将棋好きにも二種類のタイプがいる。それは碁も打てる人と、打てない人。

 私は典型的な後者であり、碁のことはまったくわからないし、興味も持ったこともない。知っていることのせいぜいが『ヒカルの碁』に書いてあったこと程度。だから、こないだまでコミが6目半になっていたことすら知らなかった、まさにずぶのド素人である。

 そもそも、囲碁は将棋とくらべてとっつきにくいというイメージがある。いや、碁もルール自体はシンプルなのだが、見ていて勘所がつかみにくい。

 将棋の場合、駒の動かし方さえ覚えれば、駒の損得とか、玉の固さとか、そういったビジュアル面でどっちが勝ってそうとか判断できるし、ゴールは王様を詰ますこととハッキリしていてわかりやすい。

 囲碁の場合、そこがつかみにくい。盤面には白と黒しかなく、どこにポイントをしぼればいいのかの判断が難しい。中盤の形勢判断とかちっともわからないし、そもそもどうなれば終局なのかとかもちんぷんかんぷんだ

 実際、将棋の棋士である阿部光瑠四段など、子供のころ『ヒカルの碁』の影響で碁をはじめてみたが、ルールがよくわからないまま将棋に転向し、そのままプロになったというエピソードがある。やっぱり、囲碁は導入部にやや高い敷居があるようだ。

 そんな私がなぜ碁をやってみようかと思ったのかといえば、宮内悠介の山田正紀賞受賞SF囲碁小説『盤上の夜』と、団鬼六の『落日の譜 雁金準一物語』がえらいことおもしろかったことと、たまたま碁石と折りたたみの盤をいただいたこともあって、「これはいい機会かも」と、軽い気持ちで手を出すことになったのだ。

 一応、ざっくりしたルールは阿部四段同様『ヒカルの碁』で知ってはいたが、いかんせんそれ以上の定石やらはさっぱりわからない。

 私はこういうとき教室などよりも独学で本からはいるタイプなので、さっそく図書館に走って入門書をいくつか借りてきた。井山裕太本因坊や石倉昇九段の本などである。

 家で折り畳み盤を広げて、まずは黒石をパチリ。うむ、安物だが音は悪くない。将棋もそうだが、この駒や石を打ちおろすときの乾いた音が士気を高めるのである。

 ネット対局も悪くないが、やはりリアルの盤駒にはそれなりの良さはあるものだ。碁も将棋もよく「上達するにはいい盤を使いなさい」というが、それは営業戦略もあるけど、やはりあの「パシ!」という音が気持ちいいというのも大きいのだ。スポーツだって、バットやラケットの打球感がいいと、練習が楽しくなりますからね。

 とりあえず、本の手順に導かれるままに並べてみる。もちろん、意味はわからないが、まあよい。まずは習うより慣れろだ。

 数冊分の定石や実戦例を鑑賞してみたところ、私の持った印象は、

 「碁ってSFなんやー」

 ということであった。

 これは、『盤上の夜』に引きずられたというわけではなく、まず碁の19路盤をあらためて見たときの第一印象というのが、

 「SF映画のレーダーの画面みたい」。

 そう、ガンダムとかスタートレックに出てくる大画面のあれだ。オスカーとマーカーが、「4時の方向に敵戦艦発見。15分後には接近します!」とかやってるやつ。

 そこに碁石を置いてみると、ますますレーダーっぽくなった。黒石と白石が、まるで植民星かスペースコロニーのように画面上に勢力を作っていく。

 そうして、手が進むごとに、宇宙模様が徐々に描かれていく。星同士、コロニー同士がぶつかりあい、押し合いへしあいしながら陣取りゲームを行う。うーん、これはまさに、銀河帝国同士の宇宙戦争をレーダーで鑑賞しているみたいではないか!

 というと、「幼稚か!」とつっこまれそうだが、『ヒカルの碁』の中でも、ヒカル君が、

 「この盤は宇宙なんだ。オレはここに自分の手で宇宙を作り出すんだ」

 みたいなことを言っていたではないか。いや、それどころか、石倉九段の解説によると、碁盤とは暦や占いにも使用され、19路の由来もそこからきているし、碁盤全体のイメージは宇宙からきているという。

 盤上にある点が「星」と呼ばれることも、真ん中の星が「天元」であるのも、その表れだ。

 さらには、碁盤はそれ自体は二次元の平面だが、本質的には天元を中心としたピラミッド状になっているらしく、実際は三次元の立体的な空間なのだ。

 おお、ますますSFっぽいではないか!宇宙戦争にピラミッドパワーで銀河構築。シブすぎる。板の上の宇宙。フェッセンデンか。

 将棋が、駒の性能を生かした「ソロモン攻防戦」とか「ア・バオア・クーの戦い」みたいなモビルスーツの接近戦だとすれば、碁の方はレビル将軍が指揮するところの「星号作戦」みたいなものか。うーん、ますますシブい。なんか「三連星」とか出てくるし。やっぱりSFやん。

 という私のイメージが碁の正しいとらえかたなのかどうかはわからないが、ともかくも勝手に見立てたところでは、「囲碁=銀英伝」みたいな感じである。あるいはアシモフか。

 そんな私は今のところシチョウすら今一つ理解できていない素人であり、銀河帝国の興亡というか、田中啓文さんの銀河帝国の弘法も筆の誤りといったところだが、とりあえずのところは宇宙戦線司令官アマチュア10級くらいを目指して精進したい。

 
 ■この話題、次回(→こちら)も続きます。


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