前回(→こちら)の続き。
「心臓発作を覚悟」
という心意気で、日本のチーズのせカツカレー大盛りをむさぼり食らう、カレー大好きアメリカ人、クリス・コーラー氏。
ここまで彼を虜にしたカレーとは、いったいどんなものなのか。その出会いを氏は語ってくれる。
果たしてそれは、有名な中村屋のカレーか、それとも日本のオジサンが愛する「おそば屋さんのカレー」かと問うならば、
「初めてあの恍惚とした気分を味わえば、それはもう忘れることはできない。私はそれを、金沢大学の学食で経験した」
学食かよ!
学食。それは、まずかろう安かろうを地で行く施設である。
私の通っていた千里山大学(仮名)でもカレー(300円)はあったが、学生たちはそれを「ミラクルカレー」と呼んでいた。
それは奇跡的にうまいからではなく、
「300円も取るのに、こんなにまずく作れるのか」
という、きわめて後ろ向きなミラクルだから。
普通、学食とは、うどんの名を借りた粉汁とか、シチューの名を借りた意味不明の液体とか。
なにが原材料かわからず「なにかアニマルの肉」としか表現できない材料を使った唐揚げ丼とか。
そうしたものが、出てくるところであろうと思うのだが、クリス氏がそこで食べたカレーというのが、
「その、天にも昇るような味わい!」
うまかったとは!
私が学食で食べたカレーは、逆の意味で天に昇る味であったが、金沢大学はうまいのか。
負けた、さすがは国公立だ(なんだそれは)。
そこからクリス氏は、他にもココイチや『カレーショップC&C』や『リトルスプーン』『ゴーゴーカレー』などを絶賛。
「ゴーゴーカレーは秋葉原にあって便利」
などと語り、その後故郷のコネティカット州にいったん戻るのだが、日本人街のカレーに落胆。
夢よふたたびと、大学卒業後に再来日。
日本に到着して、まずしたことというのが、
「最寄りのCoCo壱番屋を探すことだった」
どんだけ、カレー好きやねん!
そこからも、旅行鞄をホテルに置く時間ももったいないと、大きな荷物をかかえたままカレー屋をめぐり、店員に「なんやコイツ」とあきれられたりするクリス氏。
ちなみに、荷物の中身の服はすべてXLサイズだそうだ。
間違いなく、チーズカツカレー大盛りの食い過ぎであると推測される。
そんなクリス氏は、その後に縁あってサンフランシスコに住むことに。
「シスコなら大都会だから、カレー食べ放題だぜHAHAHA!」
上機嫌だったクリス氏であったが、
「しかし、ここまで読み進んだ皆さんはもうお気づきのことと思うが、私の期待は裏切られた」
そっかー。まあ、はっきりいってアメリカのメシは大味でまずいから、繊細な日本の味になれたら、もう食べられないかもなあ。
なんて同情していると、クリス氏曰く、サンフランシスコのカレーは、
「上に薄切りトマトと下ろしたパルメザンチーズが乗っていた。吐き気を催す味だった」
かなり、ひどい言いぐさであるが、悪口はそれだけで止まらず、
「最悪なものに至っては、見た目も味も、冷えた茶色い泥水のようだ」
まさに酷評。
冷えた茶色い泥水、すさまじく、まずそうである。
よっぽど腹が立ったのだろう。まあ、気持ちはわからなくもない。
すごくまずいも食べ物って、口に入れたとたん「殺意」としかいいようのない感情がわき上がってくることがあるもんねえ。
そこでクリス氏はリベンジを誓い、ニューヨーク訪問の際、グーグルで
「56番街の近くの日本風カレー店」
で検索をかけて店を捜索する。
こういうとき私なら「ニューヨーク カレー」くらいで検索すると思うが、やたらとキーワードが具体的なところに、クリス氏の執念を感じる。
出張先のホテルで、地元のいい風俗店を探すサラリーマン並のガッツといえよう。
クリス氏はそこで、
「ゴーゴーカレーを見つけたときの気持ちをご理解いただけると思う」
ご理解できたかどうかはわからないが、ともかくも熱意だけは伝わってきた。
よろこんだクリス氏はさっそく店に行こうとするが、時計を見ると閉店まであと20分しかない。
いかん、これでは間に合わない! と、タクシーを呼んで飛び出す。
ところが、あろうことか、そのタクシーが道を間違えてクリス氏は
「もう店はしまってしまっただろうな」
落胆するも、閉店5分前になんとか到着。
18メートルほどの距離をダッシュしてなんとかラストオーダーに間に合うという、ほとんどシチュエーションコメディみたいな展開で店に飛びこんだ。
そこでクリス氏は。
「私はポークカツカレーとチキンカツカレーの2つを注文した」
食いすぎやろ、お前。
私なら18メートルとはいえ、全力ダッシュのあと、ポークカツカレーとチキンカツカレーのダブルなど、絶対食べたくないぞ。
しかも、おそらくはアメリカ人用に、日本のそれの2.5倍くらいの量なのだ。食えるか!
そら、服のサイズもXLにもなるわと。
ようやっと夢をかなえたクリス氏は、大盛りカレーをブルドーザーのごとくたいらげながら、怒濤のカレーレビューをまだまだ展開することになるのである。
(さらに続く【→こちら】)