「全仏オープン」って、どう読みますか?

2016年05月21日 | テニス

 「全仏オープン」という表記は、どう読めばいいのだろうか。

 もうすぐ、テニスのフレンチ・オープンが開幕する。

 通を気取りたい人は、ウィンブルドンのように会場名をとって

 「ローランギャロス

 と呼称することもあり、実際、英語嫌いのフランス人はそう呼んでほしいらしいけど、日本では「全仏」が、一番通りがよいだろう。

 ではこの「全仏」を、どう発音するのが正しいのかと問うならば、これはもうほとんどの方が、



 「決まってるやん。『ぜんふつ』でしょ」


 そう答えることであり、あっさりいえば、それが正解でもある。



 「ぜんふつおーぷん」

 

 これ以上の解答など、日本語には存在するはずもないのだが、ここにその「常識」に果敢に挑んだ男がいたのである。

 友人エビス君と、電話で話していたときのこと。

 ちょうどこの時期、フレンチ・オープンの放送がはじまる時間だった。

 そこで、

 

 「ゴメン、テニス見たいから、そろそろ切るわ」

 

 と伝えると、エビス君は、



 「え? 今、テニスなんかやってるの? テレビ欄に、そんなん載ってたかなあ」



 エビス君は、あまりスポーツを見ないタイプの男子なのだ。

 そこで、地上波やなくてWOWOWやで、と教えてあげると、



 「あー、これか。たしかに、やってるなあ」

 


 納得していただけたところで、友は続けて、



 「へえ、奈良に、こんな大会あったんや」



 唐突に、珍妙なことを言い出すのである。

 奈良

 いったいどこから、そんな単語が出てきたのか。

 フレンチ・オープンって書いてあるんだから、フランスに決まってるだろうが。

 なぜそれが奈良なのか、地理弱すぎだろうと問うならば、



 「だって、『全仏オープン』って書いてあるやん」



 これには、受話器を持ったまま、スココココーンとコケそうになった。

 字面で書くと、なぜにて私がスッ転んだか伝わりにくいが、そのからくりをここに解くならば、彼は「全仏オープン」を「ぜんつ」ではなく、

 

 「ぜんつおーぷん」

 

 と読んだのである。

 なんで「ぶつ」なのか、「」といえば奈良に関係あるんかいなと、勝手に「超解釈」したのであった。

 ちがーう! それは仏様の「ぶつ」じゃなくて、仏蘭西の「ふつ」やー!

 思わず受話器に大声を出してつっこんでしまったが、全ホトケって、そんなぶっ飛んだ読み方されるとは、恐れいった。

 6代目バルタン星人ではないが、まさしくお釈迦様でもご存じあるめえ、だ。

 なんともアクロバティックな読み方であるが、ここに一応友のよしみでフォローすると、エビス君のカン違いも、理解できるところはある。

 漫画家小田空さんも、中国留学から帰国した際には日本の雑誌を読んで「仏料理」という表記に、



 「ホトケ料理ってなんだあ? 精進料理のことか?」



 しばし、首をかしげたそうだが、似たような話ではあるのだ(ちなみに中国語でフランスは「法国」)。

 「仏」といえば、まあ普通は「ホトケ」であろう。

 それ以外だと、「大仏」は「ブツ」。

 「仏像」も「ブツ」。

 「仏陀」も「ブツ」。

 単純に例をあげるだけでも、「ブツ」の方が素直に思い浮かべられる。

 「フツ」って、なんか使うところあるっけ?

 「仏印」とか「仏文科」とかか。

 フランスを仏。あんまし、日常生活で使うことはないなあ。

 その流れでいえば「全仏」は「ぜんぶつ」であるよなあ。

 なにかこう、「論理的に正しい」気がするではないか。

 少なくとも「仏」を「フランス」と読ませるよりは自然だ。

 最初はのけぞりそうになった「ぜんぶつ」だが、検討してみるとこっちのほうがむしろ「正解」のような気がしてきた。

 言葉の響きも、「オールブッダ」となれば、むやみとスケールがでかそうだ。

 おお、いいではないか。全仏(ぜんぶつ)オープン。

 いつの間にか、すっかりこっちにオルグされてしまった。うん、エビス君、私は君を支持するぞ!

 というわけで、冒頭でも述べた通り、大会主催者側は



 「英語ではなく、『ローラン・ギャロス』といってほしい」



 と望んでいるフレンチ・オープンだが、そんなこと知ったこっちゃなく、かつ「正しい」日本語を愛する私としては断然、



 「ぜんぶつオープン」



 という呼称で通し、わがままなフランス野郎を、さらにな気持ちに、させてやりたいところである。

コメント
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