前回(→こちら)の続き。
「昔はよかったなあ」
錦織圭の活躍に、なぜかそんな時代に逆行したため息をつく私。
スーパーヒーロー錦織圭の才能は、われわれ「玄人」のテニスファンの予想すら、はるかに超えるものだった。
グランドスラム決勝進出という、その瞬間彼の全身の骨が折れてキャリアが終わっても、充分すぎるほどの偉業を達成したのにもかかわらず、それだけではないどころか、むしろそこからがスタートだった。
世界ランキングはシード権がどうとかなどフっ飛ばしてトップ10入り。どころか、最高4位にまで達する。
ツアーは3とか4どころかすでに11勝。マスターズ準優勝が2回。日本人には鬼門のクレーの大会でも優勝している。
デ杯はワールドグループ進出どころかベスト8に入った。グランドスラムもベスト8は目標どころか、今では「そこからいくつ勝てるか」が課題だ。
正直、ここまでとは思わなかった。「見る目ないなあ」と笑われてもけっこうだが、でも予想できた人もそんなにはいなかったのではないか。いたとしても、どこか「希望的観測」だったはずだ。
だからこその『テニスマガジン』の「速すぎる」発言なのだ。「ゆえに、我々がまだついていけてない」と。
その証拠に、今でも彼の試合を見ると感覚が狂う。
たとえば、最近勝った相手に、ロベルト・バウティスタ・アグートやアレクサンドル・ドルゴポロフといった選手がいる。
ロベルトは最高14位で2014年には「ATPツアーでもっとも上達した選手賞」を獲得。アレクサンドルは最高13位でデビュー時から天才肌と評判だった。
ふたりとも、すごい選手なのである。世界のトップ、一流のアスリートだ。
日本ではあまり知られていないとはいえ、テニスファンなら彼らのことをリスペクトこそすれ、その力を疑うことなどないはずなのだ。
その選手を、錦織圭はいとも簡単に倒してしまう。
これまでなら、ロベルトもアレクサンドルも雲の上の存在。日本テニス界が望んでも、とてもじゃないが届くことのない綺羅星のごとき男たちだ。
それを、6-2・6-3みたいなスコアで、あっさりとやぶってしまうのだ。
それだけじゃない。ビクトル・トロイツキやフィリップ・コールシュライバー、アンドレイ・クヅネツォフといった面々にも、ふつうにストレートで勝つ。
見ていて、目が点になる。あれ? 彼らって、こんなに弱い選手だったっけ?
実際、ファンの中には本当に彼らを「たいしたことない」と思っている人もいるかもしれないが、もちろんそんなわけはない。
そう、少年漫画のセリフのような話だが、彼らが弱いんじゃない、我らが錦織圭が強すぎるのだ。
信じられないが、そういうことなのだ。
もちろん、いまだビッグ4が君臨し、他にも強力なライバルは山ほど存在するが、それでも十分に奇蹟が「起こってもおかしくはない」位置まで来た。
ここで話は冒頭のセリフに戻る。
昔はよかった。まだ錦織圭がトップ50とか30とか階段を上がっている最中なら、ここまでハラハラせずに試合を楽しめた。
(続く→こちら)