前回(→こちら)の続き。
気の置けない友人たちに誘われて、初のUSJデビューを果たした私。
ジョーズにスパイダーマンなど定番のアトラクションを楽しみ、次は観劇と行こうと「モンスター・ライブ・ロックンロール・ショー」の会場に入ったら、そこにまさにこの世の地獄という恐ろしさが待っていた。
いや、ビビったのはドラキュラやフランケンではない。それよりも、舞台に登場するにおいては貞子やジェイソン以上の恐怖をもたらす化け物、その名も「おすべり様」のせいだ。
おすべり様到来は、開始5秒でわかってしまうことがある。
この日がまさにそうだった。ショーのMCをつとめる、ティム・バートン監督でおなじみのビートルジュースが登場した途端、「あ、ヤバいかも」と感じさせられた。
これからライブがはじまるというのに、観客の温度が低いままだからだ。
危惧は当たった。ゆかいなノリで出てきたビートルジュースは跳ねまわったり、楽しいジョークを披露したりして客席をあたためようとするが、ほとんど反応がないのだ。
理由はよくわからない。外が寒かったせいで客のテンションが低いのか、それともビートルジュースが不調なのかは不明だが、観客はうんともすんともしない。
「つかみ」はものの見事に失敗していた。おそらくはプロのアンテナで瞬時に「アカン空気」を察したであろうビートルジュースはそこから関西弁を交えてみたり、客席の子供をイジってみたり、拍手やウェーブをうながしたりするが、相手はビクともしない。
嗚呼、ダメだ、完全に「おすべり様」が降臨している。
客席がしだいにザワザワし出した。おそらくは全身冷や汗でビッショリのビートルジュースはなんとか取り戻そうともがくが、そこを頑張れば頑張るほど、ますます空回りである。
子供が不安げな顔をする、アジアから来た観光客が言葉がわからないなりに異変を感じ取っている、隣のカップルなど瀕死のMCから話を振られないよう、ずっと下を向いてる始末だ。
私はここで、大声をあげたくなった。なぜなら、自分もヤングのころはアマチュアで、演劇をやったり落語をやったりして舞台に立ったことがあるので、
「舞台ですべる」
ということの恐ろしさを体験したことがあるからである。
今でもおぼえているのが、高2の文化祭の1日目。
不運というか、学校側もなんとかせえよと気もするけど、その日は校舎改築の工事が行われていたのだ。
これがキツかった。われわれだけでなく、文化系クラブや舞台で出し物を企画していたクラスなどはみな被害にあったろうけど、どんな感動的なお芝居も、ブラスバンドの熱演も、軽音のライブも、放送部の朗読会も、そのすべてが、
「ガガガガガガガガ! ガン、ガン、ドン、ガンガン、ガガガガガガ!」
という工事の騒音にかき消される。演劇部がシェイクスピアを熱演し、
「おおロミオ、あなたはなぜロミオなの!」
と1年の練習の成果を披露しようとも、窓の外から、
「山本さん、ちょっとそこのドリル取ってんか」。
という職人さんの指示の声にかき消されるのだ。あれは今考えてもひどかった。
さらにいえば、この日の午後の部では客に「クラスのイケてる男子」が大量にやってきて、これにもえらい目にあったもの。
というと、「そんなリア充な子ならノリもよくて、盛り上げてくれるんじゃないの?」
なんて声が聞こえてきそうだが、これが逆。
他の地域は知らねど、関西では10代の男子はほぼ間違いなく、
「自分が世界で一番笑いのセンスがある」
そう思いこんでるから、こりゃ大変。そんな人がズラリと並ばれた日には全員が、
「さあ、このセンスの塊であるオレ様の前で、凡人諸君はどんな出し物を見せてくれるのかな」
といった「テレビ局の偉い人」みたいな態度で接してくるから、もう勘弁です。お願いやから帰って、と言いたくなる。
そんな嫌な記憶を、ビートルジュースは喚起させてくれて、もうこっちは舞台はいたたまれないわトラウマは刺激されるはで、ダメージも2倍。
でも、ビートルジュースを責める気にもなれない。だってわかるもの。全身が冷え切って、それでいてやたらとイヤな汗だけはふき出して、
「さらし者」
「生き地獄」
「公開処刑」
という単語が目の目でグルグル回る。嗚呼、今ここに爆弾でも落ちへんやろか、そしたらみんな死んでオレ助かるのに、なんて物騒なことすら考えてしまう。
げに恐ろしきは「おすべり様」到来で、おまけにダメを押すようにドラキュラがどういう不始末なのか、全然声が出てなくてそこでもドッチラケになったりと、まあなかなかな修羅場でした。
この体験のあまりのインパクトに、すっかり初USJの記憶はミニオンでもハリー・ポッターでもなく、
「色んな意味で恐怖のモンスター・ライブ・ロックンロール・ショー」
に占拠されることとなった。
オーコワ。あんなん、ジェットコースターなんかより、全然恐いですわ! デヴィッド・フィンチャーあたりに映画化でもしてほしいものだ。私はよう見ませんけど。