「ビートルジュースがすべっていたなあ」。
というのが、記念すべき初USJの感想であった。
昨年、大阪市此花区にあるユニバーサル・スタジオ・ジャパンを、初めておとずれることとなった。
私は生まれも育ちも大阪という、バリバリの浪速っ子にもかかわらず、なぜかUSJには縁がなかった。
それは、こういうところに行きそうなリア充的友人に兵庫県在住が多く、遊ぶとなるとどうしても、そっちに出かけることになるせいだが、このたびようやっとデビューすることができたのである。
苦節17年、長きにわたって未踏の地であったUSJの感想はいかがなものなのかと問うならば、冒頭のそれでビートルジュースが盛大にすべっていた。
これが実につらかった。
最初はよかったのである。勝手知ったる仲間たちと、ワイワイいいながら園を散策。
スパイダーマンやジョーズといった定番のアトラクションを楽しみ、11時のパレードではミニオンと一緒にダンスも踊った。
ここまでは順当すぎるほど順調な足取りだったのだが、ここでだれかが、パンフレットを見ながらこんなことを言ったのだ。
「あ、もうすぐモンスター・ライブ・ロックンロール・ショーがはじまるよ」
モンスター・ライブ・ロックンロール・ショー。
ティム・バートン監督作でおなじみのビートルジュースをはじめ、ドラキュラにフランケン、狼男といった怪物ランド……じゃなかった恐ろしい西洋のモンスターたちが夜の闇にまぎれてロックンロールをぶちかますというイベントだ。
おお、これはいかにも楽しそうではないか。会場がミニオンのパレードからすぐに行ける位置ということで、その流れで入ってみることに。午前中ということでか、さして並ばされることもなくいい席を取ることができた。
中はいかにもホラーショーらしく、なんともおどろおどろしい作りである。もうすぐここで、恐ろしくもゴキゲンなロックを堪能できるのだ。
私はシートに深々と身を沈めながら感慨にふけった。
嗚呼、ついに私もUSJデビューか。
先も言ったが友人で、いわゆるリア充的な遊びを好むのは、なぜか大阪ではなく兵庫県人にかたよっており、そのため休日となればこちらのホームである難波や梅田ではなく、
「飲み会の集合場所は西宮北口」
「六甲山でバーベキューパーティー」
「夏は須磨海岸で海水浴」
などと、片道だけで1時間半くらいかかる場所に呼び出されることになることが多い。
ちょっとデートなどしても、イキって
「家で待ってていいよ、オレがむかえに行くから」
なんてうっかり言おうものなら、2時間以上かけて加古川(尼崎市、西宮市、芦屋市に神戸市を抜けたその先)まで行く羽目になったり、
「みんなで猪鍋を食べようよ」
なんて誘われて、
「おお、猪鍋といえば落語『池田の猪飼い』を聴いて以来のあこがれや」
とホクホク顔で出かけると、行先が三田市で(神戸から六甲山を山越えした向こう側)コケそうになったりと、とにかく
「ワシャ、昭和のモーレツサラリーマンかいな」
と、その「遠距離通勤」にヒーヒー言わされていたのだ。リア充はいいけど、もっと近くで遊びたいよ!
なんてボヤくと、
「じゃあ、地元の仲間と行けばいいじゃん」
なんて声も聞こえそうだが、これが大阪の友人となると今度は反対方向にかたよっていて、嗜好が妙にマニアックなノリが強く、
「男色専門の古本屋散策」
「第七藝術劇場で『ザ・コーヴ』鑑賞」
「オウム真理教のコンサートを体験」
といった、サブカルチャーな香りのするイベントに連れていかれることになる。
ちなみに、同じ私の友人同士なのに、大阪組と兵庫組は接点が全然ないどころか、おたがいに「あの人ら、なに?」と牽制し合っています。
当然といえば当然というか、どっちもに顔を出す私のことも、おそらく「変なヤツ」って思われてるんだろうなあ。
なんてことを考えているところに、舞台が暗くなって、いよいよショーの始まりである。
おどろおどろしい音楽とともに、稲妻の音が鳴りひびき、雰囲気は否が応でも盛り上がるというもの。
で、そこからが地獄の始まりだった。モンスターのではない。舞台に出て来るには「オペラ座の怪人」以上のもっとおそろしい化け物、その名も「おすべり様」がご到来されたからだ。
(続く→こちら)