みなさん今晩は、今年もシャロン賞の季節がやってまいりました。
シャロン賞とは私が、今年1年で感動させられたり、感銘を受けたりした様々な人や物に対して贈られるもの。
今回は「シャロン賞社会思想部門」で、獲得者はシャルル・フーリエ。
みなさまは「空想的(ユートピア的)社会主義」という言葉を聞いたことがありませんか?
世界史の教科書などでは、
「サン=シモンやロバート・オウエンなどによって提唱された社会主義思想であり、のちに《科学的社会主義》のマルクスやエンゲルスによって批判された」
みたいなことが書いてあって、なにか全体的に
「頭の中が、お花畑な人」
みたいなイメージだったんだけど、あらためて調べ直してみると、これがなかなかおもしろい。
そもそも「空想的」という言葉の響きが悪いというか、それを言ったら「性善説」にのっとったマルクスの主張の方が、よほどユートピア的という批判もある。
それとくらべるとサン=シモンらの考え方はのちの
「株式会社」
「百貨店」
という発想の元になっていたりと、現代にも大きな影響をあたえているといえるとか。
フーリエ先生はそんな「空想的社会主義者」であり、サン=シモンやロバート・オウエンと並んで、歴史の試験に出るほどの偉人なんですが、これが実にぶっ飛んでいておもしろいのなんの。
まず、フーリエ先生といえば「情念引力」。
情念引力。
小中高と習った理科の授業では、聞いたこともない言葉だが、先生によるとこれはニュートンの「万有引力の法則」と並ぶ、世紀の大発見だという。
この時点で、なにやら奇人というか、トンデモ臭が芬々と感じられるが、ではその「情念引力」とは、なんなのかと問うならば、
「人は欲望があるからがんばれる」。
みたいなことらしい。
宗教や道徳の世界では、どちらかといえば
「欲望を持つことは不純」
「そういったものは捨てるべき」
みたいなことになりがちだが、フーリエ先生は、
「欲望、ぜんぜんええやん」
そこを肯定する。
たとえば、人は労働することを嫌がるものだが、正当な報酬が得られ、またその労働が本人にとって「楽しい」ことなら、欲望が満たされ苦痛でなくなる。
結果、生産効率も上がるというわけなのだ。
さらには、ワークシェアリング的な発想もあったり、言っていることは、きわめてまっとうというか、どこかの国のブラック企業や政府に聞いてもらいたいくらいだが、ここでフーリエ先生は
「惑星や彗星の動きも、情念引力が関係している」
などと主張し出すから、話がややこしくなってくる。
「銀河の星雲は友情に篤いので、恒星会議を開いて、地球のように危機にある惑星に対して援助を決定したりすることがある」
なんだか少年ジャンプみたいな話だが、そこから先生は理想社会の実現のため、「ファランジュ」という共同体を作ることを提案する。
これがまた、色々と難しいところもあるんだけど、なんか
「フリーセックス全然OK!」
みたいな話が出てきたりするところが、ちょっとアレだ。
そこで、おススメされているプレイというのが、複数人による性交。
それも、われわれが想像するような男女3人でとか、そんなレベルではない。
フーリエ先生流は、32人によるセックスであり、人数が多いとオーケストラのような集合技というか、調和的快楽が得られると。
そんな3Pみたいな、下世話な話ちゃいまんねん、と。
また、フーリエ先生はレズビアンが大好きで、そもそもその思想の根源が、売春宿で百合的な行為をこっそりのぞき見しているところに、
「あれ? もしかしたら、これが《情念引力》なんじゃね?」
そう目覚めたところから、生まれたのだから、エロの力というのは偉大である。
さらにはそういった行為で、調和社会が実現すると、人間も進化して羽が生えて空を飛べるようになり、魚のようにエラができて水中での生活が可能に。
身長は7フィート(約2メートル13センチ)になり、144歳まで生きることができるようになる。
さらには、空から焼き鳥やチキンソテーの雨が降ってきて、木の枝にはラム酒だけでなく、カステラやシャルロットといったお菓子が生り、動物たちが
「わたしたちを食べてください」
列をなして頼みに来るようになり、泉からはシャンパンが湧き出る。
そんなに食べられないよ! という小食な方もご安心。
そのころには人類の胃も丈夫になって、1日に12回の食事をとれるようになるのだ。
読んでて「いや、意味わかんないんだけど……」とおっしゃる読者諸兄はおられるかもしれないが、その判断は正しい。
なんたって、書いている私自身がよくわかってないのだ。なにいうてまんねん、フーリエ先生。
今回の話のタネ本は鹿島茂先生の『パリ・世紀末パノラマ館―エッフェル塔からチョコレートまで』なんだけど、それを参照しても、フーリエ先生がなにを主張されたいのか、いまひとつピンとこない。
鹿島先生の著作の多くは、文章も軽妙かつ平易で、サクサク読みながらパリやフランスの文化が勉強できる、超絶スグレ本。
そんな鹿島先生の筆力をして、困惑させられるのだから、そのフーリエ先生の複雑怪奇な思想を、私のような凡夫が解説できるはずもない。
私の理解力によれば、
「ワシと一緒にエロエロな変態行為をやってたら、宇宙の秩序が安定して理想の社会が実現するんや!」
みたいな感じ。
なんだか、アヤシゲなセックス教団のようだが、もちろんフーリエ先生は大マジメである。
とにかくですねえ、私の理解力など、遠くおよばない数々の「奇想」は知る価値あり。
「なにを言っているのか、わからない度」
は高いが、
「なにか、すごいこといってるらしい度」
もまた爆発しているのだ。とにかくド迫力。
先生の思想を体現したイラストとかもまた、今のカルトっぽくて、実にいい味である。
見てて、頭クラクラするというか、昔友人にオウム真理教の道場連れていかれたとき(行くなよ)、こういうの山ほど見せられて、辟易したことを思い出しちゃったよ。
「パレ・ロワイヤルの奇人」と呼ばれ、弟子からも
「先生、あんまそういうアヤシイこと言わない方がいいッス……」
ビビられていたところもナイスだ。
そんなフーリエ先生、堂々の2018年シャロン賞気ちが……もとい社会思想部門受賞。おめでとうございます。
(狂った社会思想アイルランド編は→こちら)