「勝ち切る」ことの大変さ 先崎学vs佐藤康光 1995年 第8期竜王戦 挑戦者決定戦 その2

2020年02月20日 | 将棋・名局

 前回(→こちら)の続き。

 1995年、第8期竜王戦の挑戦者決定戦3番勝負、第2局

 佐藤康光前竜王先崎学六段の対決は熱戦になり、むかえたこの局面。

 

 

 が強力で、上部も開けて先手が優勢に見えるが、ここから「勝ち切る」となると、これがなかなか……。

 

 

 

 

 

 △36桂と、こんなところから吹き矢が飛んできた。

 ▲同歩には△37銀として、▲同玉なら△28角から、▲55にいるを抜いてしまう。

 

 

 

 そうなっては中央の制空権を奪われ、攻守所を変えてしまうから、先崎は▲47玉と上がるが、佐藤はかまわず△48金と追撃。

 ▲56玉△54歩と打って、先手玉はにわかに危ない。

 

 

 

 先崎は▲26香を一本利かして、△23歩に▲43歩成と踏みこむ。

 △55歩を取られるも、▲同玉で耐えていると。

 

 先手玉は裸にむかれているが、▲43と金も強力で、左辺に大宇宙も広がっており詰みはなさそう。

 一方、後手玉には受けがないから、ようやっと先手勝ちかと思いきや、勝負はまだ終わらない。

 

 

 

 △65金と、ここから迫る筋があった。

 ▲同玉には△87角と、背後からの一撃。

 

 

 

 

 ▲74玉に、△43角成と要のと金をはずされ、これは先手が勝てない。

 先崎は▲44玉と逃げるが、佐藤は△62角とさらに王手。

 

 

 単騎の角打ちだが、これがまた、おそろしいねらいを秘めた一着。

 ▲53金と合駒するのは、△54飛、▲同玉、△64飛までピッタリ詰み。

 

 

 

        ▲同玉の一手に、△64飛まで

 

 

 ▲53銀でも、△55銀、▲34玉、△35飛以下、これまたきれいに詰んでしまうのだ!

 

 

 △35飛、▲同玉に△53角と取って、▲同と、に△46銀打、▲34玉、△44飛と追えばピッタリ。

 

 ここまでがんばって、最後の最後にこんなトン死を喰らったら、泡を吹いて倒れるしかないが、先崎は冷静に▲53桂成
 
 ▲45に逃げるスペースを作って、これで先手玉に詰みはない。

 ちなみに、ここでは▲53角と打つのも、△55銀▲34玉△35飛▲同角成と取る手を作って不詰だが、どちらもギリギリだ。

 ともかくも、これでようやく先手の勝ちがハッキリした。

 といっても、将棋はまだ終わったわけではなく、△64飛と王手して、▲54歩の合駒に△53角と取り、▲同玉に△93飛

 

 

 佐藤康光の執念もすさまじく、これでまだ実戦的には相当危ない形。

 ▲52玉△61銀▲51玉

 必死の逃亡劇で、ついに敵の本丸にトライ成功。

 ようやっと、ここで佐藤の弾が尽きた。

 △43飛と、と金を払ったところに▲53角が落ち着いた手で、ここで後手投了

 

 

 

 ▲31角打からの詰めろになって、受けても一手一手の寄り。

 切り札である、△49金と質駒を取る手などが回ってこないうえ、△62銀のような手も防いで、△53同飛には▲同歩成で今度こそ盤石。

 ……というのは後で解説されればわかることだが、われわれのようなアマチュアレベルでは目がチカチカして、こんな手はとても指せそうにない。

 そもそもその前の、△36桂△65金△62角といった追いこみにも、まず正解手など指せるはずもないわけで、どこかでつかまって尻子玉を抜かれることだろう。

 この将棋は先崎の強さが際立っていたから、懸命のラッシュにもすべて正確に対応できたけど、私レベルだと、強い人がくり出してくる、こういう手の数々にはめまいがしまくります。

 これがホント、ヒーヒーいうわけですが、それが楽しすぎるのがまた困りもの。

 将棋の終盤というのは観るのも指すのも、ほとんど麻薬だよなあと、しみじみ思うわけですね。

 

 (大山康晴の引退をかけた血戦編に続く→こちら

 

コメント
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