「将棋ってさー、どうやったら強くなれんの?」
というのは、将棋ファンが友人などから、たまに訊かれたりすることである。
特に昨今は、ブームを受けて以前より多くなったと思われるが(ありがたいことです)、ではこの問いには、どう答えるのがいいのか。
得意戦法を身につける、詰将棋を解く、プロの対局を観る、いやいや結局、大事なのは実戦だよ、などなど。
まあ、それがふつうというか、間違いなく「正解」なのだが、たいていの場合「強くなりたい」の前には、こういう言葉がセットになるのだ。
「努力しないで」
「ゴロゴロ寝ながら」
「マジ、超テキトーな感じで」
「へーこいてプー」
人生をなめとんのかと、足つきの六寸盤で、頭をカチ割ってやりたくなるが、まあこう言ってはなんだが、私だって将棋の部分を
「スポーツ」
「勉強」
「女にモテる」
などに変えれば、似たようなことは、しょっちゅう言ってるわけで、そら、
「どうやったらテストの成績が(楽勝で)上がるのか」
「テニスが(サボって)うまくなる方法、教えて」
を訊いてるのに、
「コツコツと積み上げることが大事。すぐには結果が出ないかもしれないけど、基礎を地道に反復練習すれば、いつかは伸びるから。長い目で見ていこう」
なんてアドバイスされた日には、苦笑いしながら、
「そういうん、ちゃうねん」
坂口安吾の、
「正しいことは、正しすぎるから私は嫌いだ」
という言葉を思い出させられる。
人生は、そんな理屈通りで動くような、甘いものじゃないんだぞと、説教したくなるくらいだ。
やれ、通勤電車で詰将棋だ、休みの日は将棋ウォーズで指しまくれだと言ったって、「はあ……」でおしまいで、まあ言ってしまえば、それが「ふつう」なのである。
ただ、そういう結論では、いかにも夢がない。
私はここで、けっこう将棋のネタを書き散らかしているが、自分の腕自体は「将棋倶楽部24」で最高二段である。
ずいぶん昔の話で、今は絶対そんな棋力はないけど、一時期そこまで行けたのは事実。
将棋をはじめた人が、とりあえず目指すところといえば「アマ初段」だから、そこをクリアしている身としては、それなりのアドバイスもできるわけだ。
しかも自分でも、かなりいい加減に、そこまでたどり着けたという実感があって、
「ボーッと棋譜並べをして、3ヶ月だけネット将棋を指しまくったら、ブレイクスルーが起って有段者になれた」
ついでにいえば、定跡も手順があやふやで、詰将棋もほとんど解いてない。
必至問題や「次の一手」なども、すべてスルーするという、華麗なナマケモノ将棋ライフ。
それでよう有段者になれたなと、あきれる向きもあるかもしれなが、逆に言えばそんなボンクラでもなれたと、そこに希望があるとも言える。
これくらいなら、相当にハードルが低く、初心者の方にもやる気が見えるかもしれないが、これがそう単純な話に、まとめられない事情があって困りもの。
というのも私の将棋歴というのが、かなりかたよったもので、
「実戦をほとんど指さない」
というタイプの将棋ファンだからだ。
どれくらい指さないかを具体的に語ってみると、ルール覚えたのは小学生のころ。
道場に通って、そこではそこそこ指したものの、たいして上達には役に立たず。
その後中学3年間は『将棋マガジン』と『将棋世界』を、毎月買うほどどっぷりハマりながらも、周囲に将棋ファンがいなくて、一局も指さず。
高校生のときにやっと将棋の、それもコアなファンに出会い友人になり、棋力も同じくらいだったけど、少々変わった事情があって、3年間のつきあいで、20局くらいしか対戦せず。
その後、18歳から25歳くらいまで、またも一局も指さない空白期に突入。
そこでようやっと「将棋倶楽部24」に出会い、3か月ほど指しまくったら二段になるどころか、「あと1勝で三段」というところまでいった。
その後はまた20年近く、ほとんど指さない期間が続くことに。
つまり、ただでさえ、有段者になるまでの局数が少ないうえに、30年の将棋ファン歴で、指さない期間が27年もある。
しかも、もっとも棋力がのびると言われる10代に、実戦と無縁だったのだから、おかしなもの。
とはいえ、特殊だからこそ「ふつうのやり方」で伸びが止まっている人の、突破口になる、なにかが生まれるかもしれない。
そこで今回から、少しばかり、そのあたりのことを振り返ってみたい。
私と同じく、
「ダラダラしながら、初段になりたいぜ!」
という、頭の底が抜けた将棋ファンの方々の、参考になれば幸いである。
(続く→こちら)