「旅に出たい病」は不治の病である。
人には様々な持病というものがあり、躁病とか水虫とか四十肩とか、それぞれあるだろうが、私の場合これが
「海外旅行したい!」
という発作なのである。
ヤングのころから、ヒマさえあればザック背中に世界へ飛び出すバックパッカーというやつをやっていたが、ときにはコロナだったり、円安だったりで、その野望をはばまれることもあるもの。
そういうときは、第二次大戦中のドイツ軍がコカ・コーラの代わりにファンタ作ってを飲んでいたように、代用品で欲望を沈めることになる。
そこで今回も、そんな「旅のファンタ」を紹介してみたいが、前回の『世界の車窓から』『ヨーロッパの車窓だけ』に続いてはこれ。
「外国語のニュース」
海外でテレビのあるホテルに泊まると、よくそこで適当なチャンネルを流しっぱにしておくことがある。
言葉がわからなくても見れるスポーツ中継が多いけど、あとはなんとなくニュースをつけていることもある。
夜に安宿で無音だとさみしいから、ラジオ代わりに見るともなしに見るんだけど、そのせいか、日本でもBBCとかZDFのニュース番組をたまさかみると、旅情のようなものを味わえる。
もちろん、ふだんはそんなもの見ないけど(そもそも日本語でもニュースとかめったに見ないし)、朝とか夕方になんとなしにザッピングしているとき、ちょっとそういうものが流れていたりすると、
「嗚呼、いいなあ」
旅の記憶が喚起されて、なんだかウットリしてしまう。
こういうものは不思議なもので、
「よし、旅の気分を疑似体験するぞ」
という意図を持って録画したのを観たりすると、とてもつまらない気分になる。
その気もないのにテレビやネットを見てたら、たまたまそういうチャンネルに合わさっていたときだと、「思い出すなあ」とステキな気分になれる。
理由はよくわからないが、そのさりげなさが「神様からの贈り物」みたいでラッキー感が増すのだろうか。
海外のニュースといえば思い出すのが、私がよく旅していたころの「あるある」にこんなのがあって、
「みんなでニュースを見ているときアメリカ人がいると気まずい」
そもそもアメリカ人というのは、世界でムチャをやらかすから嫌われているものだが(個人としてみればイイ奴が多いんだけどね)、これが海外に出るとよくわかる。
南米人はたいていそうだし、イスラム圏も当然アンチでバリバリだ。
モロッコを旅したときは、いろんな人から、
「おまえはブッシュとビンラディンのどっちを支持する?」
という質問をされたものだった。知らんがな。
そんなわけなので、ユースホステルなんかでいろんな国の人がワイワイやっているところに、備えつけのテレビから、
「アメリカがアフガン空爆」
「ブッシュ大統領がイラク侵攻を決定」
なんてニュースが流れたとたんシーンとなり、アメリカ人旅行者が暗い顔をしながら部屋に帰っていくなんて場面もあった。
別に政府がやることと市井のアメリカ人は違うわけだし、そんな雰囲気にならなくてもいいのにとも思うけど、彼らは彼らで議論になると、
「オレたちのやってることは正しいじゃん! みんなも、テロリストはゆるせないでしょ? 正義の戦争だよ」
とか言っちゃう人もいるしなあ……。
ちなみにモロッコではまた、
「日本は国を焼け野原にされたうえ、原爆を2発も落とされたのに、なぜアメリカにペコペコしてるんだ?」
とも聞かれて、これには「戦争に負けた罰ゲームやねん」としか答えられなかったが、果たしてニュアンスは伝わってたのかしらん。