「デートといえば海遊館やろ」
大阪の若者が、はじめて彼女と出かけると言えば、こうアドバイスされる時代というのがあった。
今なら、同じことを聞けばUSJと返すろうが、私が学生のころは、
「彼女との初デートは海遊館が無難」
という言い伝えがあり、少なくとも私の周辺では、みな女子と知り合うと、とりあえず海遊館に足を運んだものだった。
今にして思えば、当時のモテる関西女子はきっと、ちがう男とデートするたびにアホほど海遊館に連れて行かれて、辟易したにちがいない。
とはいえ、初デートで「もう、何回もきたから」ともいいにくいだろうし、下手すると、
「ほんなら、前はだれときたんや!」
なんて嫌な感じのカウンターパンチが飛んでくる可能性も大いにあり(なんたって若造だし)、ディズニーランドほどには「何度行っても楽しい」感も少ないだろうし、まったくもってご愁傷様としかいいようがないのである。
では、わが青春時代の90年代に、なぜにてそんな海遊館が推されていたのかといえば、ある友人によると、
「水族館は『順路』があって、その通りに歩いてたら、それなりに楽しめるやろ。だから、男からしたら楽なんや」
なるほど、最初のデートで、それこそディズニーランドみたいな大きめの遊園地とかに行くとフラれやすいというのは、
「選択肢がありすぎて、なにをしていいかわからない」
ことが原因のひとつに数えられる。
勝手がわからずウロウロして醜態さらしたり、まだおたがい、なれてないから、乗り物の待ち時間で会話が続かなくて気まずくなったり。で、
「あかん、コイツはでけへん男や」
との烙印を押される。
一時期はやった成田離婚とかは、これのインターナショナルバージョンであろう。
そういう意味では水族館は、会話なしでも気まずくならず、2時間くらいつぶせる映画館に行くのと、思想が似ているかもしれない。
要は、「することが決まってる」というエクスキューズによって、初デートの緊張と経験値の少なさと、まだ微妙なおたがいの距離感をカバーできるということだ。
さらにいえば映画やライブは「当たりはずれ」や好みの問題もあり、観たあと盛り上がれるかは賭けなところもある。
その点でも「かわいい海の生物」という、それなりのアベレージを見こめるものがあるというもいいか。
「かわいい」って言っておけば、なんとなく楽しいっぽいし。
当たってるかどうかは別にして、ひとつの説ではある。
ちなみに、友人サクラバシ君は、やはりこのセオリー通りに初デートは海遊館を選んだのだが、
「ちっとも盛りあがらんかった」
とボヤいていた。
それはなぜなのかと問うならば、
「オレ、魚嫌いやねん」
とおっしゃる。
それも、なんでやねんといえば、
「だって、あの目が怖いもん」(同じ理由で鳥もダメらしい)
……って、それやったら水族館選ぶなよ!
と、つっこみたくなったが、そんな重度の魚嫌いでも、行かねばならんと思わせるところが、さすが我々は最後の偏差値重視マニュアル世代である。
とりあえず、セオリーには従う。
それくらいに、「初デートは海遊館」という呪縛は強かった。
ちなみに、魚嫌いのサクラバシ君だが、刺身は
「目がないから大丈夫」
ということで好物らしく、同じ理由でフライドチキンもOKだそうである。なんの話や。