必殺! 流星キック 島朗&米長邦雄&羽生善治 登場

2024年09月25日 | 将棋・好手 妙手

 一撃で決まると爽快である。

 将棋の特に終盤戦で、あざやかな寄せが決まったり、見事なカウンターで投了に追いこんだりする手があると、「ええもん見たなあ」と満足感を感じられるものだ。

 なにより、前回紹介した「羽生▲52銀」のように、私がなーんも検討とかしなくていいで、その意味でも楽チンですばらしい。

 

 


 1996年王座戦挑戦者決定戦

 谷川浩司九段島朗八段の一戦。

 谷川が四間飛車から藤井システムにすると、島も十八番の居飛車穴熊に展開。

 激しい攻め合いになって、この局面。

 

 

 

 

 先手玉は穴熊のハッチが閉まって、を渡さないかぎりは相当に詰まない形。

 なので、この一瞬でラッシュをかければ勝ちが決まるが、具体的にどう決めるかはむずかしそう。

 後手は飛車の横利きの守備力と、△41から△32への逃走ルートも開けている。

 控室の検討陣もいい手が見つけられず、先手があせらされているようだが、ここで島が見事な決め手を放つ。

 

 

 

 

 

 ▲62飛成、△同銀▲74角まで先手勝ち。

 スパッと飛車を切るのが明快で、の利きがすばらしく、これできれいな必至

 ▲61金までの詰めろに受けがなく、△61飛とむりくり埋めても、▲43桂△同飛▲52金まで。

 「光速の寄せ」のお株をうばう見事な一撃で、島が羽生善治王座への挑戦権を獲得した。

 


 

 島のさわやかな寄せに続いて、今度は豪快な寄せを。
 
 1993年の第11回全日本プロトーナメント(今の朝日杯)。
 
 決勝五番勝負を戦ったのは、米長邦雄九段深浦康市四段
 
 2勝1敗深浦が優勝に王手をかけての第4局
 
 相矢倉から、激しい攻め合いになってこの局面。
 
 

 


 
 先手玉もせまられているが、まだ詰めろではない
 
 なら、さっきの島と同じく仕留めるチャンスで、またここからの手が、いかにも米長邦雄という組み立てだ。

 

 


 
 
 
 
 


 
 ▲13角成△同桂▲33香がカッコイイ踏みこみ。
 
 ドーンとを切り飛ばしてから、手に入れたこめかみにぶっ刺す。
 
 これで後手玉は寄っているのだ。

 私は少年時代、名著『米長の将棋』がバイブルだったので、この寄せには「米長流やなー」と感動したもの。
 
 以下、△同角▲同歩成△同金▲42角△71飛▲38飛が気持ちよすぎる活用。
 
 

 


 
 △34歩▲31銀△同飛▲同角成△同玉に、▲34飛フライングソーセージが決まった。

 

 

 


 
 あざやかな舞でタイに持ちこんだ米長だが、第5局深浦が制して優勝を遂げたのだった。

 


 最後に1992年B級1組順位戦

 羽生善治王座棋王青野照市八段の一戦。

 羽生はデビューから各棋戦で高勝率を上げていたが、順位戦ではなぜかC2C1B21期ずつ足止めを喰らい(といっても、すべて8勝2敗の好成績での頭ハネだが)不思議がられていた。

 ようやく、たどりついたB1では、今度こそ「早く名人に」という期待に応え、6勝1敗独走態勢に。

 この青野戦でも終盤に勝勢になって、この局面。

 

 

 


 後手玉は裸にむかれて受けがない形だが、先手陣も△78飛一手スキがかかっている。
 
 うまく一手空けば勝ちだが、なにか駒を打ったりしても、△67歩成△77桂成で、かえって速くなる可能性もある。

 だが若き日の羽生は、その課題を見事にクリアしてしまうのだ。

 

 

 

 

 

 


 ▲78角と打つのが、カッコいい切り返し。

 △78に打つ空間を埋めながら、これが遠く△23をにらんだ攻防の一手。

 △67歩成▲同角王手になるうえに、そのあと△78飛には▲同角とバックで取れるから、先手玉は絶対に詰まない

 青野は観念して、素直に△67歩成と取り、同角△56銀▲34歩投了

 将棋には、いい手があるもんですねえ。

 

 


 (渡辺明による「一撃」はこちら

 (その他の将棋記事はこちらから)

 

 


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