見事な「受けの決め手」は楽しい。
将棋の棋風というのはザックリ2つに分けられて「攻め将棋」と「受け将棋」。
どちらを選ぶかは特技や好みで分けられるが、私は「受け将棋萌え」である。
あざやかな詰みや必至もいいけど、どう見ても寄っているようにしか見えない玉が、最後ピッタリしのげている図などを見ると、もうウットリしてしまうのだ。
2005年の棋聖戦。
三浦弘行八段と飯塚祐紀六段の一戦。
相横歩取りの激しい戦いから最終盤、先手の飯塚が▲24歩とタラしたところ。
後手玉は次に▲32竜から簡単な詰み。
一方、先手玉にはまだ詰みはなく、後手陣にこれといった受けも見当たらない。
かといって△12銀とか受けるようでは、先手玉への攻めなくなり苦しそうだが、ここは三浦が読み切っていた。
△12香と上がるのが受けの決め手。
と言われても、見ている方にはなんのこっちゃだが、これで後手は駒を渡さずに必至をかける手段がない。
たとえば、さっきのように▲32竜とするのは△同銀、▲23金、△11玉(!)。
▲32金と必至をかけても飛車を渡してしまったから、△58竜、▲同玉、△38飛から詰まされる。
▲23歩成、△同金、▲同金、△同玉、▲31竜とこちらからせまるのも、今度は金を渡すから△56桂から詰む。
身動きの取れなくなった飯塚は▲42金とするが、そこでもやはり△11玉ともぐるのが決め手。
▲23歩成は詰めろでないし、▲32金と取っても△同銀で、これが自動的に先手玉への詰めろになるから▲同竜と取れない仕組みだ。
ここで飯塚は投了。
早逃げで、
「駒を渡さずに詰めろや必至をかけられない」
という局面に誘導する「ゼット」の応用編のような高等手筋だった。
もうひとつは大舞台での受けの妙手を。
2005年度の第63期名人戦七番勝負。
森内俊之名人と羽生善治三冠(王位・王座・王将)との第2局。
一手損角換わりから、大駒が乱舞する展開で終盤戦へ。
後手が優勢の戦いだったようだが、羽生が△45歩と角道を遮断したのが良くなかった。
△67成銀をねらっているが、次の手がピッタリの受けだったからだ。
▲48金と寄るのが、森内の力を見せたしのぎの技。
△39竜と取るのは▲57金で受け切り。
かといって本譜の△48同成銀では、攻め駒がソッポに行かされて、スピード勝負で明らかに負ける。
以下、▲66香と設置して、△39竜に▲63香成、△83玉、▲75桂と殺到して先手が勝ち。
成銀が僻地へ飛ばされ、先手玉にまったく寄り付きがないから、後手はどうしようもない。
こんな手を3筋で遊んでいたはずの金銀で食らわせるなど、森内からすればガッツポーズでもしたくなったことだろう。
これで1勝1敗のタイに持ちこんだ森内は勢いに乗って、4勝3敗のフルセットの末に名人を防衛。
(三浦の終盤力を見せた大熱戦と言えばこれ)
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