戦慄の人気アイドル地獄変 吉田豪『元アイドル!』 その2

2017年11月30日 | オタク・サブカル

 前回(→こちら)に続き、『元アイドル!』を読む。

 吉田豪さんの文体のせいか一見軽く読めるが、あらためて内容を抽出してみると、

 「そんなん、全然笑えませ~ん

 なエピソードばっかり。

 とにかく、アイドルというお仕事の大変さが、よくわかります。

 胡桃沢ひろこさんは、お父さんがかなり激しい人だったらしく、彼女がちょっと男の子と仲良くしたのに激高し、強烈な回し蹴りを食らわせてきたとか。

 親父、娘に問答無用のスピンキック

 平手打ちならまだわかるが、足技とはガチである。

 それも、これが見事、腹部にクリティカルヒット。

 アバラへし折り彼女は激痛に耐えながら番組出演するはめに。

 胡桃沢さん笑いながら、

 

 「コルセット巻いて、大変でしたよ」

 

 ……って、それで済む問題ではない気がするが、どうか。

 この胡桃沢パパのすごいところは、その後なんの前触れもなくいきなり蒸発

 音信不通になるが、一度だけ葉書が送られてきて、そこには一言、


 「裏切り者は殺せ」。


 ひとり芸能界でがんばる娘に、まさかの殺人指令

 どんなパパからの手紙だ。もはや、アイドルとか全然関係ない修羅場である。竜牙会か。

 そんなハードな本書だが、中には妙に笑えたり、ほのぼのするいいエピソードもなくはない。

 あるとき、宍戸留美さんに「一緒に、舞台やろうよ」と誘ってきたのが、声優であり『新世紀エヴァンゲリオン』のアスカ役で有名な宮村優子さん。

 仕事自体はうれしいのだが、ひどいことに、当時の宍戸さんはドラマの撮影でセクハラを受け、それがトラウマになって仕事ができない状態だった。

 やむを得ず、事情を話して断ろうとすると、そこでみやむーはドーンと胸を叩いて、こう言い放ったという。


 「私が守るから大丈夫!」

 

 くわー、みやむーカッコええー

 そういえばどこかで、



 「宮村は女として見たら、顔はやけど、もし自分が女で、みやむーがやったら絶対ほれるわ」



 という意見を聞いたことがあるが、なるほどたしかに男前やなあ。空手の達人だし。

 ちなみにそのトラウマというのが、16歳のころ撮影現場で大物俳優Kにさわられたというもので、


 吉田豪「あれ、あの人ってホモなんじゃないんですか?」

 宍戸「とりあえず、カツラをかぶっていることはたしかですね(笑)」



 って、この会話も因果がすぎるというものだが。

 前回紹介したような、笑顔もこわばるキツイ人もいるようだが、やはりファンあってのアイドルである。その愛は邪険にはできまい。

 ふたたび、胡桃沢ひろこさんの場合、熱心なファンがいきなり彼女の前に土下座

 あわてて、「なぜ?」と問うならばファン氏は


 「胡桃沢という名前は運勢が悪いので、本名に戻してください! それまで僕は土下座し続けます!」。


 といわれても、リンダならぬ、ひろこ困っちゃうであろう。

 そのファン氏が、本当に心から誠実な想いでもって、やっているのは痛いほどわかるが、まあ本当に痛いのもわかる。

 「し続ける」ってところが熱い。もう、どないせえというのか。

 まあ、アイドルファンといえば、たしかに業の深い人もいるし、アイドル自身に迷惑をかける人もいるが、実際のところはこういうな人たちに支えられている一面も、あるのであろう。

 大変な仕事だが、日本のアイドルとは「宗教なき国の」であるため、その仕事が過酷なのは、ある程度は仕方がないのかもしれない。

 人の罪を背負って十字架にかけられたイエスキリストのように、男子のリビドーを一身に背負って、満身創痍で走るのがアイドルである。

 死なない程度に、がんばってほしいものだ。



コメント
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