今回ご紹介するのは、「風が強く吹いている」(著:三浦しをん)です。
多少ネタバレも含まれていますので、ご了承ください。
-----内容&感想-----
竹青荘に住む10人が、ゼロから箱根を目指す青春小説。
彼らが通うのは「寛政大学」。
陸上の弱小校で、当然箱根駅伝に出場したことなどない。
ある日、蔵原走と清瀬灰二が運命的な出会いをしたことによって、清瀬灰二がずっと心に抱いてきた思いが動きはじめる。
清瀬灰二はずっと、竹青荘のみんなで箱根駅伝に出たいと思っていたのだ。
箱根に出るには選手が最低でも10人必要になる。
竹青荘には9人しかいなかったが、蔵原走が入ったことで、ついに10人になった。
かくして、箱根を目指す壮大な物語が始まっていく。
以下が竹青荘の10人です。
あだ名
蔵原走(くらはらかける) 走
清瀬灰二(きよせはいじ) ハイジ
城太郎(じょうたろう) ジョータ(双子の兄)
城次郎(じょうじろう) ジョージ(双子の弟)
平田彰宏(ひらたあきひろ) ニコチャン先輩(ニコチン大魔王なので)
岩倉雪彦(いわくらゆきひこ) ユキ
ムサ・カマラ ムサ (留学生だがスポーツの留学生ではない)
坂口洋平(さかぐちようへい) キング(クイズ王なのが由来)
杉山高志(すぎやまたかし) 神童 (地元で神童と呼ばれていた)
柏崎茜(かしわざきあかね) 王子(漫画オタク。顔が王子っぽい。)
この10人は変わった人が多いです
タバコの吸い過ぎで部屋の外まで煙を撒き散らすニコチャン先輩。
電気を消して、真っ暗闇の中で風呂に入るムサ。
クイズ番組ばかり見ているキング。
部屋の床から天井まで漫画で埋め尽くされている、漫画オタクの王子。
こんな個性の強い面々を、うまくまとめるのが清瀬灰二です。
それぞれの特性にあった練習メニューを作ってあげたりと、選手としてだけではなく、指導者的な役割も担っています。
そして、天性の才能を持つ蔵原走。
彼は高校時代陸上部で、回りに注目される逸材でした。
しかしあることが原因で高校を退学。。。
以来、競技とは距離を置くようになった彼ですが、走ることだけは毎日欠かさず続けていました。
10人中最速のスピードを持つ走から見ると、ほかのメンバーの力量を物足りないと感じることもある。
ときに衝突し、仲直りし、ひたすら練習する日々。
もう部活のようにみんなで練習するのはこりごりと思っていた走だが、箱根を目指す毎日の中で少しずつ仲間の大切さを知っていく。
そして箱根駅伝三連覇中の王者・六道大学のエース藤岡の存在も、走の闘争心を沸き立てていく。
そして藤岡と清瀬灰二は、同じ高校で陸上部をしていたという過去がある。
お互いの実力を認め合う二人だったが、藤岡は名門六道大学へ、清瀬は弱小寛政大学へと、全く違った道を歩むことになった。
だが寛政大学が箱根の舞台を目指せるところまできたことによって、再び藤岡と相対することになる。
また、走の過去を知る者もいる。
東京体育大学の榊(さかき)だ。
榊と走は同じ高校で陸上部をしていた。
走が起こした事件が、榊には許せないらしい。
何かにつけて喧嘩を売ってくる榊が、私は大嫌いです。
済んだことをいつまでもネチネチと。。。
この榊に対して、走はたびたび感情的になってしまいます。
今にも取っ組み合いの喧嘩が始まりそうな気配に、何度もはらはらしました
カッとなりやすい主人公は、しをん先生の作品では珍しいです。
でも、箱根を目指すには強い闘争心が必要だから、この性格は走るのに向いているかも知れません。
寄せ集め集団と思われていた寛政大学も、走やハイジのエース級の存在や、ほかのメンバーの進歩によって、徐々に注目を集めていくようになります。
奇跡の箱根物語、ここにありです
以下に、物語中で気に入った言葉や文をご紹介します。きっとこの本への興味が増すはず
心地いい。切り裂く風も、踏みしめる道も、この瞬間だけは俺のものだ。こうして走っているかぎり、俺だけが体感できる世界だ。
たとえば俺が1位になったとしても、自分に負けたと感じれば、それは勝利ではない。
頂点を見せてあげるよ。いや、一緒に味わうんだ。楽しみにしてろ。
ジョージは、大切な兄であるジョータと自分を、だれかに比べられたりしたくなかった。ただ、「よく似た顔の兄がいるひと」として、自分自身を自然に認めてほしかった。
たすきに刺繍された「寛政大学」の銀色の文字が、風に翻った。
今日でおしまい。だけど最初で最後に、このスピードを味わえてよかった。
俺はなあ、ハイジ。これが夢であってほしいと思うんだ。二度と覚めたくないほどいい夢だから、ずっとたゆたっていたいと思ってるんだよ。
なんだろう、この感覚。熱狂と紙一重の静寂。そう、とても静かだ。
止めることはできない。走るなということはできない。走りたいと願い、走ると決意した塊を、とどめられるものなどだれもいない。
頂点が見えたかい?
というわけで、三浦しをん先生のすごさを改めて実感した今作でした
走っているときのランナーの心中を、驚くほどドラマチックに描き出していました。
テレビで見ているとわかりずらいですが、ランナーは常に仕掛けどころを狙っていたり、正確なラップを刻むよう細心の注意を払ったり、自分自身の体と対話したりしています。
この本ではそういうのが詳しく描写されていて、少しだけランナーの心理がわかったような気がします。
そして、熱い想いも。
自分の身を削ってまで必死でたすきをつなごうとする姿に、涙が出そうになりました。
もう走れなくなってもいい覚悟で戦うのは、正真正銘チームのためという心境なのだと思います。
こんなに熱い青春小説は初めて読みました。
500ページを超える長編ですが、話が圧倒的に面白いので、途中で読みやめることはありませんでした。
何より、ストーリーに魅力があります。
「この先はどうなるんだろう」と気になり、どんどん読み進んでいけます。
しをん先生の本は必ずストーリーに魅力があるのですが、今回は特にそれが際立ちました。
この本は、直木賞受賞の第一作だそうです。
直木賞受賞作の「まほろ駅前多田便利軒」と比べても、互角以上の面白さがあります。
久しぶりに青春を感じました。
興味を持った方はぜひ読んでみてください
※図書レビュー館を見る方はこちらをどうぞ。
多少ネタバレも含まれていますので、ご了承ください。
-----内容&感想-----
竹青荘に住む10人が、ゼロから箱根を目指す青春小説。
彼らが通うのは「寛政大学」。
陸上の弱小校で、当然箱根駅伝に出場したことなどない。
ある日、蔵原走と清瀬灰二が運命的な出会いをしたことによって、清瀬灰二がずっと心に抱いてきた思いが動きはじめる。
清瀬灰二はずっと、竹青荘のみんなで箱根駅伝に出たいと思っていたのだ。
箱根に出るには選手が最低でも10人必要になる。
竹青荘には9人しかいなかったが、蔵原走が入ったことで、ついに10人になった。
かくして、箱根を目指す壮大な物語が始まっていく。
以下が竹青荘の10人です。
あだ名
蔵原走(くらはらかける) 走
清瀬灰二(きよせはいじ) ハイジ
城太郎(じょうたろう) ジョータ(双子の兄)
城次郎(じょうじろう) ジョージ(双子の弟)
平田彰宏(ひらたあきひろ) ニコチャン先輩(ニコチン大魔王なので)
岩倉雪彦(いわくらゆきひこ) ユキ
ムサ・カマラ ムサ (留学生だがスポーツの留学生ではない)
坂口洋平(さかぐちようへい) キング(クイズ王なのが由来)
杉山高志(すぎやまたかし) 神童 (地元で神童と呼ばれていた)
柏崎茜(かしわざきあかね) 王子(漫画オタク。顔が王子っぽい。)
この10人は変わった人が多いです

タバコの吸い過ぎで部屋の外まで煙を撒き散らすニコチャン先輩。
電気を消して、真っ暗闇の中で風呂に入るムサ。
クイズ番組ばかり見ているキング。
部屋の床から天井まで漫画で埋め尽くされている、漫画オタクの王子。
こんな個性の強い面々を、うまくまとめるのが清瀬灰二です。
それぞれの特性にあった練習メニューを作ってあげたりと、選手としてだけではなく、指導者的な役割も担っています。
そして、天性の才能を持つ蔵原走。
彼は高校時代陸上部で、回りに注目される逸材でした。
しかしあることが原因で高校を退学。。。
以来、競技とは距離を置くようになった彼ですが、走ることだけは毎日欠かさず続けていました。
10人中最速のスピードを持つ走から見ると、ほかのメンバーの力量を物足りないと感じることもある。
ときに衝突し、仲直りし、ひたすら練習する日々。
もう部活のようにみんなで練習するのはこりごりと思っていた走だが、箱根を目指す毎日の中で少しずつ仲間の大切さを知っていく。
そして箱根駅伝三連覇中の王者・六道大学のエース藤岡の存在も、走の闘争心を沸き立てていく。
そして藤岡と清瀬灰二は、同じ高校で陸上部をしていたという過去がある。
お互いの実力を認め合う二人だったが、藤岡は名門六道大学へ、清瀬は弱小寛政大学へと、全く違った道を歩むことになった。
だが寛政大学が箱根の舞台を目指せるところまできたことによって、再び藤岡と相対することになる。
また、走の過去を知る者もいる。
東京体育大学の榊(さかき)だ。
榊と走は同じ高校で陸上部をしていた。
走が起こした事件が、榊には許せないらしい。
何かにつけて喧嘩を売ってくる榊が、私は大嫌いです。
済んだことをいつまでもネチネチと。。。
この榊に対して、走はたびたび感情的になってしまいます。
今にも取っ組み合いの喧嘩が始まりそうな気配に、何度もはらはらしました

カッとなりやすい主人公は、しをん先生の作品では珍しいです。
でも、箱根を目指すには強い闘争心が必要だから、この性格は走るのに向いているかも知れません。
寄せ集め集団と思われていた寛政大学も、走やハイジのエース級の存在や、ほかのメンバーの進歩によって、徐々に注目を集めていくようになります。
奇跡の箱根物語、ここにありです

以下に、物語中で気に入った言葉や文をご紹介します。きっとこの本への興味が増すはず

心地いい。切り裂く風も、踏みしめる道も、この瞬間だけは俺のものだ。こうして走っているかぎり、俺だけが体感できる世界だ。
たとえば俺が1位になったとしても、自分に負けたと感じれば、それは勝利ではない。
頂点を見せてあげるよ。いや、一緒に味わうんだ。楽しみにしてろ。
ジョージは、大切な兄であるジョータと自分を、だれかに比べられたりしたくなかった。ただ、「よく似た顔の兄がいるひと」として、自分自身を自然に認めてほしかった。
たすきに刺繍された「寛政大学」の銀色の文字が、風に翻った。
今日でおしまい。だけど最初で最後に、このスピードを味わえてよかった。
俺はなあ、ハイジ。これが夢であってほしいと思うんだ。二度と覚めたくないほどいい夢だから、ずっとたゆたっていたいと思ってるんだよ。
なんだろう、この感覚。熱狂と紙一重の静寂。そう、とても静かだ。
止めることはできない。走るなということはできない。走りたいと願い、走ると決意した塊を、とどめられるものなどだれもいない。
頂点が見えたかい?
というわけで、三浦しをん先生のすごさを改めて実感した今作でした

走っているときのランナーの心中を、驚くほどドラマチックに描き出していました。
テレビで見ているとわかりずらいですが、ランナーは常に仕掛けどころを狙っていたり、正確なラップを刻むよう細心の注意を払ったり、自分自身の体と対話したりしています。
この本ではそういうのが詳しく描写されていて、少しだけランナーの心理がわかったような気がします。
そして、熱い想いも。
自分の身を削ってまで必死でたすきをつなごうとする姿に、涙が出そうになりました。
もう走れなくなってもいい覚悟で戦うのは、正真正銘チームのためという心境なのだと思います。
こんなに熱い青春小説は初めて読みました。
500ページを超える長編ですが、話が圧倒的に面白いので、途中で読みやめることはありませんでした。
何より、ストーリーに魅力があります。
「この先はどうなるんだろう」と気になり、どんどん読み進んでいけます。
しをん先生の本は必ずストーリーに魅力があるのですが、今回は特にそれが際立ちました。
この本は、直木賞受賞の第一作だそうです。
直木賞受賞作の「まほろ駅前多田便利軒」と比べても、互角以上の面白さがあります。
久しぶりに青春を感じました。
興味を持った方はぜひ読んでみてください

※図書レビュー館を見る方はこちらをどうぞ。