読書日和

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「世界地図の下書き」朝井リョウ

2016-01-10 23:05:33 | 小説
今回ご紹介するのは「世界地図の下書き」(著:朝井リョウ)です。

-----内容-----
突然の事故で両親を亡くし、「青葉おひさまの家」で暮らすことになった小学生の太輔。
悲しみでしばらく心を閉ざしていたが、同じ部屋の仲間たちのおかげで少しずつ打ち解けていく。
とくにお母さんのように優しい高校生の佐緒里は、みんなにとって特別な存在。
施設を卒業する佐緒里のため、4人の子どもたちは、ランタンに願い事を託して空に飛ばす「蛍祭り」を復活させようと、作戦を立てはじめる……

-----感想-----
この作品は次のように構成されています。

三年前
晩夏
新涼
暮秋
初雪

主人公は太輔(たいすけ)。
「三年前」の話の時、太輔は小学三年生でした。
ある日、太輔の両親はトラックにはねられて亡くなってしまいます。
太輔は青葉町という町にある児童養護施設「青葉おひさまの家」に連れてこられます。
太輔は「一班」に所属していて、一班には中学三年生の佐緒里、小学三年生の淳也(麻利の兄)、小学二年生の美保子、小学一年生の麻利(淳也の妹)がいます。
佐緒里が一班のまとめ役です。
そしてみこちゃんという女の人が一班の世話をしてくれています。
「青葉おひさまの家」に入る関係で転校した太輔は淳也と同じクラスになります。
序盤で一班のみんなについてのことが明らかになっていきます。
美保子(ミホちゃん)のママは暴力を振るうため、保護されて「青葉おひさまの家」に入っています。
淳也はクラスでいじめられています。
また、太輔には何かがきっかけとなり自分の太ももをつねる癖があり、つねる場面が何度か出てきます。
なぜつねっているのかが気になるところでした。

青葉おひさまの家で事件が発生します。
夏のバザーに向けてキルトを作ることになったのですが、せっかく作ったキルトが何者かによって縫い目がちぎられてしまったりハサミで切られたりしてぐちゃぐちゃにされてしまいました。
夜、外部の人は建物に入れないことから、「青葉おひさまの家」の中に犯人がいることになります。
誰がやったのかは描写的にすぐ分かったのですが、一体なぜこんなことをしたのかが謎でした。
理由が明らかになった時、過去に受けた虐待のトラウマの深刻さを感じることになりました。

「晩夏」の話からは三年の月日が経ち、太輔は六年生になります。
9月1日、防災の日の「青葉おひさまの家」での避難訓練から物語が始まりました。
三年の月日のうちに太輔もすっかり「青葉おひさまの家」のみんなと打ち解けていました。
そして三年前にはあった「蛍祭り」と、その祭りにおける「願いとばし」というイベントがなくなっていました。

高校三年生になった佐緒里は3月の門出の式を終えると施設を出ることになります。
佐緒里のことを慕う太輔はそのことが気がかりになっています。
美保子は太輔たち一班のみんなと通学路を歩いている時でも、学校の友達が現れるとすぐに太輔たちから離れます。
何となく太輔たちと一緒にいることを注目されたくないのかなと思いました。

小学四年生になった麻利はなぜか一度書いたはずの夏休みの宿題の読書感想文をまた書こうとしていました。
なぜもう一度書こうとしていたのか気になるところでした。
佐緒里が急に携帯電話を頻繁に見るようになったりと、この作品ではちょっとした伏線が色々出てきます。

月の上を雲が流れていく。月は、雲よりももっともっと遠くにあるんだと、改めて思う。
これはかなり印象的な言葉でした。
考えてみると月の上を雲が流れていくのを見たことはあっても、それを「月の上を雲が流れていく」と淡々と言葉にしたことはなかったような気がします。
またその光景を見て「月は、雲よりももっともっと遠くにあるんだと、改めて思う」と思ったのは良い感性だと思います

佐緒里は窓の向こうの向こうを見ている。
この表現もすごく良いと思います。
一班の全員が電車に乗っている時、電車の窓を見ながら高校卒業後にやりたいことを語る佐緒里を見て太輔が思ったことでした。
佐緒里は東京の大学に行こうとしていて、太輔は佐緒里に東京に行ってほしくないと思っています。

物語が進んでいくと、いつも元気いっぱいで明るい麻利が実はクラスでいじめられているのではという疑問が出てきます。
クラスメイトの女子の陰湿な悪意を感じる描写がありました。
麻利は強くなっている。だからもう、人の嘘だって見抜けるし、自分で嘘だってつける。
三年前は小学一年生だった麻利も今は小学四年生になり、それだけ成長しています。
「学校もクラスのみんなのことも大好きなんよ」と言ってみせた麻利の言葉が嘘であると、太輔は気付きました。

「暮秋」の話で佐緒里に事件が起こります。
抱いていた夢に暗雲が立ち込めます。
本人の意思とは関係なく、どうにもならない問題があるのだと実感します。

美保子が急に野菜を嫌いになるエピソードがありました。
さらにある時「青葉おひさまの家」に泥だらけになって帰ってきたこともあり、なぜ野菜を嫌いになったのか、なぜ泥だらけになったのか、謎でした。
一班の一人一人に伏線や悩みがあります。
太輔にもかなり大きな転機があり、もしかしたら「青葉おひさまの家」を出ることになるかも知れない展開と向き合います。

やがて太輔は「青葉おひさまの家」を旅立つ佐緒里のために「願いとばし」を復活させようと考えます。
淳也、美保子、麻利と協力して物語の後半は「願いとばし」復活のために奔走することになります。
時間軸を前後しながら話が進んだりもして、なぜこんな展開になったのか、後から時間軸が前に戻って明らかになったりもします。

この作品では一班の5人とも良い形のハッピーエンドにはならないです。
悲しい終わり方をしたり、悲しい中に次への希望が感じられる終わり方だったりします。
児童養護施設の子だから過酷な人生になるとも読み取れます。
私はこの作品全体を通してそれを発しているように思いました。
ただし一般家庭の子でも過酷な人生になることもありますし、反対に児童養護施設の子でも立派に羽ばたく人もいるはずです。
環境は大きな影響を与えますが、環境が人生全てを決めるわけではないです。
一班の5人それぞれがこの先の人生を楽しんでいけることを願います。


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