読書日和

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「もう、「あの人」のことで悩むのはやめる」玉川真里

2016-01-13 22:29:39 | 心理学・実用書


今回ご紹介するのは「もう、「あの人」のことで悩むのはやめる」(著:玉川真里)です。

-----内容-----
たったこれだけで、「しんどい」が消えた!
日本一過酷な職場「自衛隊」で、3万人を立ち直らせてきた臨床心理士が教える、人生も人間関係もうまくいく心の整理術。
「あの人」のことよりも、「自分」を大切にして生きていく―。

-----感想-----
著者の玉川真里さんは1991年に陸上自衛隊に入隊し、女性初の大砲部隊野外通信手として活躍します。
その後2008年、陸上自衛隊において現場初の臨床心理士となり、防衛省臨床心理技官として最も自殺率の高い職業と言われる自衛隊の自殺予防対策を任されます。
自衛隊は心身ともに負担のかかる大変な職業だと思っていましたが、「最も自殺率の高い職業」という言葉には驚きました。
この本に自衛隊入隊の際の宣誓誓約の言葉が出てきます。

「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努め、もって国民の負託に応えることを誓います」

これは命を懸けて職務を遂行するということで、例えば中国が沖縄の尖閣諸島を侵略するような有事の際には死を覚悟して立ち向かうことを宣誓しています。
改めて、日本のために日々職務を遂行している自衛隊員の方々に感謝します。

玉川真里さんはその後より多くの人の心を救済したいとの思いから自衛隊を退職してNPO法人を立ち上げ、現在は広島で臨床心理士をしています。
私も広島にほど近い山口県に住んでいて広島にもよく行くことから縁を感じました。
元々自衛隊には感謝していて、さらに地域も近いということでこの本への興味が湧きました。

玉川真里さんが臨床心理士として自衛隊員の方々の相談を受けてきた経験から行くと、「みんな人間関係、もっと言えば自分と「ある特定の他者」との関係で悩んでいた」とのことです。
このことから「悩みのほとんどは、他者がいるから生じるものなのです。」と書いています。
またこの本では「つらいときほど「癒し」を求めてはいけない」と書いています。
「癒し」を求める人ほど悩みが解決されないばかりか、どんどん苦しみの渦にのみ込まれていってしまうとありました。
印象的だったのが「癒しの苦しみループ」で、次のようになります。

さまざまな悩み
  ↓
悩みを紛らわせようと癒しを求める
  ↓
快楽後にやってくる現実とのギャップに苦しむ
  ↓
苦しみを紛らわそうと、より大きな癒しを求める

癒しによって一時癒されたとしても根本的な悩みは解決されていません。
悩みを解決するには癒しを求めるのではなく、苦しくても悩みの原因や自分自身と向き合うことが必要になります。
ただ、疲れている時の気分転換としての癒しなら問題ないかと思います。


「話を聴いてもらうほど、結果的には悩みは深くなってしまう。」というのは意外でした。
とても深い悩みがある時、誰かに聴いてもらいたいという思いから聴いてもらったとしても、そうやって人とつながることはまさに「癒し」であり、一時的に心の緊張感を緩和させて安心させてくれるものの、それでもやはり悩みが解決されるわけではないとのことでした。
私的には、これは聴き手次第ではと思いました。
聴き手の人が「そうだね、大変だよね」と相槌を打つだけの場合は玉川さんが言うように「一時的に心の緊張感を緩和させて安心させてくれるものの、それでもやはり悩みが解決されるわけではない」になると思います。
ただし、相槌を打ちながらその悩みと向き合ったり解決したりするための助言をしてくれる場合はこの限りではないと思います。

「癒し」を求めようとする人ほど心の状態を悪化させ、癒しを断ち切った人ほどつらさや苦しさを乗り越えて回復していくとあり、これはそのとおりだと思いました。
癒しを断ち切るということは自分自身と向き合うということであり、自分自身と向き合えば今の自分を受け入れることもでき、具体的にどうすべきかが見えてくるのではと思います。

自衛隊員が心の悩みを抱える三つの理由は興味深かったです。

1.達成感の喪失
2.自己の喪失
3.寮生活

1については、自衛隊は何かを生産する職場ではないため、これを何個作ればゴール、というような目に見えた目標がありません。
ゴールがないため途中で「弱音を吐く」こともできず、常に抽象的に成果を求められるため、業務での達成感を得にくいとのことです。
2については、自衛隊は究極の体育会系であり、上司からの命令をそのまま受け入れなくてはいけません。
自分を肯定して自分の価値観で動くことはできず、むしろ自分を失うくらいでちょうどいいとのことです。
命令系統をはっきりさせてチームでの力を最大限に発揮させるためには歯車になり切れるかどうかが重要であり、それによって自己を喪失しやすいようです。
3については、寮生活をしている隊員たちは仕事が終わったからといって職場を離れ自宅に帰るということができず、職と住が隣接しています。
例えば暴力的な上司がいた場合、そこから簡単に距離を置くことができず、対人関係のストレスがたまりやすいとのことです。
私は命を懸けた職業でありストレスを受けやすいことが心の悩みを抱えやすい理由かと思ったのですが、意外にも三つの理由の中には入っていませんでした。
ただ、この三つが合体すると「命を懸けた職業であるため」という理由になるような気がします。
特に2の自己の喪失は、命を懸けた職業である以上、有事の際に機動的に動けるように命令系統をしっかりさせるためには避けられないと思います。
それぞれが迷いながら動いていたのではあっという間に全滅です。

「自己肯定感」という言葉が出てきました。
これは「自分自身を、長所だけでなく短所も含めて価値があると感じ、存在意義を肯定できる心の在り方のこと」とのことです。
以前読んだ「面白くてよくわかる! ユング心理学」(著:福島哲夫)にも似たことが書かれており、この考えには馴染みがあります。
長所もあり短所もありで自分自身が存在していて、それが人間だということです。

「頑張りすぎる必要なんて、まったくありません」という言葉もありました。
これは大事なことです。
明らかに疲れ切っている時に無理に頑張ろうとして、その結果心が潰れてしまったのでは元も子もありません。
頑張る時と無理をしない時、メリハリをつけることが大事だと思います。

「「癒し」を求める人は「解決策」まで人任せにしがち。「人任せ」にするのではなく、他人の力を借りる、他人に頼る」
これは先ほど「話を聴いてもらうほど、結果的には悩みは深くなってしまう。」について、「私的には、これは聴き手次第ではと思いました。」と書いた部分と似ています。
次のように書いています。
『聴き手の人が「そうだね、大変だよね」と相槌を打つだけの場合は玉川さんが言うように「一時的に心の緊張感を緩和させて安心させてくれるものの、それでもやはり悩みが解決されるわけではない」になると思います。
ただし、相槌を打ちながらその悩みと向き合ったり解決したりするための助言をしてくれる場合はこの限りではないと思います。』
「相槌を打ちながらその悩みと向き合ったり解決したりするための助言をしてくれる」がまさに「人任せにするのではなく、他人の力を借りる、他人に頼る」だと思います。
あくまで助言なので、解決するためにどうするか、考えて決断するのは自分自身です。

「他者思考」と「自分思考」という言葉がありました。
他者思考は他人の目や意見に従って生きてしまう考えのこと。
自分思考は自分自身としっかり向き合い、他人に依存することなく自分自身の声や意見に従って生きるような考え方のこと。
他者思考から解放され、自分思考になることが重要とありました。
たしかに他人の目や意見に振り回されっ放しで生きていたのでは疲れてしまいます。

「変えられないものにこだわって悶々と過ごすよりも、変えられないものは変えられないとあきらめて、変えることができる部分を変えていくことに注力したほうが、気持ちもラクになり、生産的」
これもそのとおりだなと思います。
変えられないものについて悩んでも、変えることはできないのだから悩むだけ無駄に疲れてしまいます。
それよりは変えることができるものを変えていくほうが余程良いと思います。

現実を受け入れるのは他人ではなく自分。「受け入れ」は前に進むきっかけづくりにおいて最も重要なこと。
これも良い言葉だと思います。
現状を受け止め、受け入れることができれば、前を向けるようになるのではと思います。

自分思考を強めるために、「目についたものなら何でも良いから、自分で興味を持ったことに手当たり次第に手を伸ばす」とありました。
そこから段々とこれは違うな、これは良いなと選択をし、駄目だと感じるものは拒否をして、良いと思ったものは受け入れていきます。
その選択の繰り返しが自分思考を少しずつ強化していくとありました。
また、「大事なのは誰かに与えられたものを選ぶのではなく、自分で選択していくこと」とありました。

最後に、「自分と向き合う時間がなくなると他者思考が入り込みやすくなる」とありました。
これはよく覚えておこうと思います。
やはり自分自身と向き合い、現在の自分を客観的に把握することは大事だと思います。


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