今回ご紹介するのは「ホルモー六景」(著:万城目学)です。
-----内容-----
このごろ都にはやるもの。
恋文、凡ちゃん、二人静。
四神見える学舎の、威信を賭けます若人ら、負けて雄叫びなるものかと、今日も京にて狂になり、励むは御存知、是れ「ホルモー」。
負けたら御存知、其れ「ホルモー」。
このごろ都にはやるもの。
元カレ、合コン、古長持。
祇園祭の宵山に、浴衣で駆けます若人ら、オニと戯れ空騒ぎ、友と戯れ阿呆踊り。
四神見える王城の地に、今宵も干の響きあり。
挑むは御存知、是れ「ホルモー」。
負けたら御存知、其れ「ホルモー」。
古今東西入り乱れ、神出鬼没の法螺試合、若者たちは恋歌い、魑魅魍魎は天翔る。
京都の街に咲き誇る、百花繚乱恋模様。
都大路に鳴り渡る、伝説復古の大号令。
変幻自在の第二幕、その名も堂々『ホルモー六景』、ここに推参!
-----感想-----
この作品は
「鴨川ホルモー」の番外編(スピンオフ)となります。
タイトルに「六景」とあるように6つの物語が収録されています。
物語は次のように構成されています。
プロローグ
第一景 鴨川(小)ホルモー
第二景 ローマ風の休日
第三景 もっちゃん
第四景 同志社大学黄竜陣
第五景 丸の内サミット
第六景 長持の恋
「プロローグ」
日差しが強くなり夏が近付いてきた京都。
安倍と高村は三回生になり、新入生を「京都大学青竜会」に勧誘することになります。
高村は3ヶ月前までチョンマゲだったとあり、現在はチョンマゲ頭をやめたようです。
プロローグは
「鴨川ホルモー」の主人公・安倍と友達の高村による会話でしたが、今作は番外編だけあってその後は他の人物達の話になっていきます。
「第一景 鴨川(小)ホルモー」
この話は京都産業大学玄武組の「二人静(ににんしずか)」という二人組女子の話です。
名前は定子と彰子(しょうこ)と言います。
どちらもかなり毒のある性格をしています。
京都大学青竜会の安倍や高村と同学年で、前作でも何度も出てきた三条木屋町居酒屋「べろべろばあ」で二人は出会い意気投合。
「北山議定書」という二人ともに行動するための誓約書を作り、「二人静」を結成。
二人ともホルモーが凄く強く、瞬く間に「二人静」として勇名を馳せるようになります。
息がピッタリ合う二人ですが仲違いが生じると状況は一変。
鴨川(小)ホルモーは定子と彰子の仲違いによって引き起こされました。
「第二景 ローマ風の休日」
語り手は聡司という高校生。
ann's cafe(アンズカフェ)というイタリア料理店で働いていて、京都大学青竜会の一員である楠木ふみが新しくアルバイトとして入ってきます。
聡司は楠木ふみから「少年」と呼ばれるようになりました。
聡司は最初楠木ふみを暗くて近寄りがたい人と思っていましたが、店長の在原がトラブルから店を不在にして残された店員が大ピンチになった時、立ち上がった楠木ふみの圧倒的な活躍を見て尊敬の念を抱くようになりました。
この話は聡司から見た楠木ふみの物語です。
楠木ふみは数学科に在籍していることが分かりました。
ひょんなことから二人はデートに出かけるのですが、
「閻魔大王のいる冥土につながっている井戸」が興味深かったです。
これはもしやと思ったら、予感どおり六道珍皇寺の名前が出てきました。
森見登美彦さんの
「有頂天家族」に登場して珍しい名前だなと思った六道珍皇寺、閻魔大王のいる冥土につながっていると言われているとは驚きました。
「第三景 もっちゃん」
安倍と、友達の「もっちゃん」の物語です。
始まりの季節は昨日が葵祭だった初夏の頃。
安倍は三年生とありました。
大学生については、今まで「回生」と表記していたのが珍しく「年生」と表記されていて「おや?」と思いました。
この話ではもっちゃんが女子学生に恋をします。
もっちゃんは読んでいた詩集の一ページを破いて女子学生に渡したのですが(しかも英語)、そんな告白では想いが伝わるはずはなく、撃沈されてしまいます。
日本語でもいきなり詩集を破いて渡したのでは想いが伝わるとは思えないのに、英語ではより一層無理ですね。
もっちゃんの告白失敗の惨状を見た安倍はラブレターを書いて想いを伝えようと提案します。
この話が進んでいくにつれ、私は不思議な違和感を覚えました。
これは本当に京大青竜会の安倍の話なのか?と思いました。
そして最後、もっちゃんの本名が明らかになり物語の仕掛けに気付くことになりました。
「第四景 同志社大学黄竜陣」
この話の語り手、山吹巴はかなり興味深かったです。
山吹巴は一年浪人して同志社大学の門をくぐりました。
ここには巴の憧れである桂先生がいます。
桂先生は英文学科の教授であり、翻訳家でもあります。
桂先生がいるのは今出川にあるキャンパスなのですが、三回生になるまでは京田辺のキャンパスに通わなければなりません。
さらにショックなことに桂先生が退職してしまうため、巴は講義が受けられません。
どうしても桂先生の講義を受けてみたい巴は上級生に見えるように装って授業にもぐり込もうとします。
乗り込んだ今出川キャンパスにて桂先生と遭遇した巴は成り行きで頼まれごとをされます。
その頼まれごとを片付ける過程で目にした英語の手紙の中に、まさかの「horumo(ホルモー)という言葉がありました。
なぜ英語の手紙にあるのか気になるところでした。
この話では今出川のことが書かれていました。
鴨川、三角州の鴨川デルタ、糺の森(ただすのもり)、そして下鴨神社とあり、ここでも森見登美彦さんの
「有頂天家族」が強く思い浮かびました。
また、巴は一年前に彼氏と別れたのですが、その別れた彼氏の正体はやはりあいつかという人物でした。
前作以上に人間的酷さが露見していたなと思います。
「第五景 丸の内サミット」
井伊嬢こと井伊直子、そして酒ちんこと酒井。
榊原康と、忠やんこと本田忠。
この社会人四人が丸の内で合コンをすることになります。
珍しく物語の舞台は東京でした。
本田忠と酒井は大学時代のサークルの知り合いとありました。
この合コンにはホルモーが深く関わっていました。
最初は「ある人物が大学時代にホルモーをやっていて、そのことを物語の中でどう扱うか」の話だと思っていたのですが、終盤に意外な展開が待っていました。
何もホルモーがあるのは京都だけではなかったようです。
ただ物語的には黒い鬼の謎が残ったなと思います。
「第六景 長持の恋」
語り手は立命館大学白虎隊の細川珠実。
金欠に悩む珠実は「狐のは(このは)」という料理旅館でまかない付きの仲居のアルバイトを始めます。
さほどの理由もなくすぐに涙ぐんでしまうことから「泣き虫おたま」というあだ名をもらった珠実。
ある日、女将に蔵へ行って燈台を取ってきてくれと頼まれた珠実は蔵の隅に大きな木の箱が置いてあることに気付きます。
その箱の中を覗いた珠実は「なべ丸」と文字が書かれた古びた木の板を見つけます。
その時珠実は何を思ったか、板の裏にマジックペンで「おたま」と書き込んでしまいます。
次の日再び蔵へ行く機会があり、昨日落書きをしてしまった木の板を見てみると、なんと珠実の書いた落書きが消え代わりに別の文字がありました。
それは「なべ丸」からの返事でした。
女将に蔵にある木の箱のことを聞いてみると、長持(ながもち)と言って、衣装や調度品を収納したり持ち運んだりするものだと教えてくれました。
さらに、かつて織田信長が使っていた長持だという興味深い発言もありました。
珠実となべ丸は長持の中にある古い板越しに文通をしていきます。
文通をしていくうちに、なべ丸の主君は織田信長だと気付いた珠実。
なべ丸の返事に書かれている日付は天正10年の5月、やがて6月1日となります。
天正10年6月2日、「本能寺の変」の直前でした。
何とかなべ丸を助けたい珠実は必死に「間もなく明智光秀が攻めてくるからすぐに逃げろ」と危機を知らせます。
歴史ロマン的な話であり、そして叙情的な話でした。
現代の珠実と戦国時代のなべ丸が長持の中の古い板でつながったのはホルモーの力が影響していたようです。
最後、意外な形でなべ丸の痕跡を見つけて涙ぐむ珠実もまた良かったです。
展開構成の上手さを感じました。
「ホルモー」のシリーズはこの作品で一区切りとなっているようですが、もしまた続編が出れば読んでみたいと思います。
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