現在88歳の女性は4年前から繰り返し肺炎で入退院を繰り返していた。計11回の入院になる。
最初に入院した時は、右中葉の肺炎として普通にセフトリアキソンを投与して、解熱軽快して、炎症反応も陰性化した。
その後も繰り返して肺炎で入院するようになり、右中葉と左舌区の陰影が出没した。いずれもセフトリアキソンを投与すると、解熱して炎症反応が軽快・陰性化したので、治療としては何も困らなかった。何度か入院するうちに、喀痰培養を提出するとMRSAが検出されるようになったが、臨床的には定着菌と判断される。
繰り返す原因としては、年齢的に誤嚥性の要素があるのだろうと判断された。ただし入院中は明らかな誤嚥はなく、入院当日から普通に食事摂取していた。
右肺炎で入院して、解熱軽快しているのに、確認の胸部X線で左肺炎が出現したことがあり、奇異な印象をもった。べったりとした浸潤影が常に残っていて、体積として増加したり少し減少したりを繰り返した。
呼吸器科の先生(大学病院からバイト)に相談した。器質化肺炎ではないでしょうか、訊いてみた。
気管支拡張症もあり、非結核性抗酸菌症が持続感染していて、通常の細菌性肺炎併発の部分が抗菌薬(セフトリアキソン)で軽快治癒するのではないかと言われた。そうかもしれないと思われたが、抗酸菌塗抹検査も繰り返しても陰性だった。
今回は8月に肺炎として入院して、いつもの?セフトリアキソンで軽快した。退院日を決めようとしていたが、転倒して背部痛が出現した。胸腰椎MRIで第12胸椎の圧迫骨折を生じていた。
年齢もあり、へたをするとそのまま寝たきりになるかと思われたが、アセトアミノフェン+NSAID(セレコックス)で1週間後から疼痛が軽減して、動けるようになった。
後はリハビリをしてと思っていたが、9月に入ってから痰が増加したという訴えがあった。ほとんど発熱がなかったが、白血球9900・CRP14.2と炎症反応の上昇を認めた。
いつもの?セフトリアキソンを再開したが、発熱はないもののCRP20.1と、初めてセフトリアキソンに反応しなかった。院内肺炎の形なので、抗菌薬をもっとbroadにすることも考えた(ゾシンかカルバペネムになる)。
しかし、細菌性肺炎の悪化という印象がまったくなかった。以前から器質化肺炎を疑っていて、ステロイドの治療をしてみたいと考えていたので、今回はステロイドに対する反応をみることにした。
痩せた小柄な老女なので、プレドニン20mg/日で開始した。4日後の検査で白血球6100・CRP1.7t著明な改善を認めた。この反応も細菌性らしくない。
初期量で14日継続した後は、CRP0.2となった。胸部CTで見ると、浸潤影も軽快してきていた。(セフトリアキソンは7日投与で中止している)
その後、プレドニンを15mg/日に漸減した。もう少し入院で診たかったが、これまでのケアハウス(食事付きアパート)からもっと介護のできる施設(グループホーム)に移ることが決まっていたので、外来で継続することにした。
本来は呼吸器内科のある病院に紹介して、気管支鏡検査で診断確定してもらいたいところだが、患者さんはまったく行く気がない。慎重に当院内科外来で経過をみることにした。
この患者さんは、膵嚢胞性疾患・特発性(自己免疫性)血小板減少性紫斑病がある。さらに3年前にリウマチ性多発筋痛症になり、プレドニンを投与していた。プレドニンを投与していた期間は肺炎で入院していないことも、免疫性がらみのステロイドの効く肺炎ではないかと疑うきっかけになった。
軽度の糖尿病があり、ステロイド投与で血糖上昇が危惧される。またステロイドで骨粗鬆症・骨折のリスクが高まってしまう。今後も油断できないのだった。勉強になる患者さんだが、診るのは大変。