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書籍「猿の詩集(上・下」老猿が見た戦後とは

2010-07-16 00:09:51 | 読書の時間
「猿の詩集(上・下」★★★★
丸山 健二 著 、講談社、2010年03月10日初版
(344ページ/400ページ 、各2150円)

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「南太平洋の激戦地で、
食糧難から死んだ戦友の腕を食べようとした主人公は
上官に射殺され、何の因果か
日本の故郷で老いた白い猿に魂が乗り移り
故郷の戦後を見つめる、
破天荒な設定ながら
声なき戦死した兵士の目を通して
変わりゆく戦後を描く異色作」



丸山健二という作家が有名な人とも知らなかった、
知ったのは「週刊ブックレビュー」のゲストで登場し、
作品を熱く語ったからだ、
上下巻で4.300円と、いつもの予算オーバーながら
ネット書店で注文し
家で読む本として3週間余りで読んだ。


上下2段にびっしりの文字、
平易な言葉で猿が語っている話し言葉として
句読点が少なく、
ひとつのかたまりのように一気に読ませる。


当初読みにくいかなと思ったが、
慣れてくると段落と段落までを
一気に読むような調子が出て
どんどん読み進めた。

古い言い回しもなく
主人公が感じたままを読んでいくので
文学の香りはあまりしない、
でもそれで良いのだと思う、
戦場で生きるギリギリを体験し
故郷では自分が守ったものを目にして
格調高い文章ってわけにもいかないだろう。

眉間に出来た穴には血が溜まり、
ペンでその血をインクとして
老いた猿となった主人公は
そこで見たままを綴っていくのだ。


そこに住む誰もが旧知の小さな農村、
どんなことも筒抜けで
プライバシーなんて言葉も知らない、
やがて主人公の父親が戦地から戻るが
母親の対応は冷たい、
自分の家にだけ生きて戦地から戻ったことが、
喜ばしいと言えない村の雰囲気と
すっかり気概を失った夫。

そんな様子を物陰から見守る猿、
何かしたくても猿となった身の上
ただ見守るしかできない、
戦争の中にあっても自分の意志さえ
押し殺してバンザイ!と叫ばなければならない日常が
故郷へ戻ってまで
何故か猿に身をやつし
これでは自分が戦地から戻ったことを言えないのだ。

長い長い物語の中心は
猿となった主人公が見たままの
故郷の戦後、

人々は戦争が終わったことを喜ぶというより
すぐにまた生き抜く生活の上の戦いを余儀なくされ
それを声高に誰かを恨むわけでもなく
また毎日を続けていくだけだ。

何か強い主張を感じることはない、
でもどうすることも出来ない現実を
戦後の日本人は生き抜いたのだ、
そしてふと思うのは
そんなにまでして築きあげた日本が
今につながっているということ、
果たして遠い戦場で戻れなかった英霊たちは
今の日本をどう思うだのだろう。


飄々と生きていく白い猿は
今もどこかで長い長い戦後を生きる
この国を見ているのかもしれない。


★100点満点で75点


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