HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

公式スーツのワールドカップがあってもいい。

2014-06-11 18:19:53 | Weblog
 いよいよ6月12日から、「FIFAサッカーワールドカップ2014 ブラジル大会」が始まる。サッカー好きにとっては、世界トッププレーヤーのセンスや技術に触れられるし、各指揮官がどんな試合展開と采配をくり出すのかも、楽しみの一つである。

 一方、ファッション業界人としては、各国のユニフォームのデザイン、素材や機能性に興味があるところだ。先日、日本チームが契約するアディダス社のユニフォーム秘話は書いた。そこで今回は、各国代表のオフィシャルスーツについて考えてみたい。

 と言っても、公式発表しているところで、代表的な国はイングランド、イタリア、ドイツ、フランス、そして日本くらいだろうか。

 まずイングランド代表は、前回大会から「マークス&スペンサー」。こちらはファッションブランドではなく、英国を代表する小売業だ。傘下には百貨店やスーパーをもっており、いわゆるPB商品といった感じだ。日本で言えば、三越伊勢丹のドーランドハウスオブロンドンや大丸のトロージャンといったところか。

 価格も一着211ポンド(約3万6000円)というから、市販のものを選手たちにそのまま支給したようだ。色やデザインを見てもビジネススーツの領域を出ていない。生地はこのシーズンを意識して、ライトグレーのサージだと思われる。定番素材だから、別に目新しさは感じない。ただ、着る選手がカッコいいので何とか様になっている。

 イングランドは英国紳士に代表されるトラッドスーツの本場だ。特にセビルロウは英国羊毛をベースにした仕立て屋さんのメッカでもある。なのになぜ、その国のサッカー代表が百貨店のPBスーツなのだろうか。

 これは英国を取り巻く経済状況もあるだろう。英国サッカー協会は、単なるスポーツ団体だから資金は乏しい。当然、代表スーツを揃えるならスポンサー契約となるわけで、スポンサー側はスーツだけでなく、資金面でも協力しなければならない。

 となると、経済的に厳しい英国でどれだけのスポンサーがあるのか。プレミアリーグは儲かっているイメージがあるが、あれは世界中から集めた放映権収入がメーンで、国内で稼いでいるわけではない。また、一部のビッグクラブのオーナーが大富豪や投資ファンドなだけで、サッカー協会がお金を持っているわけではないのだ。

 もっとも、スポーツマーケティング的に考えると、マークス&スペンサーにとっては自社ブランドを世界にアピールできるわけだから、スポンサーになることを決断したのだ。特に経済発展が著しいブラジル進出にも期待できる。サッカー協会としても自国スポンサーに目を向けることは、結果として協会も潤うことと舵を切ったのだと思う。




 まあ、前々回のドイツ大会の時、イングランド代表はイタリアの「ジョルジュ・アルマーニ」と契約していた。デビッド・ベッカムがアルマーニと懇意することから、契約が決まったとの噂も流れたが、デザイン画を見ると何となくベッカムを意識したようにも感じる。ただ、こちらは流石アルマーニという出来。代表のためにオリジナルで作ったものだ。

 スーツはミッドナイトブルーの上質な生地を使い、シルエットがソフトなアルマーニデザイン。ローウエストのパンツ、パールグレーのボタンダウンシャツ、ブルーグレーのネクタイ、軽いウール素材で5つボタンのコート、おまけに腕時計、サングラス、ベルト、靴、下着までセットになっている。まさに全身アルマーニコーディネートだ。

 アルマーニがイングランド代表と契約したからではないが、同じイタリアの「ドルチェ&ガッバーナ」はその後、国内リーグセリエAのACミランのオフィシャルスーツに起用された。そして、そのままイタリア代表のスーツでも契約している。

 こちらは明るめのネイビーで、アルマーニより細めのシルエット。胸元のエンブレムがなければ、マフィアルックという評もあったが、実際はアズーリとブラジルの陽気に合っている。イタリア製のライトメードで上質な生地を使い、高級感を忘れていないところは、さすが世界に通じるブランドというところだろうか。

 フランス代表は蝶ネクタイを採用したクラシカルなルック。ただ、英国のようなトラッドスタイルではなく、シルエットや肩のラインでゆっとりを感じさせるところにフランスらしさがある。まあ、ひと言で言えば、ヌーベルアイビーの復活って感じだろうか。

 起用されたのはフランス最高のテーラーと言われる「フランチェスコ・スマルト」だから、エレガンスで美しいカッティング、太すぎず細すぎないパンツのシルエットにも特徴がある。選手にとっても既製品より、着こなしやすいかもしれない。



 ドイツ代表は前回同様に自国ブランドの「ヒューゴ・ボス」。こちらは高級ブランドがもつ質感やシルエットの妙より、ドイツ人に合わせたしっかりした作りが際立つ。なおさらドイツ代表は長身で筋骨たくましいから、柔なスーツでは似合わないのだ。

 濃紺のスーツにデニムのシャツ、同じトーンのネクタイ。移動機内や宿舎での環境変化を考え、アイテムにカーディガンが加えれている点は、格好より機能を優先するゲルマン気質らしい。今回のワールドカップでは優勝候補なだけに、このスーツでも世界のトップも十分狙えると思う。サッカーでもファッションでもレーヴ監督に期待だ。



 そして、日本代表は前々回の大会から英国ブランドのダンヒル。濃紺とライトブルーが織りなすプリンス・オブ・ウェールズ・チェック柄のウール地を使い、細かな採寸のもとに2か月かけて仕立てというから、各選手のフィット感も抜群なようだ。

 英国のテーラーメードを日本代表が着るというのも、なんか不思議な感じがする。だが、こちらは サムライブルー(SAMURAI BLUE)の「勝負服」として、一般向けの販売キャンペーンとも連動。契約するダンヒルとしても、日本、世界市場でしっかりスポーツマーケティングをしようという狙いが感じられる。

 個人的にはイングランド代表が着ていたアルマーニを気に入っていたが、今回はサッカー同様にドイツ代表のスーツに目を見張る。はたして世界の評価はどうだろうか。せっかくW杯には世界のファッションブランドも勢揃いするのだから、ぜひFIFAには前座で代表選手をモデルにしたファッションショーもやってもらいたい。

 ただ、不満なことは、オリンピックの公式スーツの時から言われる日本のデザイナーやブランドが起用されない点だ。業界内部ではブランドやデザインがどうのというより、スポーツ団体が紳士服量販店や百貨店に任せる構図が問題との指摘もある。

 日本のスーツ専業メーカーも決して世界に劣るわけではない。生地は海外調達するとしても、デザインは日本人デザイナーに任せてみようという度量も欲しい。英国同様に日本のスポーツ団体にも資金がない。

 だから、スーツの支給にあわせて契約金がほしいという気持ちはわからないでもない。ただ、そろそろ日本人デザイナーに門戸を開いてもいいのではないか。日本人のデザイナーが作るからこそ、オールジャパンでオリンピックやワールドカップを戦うと言う意識にもなると思う。もちろん、リターンも少なくないはずだ。

 そのためにはまず日本人が格安・量販ではなく、ディスティンクションレベルのスーツをもっと流行らせるべきかもしれない。安っぽいカジュアル一辺倒の生活から、ビシッとスーツを決めて仕事をする機運も、高めなくてはならないと思う。
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