HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

業界革新にインベスト。

2021-08-25 06:55:59 | Weblog
 コロナ感染はいよいよロックダウン間際まで来たと言える。緊急事態宣言、まん延防止重点措置はこれまで何度も発令されたが、一時的に感染者を抑える程度にしか効き目がない。その間、ワクチン接種が進められたものの、今度はデルタ株が猛威を振るい始めて感染者数は高止まりしている。だが、データを冷静に見ると、日本の人口当たり感染者数や死亡者数は欧米諸国に比べて圧倒的に少ない。



 全体の死亡者数がコロナ禍以前を上回っているかの超過死亡数は、英国が2020年4月には前年比100%を超えで、米国も死亡者が同年は高めだった。それに対し、日本は20年末には死亡数が前年比8%程度に上がったものの、全体的には感染防止対策の徹底でインフルエンザなど他の病気による死亡者が減少したため、平年並みの死亡数となっている。(図表)

 だからと言って、日本は良くやっているとは言い難い。むしろ課題は山積みだ。まず、医療提供体制を抜本的に見直さなければならない。特にデルタ株のまん延で地域にある感染症治療病院の病床が逼迫。中等症でも自宅療養を余儀なくされ、その後に重症化して死亡するケースは今年6月までにすでに80人を超え、現在も増えている。非常時の態勢整備が急務だ。

 もちろん、コロナ収束後を睨んだ長中期的な国産ワクチンの開発は必須である。今回の接種では短期に多くの接種を実行するために歯科医にまで要請がなされた。だからこの際、接種に伴うさまざまな規制を緩和して、どこまでのライセンスを持った人間なら、疫病ワクチンの接種が可能なのか。明確なルールを決めることも重要だと思う。


1家に1台の酸素ボンベ&吸入器が必要?

 昨年、多くの専門家が指摘した「感染を封じ込めながら、何かと経済も持ち堪える」方策もこのままでは虻蜂取らずになりそうだ。コロナ禍は多くの専門家の目論見を外れ、収束どころから第5派、変異株のまん延へと移行した。これから、政府が仮にロックダウンへ踏み込めば、都市間移動を伴う観光はじめ、外食などの行動が直接的に抑制される。アパレル小売りといった対面を必要とするサービス需要も、さらに落ち込むことは間違いない。

 パリのあるアパレル関係者は、「経済的なダメージはこうしたサービス消費が激減したことによる心理的な影響が圧倒的に大きい。ネットでもいいからコミュニケーションを絶やさず、買い物してほしい」と、語っていた。確かに多くの国民が外に出ることを躊躇うようになれば、感染拡大は食い止められるだろうが、その分消費は激減する。それをネット販売でカバーするまでの習慣はまだまだ定着していない。外出という人流を抑えながら、消費を継続させるのは、二律背反の施策で無理があるということだ。

 気がかりなのは病床の逼迫と若年層への感染拡大である。自宅療養中に死亡する人が増えている背景には、基礎疾患をもつことがあるのだが、症状が急変するケースも報告されている。保健所のマンパワーが不足する中で、経過観察を続けるにも支障がある点を考えると、感染者は為す術がない。コントのワンシーンではないが、医療用の酸素ボンベは1家に1台の必須アイテム。いや、現実的には酸素飽和度を測るパルスオキシメーターと酸素ボンベと吸入器が体温計や消化器と同等に常備するのが当たり前になる日は、そう遠くないのかもしれない。

 未曾有の疫病禍なのだから、終息までには相当の死亡者を出すだろうし、それに伴う世界的な人口減も起こり得るだろう。実店舗をもつサービス関連などでは、雇用がさらに悪化する。アパレル含めサービス業界全体の所得減少は避けられそうもないし、ロックダウンへの警戒感が強まると、生活者のメンタル面の不安が増大する。経済のさらなる悪化、雇用不安などマインド面から家計支出や企業の設備投資が減少していく可能性も否定できない。

 サプライヤーの方はどうか。知り合いの事業者は昨年、中国の工場は稼働しているので商品供給には問題ないと語っていた。ただ、デルタ株が世界的に猛威を振るっていけば、工場によっては労働力不足から操業停止や閉鎖に追い込まれるところが出てきてもおかしくない。感染防止対策を優先すれば人流を抑えなければいけないし、それは生産性の低下に直結する。アフリカや中近東、東欧に工場をもつパリのアパレル関係者も同じようなことを言っていた。

 結局、日本はこれまでロックダウンをしてこなかった。緊急事態宣言やまん延防止重点措置といった緩やかな対応だったため、英国やドイツに比べると自宅にいる時間は短くなる。つまり、それは経済への影響も抑えたが、外に出ている時間が長いために感染が拡大しているのだ。変異株を封じ込めるために経済の落ち込みを度外視しても、ロックダウンに踏み込むのか。政府の覚悟が試されると言うことである。

 英国は今年1月から実施してきたロックダウンを7月19日に全面解除した。もともと、この措置は6月20日に解除されることになっていたが、デルタ型のまん延で4週間延長された。英国人に人気のパブやクラブなどが第1波の時から1年4カ月も営業ができていないなど、経営者側からの要請があったからだ。本音としては、ロックダウンしても感染が収束に向かう保証はないというのが、為政者にも国民にもあるのではないか。それは日本も同じだろう。


アパレルのデジタル変革にも国家的投資を

 前回のコラムにも書いたが、もはや国民の一人一人がいかにして感染しない努力をするしかないと思う。自分の命は自分で守るということだ。政府も現行の医療態勢では、できる限界を超えてきていると感じ始めているのではないか。「国民の皆さんも覚悟を決めて、行動してほしい」と、菅義偉総理が発言しても不思議ではない状況だ。もちろん、そう断言するためには、政府として手厚い財政出動を行うことが前提になる。

 今年3月、米国のバイデン政権は1.9兆ドルの「新型コロナウイルス経済対策」法案を成立させたが、日本が同じ財政支出をするなら中小零細企業の支援、雇用維持の側面だろうか。ロックダウンも視野に人流を抑制することで、売上げが減少する企業や商店のコロナ対策を手厚くサポートするもの。国民一人当たり10万円の定額給付金も、20年度の家計調査を見ると消費性向は前年を大きく下回り、必ずしも消費に回らなかったことが確認できるからだ。



 アパレル業界だと、自宅にいて欲しい商品のバーチャル試着が可能なアプリがある。一部の企業では開発・導入も進んでいるが、お客が商品の詳細情報を入力すれば、AIがスタッフに変わってフィッティングチェックまでしてくれる。そんなアップデートしたシステムに開発に国家的な投資がされてもいいと思う。これは靴にも対応できて、朝と夜で微妙に変わってくる足のサイズまでAIが認識できるようにする。

 お客が好む商品の色柄織、素材、サイズ、デザイン、テイスト、着心地、そして価格までの情報をきめ細かく入力すれば、それと同じ詳細情報が登録されているかをAIが探して、商品が見つかれば提案してくれるシステムとでも言おうか。ヴァーチャルフィッティングまで可能にすれば、自宅に居ても実店舗と同様な感覚でショッピングできる。こうしたシステムは、コロナ禍において人流による感染拡大を抑える効果に期待できる。

 もちろん、コロナ終息以降をデジタルトランスフォーメーションを意識し、アパレルショッピングには変革をもたらしてくれる。従来はバーコードによる把握のため情報量は限られたが、マイクロチップの登場と低価格化で、商品1点あたりの詳細情報までの蓄積が可能になった。それとインターネットをリンクしていけば、ショッピングは変革する。ここまで来れば、製造卸、小売りの線引きもなくなる。システムを制したものがビジネスも制するのだ。

 究極はお客が欲しい商品が日本中のどこの店舗にあるか、瞬時に検索して提案してくれ、購入までできるシステムだ。地方に居ながら東京の店舗在庫の中で、自分が欲しいものをAIが見つけ出してくれ試着まで可能になれば、ショッピングの可能性は莫大に広がる。リアルな接客や付帯業務はこれまでより減ってくるが、その分、レイオフすることなくフルフィルメント作業やデータ分析など新たな雇用に切り替えられる。

 売り方は実店舗からネット、SNSと進化しているが、それがお客が本当に必要とする商品かどうかは別問題だ。お客自ら商品を見つけるには、置いてそうな実店舗を探し回るか、ネットモールでキーワードを入力して検索するしかない。それではまだまだ手薄だ。せっかく、デジタル庁が発足するのだし、大量廃棄でアパレルへの風当たりは強い。それを救うのは、お客と商品のマッチングであり、売り逃しや販売ロスの撲滅だ。それがひいてはSDGsにもつながっていく。

 飲食・サービス業は実際にお客が来てくれないとビジネスは成り立たないので、人流を抑えるには持続化給付金などの支援は仕方ないだろう。しかし、アパレルの場合はeコマースやヴァーチャルフィッティングなどでも継続できるので、財政出動をするのならシステム開発、デジタルトランスフォーメーションに積極投資する。コロナ禍を乗り切りながら終息後の業界革新を睨むことが重要だと考える。

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自助で凌ぐしかない。

2021-08-18 06:39:44 | Weblog
 先日、2回目のワクチン接種を完了した。懸念された発熱や倦怠感はなく、肩の痛みも翌日には消えた。だが、ブレークスルー感染もあり、接種したからと安心はできない。福岡県にも第5波が押し寄せており、7月下旬からのデルタ株を含めた感染拡大では、50代以下がおよそ7割を占める。特に40代から50代の重症患者は、昨年の第3波ピーク時の4倍近くになっており、感染が収束に向かうとは言えない現状だ。

 マスメディアはもちろん、ネットにまで3回目のワクチン接種や抗体カクテル療法が取り沙汰されてはいるが、効能の確実性はわからない。抜本的な対策がない中で、接種後もなるべく不要不急の外出は避け、出るにしても人混みには入らず、密にならないようにしてマスクや手洗い、除菌といった基本を続けるしかないと思う。個人的には、行動スケジュールにおける人的接触の時間を10分以内とし、少しずつ動こうかと決めた。

 秋物のきめ細かなチェックまで行うのは厳しいだろう。伊勢丹の新宿店や阪神の梅田本店など13の百貨店では、7月24日から8月5日までにスタッフ370人近くが感染している。政府が11店舗について彼らが勤務するフロアを調べたところ、地下1階いわゆる「デパ地下」が約5割を占めたという。このニュースを目にして正直、ドキッとした。

 筆者の日頃の行動パターンにも、デパ地下が必ず入っている。特に夏場は暑いので、事務所に出勤したり、外出、帰宅する時は冷房が効いている百貨店の1階から地階を抜けるコースを取る。もちろん、週末に料理を楽しむため、デパ地下ではスーパーでは手に入らない食材を購入する。先日もスープカレー用に博多地鶏のぶつ切りや刺身用の魚を買った。

 専門家によると、どこで地雷を踏むか分からない状況なのだとか。東京都のモニタリング会議で指摘されたようにクラスターの発生が多様化し、デルタ株は水ぼうそう並みの感染力で、従来の感染対策では不十分なのだそうだ。

 デパ地下の対面カウンターはパーテーションで遮蔽され、スタッフはマスクとフェイスガードの2重装備。おそらくマスク着用の自分とスタッフが互いに飛沫を受けることはほぼないと思う。感染した百貨店スタッフの約4割は、デパ地下以外のスタッフだ。プライベートなど備えを解いた時に感染したケース、もしくはお客から感染したケースも考えられる。

 もっとも、専門家の指摘では、デパ地下は隅に空気が滞留する場合があり、十分に換気ができるかは疑問という。これは多層構造の駅ビルやショッピングセンターにも言えるのではないか。天井がそれほど高くなくて押さえつけられたような空間で、あまり開放的とは言えない。デベロッパーやショップが感染対策を行っても、感染したお客が来店すればどうなるのか。いちいち、入口で簡易検査は不可能だし、検温がどこまで有効かもわからない。



 福岡県では、8月12日に発表された新規感染者数が1日当たりで初めて1000人(1040人/福岡市594人)を超え、過去最多を更新した。百貨店から感染者が出たという情報はないが、東京や大阪より感染対策が優れているというエビデンスもない。デルタ株には今までの常識が通用しないというから、店舗勤務の人間は仕事以外には人と触れ合う機会や場所を避けるしかないことになる。それが本当に可能なのか。極めて難しい対応を迫られている。

 ここからはあくまで私見になるが、感染するケースは物への接触からより、人からの伝染ではないかと感じる。除菌などの感染対策が定着した中で、ここまで感染者が多発しているのは、やはり人流が最大の原因と見て間違いないだろう。会社や商業施設、学校、サークル、カラオケ、バーなどは、人との交流・接触が長時間かつ密に及ぶので、会話中での「飛沫」が一番の感染源ではないか。感染力が強いと言われるデルタ株はなおさらだろう。

 東京の感染者が多いのは通勤や通学で電車を利用し、オフィスや店舗、学校に行く人々が膨大に及ぶからだ。駅や電車の社内では、どんなに人流を制限してもラッシュ時は密になるし、オフィスや学校、サークル、私的な集まりではとの接触、コミュニケーション=会話がなくなることはない。それだけ感染するリスクは高まる。今は変異株が猛威を振る段階に入ったのだから、30分でも人的な交流・接触をすれば感染の原因となること認識すべきではないか。

 人との交流・接触をできるだけ避けるにはどうすればいいか、各自が自ら考えて行動するしかない。感染して重症化すれば、元も子もない。患者としていくら医療サービスを受ける権利があると主張したところで、自宅待機を余儀なくされれば、為す術はなく絶望の縁を彷徨うことになるのだ。


メディアの主張はコロナ感染対策にならない?

 この1年、政府や自治体は数々のコロナ感染防止対策をとってきた。それについて業界メディアはほぼ批判のオンパレードだった。しかも、自粛でコレクションはじめ、メーカーの展示会が縮小や中止し、実店舗の売り上げ低迷、販売スタッフの自宅待機など、我慢は限界に達した。そのため、今年に入るとリアルな現場に人々の行動を促す論調さえ目立ってきた。ざっと以下のようなものがある。

 「自粛意識で消費が滞っていると経済は悪くなる一方だ。一定の線引きと基準にのっとった上で消費活動することは悪ではない。街の活気を「気の緩み」として捉えるか、「社会が適応に向かっている」と捉えるのか。この差が今後のコロナとの付き合い方を左右していきそうだ」

 「対象地域ではラグジュアリーブランドなどの路面店が営業継続しており、大型商業施設の休業が人出を減らす効果があるのか疑問(都内百貨店)という不満が多かった。休業延長は経営への打撃をはじめ、従業員の雇用不安、取引先の業績悪化などその影響は計り知れない

 「アパレル店で働く友人が「休業要請がこれ以上続くと会社がもたない」と漏らした。服は必需品であり、生活の糧でもある。それを奪い取る権利は政府、知事にはない

 「感染状況の違いがあるにせよ、国からの各知事への事務連絡には「消費者にとって何が生活必需かを最も把握している事業者の意見等も勘案」との文言があるという。必需品に〝県境〟はないはずだが

 一定の線引きと基準にのっとった上で消費活動することは悪ではないというが、その基準は各自で曖昧だからこうも感染が爆発しているのではないか。さらにデルタ株にはそれらが全く通用しない。街の活気を社会が適応に向かっている証拠と捉えるのは、あまりに無責任だ。社会は一個人の集まりで、各自は行動も生活スタイルも違う。誰かがついつい話し込むなど少しでも油断すれば、ウイルスが否応なく攻め込んでくる。そんな社会が適応できないのがコロナ禍なのだ。

 大型商業施設の休業が人出を減らす効果があるのかの疑問でも、まずはスタッフの出勤を抑え、買い物客の来店を止めることが人流の抑制の第一歩だ。百貨店が感染者を多数出したのは、自粛生活の反動でお客の方から買い物に出向いたこともある。都心は商品だけでなく、飲食やエンターテインメントも楽しめる。顧客心理として出かけたくなる。

 アパレルのショップも「わざわざ来店してくださるお客さまを『いらっしゃいませ』でお迎えして快く買い物していただき、『ありがとうございました』『またどうぞお越し下さいませ』と、お見送りしましょう」と、店長はハッパをかけているはずだ。

 確かにホスピタリティのある接客対応は、高級ブランドや高級時計、宝飾品、高級惣菜やお菓子などに有効で好調な売上げをもたらす。しかし、スタッフが感染して防止対策の見直しを余儀なくされた。接客・対面販売と感染リスクは表裏一体なのを改めて見せつけられたわけだ。百貨店は緊急事態宣言による減収を心配する暇があったら、飛沫感染防止に止まらずキャッシュレス決済や非接触の販売スタイルを整備するのが先ではないのか。

 必需品の解釈論も意味はない。県によって所得格差があるのだから、価値観が異なるのは当然だ。問題は食品や日用品だろうと、高級ブランドだろうと、購入のために人流が増えること。また、店舗での時間をかけた接客が感染拡大のリスク要因であることだ。所得がAクラスの東京では、全体的に都市部での買い物を避けてもらう。所得がCクラスの県では日用品のみの買い物に絞ってもらう。人流を少しでも減らす政策は県によって違ってくるはずである。



 国や自治体、メディア、ネット。それぞれが場当たり的な感染対策の情報を打ち出すだけで、国民は翻弄されながら自分の感覚だけで判断している。しかし、それは専門家が発するいろんな感染対策に則った上での「思考」ではない。ウイルス対策としてワクチンが一番有効なのは、過去の疫病克服が何よりの証左だ。にも関わらずネットのガセネタを鵜呑みし、エビデンスも無いのに胡散臭い輩の分断と同調圧力に巻き込まれている愚か者があまりに多すぎる。

 感染症は人から人に移っていくのだから、人との交流・接触を避けるしかないのである。アパレル各社、各店舗が売上げも失っても、ビジネス自体が将来にわたって無くなるわけではない。むしろ、重要な人材が失われる方が莫大な損失を被ることになる。そうした思考を持ちながら、今は自助で凌ぐしかないと考える。

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お下がりこそSDGs。

2021-08-11 06:27:47 | Weblog
 アパレル関係や小売業のプレスリリースでは、毎日SDGs関連の情報が何かしら発信される。ここ数ヶ月を見ても、以下のようなものがあった。

○土に返る新素材
○植物由来の加工剤
○漂着ペットボトルを再生
○衣料品再生事業で復興
○日本古来の資源で地域活性


 内容は新素材の開発から環境負荷にならない製造法、リユース、自然素材への回帰と様々だ。アパレルは基本的に生地や糸無しでは成り立たないから、まずはそれらをどんな組織・混紡、どんな製造・加工法で製品にするか。次に小売りの段階を経て着用が始まると、洗濯などケアをどうするか。さらに着古した物をユーズドとして再販・再利用するか。破砕してウエスや繊維原料などに分別するか、である。SDGsの取り組みはざっとこんなところだろうか。

 アパレルの歴史を考えると、繊維製造の川上から企画デザイン、縫製・加工・卸の川中、小売りの川下と、事業者はそれぞれ独立して発展してきた。90年代半ばからは製造小売業のSPAが台頭したが、中小事業者は自身のビジネスで手一杯だからリサイクルまで考えてものづくりや販売を行ってきたわけではない。ここにきて世界的なSDGsの流れから「うちもやらないといけないかな」という気持ちに変わってきたのが実情ではないか。

 ただ、繊維は撚った糸を織って作られる。その糸が綿やウールだけでなく、ポリエステルやナイロンなどが含まれると、リサイクルの過程で元の原料に分別するのに手間とコストがかかる。スピーディーかつ低コストでリサイクルする技術開発も進んではいるようだが、実用化にはまだまだ時間がかかりそうだ。

 単純に考えると、使用する素材を〇〇100%にした方がリサイクルもしやすい。しかし、企画デザインする側が素材を採用する条件には、生地の色艶や組織、風合いなどの表現面と、伸縮やケア、堅牢度といった機能面がある。柔らかくて軽くてこしがあるとか。光沢はあるけど、ケアが楽とか。破れにくく、虫にも食われないとか。そうした目的によって、素材メーカーはどうしても異素材の混紡を行うのだ。

 リサイクルの詳細な処理工程はここでは省略するが、綿50%とポリエステル50%、綿95%とエラスタン5%、ポリエステル、アクリル、ナイロンといった合繊3種の場合、どれが一番リサイクルに手間とコストがかからないのか。現状では完全に2種類の混紡で、パーセンテージもほぼ半々くらいが処理には理想的だろうか。

 つまり、ビジネスを効率化したいSPAが、SDGsに取り組むには素材調達の段階から、リサイクルしやすい100%素材か、天然由来のプラスチックを原料にしたものを多用するのではないか。ディテールの堅牢度を増すために、数%ポリエステルを混紡した綿主体のアイテムもある。これは中古を含めて廃棄後の行き先は「ウエス」なるケースがほとんどだろうから、油を拭いた後は焼却され分別されることはないとの判断もあるだろう。

 さらにグローバル企業で株式を上場していると、競合他社がそうすればSDGsの流れには背けない。建前では堂々と「SDGsに取り組みます」と言っても、収益をあげる上では非効率なことはできるだけ避けたいというのが本音ではないのだろうか。そうしたところがSDGsにどう影響しているのかも考えないといけない。


SDGsは販促のためのスローガンか

 先日、ユニクロが「環境負荷の低い素材や製法を用いた子供服を8月末から発売する」と、発表した。「ペットボトル由来の生地で作った子供向けフリースを初めて用意する」という。環境負荷の低い素材やペットボトル由来の生地を使用する点では、「当社では子供服でもSDGsに貢献する素材やアイテムを採用します」と受け取れる。

 もともとユニクロの知名度を上げるきっかけになったのは、フリースだった。最初に発売された時は量産を目的としたため、フリース専用のポリエステル素材を調達していた。パタゴニアが完全にペットボトルをリサイクルした素材を利用していたのとは、対照的だ。低価格を売り物にし、大量販売を目指したために仕方ない面はある。

 ただ、柳井正社長のことだから、当時は「専用素材だろうとペットボトルの再生利用だろうと、元は同じポリエステル。ブランドはいろいろと講釈をつけて価値を付け、価格を吊り上げただけに過ぎない」と、嘲笑っていたと思う。ところが、グローバル企業に成長すると、同社でも世界中が注目するSDGsを無視できなくなった。そこで、子供服の選択権をもつ母親が一番SDGsに関心があると踏み、子供服を投入したのではないか。

 ちょうどこのリリースを目にした時、子供服のリサイクルショップを運営する代表が語った言葉が頭をよぎった。「子供は肌が敏感なので、使用する素材は綿やウールで、合繊は使いません」「肌に直接触れる下着はもちろん、Tシャツやパンツも綿100%。入学式のスーツやドレスはウールになります」と。その後、アパレルが低価格になる中で、子供服も直接肌に触れないニットやアウターは合繊混紡が増えている。




 アクリル混のニットは半年も着れば毛玉がつく。着方によっては静電気も発生する。子供たちがそれらを嫌がり着るのを躊躇うか。母親が丁寧にケアしてあげて着続けさせるのか。成長が早く着用期間が短いことを考えると、ケアの手間よりも安さの方が優先されると思う。一方、フリースは前あきで着やすくケアも楽だから、たぶん購入の選択肢には上がるだろう。そうした環境の変化から、ユニクロが「ペットボトル由来の子供向けフリースもいける」と考えたとしてもおかしくない。SDGsは後付けの理由のような気がする。

 小学校でもSDGsまでは言わないまでも、環境に関する授業は行われていると思う。子供たちがそれをどこまで深く考えているかはわからない。結果として、親側が子供たちに対してSDGsの啓蒙のために「ペットボトル由来の生地」などの冠がつく商品を着せるのか。それとも、そこまで意識する必要はないと、購入までには至らないのか。価格も絡んでくるだけに何とも言えないのだが、秋冬の商戦で判断されることになる。


子供たちがSDGsを理解する環境づくり



 もっとも、子供服のSDGsは何も素材開発だけではない。かつて日本には「お下がり」という習慣があった。最近では、中学や高校の制服を後輩に譲るという新たなトレンドが生まれている。生徒たちは物を大事さが少しはわかってきたかもしれない。前出のリサイクルショップ代表が店舗を出したのも、親として抱いた率直な気持ちがきっかけだった。

 「出産には20万円ほどの費用がかかる。一方で、育児用品もいろいろ必要。当時は肌着やベビーカーも値段が高かったので、お下がりでリサイクルできるような商品があればいいなと」。お下がりという習慣は、相手に気を使うのが嫌で次第に薄れていったが、昨今はネット販売のようなルートが生まれて堂々と行われてるようになった。

 だが、実店舗でユーズド商品を買ったり、売ったりするのはネットとは違う楽しさがある。お客にとっても、PCで検索するより掘り出し物が見つかるワクワク感があるし、店主として不必要ものを必要な人へ譲り渡すサポートもできる。これも立派なSDGsではないか。

 このリサイクルショップでは顧客を組織化し、メルマガの発信を通じて情報のやり取りを行っている。レアなブランドや1点ものの用具などをタイムリーに紹介すれば、お客の購買意欲を喚起できる。まさにビジネスとSDGsの両立である。さらにイベントも開催している。子供服のファッションショーだ。あくまで提案だが、ユーズドオンリーの舞台を設ければ、「中古品でもコーディネート次第でおしゃれに着こなせるよ」と、子供たちには楽しさを、親にSDGsを浸透できる。

 代表は「デザイン活動で定評がある障害者施設の入所者とコラボし、破れや染みのある商品をリメイクしてもらう試みも企画している」とも語っていた。何も環境負荷の低い素材や製法、自然素材への回帰ばかりがSDGsではない。商品を少しでも大事に着ていくこと。まだまだ着られるものは、お下がりとして譲ること。それが子供たちの和を育み、親の絆を深める。やや情緒的かもしれないが、商品どうの前に子供たちがSDGsを理解する環境づくりも重要だと感じる。

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量品計画へバリュダウン。

2021-08-04 05:58:59 | Weblog
 チャイナリスク、チャイナプラスワンと言われて久しい。だが、日本企業の経営者は中国が世界最大の人口を抱えるため、どうしても市場攻略のトップに位置付けたいようだ。アパレルでは、ファーストリテイリングがユニクロ中国の好調さに支えられ、一躍世界一の座を手にしようとしている。それに触発されたのか、無印良品を展開する良品計画も、2024年8月期から中国で年間50店のペースで出店するという。

 これは9月に社長に就任する堂前宣夫専務が中心となって策定され、24年8月期を最終年度とする中期経営計画に盛り込まれた。正確には、この期末までに中国事業を担う専従チームを発足させ、出店の体制を作り上げるもの。しかし、新疆ウイグル自治区の人権侵害が世界から批判される中、中国側の顔色を伺いながらの展開になる。また、欧米の反発や不買運動が起こることも予測されるので、計画通りに進むかは予断を許さない。

 国内事業については、24年8月期に出店を従来の約5倍、年100店ペースに拡大する。店舗面積が1980平方メートル(600坪)以上の大型店を既存の食品スーパーに隣接させての展開。日常の買い物として来店頻度向上を狙い、日用雑貨や衣料品の購入も促す考えというから、まさに「コバンザメ商法」で量を展開し、売上げ拡大を目指す構えか。目標数値は24年8月期が売上高7000億円(営業利益750億円)であるのに対し、6年後の30年8月期には売上高3兆円というから、何と4倍強の壮大な計画になる。

 また、「個店経営を徹底し、国内外とも地域に密着した店舗運営ができる店長級の人材育成を強化」。「社員株主の仕組みを充実させて経営者マインドを高め、個々が自律して働く意識を醸成を図る」。つまり、高額な年収が欲しいなら、サラリーマンではなくマネジメントができる経営者然として働けと言うこと。社員株主に踏み込んだのは、「ストック・オプション」を意味するのか。良品計画としては社員に高額年俸を支払えば、応分を投資させて回収する。いかにもコンサル出身の堂前社長が考えつきそうなことだ。


店長級の育成が出店のペースに追いつくのか

 ただ、あくまで中期計画だから、目標の通りにいくとは限らない。むしろ実現させるにはいくつものハードを乗り越える必要がある。では、それについて考えてみたい。まず、中国事業は、年間50店のペースに足るだけの経済成長が今後も続くかが懸念される。中国のGDPは、2012年以降7%台に低下し、18年は6.6%。20年はコロナ禍の影響もあって2.27%まで低下。30年ぶりの低水準だった。

 ところが、平均賃金は2007年と2020年のを比べると、地域や業種によって差はあるものの、2.5倍~3倍程度上昇。経済成長が鈍化する一方、人件費は上昇するという状況で、日本のようにパートアルバイトが確保できるか。また、店長は日本人が赴任するのか。現地の人間を日本型の店長に育てるのか、である。多店舗、量展開では、計画に盛り込んでいる「店長級の人材育成」が命運を分けるのは言うまでもない。



 中国における既存店は大都市中心の展開だから、スタッフの教育水準、倫理観もグローバル企業が規定するレベルには達していたと思う。しかし、年間50店舗も出店していけば、エリアは地方都市にまで拡大せざるを得ない。パートアルバイトが約束事や内規を破り、隙をついて商品や備品などを着服し、ネットで転売しないとも限らない。

 採用するスタッフのコンプライアンスや労働モラルの低さなどはリスク要因となる。中国事業の専従チームはこれから社員教育、人材育成、法令遵守などについての詳細を詰めていくのだろうが、それが出店ペースにそって機能するかは懐疑的である。

 かつてユニクロに在籍した堂前社長のことだから、中国での年間50店舗の出店といい、連結決算での売上高3兆円といい、同社をかなり意識したものと見られる。目標通りに行くかは別にしても、経営者として相当のリスクに向き合わないといけない。果たして、その覚悟があるのか。まあ、達成できなければ、社長退任も辞さない覚悟で中期経営計画を策定したのだろうが。


個店経営、コバンザメ商法は無印に馴染むのか

 一方、国内の既存店は東京の銀座や有明などの大型旗艦店を除けば、SCなどのビルインになる。拡大戦略では、「地域に根付いた食品スーパーの隣など日常生活に密着した立地に売場面積1980平方メートル超を出店」。つまり、地域スーパーに隣接させ駐車場まで完備した独立の「路面店」を展開していくと解釈される。



 また、「生活に必要な商品の全てを販売」とは、有明店で品揃えが始まった「米穀」「青果」に加え、「精肉」「鮮魚」「日配」「塩干」なども取り揃えるのか。とすれば、地域スーパーが集客したお客に対し、無印良品の衣料や雑貨のついで買いを促すコバンザメ商法だけでは、売上拡大は厳しいとの判断があったことになる。当然、良品計画として全く新しい挑戦だ。

 西友時代の無印良品なら母体が生鮮や日配などを扱っていたが、今は完全に独立している。そのため、専門の人材を確保してMDから仕入れ、販売までのノウハウを確立しなければならない。年商2000億円に成長したドラッグストアのコスモス薬品ですら、日配を扱い始めた当初は相当のロスを出したと営業責任者は語っていた。西友ですらウォルマートの傘下入りしたものの、経営を立て直せずに楽天と提携してネットスーパーに活路を見出そうという状況だ。地域スーパー路線を短期に軌道に乗せるのは、それほど簡単なことではないのである。

 そもそも地域密着と言葉では簡単に言えるが、既存のスーパーは長年の経験値をもとに経営ノウハウを確立し、顧客も確保している。NBの戦略商品や重点販売商品、ファミリーを集客するベーカリーや惣菜、メーカーのリベート活用、棚割りやエンド展開、チラシ投下、EDLP、PA管理などで一日の長がある。それと対峙できるように店長級の人材を育成すると言っても、現状の良品計画に地域密着=ローカルスーパーの店長育成ノウハウはない。

 だから、「個店経営を徹底し」にその解が隠れているような気もする。つまり、自社でローカルスーパーのノウハウを確立するには時間もかかるため、スーパーの店長経験者をヘッドハンティングするのではないかということ。または良品計画の社内から独立希望者を募って、1店舗または複数店を丸ごと任せる狙いではないか。後者はユニクロが実施しているSS(スーパースター)店長のようなポストとも受け取れる。

 もっとも、日々の買い物でお客を呼ぶには、商品と価格が決め手になる。特にスーパーの利用頻度が高い中高年は、NBシンパがほとんど。しかも、NBを1円でも安く買いたいという購買心理が働く。ところが、無印良品はグロサリーにしても自社ブランドだ。だから、可能なのは衣料や雑貨の限定値下げくらい。戦略商品や重点販売商品を設けて安売りしてしまえば、ブランドを毀損しかねない。どこまでの競争力を持てるかは疑問だ。



 ファミリーを集客するには、「惣菜」「ベーカリー」が不可欠になる。無印良品はカフェレストランを運営し、ベーカリーは有明店で展開している。厨房の設備投資をすれば展開はできると思うが、店別の製造オペレーション、品揃えや個数、タイムスケジュールなどは、店長の力量による。また店長は製造スタッフのフォローに回るために魚を捌いたり、寿司を巻いたり、揚げ物の下拵えくらいは修得しておくのがスーパー業界の常識。地域に密着した店舗運営ができる店長級の人材育成には、ここまでが求められるのである。

 生鮮や惣菜、ベーカリーについてはテナントを入れれば、可能になるかもしれないが、それでは無印ブランドを生かしきれない。地域に住む消費者からすれば無印良品は知っていても、日々の買い物で簡単に乗り換えるとは思えない。地域スーパーのテリトリーに割り込んで、無印良品が簡単にお客を捉まえられるほど甘いものではないのだ。堂前社長が描く青写真にはいくつもの暗雲が立ち込める。

 振り返ると、無印良品が1980年にデビューした時は西友のPBだった。だが、セゾングループのクリエイティブ戦略に支えられ、独立ブランドとして価値を醸成した。特に衣料品についてはDCブランドの影響を受け、素材の活用が秀逸だった。それが2000年以降は、価格を全面に打ち出した廉価政策に転換。反面、商品企画に注力する姿は薄れていった。そして、昨今はさらに値下げを断行している。それを「無印量品」と揶揄する人もいる。売上げ追求で量の展開には、バリュダウンが見え隠れする。

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