HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

好業績とCM投下に見るU.Aの戦略。

2012-03-30 17:29:56 | Weblog
 ユナイテッド・アローズが立て続けにCMを投下している。まず、ヤングファミリー向け業態のUNITED ARROWS GLR(グリーンレーベルリラクシング)で、「恋するレーベル」の3パターンを3月12日からオンエア。続いて、ヤング向けカジュアル業態のビューティ&ユース ユナイテッドアローズでも、イメージCMを目下放送中だ。

 GLRは若手女優の成長株の吉高由里子を前作に続いて起用。業態のメーンターゲットに比べると、やや下のエージだが、ユナイテッドアローズ本体には手が届かない若いOL層に対し、コストパフォーマンスのいいGLRで、将来の顧客を青田買いしておこうという狙いが感じられる。
 また、 B&Yバージョンは、ニューヨークのダウンタンをアップテンポな曲に乗って闊歩する男女を通して、コンセプトである「FREEDOM:STANDARD」の世界観を訴え、ブランドイメージを確立しようという意図が見られる。

 大多数の消費者がU.Aは、セレクトショップと思っている。だが、GLRはもちろん、ビューティ&ユースはオリジナルの比率が相当高いのも事実だ。厳密な数字はわからないが、店頭の見る限りでおそらくGLRは8割、B&Yで6割くらいは行っているのではないだろうか。
 とすれば、もはや品揃えや編集力を目的とするセレクトショップの領域を脱し、SPAバイイング型として商品調達やブランディングに重点が置かれるのは言うまでもない。要はセレクトショップなら他店にも同じ商品があるが、SPAはその店にしかない商品を打ち出すってことだ。
 U.A自身は、セレクトショップの看板を捨てたわけではないと思う。ただ、商品づくりが「ユニクロと同じようなシステム」と消費者に受け取られてしまうと、ブランド力もイメージも一気にがた落ちになる。CM投下はU.Aの独自性を確立するための格好の手段というわけだ。

 もっとも、同社の好調な業績を見ると、急激なSPA化も否定はできない。平成23年3月期連結決算は、売上高906億1200万円(対前年比8.5%増)、営業利益64億900万円(同29.7%増)、純利益22億8300万円(同62.7%増)だったが、24年度3月期見込みは、売上高1012億7200万円(同11.8%増)、営業利益95億5000万円(同29.3%増)、純利益51億6700万円(同43.7%増)と、ともに大幅な伸びを示す。
 23年度は各社が東日本大震災の影響で売上げを落とす中、U.Aはこれほどの好業績を上げた理由を「収益に応じたコストコントロールをきめ細かに行なうことにより、収益性を高めたこと」と分析する。

 つまり、セレクトショップ=小売業として、仕入れのコストを下げるくらいではたかがしれている。GLRは50店舗以上が展開され、B&Yも30店舗に迫る勢いなのだから、コストコントロールや収益アップにはやはりSPA化が最適だったということだろう。
 オリジナルを開発することでコストを削減し、70%程度の値入れ率を確保。ロスを抑えるのは初期に売場のフェイスに効率的に商品を配分し、期中はスポットや追加の商品を徐々に加えながら、最適な在庫量を調整する。余剰ストックはオンラインストアで消化しつつ、残りはセール用商材にまわせば、さらに収益が増すというわけだ。GLRやB&Yの売場には、そうした構図が透けて見える。

 こうしてコストとロスを抑えると、調達原価率がかさ上げできるので、クオリティの高い商品を開発できる。そこにU.Aのブランド力やイメージが加わるので、商品はバリュウ競争力をもつ。こうしたビジネスモデルに磨きをかけたことが今期の好調な業績に表れているのだ。

 U.Aは3月23日、竹田光広取締役兼副社長執行役員が4月1日付けで「代表取締役兼社長執行役員」に就任する役員人事を発表した。竹田新社長は中堅商社の兼松江商(現兼松繊維)の出身。05年にU.Aに入社し、B&Yなどの統括責任者を務めてきたが、繊維系商社出身だけに商品の開発調達はお手の物だ。
 執行役員というポストも、商品企画から資素材の手配、生産、在庫コントロールまで一手に権限を握れるという点で、同社のSPA化では有効に機能したはずである。

 もちろん、U.A本体やアナザーエディションは、仕入れの率も高いから、完全SPAになることはないと思う。 成熟していないアジアの新興市場に出るにしても、まだまだ時期尚早との考えだろう。 それだけにSPA型バイイングセレクトとして、当面は国内市場をがっちり押さえていくということだ。
 CM投下の背景にはそうした戦略が見て取れる。でも、一連のCMからセレクティングのイメージは感じられない。バイヤーが世界中で商品を買い付ける魅力が伝わらないことに、少し寂しい思いがするのは筆者だけだろうか。
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売上げ拡大から環境保護へ。 PPRとプーマから目が離せない。

2012-03-26 17:37:41 | Weblog
 3月16日付けのWWD.COMに、以下のヘッドラインが載った。Jochen Zeitz has been named a director of the board of PPR, for a four-year term, and will chair the French firm's newly created sustainability committee.
 直訳すると、「4年間、PPR(ピノープランタンルドゥート)の要職を務めて来たヨッヘン・ツァイツは、フランスの会社で新しくつくられた持続開発委員会の議長を務める」と、いうものだ。

 ヨッヘン・ツァイツ(日本表記:ヨハン・ザイツ)は昨年、フランツ・コッホにプーマCEOの座を譲り、自らは親会社PPRのCSR部門の戦略スーパーバイザーという要職にいた。今度はPPRが新たに創立した「持続的開発委員会」のトップとして、環境の保護や資源の保全などに辣腕を振るうことになる。
 ヨハン・ザイツと言えば、07年、グッチなどを擁するPPRがプーマ株の30%を公開買い付けし、傘下入りしたおり、CEOとしてPPRの経営資源を活用し、プーマの売上げを拡大させた人物である。
 故・アレキサンダー・マックイーンと組んで高級スニーカーを企画したり、フセイン・チャラヤンのデザインでアバンギャルドな商品も発表したり。09年春開幕の米国の「ウィメンズ・プロフェッショナル・サッカー」とは複数年契約を結ぶなど、ナイキのお膝元で女子サッカー普及に大胆な先行投資も行なった。

 ところが、10年のW杯南ア大会を前後から戦略に新たな軸を加えた。環境保護やフェアトレードを意識した政策である。写真家ヤン・アルサス・バートランドとリュック・ベッソンが製作した環境映画「ホーム」に協賛。また、サハラ砂漠以南の国で生産された綿花を使ってTシャツ、スエットなどを生産し、サッカーファン向けに販売することで、綿生産農家の生活向上にも取り組んだ。
 今回の持続的開発委員会のトップ就任はこうした一連の活動の延長で、国連の地球サミットで採択されたアジェンダ21を受け、21世紀の課題として環境と開発を共存し得るものととらえ、企業としても環境や資源を考慮した節度ある開発を追求していこうということである。

 これを受けてだろうか、プーマのコッホCEOも、持続可能性に関わるKPI(重要業績評価指標)を新たに設定。今後の市場開拓では「これまでのグローバルな思考・行動は従来のようにできない。世界は地域ごとに異なり、今より一層地域に焦点を当てる」という。
 つまり、商品の開発段階からデジタル・マーケティング、SNSに取り組み、市場から求められない商品は作らず、Eコマースを駆使し店舗や在庫を調整して、環境や資源を守ろうというのだ。
 PPR傘下の高級ブランドは計画生産が前提だし、アウトレットも機能するから持続的開発は不可能ではない。ただ、プーマは各地域にライセンスを与えているし、 量販ルートのシューズやスポーツウエアは適性在庫の範囲を超えているように思う。まずはそうした見直しから、手をつけていただきたい。

 日本に目を向けると、東京・銀座の一等地にグローバル旗艦店を出店したSPAのように、素材集約型でアイテム数を極端に絞り込み、大量生産・大量販売で売上げをあげている企業がある。
 そのトップは「欧米からアジア中心の消費社会に変わり、今の40、50倍のグローバル経済が新たに出現する」と息巻くが、自社のビジネモデルではそうした市場の何倍もの商品を生産するわけで、Sustainable Developmentの次元とは大きくかけ離れているように思う。

 これから発展途上国の消費意欲が高まるのは言うまでもないし、マーケットや投資家も売上げにブレーキがかかることは望まないだろう。しかし、PPRが毎年増収増益を達成する中で、なおかつ利益率を大幅に伸ばせば、少なくとも無駄を省いたと見ることはできる。
 ヨハン・ザイツが取り組むSustainable Developmentが本物か。その正否は今後の製造業全体に大きな影響を及ぼすことは間違いない。
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ビームスの専門会社はプレス志望の福音か。

2012-03-22 11:02:29 | Weblog
 3月16日、ビームスはプレス業務を行なう別会社「ビームス・クリエイティブ」に本社の店舗プロモーション、Webコンテンツ制作を手がける部署を移したと発表した。 雑誌掲載や印刷といったメディア戦略、情報発信、販売促進などの業務は、バイイングやマーケティング、販売といった営業部門とは分けてやっていこうということだ。
 現時点でプレス業務のカテゴリーをどこまでとするかは想像の域を出ないが、中堅小売業であるビームスの場合、テレビや新聞といったマスメディアを多用するとは考えにくい。それゆえ、ブランド力&イメージアップのための宣伝販促、いわゆる雑誌タイアップやカタログ&フリーペーパーの制作、店頭デコレーション、インターネットの情報発信なんかを「新会社」が担当すると考えられる。

 当然、こうした仕事に就くには、ファッションとは別のスキルが必要だ。広告や販促、パブリシティ(広報)の知識を持ち、グラフィック&Webデザイン、コピーライティング、撮影、編集、印刷などのスキルを持たなければならない。
 もちろん、実際の撮影はカメラマンが行なうし、印刷は外部発注当たり前だ。しかし、ビームスは制作=クリエイティブワークは、おそらく社内で行なうということだろう。ビームスの企業理念を理解し、なおかつ専門的な知識技術を持ったスタッフでないと、ビームスが目指す高いクリエイティビティは発揮できないからだ。 社名にその思いが表れている。  
 それゆえ、新入社員が販売職からボトムアップして、プレスに就くのは無理だと思われる。

 かつて一般企業では広告宣伝や販促といった部署は、社内の人事異動でスタッフが移るケースが普通だった。また、入社の時に希望したとしても、上司から「まずは営業で頑張れ、そして実績を残せ。ならば希望がかなうかもしれないから」と諭され、結果を出した人間だけが異動していた。
 しかし、企業のグローバル競争が激化し、収益が上がりにくくなった今日、広告宣伝費などの経費はカットされる一方、ブランドロイヤルティを高めるために高度で効率的な広告&広報ノウハウも必要になっている。ならばスペシャリストを社内に抱え、彼らにメディア戦略や広告宣伝を任せた方がスピーディで、コストダウンに繋がるという考え方もできなくはない。

 こうした手法は「日立製作所」が早くからとっていた。ここは宣伝部が独立していて、新聞広告やポスター、カタログなどはすべて自社制作。スタッフもグラフィックデザイナーやコピーライターといった専門職を本社とは別に採用していた。
 また、サントリーは子会社に広告制作会社「サンアド」を持ち、同社がウイスキーなどの広告制作を手がけた。かの有名な「角÷H2O」といった名コピーもここで生まれたのである。
 ファッション業界はこれらの企業ほど力を入れてこなかったが、ビームスがついに先陣を切って独自にプレス業務を手がけるのだ。近い将来、「求むプレスの即戦力!グラフィックデザイナー&エディター、ただし経験者に限る」なんて、ビームスクリエイティブのプレススタッフ募集がリクルート関連のメディアに掲載されるかもしれない。

 地方に住む高校生がコンビニでファッション雑誌を立ち読みし、「将来はビームスでプレスになりたい」なんて思ってファッション専門学校に進学しても、悲しいかなその夢は叶わないのではないだろうか。
 ビームスでプレスの仕事に就きたければ、とにかく受験勉強をして一般大学に進学し、徹底して読み書きの勉強するか、美術大学や専門学校でグラフィックや雑誌編集、Webのデザインなど技術を習得するか。さらにその先は広告制作や出版の仕事を経験し、専門的なノウハウを身につけなければならないのである。
 この春、ビームスが各店で配布しているフリーペーパー「BEAMS MAN 2012 SPRING&SUMMER.」や雑誌Beginタイアップリーフ「今欲しいモノどっち派!?」を見るとよくわかる。エディトリアルやアートディレクションがハンパ無く秀逸だ。まさにセレクトショップの「編集ノウハウ」を生かしたツールで、専門的なスキルを持った人間でないと制作できないのは、プロが見ればひと目でわかる。

 広告代理店やテレビ局が制作を外注していることを考えると、 プレス=メディア=クリエイティブとは一概に言えない。プレス業務にどんなスキルが求められるかは、企業によっても温度差があると思う。
 ただ、ビームスは若物には絶大な人気を誇る企業だ。少なくとも高校や大学などの進路指導者は、学生に適切なアドバイスを行なうために、こうした業界の動きは知っておくべきだろう。
 そして、何よりファッション業界でプレスを目指す若者は、進学した学校で読み書きやデザインを学び、クリエイティビティという制作能力を磨くことが求められる。今後はビームスに限らず、プレス職には必要になってくるはずだ。まあ、グラフィックやエディトリアルを勉強する若者にとっても、福音であることは確かであるが。
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1000円弁当で釣るファッションイベント。

2012-03-18 15:19:23 | Weblog
 年度末である。税金を使う公共事業は3月31日までに行なわれ、「いい結果」を出さなければならない。次年度も事業を継続するには予算獲得が必須で、それにはいい結果を報告して議会の承認が必要になる。  
 ただ、公共事業のいい結果は、なぜか胡散臭い。利害関係者が水面下でデータを操作するケースが少なくないからだ。いわゆる「まやかし」である。

 3月25日に開催される福岡アジアコレクションも、福岡県民の税金に支えられている公共事業。このチケットは主催者側の発表で、すでにソールドアウトになっている。
 ただ、光彩処理の「完売御礼」に反して、チケット購入は「関係団体」にも割当られている。売れ残りのリスクを避け、確実に好評さをアピールするためだ。こうしたからくりがあるのは、別に珍しくも何ともない。   
 ところが、チケットが売れても実際に観客が来場しなければ、公共事業としての「イベント効果」を疑われる。当然、いい結果とはいかなくなる。

 そこで関係団体に観客としての動員がかけられる。その人々は主催者側が福岡県に提出する報告書に書く「数字」の頭数にされ、いい結果が作り上げられるわけだ。関係団体とは、福岡アジアコレクションの名の生みの親であり、イベントにも関わっている「福岡県美容生活衛生同業組合(FUBA)」である。
 FUBA組合員である某ヘアサロンのオーナーは、「FUBAから観客として来場するように促された」と、語ってくれた。また「チケット代は組合費から出ているので、手出しはしてない」とも。つまり、チケット完売の信憑性を裏付ける「まやかしの観客」が作り出されているのだ。

 スタッフとして参加した別の組合員はこうも語る。「タレントのキャラを壊さないように、ヘアメイクは制限されている。これじゃ、自分たちの表現の場にはならない」と。さらに別の組合員は「いろんな展示もあったけど、支給された1000円弁当がいちばん豪華だった」と付け加えた。
 コレクションに何らかの形で参加した組合員は、イベントスタッフ用の弁当がもらえる特典があるようだ。おそらく、その経費はチケット代に乗せられていると思われる。
 でも、1000円の弁当が良かったのもうなずける。コレクションといっても、それはクリエーションのお披露目ではなく、タレントがチープなファッションを着てランウエイに登場する客寄せ興行に過ぎない。だから、クリエイティブワークをやっている人間にとっては、つまらないはずだ。

 イベント終了後にはフォーラムが開催され、他の活動を含め事業の総括がなされる。過去、そこで主催者側が提出した資料には、必ず「今回のコレクションは前回より、観客が増えた」との記述がある。このうちの何名かは、イベントに関心をもっているとは言い難いFUBA組合員なのである。
 でも、こんな数字は会場のキャパが決まっていれば、何の意味もない。前年の販売枚数を少なくしておけば、当然、翌年は増員したように取り繕うことができる。おそらく、主催者側もそれをわかってやっているのだろう。
 ただ、「1000円弁当で関係者を釣る」とは姑息というか、何とも情けない。それほどの価値しかないファッションイベントであることも確かだが。
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先を読む大切さを説いた松本瑠樹、逝く。

2012-03-17 17:21:13 | Weblog
 3月13日、DCブランド「バツ」の創業者で、デベロッパービジネスにも造詣の深かった松本瑠樹氏が亡くなった。同氏はDCブランドとファッションビルとの関係を作った一人とも言っていいだろう。

 特にパルコが渋谷パート2の出店に際し、当時、勃興期にあったニコル、ビギ、バツに実験的ニュアンスで出店を要請した時のエピソードは有名だ。同氏は「出店するだけでは何の意味もない。ビルそのもののコンセプトまで提案」した。
 ファッション業界側がビルづくりに参画する。当時としては画期的な取り組みだった。しかし、大手アパレルに比べると、DCブランドはどこも中小零細ばかり。そうした海千山千の新興勢力に、パルコがビルのコンセプトを委ねることに二の足を踏んだのは言うまでもない。

 その後、松本氏はラフォーレ原宿の改装を機に本格的なファッションビル開発を手がける。原宿にはラフォーレが開業する以前からマンションメーカーやDCメーカーなどのアパレルが閑静な環境に引かれて数多く集まっていた。バツもその一つだった。
 当時、筆者は高校生でたまに表参道を歩くと、必ずお洒落な出で立ちの人々と擦れ違ったことをよく憶えている。今のラフォーレ原宿の場所にはたぶん小さな教会があったと思うが、その開業において松本氏が教会移転に尽力したことで、地下フロアにDCブランドを集結させることにこぎつけた。その話しをだいぶ経ってから、何かで読んだ記憶がある。

 その後、DCブランドはラフォーレ原宿の中で売上げを急拡大させ、他の不振テナントに代わって、ファッションビルの中でその発言力を増していったのである。
 DCブランドを集積したファッションビルは、そのクリエーションで引きつけた顧客を特定の場所に集めることで、立地環境を創造したと言ってもいいだろう。当然、立地の創造はその地価を引き上げ、不動産業者は地価高騰の恩恵を受けたのである。    
 ただ、デベロッパーが土地を所有していなければ、地価高騰はテナント料を引き上げさせる。ひいてはテナントが値上げに対応するため商品価格を上げなくてはならない。松本氏は「価格が上がれば当然、売上げ不振となって悪循環になる」と、ファッションビルの問題点を指摘した。今では考えられないことだ。

 また、松本氏はファッションビルのプロモーションにも一家言を述べていた。それは広告と販促の混同だった。「広告と販売促進はまったく目的が異なる。広告は単に知名度を上げるものだが、販促は顧客を店に引きつける目的をもつ」と。
 つまり、パルコをはじめとするファッションビルは、広告には力を入れていたが、販促は疎かにしていた。だから「ビルを訪れていたお客は決してそのビルの顧客ではなかった」と言いたかったのである。これ以降、このフレーズは筆者にとっても仕事のベースとなった。もちろん、今ではファッションビルの多くが、顧客作りにハウスカードなどの販促を重視しているのはいうまでもない。

 さらに「物を作らないメーカーや物を売らない小売店の時代は終わる。自分が所有する店で自分の作った商品を売ってこそ、消費者に気分を伝えることができる。それができる仕組みを作ることが重要」とも語っていた。
 今の業界を見ると、どうだろう。物を売り切れない百貨店は瀕死の状態で、自分で売っているSPAが台頭している。まさに松本氏が予言した通りになっている。業界にとって先を読むことがいかに重要か。同氏が残したは足跡は計り知れない。合掌。
 
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MARNI at H&Mは、ウォンツ喚起の起爆剤。

2012-03-11 14:53:58 | Weblog
 コンスエロ・カスティリオーニが1994年にスタートしたマルニ。シャープなカッティングとミニマルなラインながら、素材にはカラフルなプリントも使う。イタリアブランドらしい適度なモード感が大人の女性を惹き付けている。
 H&Mが年2回行なっているデザイナーとのコラボレーション企画。そのマルニ版が3月8日から全国の店舗で発売された。3月10日、キャナルシティ博多店でも売り出されたので、本業を外れファッションジャーナリストとして取材に行ってみた。
 南国九州とは言え、寒波の影響で肌寒い朝の9時半。イーストビルの空中回廊にはすでに300人以上が行列を作る。ダウンジャケットを着て、ベビーカーを押すヤングミセスもいたが、やはりマルニファン、お洒落な大人の女性が目立った。

 3名の警備員と日本本社からやってきたスタッフが来店客を誘導し、入場整理に当たる。2階店舗の入口を入った右手レジ前に専用コーナーが設けられ、開店と同時にお客がどっと押し寄せる。
 3月に入った時点でウィンドウにはブラウスやパンツ、ジャケット、サンダルなどがディスプレイされ、サイトでも商品と価格が公開されていた。海外SPAらしく、プロモーションは怠りない。お客の大半はお目当ての商品の決めていたようで、T字ラックに直行し、すばやく商品を確認をしていく。
 ただ、セールのようなやみくもに商品を手に取り、後で仕分けするような買い物方法ではない。コラボブランドだからと言って、「余分なものまで購入して後で後悔」なんてことにはなりたくないようだ。現物のサイズ感、コットンやシルクといった素材のクオリティ、それらの価値に対する価格バランスを冷静に見極めて、本当に欲しい商品のみを購入していく。流石、買い物慣れした大人の女性たちである。



 シャイニーなジャガード織のブラウスやパンツ、身頃がパテントレザーで袖がニットのジャケット、民族柄をモチーフにしたドレスやホルターネックのブラウス、特大のドットを使ったミニ丈のジャケットやスカート、子供が書いたようなイラストをプリントしたTシャツ、それにメンズのシャツやセーターなど、瞬く間に在庫は減っていく。グリーンの半透明袋には多くて3点ほど。お客はそそくさと店舗を後にする。
 完全売りきりだろうか、商品がフォローされる気配はない。11時半、在庫はほとんど完売した。ユニクロのヒートテックとは違う。この目で確かめたから間違いない。はたして売上げはいくらくらいか。スタッフに「在庫はどれくらい準備されたのですか」をたずねると、「それはお教えできない」との答えだった。
 だから、アイテム数から概算してみる。サイトではレディス62、アクセサリー9、メンズ30の計101アイテム。価格は最高が22,990円、最低が1,990円。仮にウエア在庫が各30点で、平均単価6,000円、アクセサリー在庫が各20点で、同2,500円として計算すれば、売上げは約1700万円になる。安く見積もっても1000万円は下らないだろう。中規模カジュアル店の1月分に相当する額である。

 わずか2時間ほどで、これだけの売上げを叩き出すファーストSPAの威力。他のアパレルや小売りはこうしたイグニションをどう見るか。「単発のイレギュラー企画だからたいして影響はない」、それとも「需要喚起には何らかの施策は必要だろう」。意見はいろいろあると思う。
 もっとも、現在、日本のアパレルマーケットでは、レディスは数年来続くフェミニン&エレガンスのコンサバ一色。メンズとてアメカジがベースのトラディッシュナルなラインばかり。後は崩しのストリート、ギャル、そしてタレント仕掛けくらいしか、流れていない。
 日本のアパレルブランドで、スタイリッシュでミニマルなデザインを提案しているところは皆無だ。筆者は今回、MARNI at H&Mがお客を集めたのは、H&Mの安さでも、 MARNIのブランド力でもないと思う。適度なモード感を好むアダルト層にとっては、コラボ商品がもつテイストが自らの感性にドンピシャで、その値ごろ感に惹き付けられたからだ。これはメンズにも共通するだろう。

 東京・銀座にルミネが進出しようと、福岡・博多に博多シティが開業しようと、昨今の大型商業施設にリーシングされるファッションテナントの顔ぶれはどこも変わらず、デザインもテイストも感度もワンパターンになっている。またエージがヤングに降りると安っぽくなり、立地が郊外に移るとカジュアルになるだけだ。
 モードスタイルを好むアダルト層なんて微々たる市場規模だから、マスマーケット狙いからすれば外されるのかもしれない。しかし、わずか2時間程度の販売機会で、1000万円以上を稼げる潜在需要があることも確かだ。インフレ基調に戻し、売上げを稼ぐには市場の活性化、ウォンツ喚起は不可欠。日本のアパレル関係者にはこうしたニッチ市場に向けた企画開発、小売業者にはそれを売る努力も求められるのである。
 
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アワード女優の定番衣装、ヒロコレッジ。

2012-03-05 10:35:50 | Weblog
 第35回日本アカデミー賞の授賞式をテレビで見た。ハリウッドを模したような企画や演出はあるものの、格式や伝統ではとても比べ物にならず、どこかに気恥ずかしさを覚える。
 筆者は評論家でもなければ、ファンでもないので、どんな映画が賞を受賞しようとさして関心はない。ただ、唯一、注目するはノミネートされた俳優陣の衣装である。特に女優陣が和服姿で登場すると、どんなブランドかついつい確認してしまう。
 残念ながら98年以来の最優秀助演女優には至らなかった麻生久美子も和服だった。着ていたのはたぶん
HIROCOLEDGE(ヒロコレッジ)のOP SHIROだと思う。(正式にはインクジェット染色による正絹の袷仕立て、帯は西陣織の本袋帯との広報より回答)。妊娠中ということで、ドレスでは体型が目立つからだろうが、白地に黒の粋な着こなしは、アワード女優にはない艶を感じさせた。
  HIROCOLEDGEは08年、ヴォーグ日本ウーマンオブザイヤーの授賞式で、宮崎あおいが着ているのを初めて見て、モダンかつ斬新な柄に圧倒された。そのグラフィカルプリントはファッションのみならず、グラフィックにも携わる筆者の目を釘付けしたのである。

  HIROCOLEDGEは、東京藝術大学・同大学院出身の高橋理子がデザインするブランドだ。2005年に仏外務省AFAAに招かれてPARIS CITE INTERNATIONALE DES ARTSに参加し、帰国後の06年にブランドをスタートさせた。現在は東京・御徒町にアトリエ兼ショップを構えて活動している。
 白と黒、円と直線を基調にした「絵羽模様」は、小紋や生活財文、矢がすりなどの柄、絞りや友禅などの染めが主流の和服界では、異彩を放つ。
 ただ、縮みや紬などといった日本伝統の織り方では、あの様な大胆な柄は表現でいない。そこで浴衣や手ぬぐいを染める技法、型染めの「注染(ちゅうせん)」を採用したり、綿麻地にインクジェットで染色する技術でグラフィカルプリントを完成させた。
 日本の伝統技を否定することなく、CGというハイテクを利用してアートとしての着物に踏み込んだと言った方が良いかもしれない。 さすが藝大、仏留学のエリートコースを歩んだだけはある。

 筆者も博多生まれだけに、帯の献上柄や水法被の染め抜きには親しみをもつ。クラシックな文様ながら、デフォルメすればグラフィカルパターンとしても十分通用するからだ。ただ、着物や帯などの和装ファッションはどんどん市場が縮小し、製造に携わる後継者も不足。技術の伝承に黄色信号がともっている。
 先日、西陣織の使用する紋紙のデータがフロッピー保存されているが、読み取り用の機器が生産中止になり、紋彫機で紋紙の穴パターンを彫れなくなるというニュースを見た。システムで革新が進んでいるため、伝統技術が残りづらい環境にあるのだ。
 「伝統は守らなければならない」のかけ声だけでは生き残れないと思う。時代にあったクリエーションが技術とともに生まれてこそ、その時々の人々に愛され、マーケットとしても成り立つのである。そのためには新しい伝統作りへの挑戦が必要になる。
 「和服だから、現代のライフスタイルに合わない」は言い訳に過ぎない。HIROCOLEDGEは日本の伝統技が育んだ衣料に、洋の東西を超える普遍的な服づくりを見いだそうとしているように思う。
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東神開発の参画でロンハーマン九州上陸か。

2012-03-03 14:00:56 | Weblog
 この春の福岡は昨年のような話題がない。そんな中、地元紙にひっそり載った2つの記事がある。ともに不動産会社が保有する物件の信託受益権を売却した内容だが、業界にとってはSC運営に関わるだけに今後の動向が注目される。

 まず、一つは高島屋の不動産会社、東神開発が日本リテールファンド投資法人から、共同運営していたSC博多リバレインの物販ゾーン、「イニミニマニモ」の信託受益権を持ち分50%を買い取ったというもの。これで東神開発はイニミニマニモを完全保有し、福岡におけるSCの本格運営に乗り出すことになる。
 ただ、 博多リバレインは計画の段階から二転三転し、1999年の開業以降も軌道に乗ることなく02年には運営会社のエスビーシーが破綻。03年にプロパティマネジメントで再出発したものの、ずっと苦戦が続くいわくのSCである。
 東神開発にしても、これまで手がけたのは二子玉川高島屋などの郊外物件か、1000平方メートル以下の中小物件ばかりで、都市型では百貨店が核店舗のタカシマヤタイムズスクエアくらいしかない。
 2万5000平方メートル以上の面積を持ちながら、核店舗が入る余地を持たない都市型物件を手がけるのは、今回が初めてである。

 博多リバレインの立地は、天神と博多駅を結ぶL字の接点に当たり、それぞれとの距離は1km程度で両地域の商圏に入る。 東神開発はイニミニマニモの完全保有に際し、「テナントを大幅に入れ替えるなどし、集客増を図りたい」と発表した。
 しかし、同社が手がけ立地的に似ている大阪・難波のなんばパークスT-terraceは、この3分の1以下の倍規模でテナントのほとんどが福岡に既存店を構えている。九州最大の商業地・天神と日本最大級の駅ビルをもつ博多駅が至近距離の福岡で、都市型SCのテナントリーシングは容易ではない。
 一つ期待できるのは、同社がセレクトショップの「ロンハーマン」を二子玉川高島屋に誘致したことだ。同店はステラ・マッカートニーやマーク・ジェイコブスなどのインポートブランド、コラボアイテムや雑貨のラインナップが魅力的で、イニミニマニモに出店すればもちろん九州初上陸。既存テナントのヴィア・バス・ストップに加え、インポートセレクト2店態勢となり、集客にも弾みがつく。

 もう一つは、総合デベロッパーの東京建物が、特別目的会社(SPC)福岡リテールホールディングスが持つファッションビル「ヴィオロ」の信託受益権をフロンティア不動産投資法人に売却したというもの。こちらはビル自体は投資法人が所有するが、運営管理は東京建物のグループ会社に継続して委託される。
 しかし、SPCが絡んでいるので、少しややこしい。SPCとは開発物件の不動産を証券化することで、幅広い投資家から開発資金を集めるやり方だ。
 ただ、SPCでSCを開発する場合、キーになるテナントの売上げが好調に推移することが条件になる。銀座のような都心立地ならSCが閉鎖に追い込まれても、銀座という立地に価値があるので問題はない。しかし、福岡のような地方都市ではキーになるテナントでSC価値が成立している場合が多い。
 ヴィオロの場合は「ユナイテッドアローズ」だろう。 従って、そのテナントが撤退でもすれば価値の減耗が大きくなるため、そのようなSCのSPC債券は非常にリスクの高い投資先と言わざるを得ない。

 こうしたリスクを考えた上でSPCを導入する場合、債券の価格自体を非常に低く(つまり利回りを高く)する必要がある。これは結果として高額な家賃となって跳ね返り、テナントの収益を圧迫することになる。
 つまり、家賃が高ければ、テナントは採算が合わずに撤退するケースが多く、それがSCの価値を下げてしまうという負の連鎖を招く。ヴィオロの場合もこのケースに入ると思われる。
 ただ、デベロッパーとしてファッションテナントをインキュベートしたり、売上げ向上を果たせればSCの価値も上がる。東京建物にはその能力がなく、ヴィオロについてもSCとしての価値を上げることができなかった。それが物件の価格低下を招いた一因でもあるのだ。
 もっとも、ヴィオロは今年3月のリニューアルで、レディスだけだったシップスを3倍規模に増床し、メンズも取り扱う旗艦店に位置づける。これはユナイテッドアローズに次ぐキーテナントを作らなければ、さらにSCの価値が低下する危機感からである。

 行き場のない余剰マネーはより高いリターンを求めて、不動産開発や物件の売買に向かう。しかし、それによってすべてのSCが軌道に乗ったかといえば、決してそんなことはない。特に都市部のファッションビルほど、テナントの顔ぶれやテイストが決まってきており、陳腐化は否めないのである。
 デベロッパーはテナントを入れ替え、集客増を図りたいといとも簡単に語るが、インフレに揺り戻すベターブランド、モード感を漂わす品揃えのセレクト、ベーシックSPAに変わる新業態など新顔が登場しない限り、器となる都市型SCの浮上もありえないと思う。
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