HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

記号ブランドに負けたくない。

2011-09-16 15:20:06 | Weblog
 ファーストリテイリングの事業戦略説明会では、同時にユニクロの「 イノベーション プロジェクト(IPJ)」も発表された。
 柳井社長は「IPJの服は進化する究極の普段着。10年を目処に、ユニクロ全商品に対してIPJを反映させたい」と語ったが、ユニクロがこれまでに捕捉できなかったベーシック路線に飽き足りない層、また「カジュアル・スポーティー」という新たな市場開拓に着眼したのがこのプロジェクトではないかと思う。
 キャッチコピーには「画期的な機能性+普遍なデザイン性 これからの服、進化した服を、ユニクロから」とある。ユニクロが得意とする高品質、高機能ではすでに目新しさがないので、更なる機能アップと、新たな概念である「普通のデザイン」で、攻めようということだ。
 ユニクロがメーンとして攻略するアジアの主要都市を見ると、欧米ブランドの進出が著しい。ビルボードには派手なビジュアルを使ったインパクトのある広告。かつて日本がそうであったように、高度成長期で最初にファッションを知るのはロゴマークだ。これはコピー商品が出回るアジアの方がより顕著といえる。

 先に書いたようにアジアではいくら有名ブランドでも、地域性や消費者の職業階層からクロージングやドレスはそれほど売れない。ただ、人間が裕福になった証しとしてブランドを着たい気持ちはみな同じで、そうしたニーズに応えているのがアディダスやナイキではないだろうか。
 広告戦略が巧みで、ログマークは際立つ。何よりスポーツは世界共通の言語である。すでに両社がスポーツの領域を超えて、カジュアルメーカーとして世界戦略を狙っているのは、周知の事実だ。
 注目すべきは、こうしたメガブランドのビジネスモデル。本国では競技スポーツを中心とした商品開発に惜しみない投資を行い、北米、アジア、欧州などの地域によってマーケティング戦略を行なう。
 しかし、莫大な利益を生むのは、各地域の商社や委託メーカーが製造する汎用商品やライセンス商品からのロイヤルティ収入だ。

 かつてユニクロは「スポクロ」というスポーツカジュアルな商品を発売した。あえなく失敗には終わったが、転んでもただで起きない柳井社長ゆえ、捲土重来のチャンスをうかがっていたはず。
 それは有名スポーツブランドがロゴマークをつけるだけで儲かることへの反抗心へと昇華し、「ならば、うちはより進化した機能と普遍のデザインで勝負する」と、戦略を先鋭化させたのが、今回のイノベーションプロジェクトのように思う。
 もっとも、スニーカー市場はアディダス、ナイキの牙城であることに変わりない。だから、スポーティライクなウエアなら十分切り崩すことは可能だと、柳井社長は踏んだに違いない。
 ブレーンには、グラフィックデザインでは日本を代表する佐藤可士和、元イッセイミヤケのデザイナーでFR傘下のヘルムートラングも手がける滝沢直己。その手練で秀逸な広告クリエイティブワークと、日本人ならではの繊細で緻密なデザイン感性で、進化するユニクロを世界に発信する。

 IPJのコレクションではスポーティ以外にタウンカジュアルも披露された。これは滝沢直己がファッションデザイナーとして譲れなかった部分だろうが、IPJが10月14日にオープンするニューヨーク5番街店で披露される背景には、世界のカジュアルマーケットで更なる市場深耕を目指す狙いもあるようだ。
 世界のトップメーカーやカジュアルSPAに比べると、ブランド力で落ちるユニクロが機能性と普遍デザインでどこまで世界市場を攻略し、名実ともにグローバルブランドになり得るか。今後の動向を見ていきたい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アジア攻略の糸口は見えたか。

2011-09-16 12:09:13 | Weblog
 さる9月14日、ファーストリテイリングが2011年の事業戦略説明会を開いた。出席者は世界中から招集されたスタッフ、
および株主、メディアなど。壇上には同時に発表された「 ユニクロ イノベーション プロジェクト」に携わったクリエイティ
ブディレクターの佐藤可士和、デザイナーの滝沢直己の姿もあった。
 柳井正社長は以前に語っていた「ユニクロがグローバルブランドになり世界中のあらゆる人に、本当に良い服を楽しんで
いただく存在になる=世界一のアパレル製造小売業になる」を繰り返しながら、具体的な数値目標として「2020年 売上高
5兆円 経常利益1兆円」を公言した。
 攻略先のメーンはアジア市場のようで、中心都市にその国の旗艦店をつくり、総出店数は中国100店舗、韓国50店舗、台
湾30店舗という。

 市場規模を考えると、世界で一番人口が多いのはアジアだから、この戦略は間違ってない。また、歴史と伝統に裏打ちさ
れた技術とクリエーションの宝庫で、常に発信されるトレンドに左右される欧米より、ファッションにまだまだ関心が薄い
アジアの消費者の方がFRのブランド、テイストの双方で洗脳しやすいと考えたのも理解できる。
 特に中国は南に下ると、気候は温暖湿潤、亜熱帯になる。1年を通してTシャツやジーンズで過ごせるわけで、それはユニ
クロが最も得意とするアイテムだ。逆に北上すれば冷帯、寒帯に入る。こちらもヒートテックやダウンジャケットという武
器があるので、十分に攻めることができる。
 経済発展が著しい北京や上海ならホワイトカラー向けのビジネススーツも必要だが、地方都市は工場や農村で働くブルー
カラーが主体。ロードサイドでカジュアルの方が売れるのは、火を見るより明らかだ。

 中国国内では増値税の還付がないため、ユニクロは高級ブランドで、一般国民の年収からすれば決して安い商品でない。
しかし、ザラはハルピンや長春、 H&Mは成都や重慶、オランダSPAのC&Aは瀋陽や無錫などの地方都市にも続々進出して
おり、彼らより先に中国でのシェアを取らなければ、グルーバル企業にはなれないとの危機感もあると思う。
 まあ、柳井社長にしてみればアジア発のFRだから、市場に対する感性もマインドも一番近く、ビジネス戦略でも十分勝算
はあるという考えだろう。
 柳井社長は発言中、居眠りしているスタッフに向かって、「聞く気がなければ、会場から出て行ってください」と辛辣な
言葉を浴びせた。そんな状況のみならず時々売場で突っ込んだ質問をすると、明確に説明できないスタッフはいる。柳井社
長の思惑とスタッフの意識には、まだまだ乖離があるように思うが。
(…続く)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

女子アナとエムズグレイシー。

2011-09-09 16:18:53 | Weblog
 ミッシーというか、ヤングエレガンスというか。裏原に本社を構えるウィメンズアパレル「エムズグレイシー」が売れている。 今年5月のデータを見ると、売上高は直営店で昨対同月比23.5%増をマークし、専門店向け卸しも堅調に推移。プロパーでの消化が順調だから、経常利益率8%台もうなづける。
 エムズグレイシーといえば、地方では必ずどこかの有力店が仕入れてきた「コンサバブランド」。デフレやSPAの台頭、ファストファッションの進出など、「専門店系アパレル」を取り巻く環境が大きく変わる中、同社は百貨店に直営の「ハコ」を構えてMDを強化。群を抜く集客力を背景にコンサバOLやヤングセレブを確実に捉えたことが結実したと言える。
 
 ただ、売れる背景には、やはりものづくりの良さがあるのは言うまでもない。一貫してコンサバ狙いという反トレンド思想で、原価が高くても上質な服を作るからこそ、お客は2年、3年と着続けられる。
 そうした専門店系アパレルらしさに合理性を感じて購入するお客は少なくないはずだ。だからではないだろうが、最近、巷でもエムズグレイシー風のOLを良く見かける。胸元に大きなボーを施したブラウス、ギャザーを入れたスカート、アワーグラスラインのドレス等々。まさに「ど!コンサバ」だ。何年経っても変わらないテイストを街中で見かけると、一瞬、30年以上タイムスリップした錯覚に陥ってしまう。
 この間、夕方のローカルニュースを見ていたら、エンディングスーパーでエムズグレイシーのロゴを見かけた。局出入りのスタイリストが福岡三越あたりのインショップから借りたのだろうが、ルックスでキー局にひけを取る「ローカル女子アナ」にとっては、たとえバストショットでも「上品さ」で対抗できるかもしれない。

 女子アナと言えば、80年代には「キャリア」テイストの代表格だった。当時、アパレルの商品企画にも、ちゃんとキャリアのカテゴリーがあり、働く女性のシンボルとして着こなしてくれた。
 ところが、 90年代に入ると、女子アナからそのテイストは消え去る。テレビ東京ワールドビジネスサテライトのキャスター田口惠美子は、その象徴的存在。都会的でエッジの利いたテーラースーツで経済番組を仕切るより、ビビッドで華やかな衣装で原稿を読む方が視聴者に好かれることを実証したのだ。
 この傾向は現在まで引き継がれ、NHKも民放も女子アナはみなコンサバ。電通マンを利用し袖にしたあの安藤優子でさえ、リースに応じるブランドは限界なのか、ずいぶんコンサバになってきている。
 彼女たちの大半が番組で着用するのは、随所に施されたラッフルやフリル使いで、 暖色系カラーで花柄やドット、マリメッコ。シルエットもルーミー&タイト、AかXのラインだ。これなら背丈やプローションのハンディも解消できる。

 もっとも、最近はキー局の女子アナでも番組用の衣装には苦労している。制作費削減の煽りを受け自前になっているからだ。TBSの世界陸上でキャスターを務めた中井美穂の格好なんか、フリーにも関わらずずいぶん酷かった。意図的に織田裕二に合わせたとしても、テレビ的に許される限度というものがある。
 キー局やフリーのアナウンサーでさえそうなのだから、ローカル女子アナはもっとたいへんだろうと考えていたら、その辺の事情に詳しい友人が教えてくれた。
 「局アナだってKBCをはじめ契約社員になるって噂がある。ローカルで契約アナなら、これから衣装手配もたいへんになるかも。過去にはテレQの今村礼子のように厚かましくも自身で新天町あたりのショップから借りるコもいた。ただ、彼女も博多落ちしてからは熊本ローカルでニュース原稿を読むレベル。自前の衣装はそりゃもう…」

 プレス効果を考えると、全国ネットの女子アナにはかなわない。ローカル番組に貸し出したところで、どれほど販促につながるかは疑問だ。それでも行なうエムズグレイシーの姿勢には敬意を表したい。しかし、ローカル女子アナでも「メディア価値」が無くなれば、好調アパレルだってリースに応じないことは自覚すべきだろう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アディダスはユーロ版に限る。

2011-09-07 10:56:34 | Weblog
 欧州最大のカジュアル&スポーツファッションの展示会「Bread&Butter」がさる7月6日~8日、ドイツの首都ベルリンで開催された。
 同展はドイツ北西部の都市、ケルンの有力セレクトショップ「14オンス」のオーナー、カール・ハインツ・ミュラー氏が中心となって2001年夏、同市でスタート。ブランドや商品をセレクトショップ向けに限定したコンセプトが受け、米国の「マジック」と並ぶ国際トレードショーの一角を占めるようになった。
 マジックが90年代半ば以降、次第にクロージングをカットして、カジュアル&ストリートにシフトした傾向は今日、世界中どこでも変わらないようだが、欧州の展示会には不思議とモード感を期待してしまう。
 出展ブランドにはロフトデザインバイ、ガウディ、クーカイなど多少のモード感を出すものもあるが、やはりリーバイスを筆頭に、ギャス、ジースター・ロー、ペプジーンズなどジーニング系、カジュアル・スポーツ&ストリートテイストが大半を占める。
 それゆえ、コアアイテムは各社ともジーンズやカットソーをトレンドで焼き直したもの。しかし、これらにお目当てのものが見つからなくても、スポーツブランドには大いに期待できる。
 アディダス、ナイキ、プーマの御三家ほか、欧州らしくアンブロ、ヒュンメルも並ぶ。かつて歌手のマドンナが履いてヒットし、Y-3も影響を受けた「プーマ・モストロ」のように、スポーツブランド各社は毎回、デザイン性を持たせたアイテムを出展するところがにくい。

 ただ、筆者をいつも買う気にさせるのは、トレフォイルマークの「アディダス・オリジナル」だ。事務所の目と鼻の先にジャパン社直営のショップがあって、日本のネット通販でいくらでも買えるのに、毎回同展に並ぶヘリテージラインのユーロ版シューズには、目が行ってしまう。
 今回も定番のランニングシューズ「ドラゴン」を2足、フランスの問屋経由で大人買いしてしまった。日本のアディダスショップは若者向けストリートを意識するため、ジャージやシューズはカラフルで旬を感じさせるものしか揃えない。
 そこそこのファッション性を持ちながらも、クラシックな定番デザインは若者受けしないし、大人のランナーはABCマートで十分なのか。どうしても日本のバイヤーにはオミットされてしまう。
 マーケットから外れた人間だからしかたないが、先日、パリから届いたシューズはやはりいい。送料、税金などでずいぶん高い買い物になった。でも、シャープなフォルムはランニングにもストリートにもドンピシャで、Y-3のジャージとの相性も良さそう。第2弾のスエード版も楽しみだ。

 ところで、英語の「Bread&Butter」と言えば、大学受験のときに「若い、青年期」という意味があるのをおぼえた記憶がある。トレードショーにこの熟語を用いたのも、米国マーケットを意識したカジュアルやストリートアイテムが主体だからか。真意はさておき英語圏のバイヤーならずとも、受験英語を勉強した日本の業界人ならピンと来るはず。
 また、 往年のフォークデュオで、同名の兄弟ユニットがいたのを思い出す。筆者よりはるかに年上の団塊世代だが、岡林信康や吉田拓郎とは違うあか抜けたサウンドは、当時としては印象的だった。
 驚いたことにBread&Butterをグーグルで検索すると、今も活動するこのデュオの方がトップに来る。 サイトの動画から聞こえてくる甲高いリードボーカルは健在。二人ともそれなりに歳をとったが、湘南ボーイの風貌は少しも貧乏臭さを感じさせない。これもブレッド&バター故か。
 もっとも、 日本人がBread&Butterのトレンドを着こなし履きこなすには、メタボが気にならない30歳代が限界。やはり、下腹が出たおじさんになると、ブレッド&バターのようにアメカジか、トラッドしか似合わないようだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

売場づくりはマイナスの+J。

2011-09-06 12:45:25 | Weblog
 ユニクロとジル・サンダーとのコラボによる「+J」のラスト商品が、9月9日から世界同時で販売される。ファッションベーシックを売りにするユニクロと、ギリギリまで虚飾を削いだミニマルなジル・サンダー。デザイン契約した当初は、大量発注を前提にした素材品質のキープ、提携工場の縫製態勢を生かした効率アップなど生産メリットは高く、小売り段階でもシンプルなデザイン性がモード好きのお客受けし、トータルコーディネートで客単価アップも期待できると考えられた。

 しかし、わずか2年で契約解消にいたった背景には、ショップ、いわゆる売場レベルでの「VMDの粗雑さ」を克服できなかったことがあると思う。
 +JのVMDはユニクロ都市型店の売場を利用し、同ブランド仕様にアレンジした棚やハンガーによるカセットMDと、ギャップを真似たインディヴィジュアル広告のパネルを配した程度。
 ただ、ビジネスシステムはユニクロと変わらず、ロングスパン、大ロット、ローコスト調達によって「低価格・高機能・高品質」の商品を、シーズン初めから売場に計画的に並べ、売り減らしていくものだ。
 この手法ではシーズン初めこそ、商品は整然と並ぶが、ショートスパンによる第3、第4といった商品追加がないため、期初で売れ残れば期中もそのまま。マークダウン時期ともなれば、サイズ、色、型がバラバラに陳列されてVMDは一気に崩れ、モードイメージはガタ落ちとなる。
 いくら、ジル・サンダーが自身のコレクションは年2回しか行なわないと言っても、モードファッションである限りブランドショップでは、ショートスパン、小ロットの品種投入で商品を展開している。この辺の溝が両社で埋められるはずもなく、結果的に商品展開における感性の落差を生む形となった。
 
 ファッションジャーナリスト・南充浩さんの繊維産業ブログ(blog.livedoor.jp/minamimitsu00/)の「ユニクロに足りない初秋晩夏企画」では、「ユニクロは冬物を先行して並べているため、9月も苦しい展開になるのではないか。かろうじてヒートテックの先物買いが期待できると思うのだが、ダウンジャケットやメリノウールセーター、ネルシャツが本格的に動くのは10月以降であろう。 ユニクロに足りないのは初秋晩夏企画である。」とある。
 +Jにしても同じではないか。9月9日にとてもメルトンのピーコートやツィードのジャケットを買う気にはなれない。特に残暑が厳しい九州ではなおさらだ。一部のマニアは衝動買いするかもしれないが、それゆえ期中には売場がどんどん歯抜け状態になってVMDが崩れてしまうのである。モードファッションを扱うにしても、ロットや品種はさておきショートスパンによる計画投入が必要だろう。

 ジル・サンダーとの契約解消後、ジョニオこと高橋盾氏デザインによるアンダーカバーとのコラボ契約が明らかになった。来春オープンする東京・銀座店でお披露目すべく、企画が着々と進められている。
 高橋氏自身はこれまでに「アンチファストファッション」を明確に宣言していたらしく、「なんで組んだ」とか、「なにを行なう」とかファンは、その動向にやきもきしているようだ。
 ただ、正確に言えばユニクロはファストファッションではない。だから、柳井正社長、高橋氏のどちらともなく、コラボ契約の正当性を主張できないことはないだろう。
 もっとも、ファーストリテイリングが5兆円規模のグローバル企業を目指すのなら、そろそろユニクロと対極にあるモードファッションを自社でプロデュースしてもいいのではないか。その主人公となるべきデザイナーを探すのなら、いろんなコラボやデザインプロジェクトも大いに結構なことであるが。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

無策ぶりはチラシにも。

2011-09-05 16:56:56 | Weblog
 JR博多シティの開業は、天神の百貨店、ファッションビルにも大きな打撃を与えた。しかし、それ以前から苦戦が続き、今回の影響でダブルパンチを見舞われたのが、「VIORO」だ。
 博多シティ対策については、同館も昨年から岩田屋三越が音頭をとったポイント連携に参加。ところが、そんなもので抜本的な対策にはなり得るはずもなく、苦戦はさらに鮮明となっている。

 策の無さ、手詰まり感はプロモーションにも見られる。同館は9月に入り、5th Anniversaryを冠にした秋商戦第一弾として販促チラシ(タブロイド版8P)を打った。メーンターゲットである25歳から35歳の働く女性向けに、ワンルームマンションなどへのポスティングと、女性アルバイトによるきらめき通り周辺での手配りだ。
 しかし、掲載された商品は、どれも今秋のトレンドを感じさせるようなアイテムではなく、デザインやカラリングも地味。テナントがセレクトショップ中心ということもあるだろうが、それでもとてもパッと見てお客を買う気にさせるとは思えない。しかも、タブロイド版のわりに商品編集が雑で、単なる置撮り写真の羅列に甘んじ、ページ数の割に情報量が少なすぎる。
 企画制作はおそらく出入りの代理店か印刷会社が主導し、デベロッパーの販促担当者経由で各ショップに依頼して「秋物のイチ押し商品で在庫が確保できるもの」を揃えたと思われる。

 しかし、でき上がったものは、ファッション性も情報発信力もないツールに堕ちてしまった。これではとても販促効果は上がらないだろう。
 原因はいったいどこにあるのか。それはデベロッパー、出入り業者、下請け会社の三社ともにあるようだ。デベロッパーの東京建物グループは、ファッションデベロッパーではない。そのため、ファッション業態をインキュベートするノウハウや企画力が乏しい。
 それを証明する事例として、かつての店長会議で堂々と「レディスだけでは売上げが厳しいから、5階をメンズフロアにしたい」と宣ったという。メンズのブランドメーカーやテナントからすれば、「バッティング」の問題があって、そんなことが簡単にできるはずがないのに。会議に参加したあるショップの代表は「正直、呆れた」と、語っていた。

 出入り業者も所詮、クライアントとのアカウント確保が狙いで、売上げがつけばそれでいいのだ。とても天神のファッションウォーズの状況など理解できているはずもない。チラシや他の媒体を支配して、適当に販促企画を提出し、通しているに過ぎない。
 出入りの代理店は同館のオープン前にティザー戦略を打ち出し、ビルボードに巨大なQRコードを掲載したり、飲食業態のADコースター、Webサイトによるテナント予告やアーチストブログなどを行なった。しかし、それはマスターベーション的企画に安住したもので、各ショップの売上げ効果につながらなかったのは、同館の苦戦が如実に示す。
 こうした出入り業者からルーチンで仕事をもらう下請けの制作会社も今回、図らずもファッションに対するディレクション能力の無さを露呈した。おそらくチラシ制作のフローは、出入り業者の担当者と打ち合わせ、方向性を決めてカンプを制作。それをデベロッパーに見せて内容を詰め、前出のように各ショップから商品を提出してもらった形だろう。

 ただ、ここでファッションを少しでも理解していたなら、「商品にトレンドがないから、デザインや色にメリハリがない」と担当者に注文できたはず。結果からみれば、ビジュアル的にもインパクトがないのだから、ファッション以前の問題もあるが。
 もっとも、メーンビジュアルに利用したフラワーアレンジの髪飾りを施したモデル写真や、シーリング(蝋封)のアニバーサリーマークは、明らかに他社の二番煎じ。写真は2002年に雑誌「エレガント ブライド」の表紙で、ディレクターのデボラ・モス&ダニエル・チェンのコンビが採用した手法であり、シーリングもメーフィス&ファン・デュールセンによる「ヴィクター&ロルフ」のアイコンで、あまりに有名な処理。ファッションに敏感な消費者なら、すぐに見透かしてしまう。
 これらにストックフォトの額縁素材を利用して、体裁を整えた程度のビジュアル表現で、館の独自性が高まると考えたとすれば、グラフィックデザイナーのクリエイティブセンスが計り知れる。それ以上に、このようなおざなりの販促戦略では、激烈な天神のファッションウォーズを勝ち抜けるはずがない。あまりに地元ファッション業界をバカにした話しだ。

 デベロッパーは館の売上げが伸びなければ、すぐにテナント入れ替えの話しを口にする。しかし、無策な販促戦略や見え透いたクリエイティブワークの点でも、見直す部分は多々ありそうである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ジャーナリストになるには。

2011-09-02 10:06:18 | Weblog
 前回書いた「ファッション教育の行方。」は、かなりの反響をいただいた。そこで一歩突っ込んで、「ファッションジャーナリストになるには、どうすればいいのか」について書いてみたいと思う。拙速に結論を出す前に、かつて大学生の間でも似たケースがあったので、取り上げる。
 2002年、サッカーW杯日韓共催の年。慶応義塾大学の体育会系学生の間では、「なりたい職業」のダントツが「スポーツライター」だった。就職セミナーで基調講演を行なった気鋭のサッカージャーナリストは、「どうすればスポーツライターになれるか」「スポーツライターにはスポーツの経験が必要か」という学生の質問にこう答えた。「スポーツライターは何でご飯を食べてるかというと、それは記事を書いて。つまりライターなんです」と。
 そして、ライターになるには幅広い視野で世の中の事象に疑問をもち、それを解明するために取材を重ねて記事を書く勉強をする。スポーツを見るのはそれからでも遅くないといった類いのことを、付け加えた。

 ファッションジャーナリストに置き換えても、同じことが言えるだろう。では、どうすればなれるかだが、これがそう簡単にはいかない。
 基本的にファッション誌や業界紙誌の記事を書くには、出版社か新聞社に入らなければならない。アンアンならマガジンハウス、JJなら光文社、LEONなら主婦と生活社、業界紙誌は繊研新聞などである。
 大手出版社は新卒採用を行っているが、受験資格はほとんどが4大卒以上。それでも競争倍率は高く、論文試験があって高度な文章能力が要求される。この時点で悲しいかな専門学校のみの卒業生は対象外だ。 
 ただ、めでたく入社できたとしても、みんながファッション誌に配属されるわけではない。大手には総務や経理、営業、広告など、編集にも単行本や週刊誌がある。「グラマラス」の編集をやりたくて「講談社」に入ったとしても、編集希望ならまず「週刊現代」に配属されるケースが圧倒的に多い。
 繊研新聞はダイレクトにファッション、繊維関連のニュースを扱うが、定期採用はなく欠員があれば募集。業界誌の「ファッション販売」も出版社の「商業界」に入社して同編集部への異動を希望するしかない。しかし、それまでに営業から広告、コンビ二や飲食などの専門誌も経験する。
 だが、別の編集部で企画や夜討ち朝駆けの取材、見出しの付け方やレイアウト、原稿入れなどを経験することは、ファッションジャーナリストになるために決して無意味なことではない。

 要するにメディアの世界に入っても、ファッションジャーナリストに近道はないのである。だったら、いっそファッション業界に入って専門知識を学んでからという手がなくもない。もっとも、ジャーナリストには取材を重ね裏を取って記事を書く能力が不可欠。これがファッション業界で学べるかは疑問だ。潜在的な文章能力があれば、メディアに寄稿することはできるが、それは業界人としてであって、ジャーナリストではない。
 甲子園に春夏4度出場し、慶応大学卒業後、スポーツニッポンの記者として健筆を振るい、福岡ダイエーの2軍監督まで務めた有本義明氏。昭和44年夏の甲子園決勝で太田幸司投手と投げあい、明治大学卒業後に実業団を経て、朝日新聞の記者に転身して後輩を取材し続ける井上明氏のように、スポーツ界には「するスポーツ」を「見る、書く能力」として開花させた方々がいらっしゃる。
 しかし、ファッション業界人で専門能力を生かしジャーナリストに転身して活躍されている方々を、筆者はほとんどご存知申し上げない。逆にジャーナリストからデザイナーに転身したケースは、海外では数多く見られるが。

 このところ、拙書をご自身のブログ「南充浩の繊維産業ブログ」(blog.livedoor.jp/minamimitsu00/)で取り上げてくださっている南さんは、元繊維業界新聞「繊維ニュース」の記者。そのブログでは疲弊した産地の現状から、職人さんの技の裏にある思い、メーカーに必要な起死回生の戦略提案まで、業界のありのままを微に入り細にわたって論じられている。記者として業界の表から裏まで知りつくしている同氏こそ、真のファッションジャーナリストだと思う。これはお返しでも、お世辞でもない。
 専門学校が生き残り策として、「エディター」「プレス」の授業を行なうことに異論を挟むつもりはない。しかし、 講師の中には手詰まり感から「トレンド研究」や「プロモーション」など総花的な内容に逃げる方もいる。ただでさえ専門学校にはハードルが高い世界なのに、こんな場当たり的で目的がわからない授業では、あまりに学生がかわいそうだ。
 エディターやジャーナリストを目指すのなら、少なくとも1年間は企画の立て方や取材・インタビューの方法、見出しや記事の書き方、写真撮影、原稿入れやレイアウトをじっくり学ばなければならないだろう。いくらファッションを一生懸命に勉強したところで、ファッションジャーナリストになれないのは前出の通り。
 映画「プラダを着た悪魔」では敏腕編集長が登場したが、ランウェイにかぶりついて最先端のファッションに触れ、レセプションパーティに参加するばかりがファッションジャーナリストではないのだから。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする