HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

書き上げで染め抜き。

2019-04-24 04:32:14 | Weblog
 このところ、気温が上昇している。福岡は25℃超えの日もあり、ショップの店頭にはコットン100%のTシャツが勢揃いしている。今シーズンは肉厚なUSAコットンが出回っているものの、厚みはせいぜい6オンス程度か。過去に7オンスだから丈夫かと購入したら、1シーズンで襟ぐりが伸びてしまった。筆者にとってヘビーウエイトと呼べるのは、10オンスくらいが妥当なところだ。

 考えて見ると、コットン100%のTシャツは、いたって原始的な作りだ。形はちびTやオーバーサイズを除けば下着がベースだから、企画と言っても染めを変えたり、首や袖のテープを色替えしたり、胸ポケットを別布にするくらいしかない。メーカーとしては価格やコスト、生産効率を考えると、思いきったものには踏み込めないのだ。

 デザインについてもフロントやバックのプリントが主体になる。グラフィックにも携わる身としてその手法には関心があるし、毎シーズンのチェックを欠かさない。アパレル時代から30年以上、Tシャツのプリントを見ていると、技術の進歩がよくわかる。

 振り返れば、筆者が大学生の頃には女子の間で「ブランドロゴのTシャツにギャザースカートを合わせる」スタイルが大流行した。トップに着る黒や紺のTシャツに記された白色のロゴは、俗にいう「染め抜き」だった。

 カラーTシャツに白色をのせる方法は、それまでにも「シルクスクリーン」があったが、これは生地に直接顔料を乗せるため、出来上がりはベタっとして見える。その点、染め抜きはTシャツごと染料に漬けるので、白抜き部分も生地の質感はそのまま。この手法はアパレル業界に入ってから知った「抜き染め」と言われるものだ。

 これは白のメリヤス地を黒や紺に染め上げる場合、白抜きする部分は生地に染料が染み込まないように「」でマスクするやり方だ。デザイン部分が上手く白抜きできない場合もあるので、糊に特殊な防染剤を混ぜることから「防染」とも呼ばれていた。いわゆるバチック(ろうけつ染め)の技術を応用したものだが、Tシャツを縫製してから染めるので、手間もコストもかかってしまう。



 プレスプロモーションの仕事でグラフィックデザインに携わると、今度は印刷のノウハウを学んだ。雑誌広告やポスター、カタログの制作で文字などを白抜きにする場合、版下台紙に貼る写植はそのまま「書き上げ(白の印画紙に文字は黒)」の状態だから、台紙を覆うトレーシングペーパーには「白抜き」と色指定を記入していた。

 下地を色ベタにする場合は、写植を紙焼き機で反転(黒の印画紙に文字は白)し、貼って色指定を行った。印刷物の紙は基本的に白色だから、その部分にはインクを乗せないように、印刷会社のレタッチマンが加工処理をして刷版を作り、その版を機械にかけて印刷していたのである。

 90年代になると、急速にPCが普及しデジタル化が進んだ。グラフィックデザインの世界も、制作スタイルは大きく変化した。アナログな写植、版下はなくなり、デジタルデータによる入稿にシフトした。印刷のメカニズムはそれほど変わっていないが、プリンターは廉価で簡易的なものも登場した。

 パーソナルなプリンターはインクジェット印刷となり、個人でもソフトを使ってデザインすれば、1枚ものの印刷物を自宅でプリントアウトできる。このインクジェットプリンターはアパレル業界に導入され、Tシャツプリントにも使われ始めた。これはトナー(カラーインク)を直接生地に吹き付けて、文字やイラストなどを「印刷」するものだ。

 インクジェットプリンターは、C(シアン/青色)、M(マゼンタ/赤色)、Y(イエロー/黄色)、K(黒/黒色)のインクを用い、この4色の掛け合わせで、カラーや写真を再現する。ただ、CMYKの段階で白文字を表現するには、下地の生地が白色で「色ベタ白抜き」のデザイン処理をした場合に限られる。デザイン的には写真のように色ベタ面を設けて文字部分を白抜きするだけで、カラーTシャツでは端から不可能だった。



 ところが、インクジェットにも「白インク」が登場すると、黒や紺の生地でもそのまま白のインクを吹き付けて、「書き上げで白抜き風」が再現できるようになった。つまり、湿式の抜き染めでなく、乾式のプリントで白抜き状態を可能にしたのだ。デジタルプリントだから、イラストレーションや写真も自在に描け、グラデーションなどの処理もできることから、プリントデザインの領域は格段に広がった。

 そのせいか、最近では染め抜きのTシャツはほとんど見かけない。でも、インクジェットによる白プリントも遠目に見れば白抜きだが、近くでみるとインクをのせているので、シルクスクリーンに近いベタっと感は否めない。それを企画する側がどう判断するか。手間とコストを省くために乾式のインクジェットを多用するのか、それとも旧来の質感を維持するために湿式の抜き染めに拘るか。お客は手法はどうであれ、そこまで染め抜きは求めていないと思う。



 グローバルSPAは量産で製造コストを下げ、低価格のTシャツを売り出しているが、日本市場でのオールドネイビーやH&Mの苦戦を見ると、プリントデザインくらいでは差別化できず、競争力も持てないように感じる。そこで、「ラバープリント」を採用し、線描きのカラーイラストを浮き出させる企画も登場。今シーズンはユニクロがディズニー、グローバルワークがサッカージャンキーといったキャラクターを打ち出している。

 ラバープリントは絵柄が浮き出るソリッド感はあるが、洗濯でプリントが剥がれたり、高熱のアイロンを直接当てると、ラバーが溶けてしまうのが難点だ。だからなのか、知名度があるブランドでは、ロゴマークを刺繍にするといった先祖帰りのような企画もある。デザインデータがあれば、専用のミシンで自動刺繍ができるので、人間が手作業で行うよりコストは下がるのだが。これらもありふれたインクジェットプリントから目先を変える目的だろうか。これもお客がどう判断するかである。

 まあ、シルクスクリーンのプリントは初期に版代がかかるため、ある程度枚数を増やさないと1枚単価が下がらない。しかも、デジタルのようなカラー再現や写真印刷はできない。端から量産を目的とするグローバルSPAでは使う必要もないのだ。せいぜい、サークルなんかのユニフォームのプリントくらいのニーズだろう。

 デザイン的にあえてアナログ的なベタっした質感を求めても、原理が似通っているインクジェットで十分と考えれば、これからシルクスクリーンが量産アパレルで多用されることは少なくなるのではないか。

 一方で、90年代半ばにニューヨークで知り合ったデザイナーやアーチストからもらった名刺には、白地に書き上げした文字が浮き上がる特殊インクを使ったものがあった。日本で言うところの「箔押し」の逆パターンである。これはこれで手触り感が何ともアナログ的で気に入っていた。Tシャツのラバープリントもこれに近い感覚だろうが、イングジェットでも立体的なプリントが可能になる日は近いかもしれない。



 ところで、先日会員になっているMDNデザインから送られて来たメルマガには、富士ゼロックスが新しいプリンターを発売したとあった。「通常のCMYトナーに替えて「ゴールド」「シルバー」「ホワイト」の特殊トナーに「ブラック」を合わせた4色を搭載したもの」という。https://www.mdn.co.jp/di/contents/4529/64431/?utm_source=email

 これまでは紙の印刷で白を表現するには、色ベタの白抜きしかなかった。特殊紙でカラー、文字を白抜き状態にするには、同質の紙の白色を使い、全面色ベタで文字白抜きで印刷するか、カラーの特殊紙に白インクで印刷するしかない。前者は全面印刷だから、白抜き面が汚れてしまい印刷会社泣かせになる。また、両方ともロットがないとコストがかかり1枚単価は下がらない。これがコピー機のような簡易印刷機で可能になる。しかも、特色のゴールドやシルバーといったメタリックカラーもでプリントできるのだ。これはグラフィック関係者や印刷コストをかけたくない事業者では朗報である。

 マンションアパレルの展示会DMをデザインしていると、創り出すアイテムに合わせて紙も味のある特殊紙を使いたくなる。例えば、黒やワインレッドの紙では、文字は白のインクにしたいのだが、これまでは印刷部数が増えないとコストが嵩んでしまうのが難点だった。これがコピー機で手軽にできると、デザインのみを済ませてあとは紙だけ購入し、手差しすればいい。おそらく紙の表裏にトンボまで印刷してくれるだろうから、見当がズレずに両面印刷も可能だと思う。

 プリンターは発売された直後でまだまだ価格は高く、リース料も嵩むだろうが、キンコーズなんかが導入してくれると、手軽に特殊紙に白やメタリックカラーといった特色がプリントできると思う。そうなれば印刷料金を気にせずにデザインに集中し、仕事を受けやすくなる。インクジェットの技術がアパレルで使われ、紙の世界でも印刷の領域を広げていくのは、ありがたいことだ。

 まあ、コストダウンできるのはいいのだが、その分、アパレルもグラフィックもどこで差別化していくか。作り手にとってはまったく痛し痒しである。

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和紙素材がマイブーム。

2019-04-17 06:42:00 | Weblog
 桜の開花や花見のシーズンもあっという間に過ぎ去った。福岡天神は気温20℃超えの日もあり、昨年末に創った「春レザー」もワードローブ入りとなった。

 カジュアルは年中、ほぼコットンとレザーで過ごせる筆者にとって、辛いのはむしろこれからのシーズン。寒ければ着込めばいいが、熱いからと脱ぐわけにはいかない。しかも、汗が服に染みるだけでなく、肌がベタついて気持ち悪い。仕事柄、室内業務だけでなく、屋外での徒歩移動やロケの時はたいへんで、10月くらいまで我慢の日々が続く。

 もちろん制汗対策の衣料もあるが、合繊素材が肌に合わないし、あのペタッとした素材感が好きになれないので、着用することはない。だからといって、綿や麻を着ても汗で肌がベトベトになるから、事務所に着替えを用意して対応している。出張の時も同じで多め着替えを持っていき、多スケジュールのケースではホテルで一旦着替えて、次をこなすようにしている。

 そんな中で、2年ほど前から夏場の素材として試しているのが、和紙糸を撚り込んだ「和紙繊維」だ。これは1000年以上の保存に耐え得るという和紙の特性を生かし、水分を含ませたり、乾燥した状態で撚った糸を使って織ったり編み立てしたもの。綿とも麻とも違う独特な風合いで、汗をかいてもベトつかないところが気に入っている。

 最初に購入したのはニット帽。気に入ったのはその質感だ。和紙そのものはこうぞやみつまたなどの植物が原料で、長い繊維が絡み合い、粗くざらっとしている。顕微鏡で見るまでもなく、繊維間の隙間が多い=多孔性があるので、風通しが良く、乾きがいいことから、肌のベトつきも抑えられる。

 夏場のニット帽は頭が蒸れそうだが、筆者は額から吹き出る汗で眼鏡が曇ったり、汚れたりするので、汗留めの役割で使っている。汗の量はフェイスタオルで拭える分をはるかに超えるので、余分は帽子で塞き止めるしかない。移動やロケの時に被っていられるし、打ち合わせがあっても帽子を脱げば、ベタついた顔で相手を不快させることもない。

 一昨年に購入したものは生成りのリブワッチで、綿57%、和紙43%の日本製。ほぼ同じサイズのリブワッチ(某SPA製、綿45%麻55%)は一度手洗いしただけで、伸びて型ぐずれしてしまった。だが、和紙繊維が混紡されたものは、一応ドライクリーニング表示であるもののネット洗濯でも伸びはなく、2年目以降も頭にフィットしている。今年は洗い替えようにもう一つ欲しいので、目下探しているところである。



 和紙素材を利用したアイテムはいろいろと企画されているようで先日、繊研PLUSで「淡路島生まれの和紙ソックス」が紹介されていた。記事には「淡路メリヤスという靴下メーカーが梅の種を炭化して紙に練り込み、それをスリットヤーンにした梅炭抄繊糸を使った靴下に力を入れている」とあった。梅炭は湿度を調節できて消臭効果にも期待できるそうで、和紙糸の軽さやシャリ感を生かし、淡路島生まれの国産ソックスを広げていく考えとか。ニット帽が作れるのだから、靴下だってできなくはないということだ。

 この和紙ソックスの登場は、筆者にとっては朗報である。汗かき、脂手はそのまま足にも共通で、夏場に素足のまま部屋を歩くだけで、家族から「床や畳がベタベタする」とクレームが付く。事務所の床はフローリングなのでスリッパで過ごせるが、それも夏場は素足だから汗染みや汚れが酷く、1シーズンで買い替えになければならない。こちらはただでさえ、熱いから素足のままでいたいのだが、家族には「靴下を履け」と強要される始末だ。まさにそんな筆者に理想的な靴下と思う。

 そもそも、靴下は遠赤効果による保温性、ビジネスシューズ向けの消臭や抗菌、乾燥・アレルギーの防止、疲れやむくみ取りなどを謳ったものはあるが、夏場向けではトレンドも影響してかくるぶしまでか、フットカバーのようなものしかない。綿100%素材もないことないが、水虫予防などビジネスマン向けになる。足という特異な形状の部位に被せるには伸縮性のあるニット系繊維が使うことになり、指先や踵にある程度の強度を求めれば、どうしても合繊の混紡が増えてしまう。

 だから、靴下を選ぶ時、特に夏用は綿の混紡率が多いものにする。普段は事務所近くのタビオや無印良品、ドンキホーテで購入しているが、別のブランドを買うのは繊維や混紡率で新しいものが発売される時だと思っていた。「淡路島生まれの和紙ソックス」は、まさにその契機となりそうだ。

 目下、販路は化粧品関連の通販、スポーツメーカーのOEMが中心で、少しずつ生産を拡大している途上のようだ。まだまだメジャーな商品ではないことから、店頭で気軽に買える状況ではない。ネットで検索すると、別のブランドとして「イトイテックス」というのがあった。こちらはスポーツ&アウトドア系のアイテムとして、専門店が扱っている。そうしたマーケットが先行しているのかと、改めて実感した。



 自衛隊員の靴下にも採用されているというから、訓練で何日もブーツの下に履き続けても足にはいいということ。調湿性をもつ糸で編んでいるから、登山などにも共通するベクトルの商品だというのも頷ける。ミリタリー系の靴下を「軍足」と呼べば、また左翼から軍靴の音を思い起こさせるなんて言われそうだ。しかし、亜熱帯、高温多湿の戦地で兵士の足を守るために、日本が持てる資源と知恵を最大限に生かして編み出したものがかつてもあったと言うことである。

 今日では、いろんな新素材も開発されている。靴下も合繊主体の方が生産効率はいいし、技術的にいろいろアイテムにも応用できると思う。消耗品だから、ローコストの製品の方が合理的かもしれない。別に天然繊維を礼賛するわけでもないし、天然=善、合繊=悪というつもりもない。ただ、筆者の肌には合うし、好きだから、選ぶだけである。

 今日まで継承してきた和紙の機能を生かし、繊維に組み合わせるアイデアで、新しいアイテムを作り出すのも、いかにもメイドインジャパンらしい。初期の頃の無印良品も天然素材を利用したアイテムが揃い、確か軍足の作りを応用したものがあったように記憶する。無印が打ち出した天然繊維を使った商品企画だ。最近は価格訴求でほとんど見かけなくなったが、別の切り口で和紙を利用した商品は作れるのではないかと思う。

 淡路島の和紙ソックスは、販路が限定されているので、一般にはまだ手に入りにくい。価格も1足1300円と高価だから、淡路島のウエスティンホテル淡路、淡路ハイウェイオアシスなどで販売されるお土産的なグッズに止まっている。

 淡路島に限らず、和紙ソックスは素材、機能とも素晴らしいのだが、価格の面で高額だから、まだまだ市場はアウトドア系専門アイテムの域を出ていない。もし、タビオや無印がPBにしてくれれば量産化され、価格も1000円以下に収まり、メジャーになると思うのだが、まずま1足履いて試してみたい。

 靴下がOKなら、衣服への採用もできなくはないだろう。まずはストレッチ系のジャケットなんかで試作をしてもいいかと勝手に思っている。

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市民モデルはプロ?

2019-04-10 06:22:01 | Weblog
 先週の続き。4月20日に開催される「KUMAMOTO 2019 TOKYO GIRLS COLLECTION」は、熊本市が「震災復興」「地域の活性化」、熊本県が「若者・女性が活躍する社会創出」「街づくり」「人づくり」「仕事づくり」といった大義を掲げ、イベントに「公金」を拠出する。

 ただ、出演するタレントや裏方スタッフのギャラはもとより、会場費、ステージの設営や音響照明などに莫大な経費がかかるため、チケット収入、自治体の公金支援ではとても総事業費を賄えない。

 そこで、地元企業をスポンサーに付けることで、主催者側はできるかぎり利益が出るようにする。TGCを企画制作するW TOKYOは、地方開催におけるビジネスフォーマットを作っており、熊本開催もそれにそってスポンサー確保に向けた活動を行うように指南したと見られる。



 公式サイトによると、TGC熊本の地元スポンサーは、トップ級のプラチナパートナーが「鶴屋百貨店」。一般クラスのパートナーが「エルセルモ」「再春館製薬所」「桜十字病院」「キューネット」「シアーズホームグループ」「フジバンビ」「明和不動産管理」「HIRATA」「アイシン九州」「熊本ドライビングスクール」「セイカホーム」。メディアパートナーがローカル放送局の「TKUテレビ熊本」になる。

 また、新たに「ウエラ」「KBL美伸」「マルコ」「ダイドードリンコ」など地元以外の企業もパートナー級のスポンサーに加わっている。一応、業種は小売り、冠婚葬祭、化粧品、医療介護、防犯警備、住宅建設、食品、不動産管理、機械設備製造、自動車部品製造、自動車教習所、そして放送。 シアーズホームグループとセイカホームが業種でかぶるが、「一業種一社」というスポンサーシップの不文律は一応守られている。

 スポンサーのランクは拠出する料金で決まる。これはオリンピックやサッカーのワールドカップの方式をベースにしたもので、今や多くのイベントに踏襲されている。スポンサーは自社の事業活動にTGC熊本の「ロゴマーク使用」や「チケットプレゼント」、会場での「プロモーション」などが可能になる。

 筆者の付き合いのある地元ファッション関係者は、「スポンサーはテレビ熊本が日頃からスポットCMを放送しているところを中心にリストアップして、商工会議所が組合企業であるところにプッシュしたようだね。ファッションと関係ない業種ばかりだと格好がつかないから、鶴屋が協賛することで何とかバランスは整ったと思う。観客のことを考えると、エステや理美容も必要だけど、熊本には有力な企業がないから、これは全国ブランドをつけるしかない。TGCもカネのないところは眼中にないだろうし」と、裏事情を読む。



 また、知り合いのショップ経営者は先々週に話した際、「明和不動産は3月いっぱい賃貸契約をした人にチケットが当たるキャンペーンをやってたよ。4月は就職や進学で(熊本)市内に来る若者も結構いるからね。一定の効果はあるんじゃないの。他のスポンサーのことはわからないけど」と、語っていた。

 TKUテレビ熊本はイベントの模様を収録し深夜枠で放送するから、視聴率には期待できないにしても、今後のビジネスモデルにはできるだろう。 企業によってTGCのスポンサーメリットはあるが、いかにマーケティングに生かすかは企業次第のようだ。

 熊本は県内企業の2017年度売上げベスト10のうち、3社がパチンコ企業になる。それらもテレビ熊本のクライアントだろうが、さすがに未成年も来場するガールズコレクションにパチンコ企業がスポンサーというわけにもいかない。まあ、フィギュアスケートには「マルハン」が堂々とスポンサーになっているので、これからスポンサーの撤退や資金不足になれば、あり得るかもしれないが。

 スポンサーの顔ぶれは公式サイトの開設直後は、地元企業だけが名前を連ねていた。しかし、それではW TOKYOとしては資金不足で利益がでないからだろうか、後から全国区の企業もスポンサーに加わっている。公共事業化したイベントへの公金支援は、数を重ねると次第に減額されていく。だから、TGC熊本を2回、3回とリピートしていくには、どこまでスポンサーが集められるか、確固とした事業化=ビジネスモデルが作れるかにかかっていると言えるが、果たして…

 関連企画のもう一つには、ショーに出演する「一般モデルのオーディション」がある。これは昨年12月15日に熊本市役所で行われた。西日本新聞は「審査にはW TOKYOの役員や市の幹部があたった」と報道した。また、地元紙には、オーディションは「下は11歳から上は66歳までの男女45人が参加した」とあった。前出のファッション関係者の知り合いも参加したらしく、「明らかにプロの子が来ていた。スタイルはもちろん、ウォーキングとかが全然違うし。選ばれたのもその子たちだし」と、オーディションの様子を語っていたという。



 これが事実なら、限りなく「出来レース」臭い。裏を取ってみると、オーディションで合格した子の一人は、やはり地元のモデル事務所「バレンタインデュウ」に所属するプロだった。筆者は過去には仕事で何人ものモデルに接しているので、ショーに出演するモデルがウォーキングの優劣によって決まるのは理解できる。ファッション関係者が見せてくれた地元紙の写真を見ても、合格者5名のうち3名の立ちポーズは明らかにプロだ。ならば、最初から地元でもプロを起用すればいいだけの話である。

 一般モデルのオーディションと銘打って市民に期待させときながら、裏ではW TOKYOと地元モデル事務所の間で「TGC熊本を事務所所属モデルを全国デビューさせる」ような話があったとすれば問題ではないか。しかも、地元紙の記事には「市民モデル5人選出」との見出しがついている。メディアまでもが「市民」を強調するのは、穿った見方をすれば、出来レースを打ち消すのに躍起になっているようにも受け取れる。そこまでして、イベントの公共性を装わなければならないのか。

 それとも、これが熊本県が大義に掲げる「仕事づくり」なのだろうか。税金を使って行うイベントで地元事務所所属のモデルをブラッシュアップする。また、テレビ熊本が収録した映像を編集して、モデルのプロモーション動画を作り、代理店や出版社に配信する。それも仕事づくりと言えばそうかもしれないが、オーディションに落ちた純粋な一般市民に代わって「市民が知らないところで利害関係者のビジネス着々と進んでいる」と、皮肉の一つでも言ってやりたくなる。


実力派モデル輩出県



 ともあれ、熊本が過去にプロのモデルを輩出しているのは筆者もよく知っている。まず田中久美子がいる。1987年、熊本市立高校(現熊本市立必由館高校)の生徒だった彼女は修学旅行で原宿を歩いている時、モデル事務所ナウ・ファッションエージェンシーのスカウトの目にとまった。バレーボール部のエースアタッカーで身長180cmの長身。スカウトの「トップモデルになれる子」との見立て通り、翌春にはアンアンの表紙デビューを飾る。その後は順調なモデル人生を歩み、50歳を前に今もバリバリの現役だ。

 もう一人は米野真理子。青学在学中からモデルの仕事を始め、1980年代半ばには雑誌MOREのファッションフォトに登場していた。同時期にMOREモデルには沢田奈緒美や林マヤがいたし、JJデビューした賀来千香子の陰で、米野は地味な存在だった。でも、筆者は評価していた。クールで知的なまなざしが醸す都会的な雰囲気は、キャリア系メーカーの服にはドンピシャだった。現在は地元でソムリエとしてセカンドキャリアを積んでいるというから、近況は熊本の方々の方がよくご存知かもしれない。



 一方、TGC熊本のスポンサーになっている「再春館製薬所」は、ドモホルンリンクルなどの通販事業で今や全国ブランドになっている。昨年、同社のCMに単発で出演した廣田恵子も雑誌MOREの第1回読者モデル出身で、セブンイレブンのCM「いなりずしのけいこさん」で有名になった。熊本出身ではないが、田中久美子と同じナウ・ファッションエージェンシー所属で歳も上だが、今も現役を続けている。

 ナウ・ファッションエージェンシーは、他の事務所と違ってモデルにはCMや雑誌以外の仕事はさせないようだから、ガールズコレクションに出演するタレントまがいとは大違いだ。まあ、ガールズコレクションは、駐車違反の反則金支払いを無視し続けた脱法モデル、交通事故を起こして禊終わらぬタレントでも堂々と出演できるのだから、マネジメントのレベルが窺い知れるというものだ。

 TGC熊本は今回が初開催になるが、主催者側は2回、3回とリピートさせるようなことも言っている。当然、それを実現させ、主催者が収益を上げてイベントをペイさせるには熊本市、熊本県が「公金支援」を続けるということが前提になる。本来ならチケット収入と民間スポンサーで事業費を賄えばいいのだが、主催者としてはそれではリスクがあるし、まさかの時に担保として自治体の公金支援があったのが何かと都合がいいのだ。

 両自治体はTGC熊本について震災復興、地域活性化、 若者・女性が活躍する社会創出等々の大義を掲げている。しかし、復興関連は2回目には使えない。だから、若者・女性が活躍する社会創出、街づくり、人づくり、仕事づくりを準備したのだろうか。まあ、市民から奪い取った税金は使うのが目的だし、税金は使い続けなればならないから、先にイベントありきということがよくわかる。TGC北九州で、大西熊本市長が「熊本でもTGCが開催できれば」と語ったのも、今となれば実に白々しく聞こえる。

 とにかく、イベントを行うために、後から何でも大義をでっち上げればいい。若者・女性が活躍する社会、街づくり、人づくり、仕事づくりが東京から呼んだタレントによる客寄せ興行で創出できるとは、全くもって思えない。イベントを行うために縦割りである自治体の事務事業のどこから予算を引き出すか。そのために若者・女性が活躍する社会、街づくり、人づくり、仕事づくりが無理矢理に大義にこじつけられたに過ぎないのだ。

 つまり、自治体内では使える予算額と使った回数がイコールになれば、効果などは二の次でいいわけだ。そこをW TOKYOのようなイベント事業者につけ込まれるのである。本当に震災復興になり、カネが落ちて地域が活性化し、若者や女性が活躍する社会が生まれるかどうかは、第三者の専門機関などが厳密にチェックしなければわからない。なのにTGCの地方開催でそれらが行われたケースは全く聞かれない。

 熊本市や熊本県はTGCの開催評価をどこに見い出し、どこまでのレベルを求めていくか。折しも、統一地方選挙が実施され、熊本市でも再選を含めて、県議や市議が誕生したと思う。こうした議員ら議会を通じて客寄せイベントへの公金支援とその効果をどう検証していくか。まあ、そこまで公共事業を細かくチェックしている議員はいないだろうが。

 ゆえに、単なる大義を効果に取り繕った見せかけの評価では全く信憑性を欠く。ハッキリしているのは、自治体が市民から奪った税金を今度は東京のイベント事業者と芸能界が収奪していく構図だ。地元メディアでさえも利害関係者と堕し、行政監視も批判もしないので、彼らにとっては使い勝手の良いお仲間に変わりないようである。

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イベント有りきで復興なし。

2019-04-03 06:32:40 | Weblog
 4月20日(土)、熊本市で「KUMAMOTO 2019 TOKYO GIRLS COLLECTION」(以下TGC熊本)が初開催される。イベントの企画制作にあたる「W TOKYO」は、2009年から地方開催にも力を入れており、熊本地震からちょうど3年を迎える今年は、当地での開催もベストなタイミングと言える。

 「震災復興」や「地域活性化」が開催の大義になるとは言え、W TOKYOは震災の前から熊本市に開催を打診(営業)していたのは間違いない。筆者が付き合いのある地元ファッション関係者は昨年、ヒアリングした際に「平成29年の正月明けには地元メディアが報道したから、水面下ではかなり前から話が進んでいたと思うよ。復興や活性化は後付けの理由かもね。まさか地震が発生すると思わないし」と、語った。

 平成29年の正月と言えば、熊本地震からわずか10カ月後だ。まだまだ仮設住宅も満足に整備されていない時期にイベント開催の報道が出るのは、震災前からお膳立てはできていたのを裏付ける。28年の10月9日に開催された「TGC北九州」では、「熊本地震の復興応援ステージ」が設けられ、観客向けのビデオメッセージで大西一史熊本市長は、「熊本でもTGCが開催できれば」と語っている。その報道を見た筆者は熊本開催も有り得るなと感じたが、今考えると自治体サイドではすでに既定事項だったようだ。



 昨年8月には、主催の東京ガールズコレクション実行委員会と、共催の熊本市、TGC熊本推進委員会の間でイベント開催の正式な調印が結ばれ、開催概要が発表された。会場は熊本地震で被災した益城町のグランメッセ熊本。関連企画ではショーに出演する「一般モデルのオーディション」「地元の学生と連携したステージイベント」などもあり、計画は着々と進行していたことがうかがえる。

 TGC熊本の推進委員長には、この4月に熊本商工会議所の会頭となった久我彰登鶴屋百貨店社長が就任している。協力団体には「熊本市中心商店街等連合協議会」が名を連ねたものの、地元のファッション事業者が特に関わるような部分はなく、関わったからと言って「商品のプロモーションになる」ということでもない。

 筆者がアパレル時代から知るショップ経営者は、概要発表の直後に「ガールズコレクションはタレント見たさにお客が集まるだけだろ。モデルが身につけるファッションはどうでもいいとは言わないけど、服や靴そのものを見に来るものではないからね。ほとんどが東京なんかのSPAブランドでしかない。観客がショーの後にうちのようなショップの商品を買ってくれるわけでないし」と話し、冷めた見方をしていた。



 実際、TGCはF1層を対象にした客寄せ興行だから、とにかく観客動員を図らないと、イベント自体の存続は危ぶまれる。大都市を中心に開催していれば、出演タレントを替えるだけではマンネリ化は否めない。そこでW TOKYOはローカルシフトを行うことで、地方でまだイベントを見たこともがない層から、ファン客の掘り起こしを狙っているのだ。

 一都、二府の他、政令市をもつ県を除けば、まだまだ38もの県に開催の余地は残されている。ただ、ジャニーズのコンサートのように圧倒的なファンクラブ会員に支えらているわけでないため、どうしても自治体の協力=公共事業化=税金による支援や地元商工会などのバックアップが欠かせない。

 そのためには開催の「大義」が必要になるが、主催者側は開催できればそんなものは何でもこじつければいいわけで、熊本場合は「震災復興」や「ファッションの街、復権」ということになる。また、総花的でやや陳腐化した「地域活性化」についても、1万人もの若者を集客できれば、 極めて不確かながら「にぎわいを創出した」「経済波及効果◯億円」という結果報告ができ、自治体としても公共事業化、公金利用の説明はつく。

 一方で、TGC熊本は熊本商工会議所を中心とする推進委員会、推進委員長である鶴屋百貨店の久我社長が主導しているため、地元のファッション事業者には取り立てて協力してもらう必要もないのである。

 先のファッション関係者は、「鶴屋の社長がTGC熊本の推進委員長を受けたのは、商工会議所の次期会頭と言われていたこともあると思うよ。それでなくても、地方の百貨店は厳しい経営状態におかれているからね。イベントをきっかけにブランドリーシングを狙っているのかも。伊勢丹や阪急がTGC系のコーナーを作ってヤングを集客できただろ。鶴屋もそれをやりたいんじゃないの」と、鶴屋がTGC熊本に前のめりになるのは地方百貨店の苦境を表しているとみる。(鶴屋は2018年の売上げが前年比で0.93%増だったが、苦戦に変わりない)



 「地元の学生と連携」した関連企画では、熊本大学文学部の学生たちが昨年9月から「ファッションによる地域の活性活性化」を目指す企画立案、実現に向けて準備を開始している。10月にはプレゼンが行われ、久我推進委員長、W TOKYOの辻本優一地方創生プロジェクト管掌役員らが審査に当たっている。めでたくプレゼンに勝った企画は、「不用品や廃材をリサイクルし、付加価値をつけた製品を生み出すアップサイクルのファッションコンテスト」とか。

 TGCはあえて「リアルクローズ」の祭典ということわりを設けており、デザイナーをはじめ、ファッション専門学校の学生が創るようなクリエーションは、端から蚊帳の外におかれている。だが、彼らよりはるかに偏差値が高い国立大生の企画と言っても、所詮ファッションや服飾製造についてはずぶの素人だ。

 しかも、素材研究なんかを行っている工学部ならともかく、糸へんなど全く無学な文学部の学生である。不用品や廃材のリサイクル素材への転用はもちろん、デザイン技術どころか服や雑貨を作る造形力、ハンドメイドの技もなければ、まして製造の知識や委託先の情報など皆無のはずだ。自分らはもの作りの詳細を知らないのに、それを人に作らせてコンテストするというのも、あまりにバカにしたような感じだ。

 昨年の10月のプレゼン時点では、「実現化できるかどうかを検討していく」とのことだったようだが、イベントまで20日を切った今、どんなアイテム、製品を作らせたのだろうか。

 ただ、イベントがショーを中心とした客寄せ興行であるので、リサイクルプロジェクトのような堅めの企画がステージに馴染むとは思えない。リサイクル製品は素材や形をじっくり見ないと、背景にある考え方やエコに対する啓蒙が見る人には伝わらない。ランウェイ上でたった数十秒のウォーキング中に、観客にそれをわかれと言ってもどだい無理な話なのだ。

 まあ、イベントの初めから終わりまで、キャストがウォーキング、観客がスタンディングで、ずっとテンションマックスというわけにはいかない。それに間延びしがちなイベントの尺を埋めるため、どこかにインターバルを設けてスポンサーを紹介したり、こうしたプロジェクトのお披露目をするコーナーはあるはずだ。会場の一角にもリサイクル製品を展示し、来場者が投票するという試みもあり得るが、それにしてもタレント見たさの観客にどこまで国大生の企画が伝わるかは疑問だ。本体なら、違う場所でやるべき企画なのである。

 TGCの開催では、自治体や推進委員会が開催・運営に協力し、地域活性化という大義のもとに公金拠出による支援を行うことから、「地元色出す何らかの企画が不可欠」なことはわからないでもない。ただ、客寄せ興行というイベントと、リサイクルプロジェクトは目的も次元も違う。それを無理矢理はめ込もうとするところに、イベントを地域活性として正当化=継続しようという主催者側の思惑が見え隠れする。

 今回、「後援」というかたちで支援する熊本県は、震災復興や地域活性だけでは不十分と見たのか、別の大義も加えているという。

 知り合いのショップ経営者は、「県庁にいる友人は熊本県はTGCを開催する目的に若者・女性が活躍する社会創出で、街づくり<、人づくり仕事づくりも掲げていると言ってた。観光客が熊本にやってきてカネを落としてくれれば、多少の活性化にはつながるかしれないけど。1日限りのガールズコレクションで人づくり、仕事づくりなんかができるのかって、職員ですら失笑してたよ」と、話してくれた。

 被災地では「創造的復興」という言葉が躍っている。しかし、フォーマットが決まった客寄せ興行くらいで、創造があるはずもない。自治体が数々の目的を掲げるのは、「予算執行」の根拠が必要だからだ。熊本地震から丸3年を迎えるのに、未だに仮設住宅で生活している人々は、県内に1万8000人いる。自治体にとっては「税金はそうした人々の生活再建に使うべき」という批判をかわすためにも大義は必要なのである。なおさら縦割り行政なので、 イベントに若者・女性が活躍する社会創出という目的にこじつけ、予算を使い切りたいということだ。

 人づくり、仕事づくりの話では、大分市の職員が言っていた「あること」を思い出した。2002年のサッカーワールドカップで、市は大分スポーツ公園に専用グランドを整備した。Jリーグ加盟の地元プロチーム大分トリニータのホームにもなっているが、芝の管理費に年間で3億円もかかるという。

 「Smapがコンサートを開いてくれると、機材の設置で芝が傷むのだけど、利用収入が格段にあがる。年に4回ぐらいコンサートを開いてくれないだろうか

 Jリーグでは年間の試合数が50足らずだから、とても管理費用は賄えない。そのため、スタジアムは2006年からネーミングライツを募集し、これまで九州石油、大分銀行が年間7000万円以上で契約している。だが、次の応募企業がなかったことから、19年3月からは5000万円に値引きされて昭和電工が契約したが、管理費にはとても足りないのが実情だ。つまり、利用収入が得られれば、何でもいいのである。

 これをTGC熊本に置き換えると、「毎月、ガールズコレクションが開催されれば、地元には会場使用料、ステージ設置、音響照明などの仕事が転がり込むし、地元の人々がショーに出られてギャラがもらえるかもしれない」となる。人づくり、仕事づくりは、そこまでやって可能になるのだ。

 まあ、TGC熊本を2〜3回リピートしたくらいでは、人材育成も雇用促進もどだい無理なのは確か。結局、儲かるのは主催者側とタレント事務所、一部の地元メディアであるのは間違いない。次週も熊本のファッション関係者からヒアリングした内容をもとに、裏事情についてもっと突っ込んだ内容に触れてみたい。
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